鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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時期が飛びます。
「キングクリ〇ゾン」



31話 冒険者ダンジョン

 三重の城壁に守られた城塞都市、エ・ランテルは正式に王国領から魔導国領となって春を迎えていた。

 

 魔導王アインズ・ウール・ゴウンが新たな王として都市入りした時、住民は心穏やかではいられなかった。

 それも当然だろう。なにせたった一人で王国軍24万もの軍勢を退けたという話はエ・ランテル内で知らぬ者はいない。

 

 更に魔導王の政策により恐ろし気なアンデッドが都市の運営に加わる。不安を抱いていた住民は恐慌状態に陥りかけていた。

 

 但し、それは最初だけ。

 

 今では都市のそこかしこから活気に満ちた声や、増築、改築している音が聞こえてくる。

 都市内部のアンデッドも、今や居て当たり前のように人々に馴染んでいる。中には未だ警戒心を捨て切れない者もいるが、心の底から嫌悪している者は皆無に近い。

 

 何故、生者を憎むアンデッドが受け入れられているのか。

 理由は二人の存在にあった。

 

 一人はエ・ランテルの英雄”漆黒”のモモン。

 彼がエ・ランテルに居てくれているのが住人の心の支えになっている。

 心優しき英雄がアンデッドの暴挙を見過ごす筈がない。

 そんな心の拠り所があったからこそ、他国へと移り住む者が少なかったのだ。

 

 そして、もう一人と言うのはアインズ・ウール・ゴウン魔導王その人。

 恐れていたアンデッドは住人に危害を及ぼすことは一切なく、人々の暮らしを手助けしてくれている。

 どこからか連れて来られた山小人(ドワーフ)や巨人、更にはドラゴン。そのほかゴブリンといった亜人たちもが人と共に生活している。それらは全て都市の発展に繋がっているのだ。

 驚くほど魔導国での暮らしが良くなっていくのに連れて、魔導王への評価も上がっていくのは至極当然のことと言える。

 一般大衆にとって国を治めるトップは強大である方が望ましい。

 事実その力で、力無き民を守ってくれている魔導王はアンデッドを支配する恐ろしい人物から、アンデッドを使って民を導いてくれる王へと評価が変わってきている。

 

 ほんの数か月で、様相がすっかり変わった城塞都市エ・ランテル。

 冒険者組合もまた例外ではなかった。

 

 

 

 冒険者組合の一階広間。

 依頼が張り出されている掲示板には、王国領であった頃に比べて件数が大幅に減っている。

 依頼の打ち合わせや、冒険者同士が会議を行っていたスペースはソファーで大概埋まっていた。

 今そのソファーには豊かな金髪に非常に美しい顔立ちをした女性が一人で座っている。

 荒くれものの冒険者に絡まれたりしてもおかしくはないのだが、そんな輩は現れない。

 冒険者組合であるのに周りに冒険者の姿は一切なく、受付カウンターで受付嬢が一人、暇そうにしているだけで他には誰もいない。

 尤も、そんな不埒な者がいたとしても逆に痛い目を見るだけに終わるだろう、彼女は知る人ぞ知る、帝国四騎士の一人“重爆”のレイナースなのだから。

 魔導国の冒険者組合は独立機関から、魔導国に組み込まれていた。

 これも魔導王の政策の一つ。魔導国の冒険者たちは今頃訓練所で大いに汗をかいていることだろう。

 

 レイナースは真珠のような白い歯を見せ、手に持つ羊皮紙を露わにしている両目で読んでいた。 

 

「ふふっ」

 

 ふと笑いが零れる。羊皮紙の中身は所謂手紙であった。 

 内容はレイナースが魔導国に移ってからの帝国内の近況報告。

 

 書いてある内容は大まかに以下の通りである。

 

 レイナースが抜けたために空いてしまった四騎士の一席を埋めるためと言って、主席宮廷魔術師のパラダイン老が魔導王に死の騎士(デス・ナイト)を借りるように願い出よと皇帝に詰め寄ったらしい。

 皇帝は乗り気ではなかったようだが、鬼気迫る勢いのパラダイン老のしつこい嘆願に折れ、名目上だが四騎士の座に死の騎士(デス・ナイト)が一体収まることになる。これの支配権は皇帝が持っているのだが、身辺警護には一切付いておらず、もっぱらパラダイン老の研究相手にされているようだ。

 魔導王に会ってからのパラダイン老はよく暴走するようになってしまい困っている。とは、皇帝含め帝国上層部の共通認識。通常の仕事は以前よりも励んでいるだけに、皇帝もあまり強くは言えないそうだ。

 他にも、皇帝が最近ブツブツと呟くようになった「友」という単語が気がかりだとかなんとか。

 

 後は、帝城や帝都内で起こった他愛のないことが書かれている。

 

 最後に、『帝国に来た時には一度ウチに遊びにでも来い』。 

 

 『バジウッド・ペシュメルより』。

 

「全く、顔に似合わずマメな男ですわね」

 

 こういう男だからこそ、妻と4人の愛人と同じ屋根の下で暮らしていけるのかもしれない。     

 手紙を届けてくれた冒険者も、依頼で魔導国に来たのではなく、魔導国に行くから直接頼まれたと言っていた辺りチャッカリしている。依頼料も安くなるのだから。

  

 羊皮紙を綺麗に丸めて大切にしまう。

 レイナースとバジウッドにとっては単なる世間話のような手紙の内容だが、他国の者の目に触れるには不味い内容が入っている。依頼を受けた冒険者はバジウッドの知り合いらしく信頼しているのかもしれないが、豪胆と言うか何というか。レイナースはもう帝国の人間ではないというのに。呆れつつも”雷光”らしい、と笑みを浮かべる。

 

 ところで、レイナースが何故冒険者組合に一人で居るのかというと。

 人を待っているのだ。

 懐中時計で時刻を確認する。

 

「そろそろ約束の時間のはずですわね」 

「ど~も~。あなたがレイナースで合ってる?」

「っ!?」

 

 いきなり間近で声をかけられたレイナースはビクッと体を揺らし、立ち上がる。

 帝国四騎士の一人“重爆”のレイナースは冒険者で例えるならオリハルコン級を誇る強さを持っている。レンジャーの特技を持っていないとは言え、なんの気配も無く近付かれたことに驚いていた。

 

「そうですが……貴方は?」

 

 警戒を緩めることなく問いかける。右手は何時でも獲物の槍を掴めるようにしておいてフードを被った怪しい人物を鋭く見つめる。

 

「あっれ~? おっかしいなぁ。アインズ様から聞いてない? 今日ここで落ち合う話」

「では、貴方が?」

「そっ、名前はクレア。よろしくねぇ」

 

 フードを外し、右手を差し出し、人懐こそうな笑みを浮かべる。

 レイナースはアインズの名が出たことで警戒を解く。差し出された手を取り、猫を思わせる女性と握手を交わす。

 

「今日はよろしくお願いしますわ。ところで、素晴らしい隠密能力ですね。全く気が付きませんでしたわ」

「あぁ、これは私の力じゃないよ。秘密はコレ」

 

 クレアは灰色のフード付きのマントをバサッっと翻す。一瞬マントの隙間から地肌が見え、その面積がやたらと多い気がして目を見開く。まさかマントの下は下着のみ。もしくは裸かと思ってしまう。

 

「コレは認識阻害の効果を持つマジックアイテムなんだぁ。と言っても完全に見えなくなる訳じゃなくて、街中で私を見かけてもすぐに意識から離れて思い出せなくなるぐらいのものなんだけどね。それでも私から声をかけないと会話も成り立たないぐらいには便利だけどねぇ」 

 

 クレア、もといクレマンティーヌが羽織っているマントはアインズが持たせた物。

 彼女の存在はなにかと問題になる。特に法国に知られるのは不味い。エ・ランテルの警備網は厳重ではあるのだが、スレイン法国の間者を警戒してのことだった。

 

(色々なマジックアイテムがあるのですわね)

 

 そのことにはもう今更な感じなのでレイナースは特に気にしない。どれほど強力なマジックアイテムが出て来ても不思議ではないのだから。

 

「それでは、後一人で揃いますわね」

「うんにゃあ。もう一人はもう来てるみたいよぉ」

 

 クレアが指し示す先はレイナースの後ろ。

 そこには誰もいない。

 

 からかっているのかと声を上げようとした時。レイナースの影からヌッと現れる人物がいた。

 

「むぅ、なかなかやる」

 

 髪はオレンジに近い金色に緑のバンダナ。スラリとした肢体をしており、全身にぴったり密着するような服装をしている。

 

「あなたがティラね。私じゃなかったら見逃してたかもね」

「……まだまだ修行不足」

 

 余裕ぶっているクレアであるが、実はカマをかけてみただけであったりする。アインズより二人の特徴を聞いていたからこそ、影に潜んでいると思って指摘してみただけのこと。外れたってすっとぼけるつもりであった。

 

(何時から私の影に居たのかしら? まさかずっと…な訳はありませんわね)

 

 取り合えず予定通り三人揃ったことでお互い挨拶を交わす。

 

 三人はアインズからある仕事を頼まれてここに集まっていた。

 それは冒険者育成用ダンジョンの攻略。

 

 アインズは以前から冒険者の在り方に不満を持っていた。

 冒険者とは未知を探求してこそ冒険者と思っていたのに。この世界の冒険者は対モンスター用の傭兵となり果てているときている。

 それを解決するために組合長に、未知を既知とする冒険者の支援と国の争いに利用しないのを約束して、組合を国の管轄に収めたのだ。

 育成用ダンジョンとは、その名の通り駆け出しから、未知の地への探求を行うには力不足の冒険者たちを鍛えるために作った登竜門のようなもの。

 

 アインズは何があるか分からない未知の地からの生還が望めるのは、最低でもミスリル級の力が必要だと思っている。

 ダンジョン作成にあたって、罠の難易度やモンスターのレベルの範囲はアインズが考え、それをマーレが主となって配置を決めた。 

 しかし、本当にこれで冒険者を適切に測れるのかアインズは不安を抱いていた。主に自分が関わった部分で。

 

 ミスリル級と言えば丁度“フォーサイト”がそれに当たるのだが、彼らには頼めない。

 蜥蜴人(リザードマン)との交流の件が原因ではない。それは既に軌道に乗っており、カルネ村経由でエ・ランテルにも魚などが流通している。故にその依頼は既に終了しており現在、アインズが彼らに任せている仕事はない。

 主な理由はアルシェにあった。

 彼女は幼い双子の世話をしなければならない。そんな身で危険が付き纏う冒険者に身を置くなど本人も、仲間たちも良しとはしないだろう。

 因みに蜥蜴人(リザードマン)との交易が軌道に乗った後、カルネ村の住人(ゴブリン)が増え過ぎたために仕事がほぼ無くなってしまったヘッケランたちはエ・ランテルに移り住んでいたりする。 

 

 そこで白羽の矢が立ったのがクレア(クレマンティーヌ)、ティラ、レイナースの三人である。

 要は彼女たちにダンジョンの難易度が適正なのかを調べて欲しいというのが、今回彼女たちに与えられた仕事である。

 チームとして見ると強さや職業に偏りはあるが、彼女たちの能力と積んできた経験があれば、少なくとも自分(アインズ)よりは的確な判断が出来るだろうと思ってのことである。

 

 

 

 

 

 

「あれが、そうですわね」

「そうみたいだねー」

 

 エ・ランテルの一番外側の城壁を抜けて五十メートルほどの場所。つまり、都市の外に件のダンジョンが見えた。

 

 四角い入り口の周りは石造りで囲まれており、地下に潜って行くように造られている。

 入り口は黄色い紐で仕切られ、『調整中』と書かれた看板が立っている。

  

「見ての通り地下踏破型だね。一階層の前半は駆け出しも使用出来るように低位のモンスターばっか配置されてるみたいよ」

「知っているのですか? クレアさん」

「ちょっとだけだけどねー」

 

 両手を頭の裏で組んでニコニコしているクレア。

 

(楽しみにしているのかしら? 確かに私も少し楽しみですけど)

 

 レイナースはダンジョンに赴くのが楽しみ────なのではなく、強くなりたいと願っているから楽しみなのであった。その思いはとても、とても強かった。

 横を見ればティラも静かに闘志を滾らせている。短い間だが、会った時からずっと飄々とした態度を続けてきた彼女の意外な姿であった。

 

「そんなに気合入れなくても大丈夫だって。言ったでしょ、最初の方は駆け出し用も兼ねてるって」

 

 抜け過ぎていても困りものだが、始めから飛ばしていたらヘバッってしまう。

 

「んじゃ、作戦……て言うか陣形を決めとこっか? まず先頭は探索と索敵を兼ねてティラにお願い」

「任された」

 

 それほど身長がある訳ではないのに意外に大きな胸を張って頼もしい返事をするティラ。

 

「んで、戦闘になったら私が前衛を受け持つから、レイナースは中距離から槍で攻撃ね。ティラは支援に補助、攻撃も臨機応変に対応してくれる」

「……なんだか、随分と簡単な感じですわね」

「仕方ないじゃない。初めて会った三人で複雑な連携なんて土台無理なんだから。それに私たちなら役割をハッキリさせておくだけで上手く機能すると思うし」

(確かにその通りかも)

 

 レイナースは帝国四騎士になる前も、なった後も数々の戦闘を潜り抜けてきた。

 即興でちょっとした連携などもこなしている。

 

(それに……)

 

 レイナースから見た二人は、どちらも自分より格上に感じている。

 ティラはなんとか接戦に持ち込めそうだが、クレア相手では────とてもではないが勝ち目が無さそうだ。

 むしろ自分が足を引っ張りそうで不安を抱き始めていた。

 

 レイナースとは真逆に、クレア(クレマンティーヌ)は元帝国四騎士のことをかなり詳しく知っている。表舞台では有名なのもあるし、漆黒聖典時代に風花聖典から聞いた情報もあった。彼らの情報収集能力も優秀なのだ。

 ティラに関しても、容姿は知らなかったがどういったことが出来るのかは、ある程度予測出来ている。

 対して二人はクレアの素性を知らない。話す気もないし、話す必要もないからだ。魔導王の部下・シモベ・手下辺りと認識してもらっていればそれで良いのだ。

 

「後、二人にコレ。渡しておくね」

 

 クレアはマントの下の、腰に下げた袋から同じ袋を二つ取り出してティラとレイナースに手渡す。

 

「この袋は?」

「<無限の背負い袋/インフィニティ・ハヴァザック>って言うアインズ様からの差し入れ、だよ。総重量500キロまで入れることが出来るみたい。すごいよね。中に新作のポーションとか補助アイテムが入ってて、神官や魔法詠唱者(マジックキャスター)のいない私らの足しに……って聞いてる?」

「あ、はい! ごめんなさい。聞いてましたわよ」

「続きをどうぞ」

 

 アインズからの差し入れ、と聞いたタイミングで目が輝きだして意識がどこかに行ってそうだった二人を怪しく思うクレア。

 咳ばらいをしてから続きを説明し始める。

 

「ゴホン。……<巻物/スクロール>とかも入ってるんだけどティラしか使えないだろうから私とレイナースのには入ってないから。後は……ってこんなもんか。何か質問ある?」

「これがポーションですか? 何やら色が……」

 

 通常のポーションは青色をしているのが通常。

 レイナースは袋から取り出したポーションが紫色なのが気になった。

 

「新作って言ったでしょ。やっぱ聞いてないじゃん。コレは支給品で効果を確かめる意味もあんの。近いうちに魔導国で売られるみたい。魔導国の冒険者限定でね」

 

 つまり他国には流通させない物。ある意味、魔導王が信頼している者が持てるポーションとも言える。 

 

「あんまり話し込んでても時間の無駄になっちゃうから、そろそろ出発しよっか?」

 

 クレアが仕切りの黄色い紐を跨ぎながら振り返り、一言。

 

「あ、そうそう。<無限の背負い袋/インフィニティ・ハヴァザック>なんだけどね。あれ、ミスリル級の冒険者全員に配られるみたいだよ」

 

 魔導王からの贈り物。大切に扱おうと思っていたティラとレイナースは少なからずショックを受ける。

 自分の手にある頂き物が、他の冒険者も同じように持つのだと知って。

 

「うひひ」

 

 懇切丁寧に説明しているのに、ちゃんと聞いていなかったことへのちょっとした意趣返しに成功したクレアは無邪気に笑った。

 

 

 

 

 

 レイナースは気合が入っていた。

 自分が足を引っ張ってしまうのではないかと、不安な思いを振り払うように永続光(コンティニュアル・ライト)の光が灯された道────所々に闇があるのは視覚効果だろう────を進む。

 しかし、その不安も杞憂であった。

 

 クレアの説明にあったように一階層は駆け出しも視野に入れた設計になっている。

 つまり────。

 

 弱いのだ。

 

 最下級に位置付けられる骸骨(スケルトン)から始まり、スケルトン・ソルジャーや骸骨弓兵(スケルトン・アーチャー)などへと続き、百足状の骸骨(スケルトン・センチュピート)骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)など、一般の衛兵では対処が厳しいアンデッドが襲ってきた。

 

 しかし、レイナースら三人にとっては鎧袖一触。かすり傷一つなく進んでいく。

 罠による妨害も、ティラが悉く察知してくれ探索は順調そのもの。

 途中からアンデッドだけではなく、悪魔や昆虫、天使なんかも姿を現してくるようになってきたが、それらも軒並み低級のものたち。レイナースたちにとっては大した変化ではなかった。

 

 これらのモンスターは全てナザリックが用意したもの。

 一番数も種類も多いアンデッドはナザリックで自動popするものを利用しており、悪魔や天使などはシモベが召喚したもの。ちなみに召喚者は日にちによって交代制を敷かれており、『関係者以外立ち入り禁止』とされた空間で召喚を行っている。これらのモンスターにかかる費用はなんとゼロである。

 

 ついでに動死体(ゾンビ)などが放つ腐臭が籠ることはなく、討伐すれば空気は一新されるようになっているのは地下型ダンジョン故の配慮であったりする。

 

 一行は少し開けた空間に出る。

 

「ここまでだったら(シルバー)でも来られるぐらいでしょうか?」

 

 レイナースは自身の経験則から判断する。

 

「そうだねー。継戦能力を考えるとその辺か、(ゴールド)ってところかな? ウチには優秀なレンジャーが居るからかなり楽だったけど」

 

 冒険者に求められるのは何もモンスターを倒す力だけではない。

 罠の発見や解除、索敵能力も必要だ。ティラはそれらの能力に長けており、この先も彼女がいればかなり楽に進めるだろう。

 

「このぐらいならまだまだ余裕」

 

 親指を立てたティラは自信に溢れている。本当に余裕がありそうだった。

 レイナースは開けた空間を見渡す。来た道の反対側に次へと進む道が見える。

 

「……急に広い空間に出るってことは……」

「考えてる通りだと思うよー。こっからまた難度が上がるってことだろうねー」

「っ!? 何か来る!」

 

 突如、地響きが起こる。

 轟音を上げて地面から現れたのは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)

 更に広間の横壁上空に開けられた幾つもの穴から十体以上の死霊(レイス)が現れる。

 

 第六位階までの魔法を無効化するアンデッドに、魔法以外の攻撃ではほとんどダメージを与えられないアストラル系モンスター。組み合わせとしてはかなり嫌らしい。

 

「レイナースは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を! 私とティラで死霊(レイス)を叩く!」

「了解しましたわ!」

「爆炎陣!」

 

 ティラが爆発と炎の忍術を駆使し駆け回る。

 クレアは魔法武器を手に疾走する。

 レイナースも得物の槍を手に巨体へと立ち向かう。

 

 

 

 スティレットからファイヤーボールの魔法を発動させ、物理攻撃が効かないモンスターを倒していく。

 

「あんまり使用し過ぎるのはマズイかな」

 

 クレアが手にしているスティレットはナザリックの手により強化され、込められた魔法制限は五回までに増やされている。まだ、一階層の終わりが見えていない状況で、三人の中で最大戦力である自分の取れる手段を減らすのはよろしくない。

 そう判断したクレアは残りの死霊(レイス)をティラに任せ、副武器のモーニングスターを手にレイナースの援護へと駆ける。

  

 クレアから指示を受けたティラは<巻物/スクロール>を取り出し、光弾や火の玉を飛ばし、残った死霊(レイス)を片付けていく。

 ティラもクレアと同じような理由で魔力を温存したかったようだ。

 

 広間中央では地響きが鳴り響いている。

 レイナースが骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前足からの振り下ろしを槍を上に掲げ、柄の中心部で受け止めている。

 

(やるねぇ。アイツの一撃を受けきるなんて)

 

 三メートルを超える巨体を素早く回した尻尾による振り回しを飛んで避け、柄の部分で顔面に強打を見舞っていくレイナース。

 『蝶のように舞い。蜂のように刺す』を体現したかのような戦いぶりはクレアから見ても『華麗』の一言に尽きる。

 

(こりゃ私の援護も要らなさそうかな)

 

 思いつつも殴打武器で横から巨体の足を砕きにかかる。

 

 元帝国四騎士、“重爆”のレイナースは四騎士の中でも最強の攻撃力を誇っていた。

 呪いを受けたことによって望まずに得てしまったカースドナイトの職業が主な原因であった。モモン(アインズ)によって解呪されたことにより、カースドナイトに就く条件が満たせなくなった訳だが、消失した訳ではない。特殊能力(スキル)の使用は出来ないが、攻撃力や命中など、能力値上昇の恩恵は残っている。

 レイナースも能力の一部が使えないことにはとっくに気が付いており、戦闘感覚の調整は行ってきていた。

 

 

 

 そして。

 

「っと、終了だね。……ティラの方も丁度終わったみたい」

 

 クレアの言葉通り骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を構成する骨が崩れ去り、偽りの生命が消える。後に残ったのは竜の骸の残骸のみ。

 死霊(レイス)は倒されると掻き消え、何も残さない。

 

「ここの組み合わせはミスリルにはちょっとキツイと思う」 

「……うーん、熟練の神官か魔法詠唱者(マジックキャスター)が居りゃ死霊(レイス)の対処も楽になるだろうけど、居なくて魔法武器とかが無かったらほぼ詰んじまうか……そこをアイテムで代用とか……」

 

 ティラが感想を口にし、クレアが真面目に難度と対処法を考えながらブツブツ呟いている。

 丁度一段落ついたことで、小休止に入る流れが自然と出来ていた。

 

 ティラが<無限の背負い袋/インフィニティ・ハヴァザック>から取り出した疲労回復のポーションを口に含もうと顔を上に向ける。

 視界に入った上空の穴から小さなナニカが飛び出して来るのが見えた。

 

「クレア!」

「っ!? おわぁ!?……っと、と」

 

 ティラの声に反応し、背後から襲おうとしてきたナニカをギリギリで回避することに成功するクレア。

 崩れた体勢を立て直しつつ、スティレットを通り過ぎて行ったナニカに向ける。

 

「悪魔?」

 

 それはやたらと大きな頭を持ち、瞼の無い真紅の瞳、鋭い牙がむき出しになった口、鋭い爪の生えた両腕は長く伸びて床に付くほど。肉体はやたらと引き締まっていて、肌は死人のように白く、子供よりは若干大きい程度の悪魔。クレアもティラも知らないモンスターだった。

 彼らは手癖の悪い悪魔(ライトフィンガード・デーモン)と呼ばれるモンスターたちである。

 

「なぁーるほど。油断した所を襲うって仕掛けか」

「おっと」

 

 ティラの方にも襲い掛かってきた個体が居たが、警戒していた彼女は難なく避ける。すれ違い様にクナイで首の後ろを突き刺している辺りは流石であった。

 

 断末魔を上げる暇もなく、ティラに急所を刺された悪魔は黒い霧のようなものを発生させて消えていく。さっきまでの戦いの後だと、その呆気なさが逆に驚きであった。

 

「ふーん。速さはいっちょ前だけど、それ以外は大したことがない感じね」

 

 クレアの周りに新たに穴から飛び出して来た個体が二体。最初の一体と合わせて三体に囲まれていた。

 ティラも同じ状況で囲まれていた。

 しかし、二人は全く動じない。少々素早いだけのモンスターなど敵ではないのだから。

 手間取るのも癪だとばかりに、二人は全力のスピードで三体を一息に討伐する。

 知識にないモンスターを相手にする場合、例え弱くても侮るのは危険。万が一、危険な特殊能力を持っていたら窮地に立たされる可能性もあるのだから。

 最下級の悪魔とはいえ、モンスターの中では強い部類に数えられる種族なのだが、二人の前ではこれまで同様、大した違いはないようだった。

 

クレアが武技を使った疲労感から息を吐きだすと。

 

「この! この! 返しなさい!」

 

 いきなりの奇襲で意識から外れてしまっていたレイナースが悪魔に向かって出鱈目に槍を振り回し、追い駆け回していた。

 彼女の実力はクレアも既に把握している。自分には及ばないものの、あの程度の悪魔に苦戦するのは考えにくい。レイナースの後方で黒い霧が二つ消失していくのを見れば、あっちにも三体現れたのだと予想れる。顔を赤く染めて追っかけているのが最後の一体なのだろう。

 

「……槍の扱いが雑過ぎ。何やってんだ?」

 

 ブンブンと振り回される槍は当たれば当然痛いだろうが、如何せん精度が酷過ぎる。

 

「んん。怒ってるって言うか、興奮してるって言うか……」

「なんか、恥ずかしがってるみたい」

「ああ。そんな感じだねー」 

 

 追加の悪魔はもう居ないようなので、おかしなレイナースをなんとなく眺めている二人。

 

「ほんと返しなさい! そんなもの盗んでどうするのです!」

「ギャギャギャギャ!」

 

 甲高い奇怪な声を上げながら、悪魔は振り下ろされた槍を回避する。しかし、レイナースの間合いからは決して離れない。明らかに馬鹿にしている。

 

 もはや周りが見えていないのか、レイナースの振るった槍が壁に勢い良く突き刺さる。

 

「しまっ!?」

 

 余程強く刺してしまったようで、中々引き抜くことが出来ないレイナースをあざ笑うように奇怪な声を上げながら上空を旋回している。

 

「ああ!? お、お願いします。アイツを! アイツを!」

「そう言われても、攻撃が届くかなぁ……」

「ホイ」

「ギャァ!!」

 

 クレアが跳躍して届くかな、と考えていると、ティラがクナイを投擲。見事に眉間に命中していた。

 

「さっすが」 

 

 丁度クレアの真上辺りで悪魔が霧に変わって行くのを確認する。

 

「ん? 何か落ちて来る?」

 

 悪魔が霧となった辺りから落ちてくるモノ。

 それは白い塊。

 クレアはそれをキャッチする。

 

「この手触りは(シルク)?」

 

 両手で広げてみるクレア。

 それはレース付きの真っ白なパンツだった。

 

 猛ダッシュで近づいて来たレイナースが無言でクレアの手からそれを奪う。その顔はもう耳まで真っ赤っ赤だった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 三人が沈黙に包まれる。

 何かフォローしなければと、クレアが言葉を探し────。

 

「…………レイナースって…………可愛いの履いてんのね」

 

 レイナースの赤かった顔と耳が、更に赤くなった。

 

 

 




レイナースの装備についてですが、四騎士の時の黒い全身鎧は皇帝に返却して自前の鎧です。金貨1,000分のポーションも返却済み。
残りの魔法防具、武器は退職金みたいな感じで持ってってます。

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