照らされざる君に   作:山石 悠

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8/2(木) 「新しい誘い」

 駅前でスマホを見つめながら、額の汗をぬぐった。

 

 昨日から八月になり、気温は30度に達しようとしている。駅前の往来は夏休みの遠出や街で遊ぶ人達が多く、人口密度によってさらに温度と湿度が高くなっていた。

 

「もうすぐ時間か……」

 

 今日は、前に柴田に勧めてもらったプロの人と会う予定だ。直接連絡を取って、9時に駅前集合ということになっている。後10分ほどだけど、少しずつ心臓が高鳴っているのを感じる。

 

 手持無沙汰にスマホを開くと、最後に見ていたメッセージアプリでのやり取りが表示された。僕と大和さんと葛西さん、裏方のまとめ役三人のグループだ。

 昨日と一昨日は大和さんが休みだったので、その時の活動の内容についての報告。そして、今日は僕と大和さんの二人がいないこともあり、今日の活動内容についての相談を行っていた。

 

 今日の活動はウェザリングの最終調整と衣装合わせにすることになったので、役者の衣装を着た写真が随時送られてくる予定だ。現に、既にノリノリで衣装を着ている瀬田さんの写真が上げられていて思わず笑ってしまう。

 去年の大会で見た王子の衣装も映えていたけれど、今回のような今どきのオシャレな女子大生っぽい格好も似合っている。本当に役柄の広い人だ。

 

 衣装について簡単に意見を送ったことろで、プロの方からメッセージが飛んでくる。

 どうやら、駅前に到着したらしい。

 

「どこだろ」

 

 顔を上げて周囲を伺う。

 すると、少し離れた位置から二十代くらいの若い男性がこちらに近づいてきた。話で聞いていた見た目に合っているし、この人だろう。

 

「山科遥君、だよね?」

「はい、青蘭高校演劇部2年の山科遥です。原田さん、ですか?」

「うん。劇団ファンタジアの原田(はらだ)(しゅん)です。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 自己紹介をして頭を下げると、原田さんが「そんなにかしこまらなくてもいいよ」と笑った。

 

「今日は、本番でやる会場の下見を兼ねた練習があってね。立ち話してるのもなんだし、早く行こうか」

「お願いします」

 

 

 

 

 

 原田さんに案内されたのは、駅から近いところにある劇場だった。客としては来たことあるけれど、裏方として来たことはないので裏側がどうなっているのかは全く知らない。

 客席側から入ってみると、あちこちで演技の練習や照明を指さして打ち合わせをしている人達の姿が見える。

 

 きょろきょろと見ていると原田さんが動き出したので、その後ろをついていく。

 原田さんが向かっていたのは、客席の前方で役者の方をじっと見ている男性だった。

 

「宮川さん、話してた子連れてきましたよ」

「ん? ああ、君か」

「青蘭高校演劇部2年の山科遥です。今日は、よろしくお願いします!」

 

 原田さんが挨拶したところで誰かを悟り、全身が震える。

 この人が、あの宮川タカユキさん本人なのだ。

 

「劇団ファンタジアで演出やってる宮川だ。こうやって、若者が見学に来てくれるのは歓迎だ。今日は、思う存分吸収していってくれ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 宮川さんは軽く僕の肩を叩いて激励してくれると、視線を原田さんに移した。

 

「原田君は案内が終わったら、練習に戻ってくれ。君のシーンは飛ばしてるが、少し気になってるところがあるんだ」

「わかりました」

 

 原田さんが宮川さんと軽く言葉を交わすと「こっちだよ」と僕を促した。

 

「あの、原田さんも舞台に立つんですか?」

「ん? ああ、そもそも俺は役者だからね」

「え、役者なんですか?」

 

 柴田は裏方の人、と言っていたはずだけれど。

 

「俺は裏方も役者もどっちもやってるんだ。劇団ファンタジアでは役者をやってるけど、状況によっては裏の仕事もやってる。……こう言ったらあれだけど、役者だけで生きていけるほど上手いってわけでもなくてね」

「なるほど」

 

 原田さんに案内されて下手から舞台袖に入る。舞台袖には特に物もなく、広いスペースになっていた。隅では担当らしき人が機構の操作盤をいじっているのが見える。

 

「そういえば、山科君は将来こういう進路を考えているのかい?」

「進路ですか? ……いえ、まだそういうのはさっぱりという感じで」

 

 将来の夢というのがあるわけではない。

 なんとなく、裏方の仕事ができると楽しいなと思うことはあるけれど、だからといって詳しく調べているかというとそういうわけでもない。

 

「機材の知識は最低限動かす程度でしかないんです。そもそも、どうやってプロになるのかも知らないですし」

「なるほどね。じゃあ、機材の話もだけど、そういった方向の話もしていこうか」

「ありがとうございます」

 

 袖のところにある階段を上がって、上の階の扉をくぐる。一般の客ではなく、完全に裏方でなければ通らない通路に入った。

 

「基本的に、プロの舞台で機材を動かすようになりたいっていうのなら、劇場とかに就職することになると思う。資格等は強要されてないけど、あるといいよね」

「資格があるんですか?」

 

 それすらも調べたことはなかった。

 でも、確かにありそうなものではある。

 

「うん。いくつかあるけど、山科君はどの方面がいいの?」

「方面、ですか?」

「あー……照明? 音響?」

「照明ですかね。スポットライトを動かすのが好きで」

 

 音響も好きだけど、どうしてもスポットライトを動かすあの快感に比べると劣ってしまう。

 それに、僕はあまり耳がいい方ではないので、音の違いがいまいちピンとこない。

 

「いくつか資格があるんだ。照明はほとんど民間の資格が多いかな。でも、国家資格の一部を持ってても面白いかもね。詳しいところは、後でまた説明しよう。口頭じゃ分かりにくいだろうし」

「お願いします」

 

 通路を進み、さらに階を上がっていく。

 ここまでくると、行先がどこかなんて考えるまでもなかった。

 

「あの、この先って……」

「想像通りの場所だと思うよ」

 

 原田さんはそう言って、通路の奥にあった扉に鍵を差す。

 

 階段を上った回数的に、既に劇場の天井付近まで登っていることは想像に難くなかった。こんな場所にある設備なんて一つしか思いつかない。

 この先にあるのは、間違いなくスポットライトだ。

 

「この先だよ」

 

 原田さんが扉を開け、その中に足を踏み入れた。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 思わず、息をのんだ。

 

「ここの景色、初めて見るとびっくりするよね」

 

 原田さんの言葉に肯定する余裕すらなかった。

 

 そこは、空調用の大きなパイプが通っている部屋だった。

 ……いや、床と呼べる場所はないので、部屋というよりはただの空間だろう。

 

 壁紙等もなく、壁や天井は鉄筋コンクリートがむき出しのままにされている。本当に機能を果たすこと以外は何も考えていない作りだ。

 足場としてあるのは、パイプの間を縫うようにして設置されている少し錆びた通路。メッシュの足場と形式的につけられた手すりだけがあり、触れれば手に赤さびが付いた。

 

「すごい……」

 

 手についた錆を落としながら、空調の唸り声を聞く。足元を見ればメッシュの下には何もなく、眼下のパイプの隙間から僅かに床が見えた。高さ的に、二階分はあるだろう。

 

 どこから吹いているのかも分からない冷たい風に吹かれながら、僕は胸の高鳴りを感じていた。

 

 普段は決して見ることができないような劇場の裏側を見ている実感がわいてくる。

 劇場という非日常的な空間に足を踏み入れるだけでもドキドキが止まらないが、ここはさらに非日常を感じさせた。これからどんな景色を見るのか想像もできず、これから起こることが楽しみで仕方なくなってくる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 原田さんの後ろを付いていく。

 パイプをよけるような通路を通りながら歩いていくと、少し小さな扉の前についた。

 

「着いたよ」

 

 扉をくぐって中に入ると、そこは先ほどと違って絨毯の床になっていた。照明はなく、このスペース自体は暗い。しかし、正面にある窓から入る舞台の明かりが、唯一の光源として機能していた。

 

 ここは、舞台の最上層。

 観客も、演者も、何もかもを眼下にし、そのすべてを照らしだす場所だ。

 

 

 

 

 

 僕が普段好んでいるスポットライトは、フォローピンスポットライトと呼ばれる種類のものだ。

 いわゆる世間一般にイメージする“スポットライト”がこれであり、舞台の一点を照らして観客の注意を向けさせるのに使う。

 

 基本的に一点を照らすことしかできないわけだが、一点の大きさや明るさを調整したり、色を付けたり、舞台中を動き回ったりと、様々な機能が存在している。

 シンプルに見えて、その実はとても奥が深い。

 

「使い方は大丈夫?」

「はい。分かります」

 

 大まかな見た目やスイッチの位置等は僕が普段使っているものと同じだった。でも、青蘭にあるものよりもはるかに機能が充実している。

 用意されていた座席について、目の前にあるスコープを覗いた。スナイパーのような照準の向こうでは、舞台上の役者さん達が演技している姿が映る。

 

「柴田君から山科君のライトワークはいいって聞いてたから、気になってたんだよね」

「いや、僕のなんて……」

 

 褒められたことにむずがゆくなりながら、右手は後方の取っ手に、左手は前方に用意されたレバーに添える。

 

 前方に用意されたレバーは二つ。範囲の調整レバーと光量の調整レバーだ。いつもは範囲調整しかできなかったこともあり、少しだけ慣れない。

 前回の大会でも二つのレバーを間違えて操作しそうになったことがあったので、より一層気を引き締める必要がある。

 

「……へぇ」

 

 自分の中での感覚を理解するために、光量レバーと範囲レバーの二つをそれぞれゆっくりと開いた。

 

 範囲レバーは徐々に照らされる範囲が増えるので、ある一点を起点として周囲が明るくなる。

 一方で光量レバーでは、特定の範囲が徐々に明るくなっていく。

 

 微妙な違いに見える二者ではあるけれど、演出面で見ると大きな違いに感じられた。

 

「光量の方はフェードインに使いやすそうですね」

「フェードインで?」

「はい。スポットは基本的にカットインになるので、こっちの範囲を絞るレバーの方がいいと思うんです。小さな一点から広がっていく様子や、最初から光量が最大なのも、スポットライトのカットインとして便利そうだな、と」

 

 原田さんが聞き役に徹してくれるから、普段は触れない機材を触ることができる興奮も相まって口がよく回った。

 

「一方で、フェードでライトを付けたり…………いや、ピンスポならフェードアウトで消す方が綺麗かもしれないですね。徐々に、明かりが落ちて暗転していくような感じで」

 

 カットで照明を入れ切りするのは、観客の意識を切り替えるようなスイッチの役割がある。

 カットインでスポットを入れれば観客の意識はライトへ向き、カットアウトすれば意識が途切れて再び舞台全体へと意識が向かう。

 

 シーンの勢いを感じさせるタイミングではカットというのは便利だが、ゆったりとした空気感や余韻を残すような演出には向いていない。代わりに、カットには向かない演出を行うのに向いているのがフェードだ。

 フェードは観客の意識をゆっくりと一点に向けさせることができたり、逆に意識を切らせることなく次の場面に移すことができる。

 

 スポットライトを使ったキャラの独白シーンで、カットアウトすれば転がるように場面が移り変わっていくだろうし、フェードアウトすれば事態は水面下で静かに行われていることを印象付けることができる。

 

「だから、光量と範囲の二つが調整できるのって、やっぱり大事なんだなって思いますよ」

 

 もちろん、他の照明との兼ね合いも考えた光量にする、みたいに普通に利用する際にも便利だと思う。

 

 レバーが一つ増えるだけで、演出方法は二倍にも三倍にも増えていくのだ。

 

「楽しそうだね、山科君」

「え、あっ! すみません、はしゃぎすぎてしまって……」

「いやいや、気にしないでいいよ」

 

 原田さんは面白そうに笑った。

 

「演劇っていう世界は、どうしても役者が目立って、裏方にスポットライトが当たることはない。当たり前だよね、観客の前に立つのは彼らだけなんだから」

 

 それは、裏方である僕達が少なからず抱いている気持ちだ。

 

「裏方っていうのは、どうしても褒められない。普通は役者の演技に目が向いて、俺らの仕事はあまり目立つことがない」

 

 タイミングがいいのは、演出家の腕がいいから。舞台が映えるのは、役者の腕がいいから。

 でも、上手くいかないのは、僕達がミスをしたからだ。それは裏方として一生付き合っていく宿命みたいなものでもあるかもしれない。

 

 

 ――観客は、裏方を評価しない。

 

 

「でも、それが僕達ですもんね」

 

 そうだ。

 

 僕達は評価されないと少し寂しい表情を浮かべたところで、結局はこの仕事が好きなんだ。

 この大きな舞台という機構を動かす技術者として、観客を夢へと運ぶ案内人として、僕達はこの仕事に確かな喜びと誇りを抱いている。

 

「山科君。俺が役者と裏方を両方やっているのは、二つの視点があって初めて見える姿があると思ったからなんだ」

「二つの視点?」

「そう」

 

 原田さんは眼下にある舞台を見つめていた。

 僕の視線も、それにつられて舞台へと降りていく。

 

「役者の立場から見える舞台。裏方の立場から見える舞台。その二つの視点があれば、もっとすごいことができるんじゃないかって思ってるんだ」

「もしかして、原田さん……」

「ああ。俺はね、本当は演出家になりたいんだよ」

 

 この人は、表も裏もすべてを知り尽くして、その先に見えてくる新しい視点(ステージ)を目指しているんだ。

 

「ここまで話していて、山科君の熱量はすごく感じてた。柴田君と初めて会った時もそうだったけど、若い層の熱量っていうのはとんでもないよね」

「柴田はともかく、僕はただ気持ちが先走ってるだけですよ」

「そりゃそうだよ。最初は誰もが気持ちから先走るものさ。技術なんていうものは、心の熱があれば後からどれだけでもついてくるものだ」

 

 原田さんが僕の方を向いた。

 

「俺はいつか、自分の劇団を持ちたいと思ってる。実は今、その足場づくりをするために頑張っているんだよ」

 

 次に来るであろう言葉が、不意に僕の脳裏をよぎった。

 

「山科君の熱量はまさしく本物だ。君はまだあまり自覚がないかもしれないし、初めてすぐ故の熱かもしれない。でも、俺はその情熱を信じたい」

「原田さん……」

「もし、劇団を作って舞台をやりたいといった時、ぜひとも君に来てほしい」

 

 これがどこまで本気なのか、全く見当がつかなかった。

 ただ粉をかけているだけなのか、本気で僕を誘ってくれているのか、僕にはその違いを見極めるだけの余裕もなかった。

 

「別に、すぐに答えをくれなくてもいい。人の人生を左右するような言葉だってことは、俺が一番分かっている」

 

 原田さんは名刺を取り出して何かを書きつけた。

 

「後で資格や進学に関すること、教えられるだけ教えるよ。分からないことがあったら、いつでも俺に連絡してくれていい」

「……ありがとう、ございます」

 

 名刺を受け取って、目を通す。

 裏面に目を向ければ、そこには先ほど書いていたのであろう別の連絡先があった。

 

「その連絡先は、今の俺の夢に関することで使ってるやつだよ。もし君が一緒にやってくれるというのなら、その時はその連絡先にメッセージを送ってほしい」

「は、はい……」

 

 演出家になりたい? 情熱を信じたい?

 

 原田さんの言葉があまりにも僕の予想を裏切りすぎていて、正常に飲み込めている自信がなかった。

 

「いきなりこんな話してごめんね。でも、スポットライトを楽しそうに使っている山科君を見てると、どうしても抑えきれなくてね」

「いえ、それは、全然……」

 

 むしろ、高校生になってから機材を触り始めたこんな素人に対して、ここまでの言葉をくれたことの方が嬉しかった。

 今までの公演で僕の技術を褒められるという機会はあまり多くなかっただけで、こうした直接的な言葉が余計に心に響いていた。

 

 原田さんは「良かった……」と胸をなでおろすしぐさを見せると、席から立ちあがる。

 

「一度、下に降りようか。俺も宮川さんに呼ばれてるし。この後は自由に見て回ってもいいと言われているから、音響や照明卓の方も含め、好きに楽しんでいってくれ」

「あ、はい」

 

 原田さんの言葉にうなずき、僕も座席から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 客席の方に降りると、宮川さんの傍に僕と同い年くらいの女の子がいるのが見えた。先ほどまではいなかったので、僕達が下りている間に来た人なのだろう。彼女も劇団の人だろうか。

 

 原田さんは、その女の子に気が付くと軽く手を挙げた。

 

「あれ、千聖ちゃんじゃないか。いらっしゃい」

「原田さん、ご無沙汰してます」

「今日はどうしたの?」

「いえ、こちらで練習しているというお話を聞いたので、挨拶に来たんです。宮川さんには舞台に来ないかと誘っていただいたものですから」

 

 チサトちゃん、という彼女はどうやら外部の人らしい。だが、まとっている雰囲気からして演劇業界に身を置いている人であるのは察しがついた。

 どこかで見たことあるような気もするけれど、それこそどこかの舞台で見たことがあるのかもしれない。

 

「それで……原田さん。そちらの彼は?」

 

 チサトちゃん、が僕の方に視線を向けた。

 

「彼は裏方の方の見学に来ている子で、山科君だよ」

「初めまして。山科遥といいます」

 

 軽く頭を下げると、彼女も改まって僕の方に向き直ってくれた。

 

「山科さんですね。初めまして、白鷺千聖です。宮川さんや原田さんとは、前に舞台で一緒にやらせてもらったことがあるんです」

「なるほど、演者の方なんですね」

「え?」

 

 役者であることを確信すると同時に、原田さんの方から意外そうな声が聞こえてきた。

 

「あの、山科君。彼女のこと知らない?」

「え? すみません、今パッと出てこなくて。出演作品と役を聞けば思い出せるかも……」

 

 原田さんに言われて恥ずかしくなってくる。

 そんなに有名な役者だったとは全く知らなかった。僕が見てる作品に出ていたのだろうか。

 

「いやいや、そういうことじゃなくて」

「……どういうことです?」

 

 雲行きがおかしくなってきた。

 

「だって、千聖ちゃんって言えば、山科君の世代からすれば大人気ガールズアイドルバンド、pastel*Palletsのメンバーじゃないか」

「……え?」

 

 思考が停止した。

 表情が引きつっているのを理解しながら、白鷺さんの方に視線を向ける。

 

「……いつも、麻弥ちゃんがお世話になっています」

「は、はあ……」

 

 いつだったかに演劇部で話していた内容が脳裏をよぎった。

 あれは確か――

 

「元子役でしっかり者なベースで、瀬田さんの幼馴染な、千聖さん……?」

「知ってくれているみたいで嬉しいわ」

 

 白鷺さんは少し僕に近づいた。

 

「少し早いけど、お昼でもどうかしら? ここの劇場のカフェ、ランチメニューがお勧めなんだけど」

「え、えっと……」

「麻弥ちゃんからも聞いていたから、少しお話ししてみたかったのだけれど」

「は、はい……」

 

 なぜか、逃げられる気がしなかった。




今回は、物語最初のターニングポイントにしていたプロとの出会いでした。
本作は山科君の一人称視点ということもありまして、山科君の実際のところの技術レベルについては分かりにくくなっているかと思います。今までは意図的に分かりにくくしてた部分もありますが、彼のスペックは初心者にしては伸びがいい有望株・期待の新人、くらいの技術として書いてます。

劇場の中を歩いてスポットライトのある部屋まで移動する経路は、僕が初めて行った劇場のルートを参考にしています。あの興奮は普段の6500字程度では収まらなかったので、7500字まで伸びてしまいました。これでも抑えた方なんや……。

ちなみに、宮川タカユキさんはオリキャラじゃないです。
詳しく知りたい人は「つぼみ開く時」のイベストを読もうね!!
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