鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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毎度誤字報告ありがとう御座います。
だがなんと!
前話で初めて誤字報告がなかったのです。うれしす。
ちょっと短かったのもあるけどね……
今回も短いよ。



50話 学園

 魔導王の使者から王城に来るよう指示を受けたアルシェは、さっそく魔導王と会っていた。

 王都の街並みが良く見える窓際のソファーで上質な紅茶をいただきながら、呼び出された内容の説明を受ける。

 

「――――学園、ですか?」

「そうだ。魔導国内に学び場を設立し、優秀な人材を育てるためにも必要な施設だ」

 

 確かにその通りかもしれない。

 『魔を導く王』が統治している国なのに、魔法軽視で育った元王国民たちは魔法への理解が他国よりも浅い。このままでは周りから名前に偽り有りと考える者が出てくる可能性もある。

 

「計画の責任者として、アルシェを指名したいと思っている」

「わ、私が!?」 

「ああ、そうだ。適任だと私は思っている。帝国の魔法学園にも通っていたのだから、どのような制度や設備が必要か。また、他にどのような設備があれば良かったかなど、生徒目線でも判断出来るだろう?」

「――――で、でも…………私は…………」

「そう心配することはない。お前の職場の魔術師組合とは話がついている」

 

 いつの間にやったのか、アルシェが魔術師組合に顔を出さなくなっても問題ないように手配されているようだが、問題はそこではない。

 

(――――そんな責任重大なこと…………)

 

 即座に了承は出来ない。

 目の前にいる王から吹き上る圧倒的なオーラがアルシェには見えている。 

 心構えが出来ているから吐き気こそ起こらないが、タレントによって見えているオーラは超越者そのもの。

 そんな人物が起こす魔法学園の設立の責任者。はっきり言って荷が重すぎる。

 

「帝国の方にも話は通してある。あちらで必要なアドバイスは勿論、運営に必要な人材も可能な範囲ではあるが借りてくることも出来る」

 

 お膳立てはほとんど済まされていた。

 ここまで用意されて、断るのは逆に恐ろしい気がした。

 

「――――わ、分かりました。私に出来る限り、頑張らせていただきます」

「そうか。引き受けてくれるか」

「――――あの、一つ聞いてもよろしいですか?」

「ん? なんだ?」

「――――どうしてパラダイン様を指名しなかったのですか? 陛下からの要請であれば、パラダイン様も引き受けてくれたと思うのですが?」

 

 魔法研究に熱心なフールーダ・パラダインであれば、陛下の魔力を見れば従うのではと思えた。

 それに帝国の魔法学園を設立した張本人でもあるのだから、今回の件にはうってつけなのは間違いない。同盟国でもあるのだし。ひょっとしたら、借りを作る形になるから躊躇しているのだろうか。

 

「いや、フールーダは…………その、なんと言うか…………ちょっと会いたくないと言うか、問題があってな」

「――――はぁ?」

 

 良く分からないが、どうも都合が良くないようだ。流石にこれ以上聞くのは憚られた。 

 咳ばらいを一つして、気を取り直した陛下は学園に関して続きを話し出す。

 

「何も一から全てを任せようと言う訳ではない。これを見てくれ」

 

 そう言って陛下が取り出したのは、綺麗な水晶だった。

 

「――――キレイ…………陛下、これは?」

「これはデータクリスタルと言ってな。こうやると…………」

「わっ、すごい」

 

 陛下が手で何か操作すると、水晶から三十センチほどの立体的な映像が宙に浮かび出して来た。

 門があり、綺麗な花を咲かせる並木道の先には独創的な建物。

 

「――――学園のモデル、ですか?」

「そうだ。私のかつての仲間が構想していたものなんだが。更にこうやると…………」

 

 陛下がもう一度手で何かの操作をすると、陛下が触れた部分からその部屋の中の構造が浮かびだす。

 見たこともない文字も浮かんでいた。

 

「これを元にしてもらいたいのだが、恐らくこれをこのまま建設すると、問題が起こると想定される。アルシェにはこれをちゃんとした学園になるように修正してもらいたい」

「――――は、はい。分かりました」

 

 操作方法を教えてもらい、未知の文字が読める様になるマジックアイテムも一緒に水晶を受け取る。

 

「プレッシャーをかけるつもりはないが、この学園はこの先何十年、何百年と続く大事なものになるだろう。完遂の暁には私で叶えられる範囲で、望む褒美を取らせようと思っている。一つと言わず二つでも構わん」

「――――分かり、ました」

 

 少しだけ尻すぼみで返事してしまった。

 国家規模の事業を成功させたなら、それはもう大変な功績になる。褒美も当然それ相応のものが望めるだろう。

 しかし、アルシェは褒美については辞退しようと思っていた。

 なぜならアルシェは魔導王から受けた恩をまだ返せていないから。

 帝都にいた頃。“フォーサイト”としてモモン(魔導王)に助けられた時の恩はカルネ村での働きで恩返しは済んでいると考えて良いかもしれない。

 だけどアルシェ個人としては妹たちを助けてもらった恩が未だに残っている。ずっとそう思って過ごしてきた。

 今回の学園の件で、その恩返しが出来るかもしれないのだ。その上褒美までもらおうなんて、自分はそこまで図太くない。

 妹たちのために何か褒美でもと考えてみても、二人が成人するまでの生活費は十分過ぎるほどに貯金してある。この貯金自体もモモン(魔導王)のおかげで手元にあるのだから、何かを望むべきではないし、望めない。

 多分、陛下にとってはこちらを助けた、なんて意識はないのだろう。強大な力を持つがゆえに大したことをしたつもりもないのだろう。

 

(――――それでも、私にとっては……)

 

 感謝しかない。

 とても重圧のかかる仕事だが、全力でやり切ると心の中で気合を入れて、王城をあとにする。

 

 

 

 

 

 

「……へえ、これがその学園の見本な訳ね。すごいわね。こんなマジックアイテム見た事ないわ」

「――――正確にはマジックアイテムではないみたい。名前はまだ確定した訳ではないそうだけど『ナザリック学園』って表示されてる」 

 

 アルシェの家で、イミーナが水晶から浮かびあがる映像を見て興味深そうに聞いてくる。

 

「……で、アルシェが今やってるのはこれを元にした設計図の作成なのね」

「――――うん」

 

 建築の知識が全くないアルシェは、紹介されたドワーフから建築の基礎を教えてもらっていた。

 それでも素人であるのに変わりはないので、仮の設計図が出来たら建築のプロに渡してちゃんとしたものにしてもらう予定だ。

 この仕事に期限は設けられていない。

 それでも出来るだけ早い方が良いだろうと思って、イミーナに協力してもらうために家に呼んでいた。

 クーデリカとウレイリカは二階で絵本を読んでいる。

 

「見かけないデザインだけど素敵な感じ。これをデザインした人はセンスあるわね。この校庭のひと際大きい木なんて存在感あるわね」

「――――確かそれは『伝説の樹』という名前が付けられている。卒業式の日に、この樹の下で女の子からの告白で成立したカップルは永遠に幸せになれる、って備考に書いてある」

「なにそれ素敵な話じゃない! それじゃあ、この校舎のてっぺんにある立派な鐘もなんか曰くがあるの?」

「――――それは『伝説の鐘』。本当は壊れてて鳴らないけど、卒業式の日に低確率で何故か鳴るみたい。その時に、女の子からの告白で成立したカップルが鐘の祝福を受けると――――」

「「永遠に幸せになれる」」

 

 イミーナが言葉を被せてきてハモる。

 なんだかおかしくなってしまって、二人で笑いあう。 

 

「よく分かんないけどロマン溢れる話じゃない。いくつか手直しが必要って言ってたけど、そんな必要あるの? 校舎とか運動場とかも、問題なんてなさそうに見えるんだけど」

 

 イミーナの意見は尤もであるが間違っている。それを示すように首を横に振る。

 パッと見ではとても素晴らしい学び舎のように見えるが、実は問題大有りな個所がいくつかあった。浮かんでいる映像の、その一つを指差す。

 

「何ここ? げっ、ここって泳ぐ所じゃない。そんなのまであるの?」 

 

 『プール』と呼ばれる施設がある。

 イミーナが難色を示したのは彼女が泳ぐのが嫌いだからだった。

 イミーナは過去に水辺でモンスターに襲われ酷い目にあわされたことがあったそうだ。

 『非常に浮かびやすく、溺れにくい』というタレントを持っており、それを過信して溺れて死にかけたことがあってから水場を極端に嫌っていると聞いていた。

 溺れにくい(・・・)であって溺れないわけではないので、彼女は自身の中途半端なタレントを非常に嫌っていた。これじゃない方がマシだと。

 

「――――そこじゃない。その横のシャワールームの隣の空間の壁をよく見て」

「ん~……なんか小さい穴が空いてたりするわね……って、これってひょっとしてのぞき穴!?」

「――――多分。もしかしたら設計ミスかもしれないけど、他にも用途不明の小部屋がいくつもある。小部屋の隣には決まって女子更衣室とか女性専用のものがある。陛下もこのあたりのことを危惧されていた」

「えっと、これを設計したのって……」

「――――陛下の昔のお仲間が遊び半分で作ったと聞いた」

「遊び半分なんだ……ま、まぁ変な所さえ直せばすごく良いものになりそうね」

 

 広い運動場は魔法実技だけでなく、騎士や冒険者を目指す生徒の練習場にもなる。

 魔法を使うにはどうしても素質が必要になり、それは誰もが持っているものではない。

 主に魔法を学ぶ場としても、全員が魔法使いになる訳ではない。

 どのような職にも繋がるような施設が望ましい。

 

 巨大な『体育館』という施設は、天候が悪い日などでも身体を動かすことに最適だ。

 『プール』があれば、水を使った訓練から、生徒同士のレクリエーションにも使える。

 イミーナの言う通りおかしなものを除いていけば、帝国魔法学院をも超えるものになるだろう。

 そのおかしなものを探して修正していくのは中々に大変な作業になりそうだから、イミーナに協力を頼んだのだった。

 

 陛下の期待を裏切る訳にはいかない。

 アルシェは不審なものがないか、目を皿のようにして作業を進める。

 

 

 

 

 

 その頃のアインズは、王城の執務室で物思いに耽っていた。

 ナザリック地下大墳墓内で、偶然にも『ナザリック学園』のデータクリスタルを発見した時は懐かしさを覚えた。

 かつての仲間、ペロロンチーノとスーラータンが学園ラブコメがやりたくて作っていた話が思い起こされる。

 ならば仲間がやろうとしていたことを、この世界で実現させてやろうと思ったのだ。

 

「でも、ある程度の修正は許して下さいね」

 

 アインズもデータの中身を確認した時に、欲望全開の空間には当然気付いていた。

 現実となった世界であれをそのまま再現する訳にはいかない。アインズが自分で修正しようとも考えたが、この世界に合うようにマッチさせるには適任者にやってもらった方が断然良いものが出来上がるだろう。素人のアインズが変にいじるより、最初から適任者に任せた方が賢い選択だ。

 大幅な変更はあまりしないで、出来る限り元の状態を保って欲しいとアルシェには伝えている。

 学園名も、まだ見ぬプレイヤーの事を考えればナザリックの名を前面に出さない方が良いかもしれない。

 

「そうなると……『魔導学園』とかにすれば良いのか」

 

 どんなものが完成するのか、アインズはちょっとワクワクしていた。

 

「学園…………青春か…………完成したら俺もお忍びで入ってみようかな」

 

 やってみたい気もするが立場というものがある。それが土台無理なことも、アインズは理解していた。 

 

 

 




嘘予告 

「初めまして。南方から来たサトル・スズーキです。魔法は超位魔法を含め718個使えます。頭は凡人だけどよろしく」

 超位魔法ドーン!

「俺、何かやっちゃいました?」

次回 常識欠如系主人公
そこんとこ、よろしく。

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