鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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42話 結婚にあたって

 女子会。

 それは女性だけで集まり、お茶をしながら会話を楽しむ場。

 

「改めて、おめでとう。アルベド。ついでにシャルティアも」

「うふふ、ありがとう、アウラ」

「今思い出しても超絶にかっこよかったでありんす。わらわに求婚して下さった時のアインズ様♡ …それに、夜の方も。あぁぁん。」

 

 アルベドにアウラ。そして当時を思い出し「やん、やん」と身をくねらせて悶えるシャルティアの三人が休憩時間を利用して集まっていた。

 話題は必然的に支配者の結婚の件となる。

 

「それにしても、よくアインズ様がお認めになったよねぇ。今まではさ、あたしたちの事を至高の方々の子供のように思ってるって仰ってたのに。アルベド、なんかやったの?」

 

 アウラの言葉にシャルティアが敏感に反応を示す。コイツはまた抜け駆けしたんじゃないかという視線を向けて。

 

「失礼ね。私の愛がアインズ様に届いた。ただそれだけのことよ」

「それを言うなら私の愛も! でありんす」

 

 二人の愛が届く。それはそれで正しいのだが、アルベドは何故御方が受け入れてくれたのかを詳しく説明しない。

 アインズ以外の至高の御方に敵意を抱いていたアルベドの思いはアインズと二人だけの秘密。二人で抱える問題を余人に伝える必要はないし、意味がない。余計なトラブルが発生するだけである。

 至高の御方が戻って来ない件も、知っているのはアルベドとパンドラズ・アクターのみに留めることになっている。 

 アインズは、知れば余計な悲しみを与えるだけ、特にアウラとマーレはまだ子供なのだからと躊躇している。

 

 守護者統括としての見解は、事実を知ってむしろ踏ん切りがついて良いのではとも考えたが、ナザリックが覇業に向かって進む中で要らぬ軋轢は避けるべきと結論付けた。杞憂に終わるかもしれないが。

 

(あなた達の創造主はもう……それでもアインズ様がいらっしゃれば……)

 

 なんとかなる。

 あの方さえ居てもらえればそれだけでいい。

 自分は色々とこじれてしまったが、ナザリックの仲間には創造主のことを良い意味で乗り越えて欲しいと思っていた。 

 

「ところで、アウラもアインズ様の妃に立候補するのかしら?」

「えぇ!? あたし? あたしは、ほら、まだ子供だから。良く分かんないって言うかさ……」 

「お子様には少~し早い話でありんすね」

「なにをー! あたしだって百年もしたらあんたなんかと違って、こうボイ~ンってなるもん。そしたらアインズ様もあたしにメロメロに――――」

「つまり、いずれは貴方もアインズ様の妃になりたいってことね」

「えっ、う、うん」

 

 ダークエルフ特有の薄黒い肌をハッキリ分かるほど赤く染めるアウラ。

 アルベドはつい、大人になり爆乳となったアウラに見下ろされるシャルティアの姿を想像してしまった。 

 

「あと、アインズ様の寵愛を欲しているのは、マーレかしらね」

「マーレでありんすか」

 

 アインズから貰ったギルドの指輪を薬指にはめたりと、女性的な仕草をすることがある。

 何時ぞやはアインズとの添い寝券に一億の価値を付けたりと、油断ならない相手だと警戒していたほどだ。

 妃の座を射止めた今の二人からすれば、マーレが寵愛をいただいたとしても何も問題にならない。御方が望まれるままにだ。

 

「あ~、マーレが望んでる寵愛って二人が考えてるようなのじゃないと思うよ」

「どういうことでありんす?」

「あの子が思ってるのは、アインズ様と普通にお休みしたり、お風呂で洗いっこしたり。そういう父親と子供みたいな関係を望んでんじゃないかなぁ。多分だけど」

 

 マーレは自分を女性と考えているわけではなく、創造主ぶくぶく茶釜の意思で女装しているに過ぎない。しっかりと自分は男だと認識し、主張もしている。

 姉のアウラから見れば、弟の考えぐらいはおおよそ理解出来ているようだった。

 

「色々と難しい年頃なのかもしれないわね。それはそうと、シャルティア」

「何でありんすか?」

「私も貴方もアインズ様の妃となれた訳だけど、第一妃は私ということになっているから」

「はぁあ!?」

「ちょっと、お茶会で変なオーラ出すんじゃないわよ。ちゃんと説明するから黙って聞きなさい」

 

 怒り心頭のシャルティアを宥め、アルベドは生徒に説明する教師のように話す。

 

 まず、アインズにとってはアルベドもシャルティアも同じように大切に思っている。どちらかを第一、第二というように順序を決めることは出来ない。

 しかし、魔導国の王という立場もあるため対外的に第一妃を決める必要がある。

 アルベドとシャルティア、どちらを第一にするか考えた時、宰相の地位にあり、魔導国の内政にも大きく関わっているアルベドの方が色々と都合が良いのだ。

 ナザリックにおいてNPCの頂点に立つ守護者統括と一般メイドの二者が、役職が違うだけで本来は同格とされているのと同じ。外の世界で役職が違うだけで、本当の意味に置いては同じアインズの妃。そこに順序は存在しない。

 

「分かったかしら?」

「うぅ、そういうことでありんしたら……しょうがないでありんすね。今回は納得するでありんす。でも、次は私がアインズ様の一番になってみせるでありんすよ」

 

 拳を握り、次の機会に向けて奮起している。

 鼻息の荒いシャルティアに対して、アルベドは勝者の笑みを見せる。

 

「フフ、次の(・・)、ね。残念ながら二度目の機会も私が貰うつもりよ」

「ムッ、どういう意味でありんす?」

 

 訝しげな表情で迫るシャルティアとキョトンと首を傾げるアウラ。

 どういうことか分かっていない二人に対して、アルベドは自分のお腹を愛おしそうに撫でる。

 

「ま、まさか?」

 

 アインズに対して次の一番となれば、何がくるかは(おの)ずと決まっている。アルベドの仕草にシャルティアはワナワナと震えだす。  

 

「残念ながらまだ身籠ってはいないわ。だけど、それも時間の問題ね。私も自分の特性をようやく掴んできたから」

「なんだぁ」

「お、驚かせないで欲しいでありんすね。私もアインズ様と何度もまぐわっていんすから、結果がどうなるかは分からないでありんす」

 

 状況はイーブンだと言い張るシャルティア。

 

 アインズは自分が人間に姿を変えた時にペストーニャに診てもらった時に『子供が出来にくい身体』だと診察結果を受けていた。理由は全くもって分かっていない。

 その事実をプロポーズされた時に二人とも聞き及んでいたのだが、回数を重ねればいずれは……と見込まれている。

 

 そして、そこは淫魔(サキュバス)のアルベド。性欲増大や精子製造能力をブーストさせたり、自身にも特殊能力を使ったりと種族特性の使い方をこの数日間で掴んでいた。

 初めて行為をした時はそれらも忘れて夢中になってしまっていた。非常にもったいないことだが、あの時の状況を想えば仕方がなかっただろうとも思う。

 

「う~ん、アルベドはサキュバスなんだし、その辺りについてはシャルティアの方が不利なんじゃない?」

「そんなことは関係ないでありんす。私の愛があれば種族の差なんて――」

「と言うより、そもそもシャルティアはそのままでは妊娠自体出来ないのよ」 

 

 意気込むシャルティアから「ほぇっ」と間の抜けた声が漏れる。

 

 アンデッドは子を産めない。

 当然だ、生命活動をしていない身体の中でどうやって新たな命を育むというのか。

 しかし、シャルティアもアウラも、ナザリックの全ての者たちは至高の御方のまとめ役。最高の絶対支配者の超魔力を持ってすればアンデッドの事情など簡単に解決出来ると思っていた。

 

「私もこの前アインズ様から聞かされたのだけれど、貴方がアインズ様のお子を成そうとするためには三つの方法があるそうよ」

 

 まず一つに、アインズの超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>により、シャルティアが子供を作れるように願う。代償はアインズのレベルダウン。<強欲と無欲>に溜めてある経験値を使用する方法もあるが、消費量が分からないため足りない分が多量にあれば、やはりレベルダウンしてしまう。

 

 二つ目はアインズの持つ超々希少アイテム<流れ星の指輪/シューティングスター>を使って同じように願う。これは使用回数が定められていて、この世界での再入手は絶望的。

 

 三つ目はワールドアイテムを使用すること。二十を使うことでアイテムは消失。再入手は当然…………。

 

 それを聞いたシャルティアはガクリと項垂れる。

 シモベである自分の我がままのために失うにはどれもデメリットがでかすぎる。主が方法を示してくれたのだから、本気でお願いすれば叶えてくれそうな気もするが、ナザリックのシモベとしてとてもお願いすることは出来ない。

 今まで御方の口から説明されなかったのは、単に張り切っているシャルティアのことを想って言い出し辛かったのだろう。慈悲深いあの御方であればあり得ることだ。

 

「他の手段が見つかる可能性もないわけではないそうだから諦めるには早いんじゃないかしら。一応守護者統括として今後の案件に組み込んでおいてあげるわ。優先順位は低くなってしまうけれど」

「ア、アルベドォ~」

 

 ガシッと手を握り合う二人。圧倒的優位のアルベドが余裕を見せているようにも見えるが、偶に変な所で意気投合する姿を見てきたアウラには、二人が熱い友情に結ばれているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック第九階層。

 

 アインズは自室で椅子に座りながら、物思いに更けていた。

 

「結婚、結婚か~。まさか異世界に来て嫁さんを貰うことになるとは……」

 

 しかも同時に恋人まで。本人がそれで良いとは言っていたが、本当に良かったのだろうか。

 転移当初では考えられなかったことだ。精神が異形に寄ってしまっていたし、アレもお亡くなりになっていた。周りの状況からも何も分からず、ハッキリ言ってそれどころではなかった。

 

 ナザリックの皆もアインズに祝辞を述べ、よく争い合っていたアルベドとシャルティアまでもがお互いの事を心から祝福している。

 

 コキュートスは鼻息ならぬ冷気を荒くして「剣術指南は何歳ぐらいからが良いか」などと随分と先のことまで気にしていた。

 

 デミウルゴスは「自分如きの願いを叶えていただき感謝に堪えません」と、珍しく涙を堪えている様子だった。どうもコキュートスと同じくかなり先のことを視野に入れているようだった。一頻(ひとしき)り祝辞を述べた後は、やる事があるらからと退室していった。

 デミウルゴスが考える事に間違いはないし、アインズも信頼しているため、忙しそうに動き出すのを何も言わずに見送った。

 

 アウラにマーレ、セバスやプレアデスに一般メイド、領域守護者、ナザリック全ての者から祝福されている。

 アインズはそれが何より嬉しかった。

 

「子供……もちゃんと考えないといけないよな。特にコキュートスとデミウルゴスはメチャクチャ期待しているようだし。て言うかこの身体子供が出来辛いって何なんだよ」

 

 一応『種無し』でなかっただけマシなのかもしれない。リアルでもそうだったとしたらかなりへこむ事案である。もっとも、そのようなことを気に病むような生活ではなかったのだが。 

 

「子供が出来たら名前も考えないといけないよな……う~む、俺たちの名前から取って……アルノリとか?」

 

 アルベドの『アル』と(さとる)を『のり』と呼んでくっ付けてみる。男に付けるっぽい感じだがどうもシックリこない。

 

「って、男が生まれると決まった訳じゃないのに」

 

 そもそも子供すらまだ出来ていない。そんな事まで気にする辺り自分もかなりテンパっているのかもしれない。

 

 自分のネーミングセンスはかなり変だとギルドメンバーに言われたことがあった。

 過去にクラン『ナインズ・オウン・ゴール』から、ギルドを結成する時に『異形種動物園』というギルド名はどうかと提案したことがあった。自分としては結構良い名だと思っていたのだが、メンバーからは「それはナイ」と一蹴されてしまったことがある。

 

「はぁ、取り合えずその辺のことは置いとくか。あと、しておかなければならないのは……国王として正式な発表、とかか?」

 

 しなければいけないだろう。妃を迎えた御触れ自体は出していたが、身内だけでワイワイ騒ぐだけでは済まされない立場になっている。

 自分事を大々的に発表するなど性分ではないのだが自らが選んだ道だ。文句を言ってもしょうがない。

 

「そうなると俺の結婚祝賀パーティー、になるのか。いや、この際だ。色々名目を混ぜてやってしまうか」

 

 魔導国の領土拡大祝い。元王国領内の安定祝い。激しく変動する中、魔導国の方針に従い頑張ってくれた領主へのお疲れ様会。

 

 それら全てを含んだパーティーを開けば良いんじゃないだろうか。

 支配者としてそういう場に顔を出さないといけない身としては堅苦しい場は極力減らしたい。

 

「おっ、中々良いアイディアなんじゃないか? 早速デミウルゴスは……忙しそうだな」

 

 王国で活動していたこともあるセバスと相談することにした。

 

 

 

「――――という訳で、祝いのパーティーをしようと思っているのだが」

「素晴らしいお考えかと。早速アルベド様と協議して、準備に入ろうと思います」

 

 宰相の立場であるアルベドとなら速やかに事が進むだろう。セバスも執事として細部まで気が付くはず。

 

「ところでセバスはツアレと結婚する気はないのか?」

「はっ!? 私がツアレと結婚、ですか?」

 

 考えてもいなかった事を聞かれて戸惑っている様子。その後に「シモベである自分が」なんて考えにいきそうだ。

 

「そう、結婚だ。二人は良い仲だと聞いている。もし、お互いが夫婦になるのを望むのなら、私も祝福しよう」

「おお、アインズ様。私だけでなくツアレまでも気にかけていただいて感謝の言葉もございません。しかしながら、結婚に関しましてはツアレと相談したく思います」

 

 胸に手を当て、深い礼をとる。いつもながら感心するほど綺麗な姿勢だ。

 何も急がせる必要はない。二人でゆっくりと話せば良いだけのこと。

 

「そうだな。そうするがいい……ところで、結婚で気になったことがあるんだが。他の者は誰かと結婚したいとか考えていないのか? ナザリック内で気になる相手とか」

「そうですね――――」

 

 アインズからの問いに真剣に考え込んでいる。役職や立場は違えど、同じNPC同士のことならある程度は想像出来ると思っての質問だった。

 

「我々はアインズ様に尽くすために存在いたします。我々一同は仲間や同志といった認識であり、そこに異性に対する恋愛感情を持つ者はいないと思われます。女性の方たちのことはハッキリとは分かりませんが、少なくとも私やデミウルゴスのような男性陣に対してそういった感情を持つ者はいないと思われます」

「そう、なのか」

 

 考えてみれば至極納得のいく話であった。彼らは同じ志を持った戦友のような関係。

 セバスはプレアデスや一般メイドのことを非常に美しいと考えてはいても、そこに男女のアレコレは存在しないとも言い切ってくる。

 ナザリックは異形種ばかりで種族毎の相性もありそうだ。なんだったら両性もいる。

 

(ニューロニストは…………確か、俺に夜のお呼ばれされるのを待っているんだったっけ? それは勘弁してくれ) 

 

 見た目的に色々キツイニューロニストや恐怖公であるが、彼らも仲間が残してくれた大切な存在には変わりがない。変わりはないが、水死体のような身体を抱けるかと言われれば、流石にNOとしか言えない。これから先、何か他の望みを見つけてもらうことを願うしかない。

 

 何はともあれ、NPCたちが仲間同士でくっ付く気がないのであればそれはそれで構わない。下手にアインズから推奨しようものなら彼らのことだ、半ば無理やりにでもくっ付こうとしかねない。そんなのはアインズが望むものでは決してない。

 

 彼らが今後、成長していく中でもし恋愛感情が芽生えたなら。その時は彼らの上位者として心から祝福を送ろう。

 アインズはそう思いながらこの話を終わらせる。

 

 

 

 セバスが退室した後、アインズはセバスとツアレが結婚したら、と考える。

 

(う~ん、もし二人の間に子供が出来たら、俺はお爺ちゃんになるのか?)

 

 見た目老人のセバスが父親で、見た目二十代のアインズが祖父。なんとも異様な光景が思い浮かぶ。

 

 デミウルゴスから人間と他種族の間に子供は出来ないという報告を受けてはいる。しかし、今後もずっとそうだとは限らない。人材が揃えば、その辺りの研究は続ける予定だとも聞いている。

 いつか竜人と人間の間に子供を授かる日は来るかもしれない。

 

 アインズはホワイトなナザリック(魔導国)を目指して色々な制度を充実させなければと強く思う。

 

 

 

 そして、アルベドが待望の第一子を身籠ることになる。

 

 

 

 




NPCはお互いのことを仲間・同士としており、そこに恋愛感情はありません。女性NPCが至高の御方に対しては…………。

この世界ではホモサピエンスはとっくに生存競争に負けて絶滅しているようです。
それを踏まえて裏設定として。

この世界の人間は、リアル世界の人間の亜種という括り。
アインズは、リアルの鈴木悟の肉体にオーバーロードの力を宿しているためどちらとも言えない状態(ワールドアイテム有り)。
フワっとした説明ですが、そういう理由でアインズは子供が出来辛いとしています。

アンデッドが種族変更するにはワールドアイテム<世界樹の種>でしか出来ないようですが(後情報により修正不可)、ここは超々レアアイテムとモモンガ玉の作用で可能となったとしておいて下さい。

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