鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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※アズス・アインドラについて。
43話でアズスをあんな風に設定しましたが、あれは外伝ということで完全に別物とさせていただきます。
修正しようとも思いましたがご了承下さい。
特に重要なキャラでもないですし、アズスの性格は原作通りでお願いします。
(アズスの名前は出ますが、本人の出番は今後無い予定です)


48話 類は友を呼ぶ?

「とうとう、無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)を着れなくなってしまったのね」

 

 アインズの胸に頭を乗せたままラキュースは感慨深げに呟く。

 今までの冒険で幾たびもこの身を守ってくれた、ユニコーンの装飾が刻み込まれた乙女のみしか着用できない鎧とお別れしなければならない。

 相棒とも悪友とも言える鎧はもう二度とラキュースの身を包むことはない。

 

「可笑しなものね。ようやくお別れ出来るから嬉しいはずなのに、どこか寂しい気分だわ」

 

 アインズもラキュースの気持ちがよく分かる。

 長い間愛用した武器防具などには愛着が湧いてしまうもの。コレクター気質もあったアインズはそういった物はずっと取っておいている。例え使う機会がなくても。

 

「大事にしまっておけばいいさ。何だったらナザリックの宝物殿に保管しておいても構わんぞ」

「そうですね。何時か女の子が生まれて大きくなったら、アインドラの証として継いでもらおうかしら」

 

 親から子へ、そして子から孫へと継承されていくというのは歴史があって重みを感じるだろうが、それがある意味呪われていると言えなくもないモノであれば――。

 

(それはなんの罰ゲームだろう。取り合えずそんな話は置いておいて。) 

  

「ラキュースの装備を考えなければならないな。これからも冒険者を続けるつもりなんだろ?」

「ええ。冒険は私の生きがいでもありますから」

 

 第三とはいえ王妃になったというのに。ラキュースにとっては王宮暮らしよりも豪気な冒険暮らしを望んでいた。

 貴族令嬢なのに冒険が好きとは。

 

「おてんば娘だなぁ……ふぉ!? ちょ、変なとこをいじるな」

「あら、男の人でもここは敏感なんですね。ふふ、アインドラ家のじゃじゃ馬娘はどんな立場になっても変わらないのですよ。えい!」

「こ、こら。そんなところを……や、やめんか……ええいお返しだ。コイツめ」

「きゃっ!」

 

 

 

 

 

 

 二時間後。

 再び仰向けで寝転んでいるアインズの胸にラキュースが頭を乗せていた。

 

「少し脱線してしまったな。ラキュースの装備についてだが……私から贈ろうと思っている。何か希望はあるか?」

「う~ん。そうですねぇ……」

「なんなら、もっと強力な武具を用意しても良い。君の叔父が持っているのと似たような物もあるぞ」

 

 ラキュースの叔父、アズス・アインドラが持っているパワードスーツはユグドラシル由来の装備品。過去のプレイヤーが残した物だと思われる。誰が装着しても同じ性能を発揮出来るが体力などは装備者のものそのままなので、物にもよるが初心者から中級者向けとされており、レベル上位者には無用な代物。

 それでも、この世界でならば無類の強さを得られる。

 

 冒険者ならば誰もが強力な装備を欲するもの。ラキュースもアインズの話を聞いて一瞬だけ瞳を輝かせるが、それは瞬く間にかげっていく。

 

「とても魅力的な話だけど……今回は遠慮しておきます」

「それは何故?」

「こう言うのもなんですが、叔父のようにはなりたくありませんので」

 

 アインズは知らないことだったが、どうやらアズス・アインドラは自力でオリハルコン級に昇る辺りまでは尊敬に値する人柄だったらしいが、例のパワードスーツを手に入れてから人が変わってしまったらしい。

 アダマンタイト級冒険者に憧れを抱いている者には『夢を見させる』ためとして、猫を被っているらしく、本性は決して褒められた人物ではないと、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。 

 

 増長。慢心。

 

 アインズが常日頃から気を付けていることだ。

 ラキュースは自分も二の舞になるのではないかと危惧していた。

 

「君であればそんな心配はないと思うが……まぁそう言うのであればそうしよう。だがやはり鎧は必要だろう」

「では、ヴァージン・スノーと同程度のものでお願いします」

「分かった。後でパンドラズ・アクターを紹介しよう。デザインについては奴に相談して決めるといい」

 

 ナザリックの宝物庫から見繕ってもいいし、パンドラズ・アクターが変身して新しく造ってもいい。

 ただ、心配性なアインズはラキュースには内緒で、1か2段階ほどは上の物を用意させるように言っておこうと思っていた。

 

 

 

 翌日。

 

 今日もアインズは報告される書類に追われていた。

 

「ふむ、リ・ブルムラシュールの鉱山で未知の鉱石が発掘されたのか」

 

 その中で特に興味を引かれたのが未知の鉱石に関する報告だった。

 

 リ・ブルムラシュール(現状、名称はそのまま)は金鉱山やミスリル鉱山があり、王国時代でも採掘が活発に行われていた。

 今ではドワーフの全面協力もあり、強力な護衛アンデッドを就けているので、これまで危険で立ち入れなかった深部まで採掘出来るようになっている。

 

「七色に輝く鉱石か……希少性が高く、ごく少量しか発見出来ていないようだが、これがナザリックの強化に繋がれば最高なのだがな。ユグドラシルにはない物らしいからまずは鑑定からだな」

 

 この世界特有の希少鉱石。どういった物かはまだわからないが、そう聞くだけでコレクター魂が自然と燃え上がってくる。時間がかかってもしっかりと調べる必要があるだろう。

 

 ふと時計を見ると仕事に入ってから随分と時間が経過していた。

 

「少し休憩がてら、ラキュースの様子でも見に行くか」

 

 ラキュースの装備についてパンドラズ・アクターがこっちに来ているはず。

 今日の当番のシクススを連れ、王宮でのラキュースの部屋へと向かう。

 

 窓から暖かい日差しが入っている廊下を歩く。

 太陽の光の暖かさなど、リアルでは知り得なかったものを感じながら、こんな穏やかな日々が続くようにと思う。

 

 やがて目的の部屋へと到着する。

 シクススが扉をノックしようと近づく。それを見守るアインズの耳に、中から何か嫌な予感がする声が聞こえてきた。

 

「ちょ、ちょっと待った、シクスス」

「は、はい」

 

 驚いて肩を震わせたシクススを止めて扉から離れさせる。

 ドアの開け閉めはメイドにとって大事な仕事。しかしながら今はそれどころではない。

 アインズは扉を少しだけ開け、そっと中の様子を確かめる。

 

「おおぉ!! なんと力強くも優雅なポーズ! 流石は我が父上が認められたお方!」

「貴方の方こそ! 私の心が、いえ魂が震えるほどカッコいいポーズだわ!」

「当っ然です!! 私のこのポーズも! 言い回しも! 父上から教えられたもの!」

「ああ、私が長年考えてきたことを誰かに披露出来る日が来るなんて」

「私もですよ。ナザリックの皆さんは、私が色々ポーズを決めたりすると、とても冷たい目で見て来ますからね」

「私はそんなことは絶対にしないわ」

「おぉ、ありがとう御座います。今日という良き日を祝って最高にカッコいいのをお披露目致しましょう。はっ!!」

「すごい! すごいわ!! 空中で決めるなんて、まるで――――」

 

 アインズはそっとドアを閉める。

 なんだか頭が痛くなってきて、指で眉間をおさえる。

 

「あ、あのアインズ様……」

「……シクススよ」

「は、はい」

「お前はここで何も見ていない。何も聞いていない。いいな」

「はい。かしこまりました」

 

 

 

 意気投合したラキュースとパンドラズ・アクターは、その後、お互い義息子(パンドラ)義母(ははうえ)と呼び合うようになる。

 仲良くなるのは良い事なのだが、アインズはなんとも言えない気持ちになっていた。

 

 ちなみにラキュースの鎧はヴァージン・スノーと見た目はソックリにして新しく作られることとなる。本人の希望で色は漆黒に染められて。

 

 『闇に墜ちたラキュース』

   

 当人がそう自称してしまったことにより、一時期王都内では魔導王に対してあまり良くない噂が広まってしまう。

  

 誤解を解くためにラキュースが奔走したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。第九階層ロイヤルスイートの廊下。

 正確にはアルベドの部屋の外でアインズを始め、各階層守護者とセバスの姿があった。

 

「コキュートス、先ほどから冷気が駄々洩れですよ。少しは落ち着いたらどうだね」

「ムッ、ソウデアッタカ。済マナイ、デミウルゴス」

 

 冷気が漏れていたのに気付かないほど落ち着きのないコキュートスは、友の忠告を素直に受け入れる。ただその友の尻尾も、上下左右に忙しなく揺れている様子から平常心ではないと分かる。

 コキュートスは冷気を抑えつつも、再び熊のようにウロウロとしだす。

 二人だけではない、シャルティア、アウラにマーレも、セバスですら普段とはまるで違い、ソワソワと落ち着きのない状態であった。

 

「お前たち、私たちが気をもんでいても仕方があるまい。今はアルベドとペストーニャたちに任せるしかないのだからな」

「はっ、申し訳御座いません。アインズ様」

「よい。お前たちがそうなってしまうのも、ある意味仕方がないのかもしれないからな」

 

(何せ、俺とアルベドの子供が生まれるってんだからなぁ)

 

 ナザリックの者からすれば待望の第一子になる訳だから、デミウルゴスやセバスからしても落ち着いてなどいられないのだろう。誰もが目に見えて慌てている姿というのは、新鮮な光景でもあった。

 

 腕組して壁にもたれているアインズは、傍から見れば落ち着いた堂々とした姿に見える。

 しかしその実、マントで隠れている片方の足は貧乏ゆすりが止まらない状態であった。

 

(あ~、とうとう生まれるのかぁ、俺の子が)

 

 心の中は生まれてくる子への期待と不安。

 母体であるアルベドへの心配で溢れており、この中で一番動揺している自信があった。

 

 当たり前と言えば当たり前だが、ユグドラシルの百科事典にもサキュバスの出産については記載されていなかった。つまり、予備知識がない状態でのお産。ペストーニャから自信有り気に「お任せください」と言われていても、アルベドと子供が無事でいられるか不安で不安で仕方がなかった。

 

 

 

「オギャー!」

 

 悶々とした思いでいると、やがて部屋の中から泣き声が聞こえて来た。

 

「「!?」」

 

 全員の視線がドアの方へと向けられる。

 そしてドアが中から開けられ、嬉しそうにしているメイドが入って大丈夫と促してくれた。

 

「無事に生まれたか!?」 

「はい。元気な女の子です」

 

 ペストーニャが応えながら、毛布で包んだ赤子をアルベドの枕元へと丁寧に置いていた。傍にはお産を手伝っていたメイドたちが涙を流していた。

 

「アルベド、無事か?」

「はい。身体は丈夫に出来ておりますので全く問題ありません。」

「そうか……良かった」

 

 とりあえずは大事にならず安堵する。

 子供も元気な鳴き声を上げているあたり、心配はなさそうだ。

 

「わあ。これがアインズ様の御子かぁ……アルベドに良く似てるね」

「お、お姉ちゃん。ぼ、僕にも見せて……あ、ホントだ。アルベドさんにそっくり」

 

 アウラとマーレが言うように、本当にアルベドに似ていた。

 艶やかな黒髪、頭に生えた小さな山羊のような角。毛布に包まれていて確認出来ないが、ペストーニャが言うには腰から漆黒の天使の翼が生えているそうだ。

 

「ふむ、とても利発そうなお顔をしているね。アインズ様の血を引いているのだから、将来がとても楽しみですね」

「生マレタバカリダト言ウノニ、コレダケ元気ナ産声ヲ上ゲラレルトハ。コノ爺、先が楽シミデスゾ」

 

 デミウルゴスとコキュートスは早速将来のことを考えていた。頭の方は自分に似ないように願った方が良いのだろう。

 

「私も生まれたての赤子は初めてなのですが、こんなに大きな泣き声を上げて喉は大丈夫なのでしょうか?」

「そうでありんすねぇ。流石にちょっと大き過ぎる気がしんす」

「セバスもシャルティアもそう心配するな。よく言うではないか、子供は元気良く泣くのが仕事なのだと」

「おお、そうだったのですか。流石はアインズ様。ご慧眼でいらっしゃいますね」

 

(でも、確かに元気過ぎる気がするよなぁ)

 

 赤子の泣き声はとどまる所を知らずにドンドン大きくなっていた。

 最古図書館で調べたところ。赤ちゃんはママのお腹にいる間、ずっとママの心音を聞いていた。赤ちゃんにとってはなにより落ち着く音が、ママのお腹から出た瞬間、聞こえなくなってしまい、不安になった赤ちゃんは大きな声で泣いてしまうという説があった。

 

「アインズ様。この子を抱っこしてあげて下さい」

「ああ、そうさせてくれ」

 

 アルベドに言われるまま、赤子を抱き上げてみる。壊れ物を扱うよう出来るだけ慎重に。

 さあ、俺がパパだよ。そんな風に言おうと思って胸元に抱き寄せる。

   

「ア゛ア゛アアァ……………………くふふ」

「えっ?」

「あっ」

「なんとっ」

「コレハッ」

「ありんすっ」

 

「「…………」」

 

 全員が沈黙する。

 そんな部屋の中、赤子の「くふふ」という笑い声だけがやたらと響いていた。

 

 守護者やセバスだけでなく、ペストーニャやメイドまでもが無言の視線を一人に向ける。 

 

「え、え、私が悪いの? ア、アインズ様までそんな目で……」

「くふ~」 

 

 

 

 なにはともあれ、ナザリック地下大墳墓の絶対支配者に待望の第一子が生まれたことで、ナザリック内は歓喜に包まれた。

 

 子供の名は「モモ」と名付けられた。(命名アルベド)

 

 

 

 

 

 

 赤ちゃん部屋。

 モモが生まれたことでナザリックの地下大墳墓第九階層にある、ギルドメンバーの空き部屋の一つがそれにあてられた。

 

「あらコキュートス。今日も門番でありんすか?」

「シャルティアカ。休憩時間ハ各々ガ自由に過ゴスベシト、アインズ様カラ言ワレテイルカラナ。ソウ言ウオ前モ、モモ様ニオ会イニ来タノダロウ?」

 

 シャルティアもコキュートスと同じで、休憩時間を利用してここに来た口だった。

 今は昼時なため、それほど長くはいられないだろうが、それでもモモの顔が見たかった。

 

「ご苦労様でありんすね」

「私が居ル限リ、不遜ナ輩ハ一切ココヲ通サヌ。オオ、モモ様。爺ハ、爺ハァ」

 

 フシューと冷気を吹き出し気合が入っている。

 ここまで侵入出来る者が居るとは思えないが、何やら妄想して悦に入っている様子。そのまま放っておくのが良いだろう。コキュートスの休憩時間はもうすぐ終わって持ち場に戻るだろうから。

 

 赤ちゃん部屋に入ると揺りかごを揺らす一般メイドのリュミエールの姿があった。

 モモの世話は基本アルベドが行っているが、彼女は仕事が忙しい。そのため、一般メイドの誰かが日替わりで付きっ切りでいる。アインズ様当番に次いでメイドたちに人気のある仕事だ。   

 

「シャルティア様、ようこそお出で下さいました」

「ええ、モモちゃんのお顔が見たくて来たでありんす」

 

 リュミエールはそっと礼をしてから少し席を離れる。

 

「ほ~らモモちゃん、シャルティアでありんすよ」

 

 揺りかごを覗き込むと可愛い笑顔でご機嫌なモモの姿。

 アルベドにとても似ているが、どことなく愛しの御方の面影も垣間見えるのでとても愛らしい。

 モモを持ち上げ抱っこする。

 

「おや? 揺りかごに何か置いてあるでありんすね。これは……アインズ様人形?」

 

 見ればそれはかなりデフォルメされたアインズ様のぬいぐるみ(オーバーロードバージョン)であった。

 

「うえ、よだれでビショビショ。一度洗ってあげた方が良いでありんすね」

「では、私が洗ってきます」

「お願いするでありんす」

「はい。モモ様がこのぬいぐるみで遊んでいる時に、洗おうと取り上げてしまうと大泣きしてしまうんです。そうなってしまうと私どもではもう…………」

 

 満足して手放した時が洗うチャンスなようだ。

 ぬいぐるみで遊ぶのが、主にあむあむと甘噛みすることだと聞く。

 

(流石はアルベドの子ね)

 

 水分を含んで重くなったぬいぐるみを持って、リュミエールは部屋を出る。

 彼女たち一般メイドは世話をしている時に誰かが来た場合の行動が二種類に分かれる。

 一緒にモモを可愛がるか、来訪者の邪魔をせずに自分は引っ込むかのどちらか。

 リュミエールは後者にあたる。

 

 それはそれとして。

 

「さあ、モモちゃん。今日は何をして遊ぼうかしら?」

 

 大きく揺らしてあげると、きゃいきゃいと楽しそうにはしゃいでくれる。何度も顔を見せに来た成果が表れていた。

 

「うふふ、それにしても本当に可愛いでありんすね。いっそこのまま食べちゃいたいぐらい、ぐふふ」

 

 御方の血を引いて面影があるだけに、思わず本性が出かけた所で脳天に衝撃が走る。

 

「痛痛痛……ってアルベド!? いつの間にここに?」

「さっきよ。全く貴方は……この子を欲望に染まった目で見るんじゃないわよ。ほら、返しなさい」

「ああ、そんなぁ。冗談でありんすのに」

「どうだか。割と本気だったように見えたわよ。はぁ、貴方だけじゃないけど、他の皆もこの子を甘やかし過ぎな気がするわ。私だけでも厳しく躾けないと我がままな子に育ってしまいそうね」

 

 アルベドはモモの将来がちょっぴり不安であった。

 まだ生まれたばかりだから甘やかすのは分かる。しかし皆の様子から、このままではなんでも自分の思い通りになると思うような悪い子に育ってしまいそうだった。

 夫に相談したこともある。

 「その通りだな」と肯定してくれてはいるが、不敬と思いつつもモモと接している時の夫は頬が緩みっぱなしでいるためかなり不安だった。

 母である自分がしっかりしなければならない。

 

「スパルタママになるつもり? 確か『獅子の子育て』とか言うんでありんしょう? 至高の御方が仰っていたでありんす」

「へえ、どんな話なの?」

「えっと~確か……獅子は奥さんに多額の保険をかけて千尋の谷に突き落とす……あれ? 何かちょっと違う気がするでありんすが、そんな感じ」

「何よ、それじゃ私が落とされてるじゃない。それに保険ってなんなの?」

「ちょっと距離が離れていんしたけど、そのようなことをたっち・みー様とどなたかが話していたでありんす」

 

 多分、いや間違いなく聞き違いだろうとアルベドは思う。まぁシャルティアだし仕方がない。

 

「ふええええ!」

「あらあら、シャルティアが変な話するから泣いちゃったじゃない」

「私のせい!? ほらほら~シャルティアちゃんですよ~あぶぶぶ」

「ふえええええええん!」

 

 二人であやそうとするが、一向に泣き止む気配はなかった。

 シャルティアが必殺の『いないいないばあ』を仕掛けるが効果はないようだ。 

 

「おかしいでありんすね。いつもならこれ一発で機嫌が良くなるのに」

「そうなの? 貴方の真の姿を見て喜ぶなんて、この子も肝が据わっているわね。それにしてもどうしたのかしら? おっぱいはあげたばかりだし、オムツも濡れてないのに。お~よしよし」

 

 シャルティアと宥めようとするが、一向に泣き止む気配ない。

 泣き声は大きくなる一方であった。

 

「すごい泣き声だな」

「「ア、アインズ様!?」」

 

 あやすのに必死で御方が来られていたのに気付けなかった。

 

「アインズ様。どうしてこちらに?」

「いやなに、仕事が一段落したのでモモを抱いて散歩でもと思ってな。それにしても凄く泣いているな」

「申し訳ありません。すぐにあやします」

「気にするな。どれ、私に貸してみろ」

 

 アルベドがアインズにモモを渡す。

 するとどうだろう。アルベドとシャルティアが必死にあやしても泣き止まなかったのが、ピタリと止まる。

 

「くふふふ」

「ははは、なんだモモ。そんなにパパに会いたかったのか。二人とも、モモを連れて行っても構わないか?」

「は、はい」

「わ、私はもうすぐ持ち場に戻らねばならないでありんすので」

「そうか。ではモモ。今日は第六階層のジャングルにでも行ってみるか」

「くふ、くふふー」

 

 御方とモモが部屋を出てから、アルベドとシャルティアはお互いを見つめ合う。

 

「アルベド、見たでありんすか?」

「ええ、アインズ様は気付いていらっしゃらなかったようだけど」

 

 モモが御方の手元で泣き止んだ後の顔。

 

「赤ちゃんがしていい顔じゃないでありんす」

 

 恍惚。愉悦。快楽。

 それら全てが合わさったかのような表情を二人は見逃さなかった。 

 

「これはあの子の将来が本気で心配になってきたわ」

「そうでありんすね」

 

 二人の脳内でモモが大きくなった頃のことが連想される。

 

『パパ~。一緒にお風呂入ろ』

『ああ、いいぞ……ってソコは洗わんでいい。おい、いったい何で背中を洗ってくれているんだ?』

『モモちゃん特性のスポンジだよ~。ほ~ら気持ちいいでしょ』

 

『パパ~。一緒に寝よ』

『ああ、いいぞ……ってパジャマを脱ぐな。変なトコを触るんじゃない』 

 

「「…………」」

 

 ふたりの想像は近い未来、現実のものとなる。

 

 そんな想像が出来ていないアインズは、モモを目一杯可愛がり、後にちょっぴり後悔することになるのだった。

 

 

 




モモの名前は「不死者のoh!」より参照。
ヒドイン二号の誕生。いや、二世かな。


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