照らされざる君に   作:山石 悠

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7/28(土) 「確信したこと」

 大和さんに連れられて部屋を出る。そこからしばらく移動すると、給水器やベンチのあるスペースが見えた。ちょっとした休憩スペースらしい。

 そこには、台本を見ながら話をしている高橋と新藤さんが見える。

 

「この役をこの人に任せて、こっちはこんな感じで……。どう思う?」

「悪くないと思うけど、私としてはこっちの組み合わせの方がいいと思うの。この二人は絡む場面が多いから、この二人ってきっと相性がいいんじゃないかと思うし」

「なるほど」

 

 現在は配役について相談しているようで、僕達が傍に来ていることにも気が付いていない様子だった。高橋の真面目な姿は幾度も見てきたけれど、いつも笑顔が絶えない新藤さんが真剣な表情をしているのは初めて見た。

 僕と大和さんは、しばらく立ち尽くしてから顔を見合わせる。

 

「……声かけていいんでしょうか?」

 

 小声で大和さんに尋ねる。

 話の腰を折るよりは切りのいいタイミングを見計らいたいと思うけれど、チラッと見える高橋の台本には配役がほとんど記入されていない。まだ確定していない証拠だ。

 

「一応、状況だけ聞いておきましょうか」

「そうですね」

 

 僕は頷いてから高橋の肩を叩いた。

 

「高橋」

「ん? うわっ!? 山科!?」

「え!? え、遥君に麻弥ちゃん!? いつから!?」

「ついさっきから、かな」

 

 リアクションの大きな二人を前に苦笑する。

 僕は台本を軽く持ち直しながら、表紙に書かれた配役欄を指した。

 

「それで、今はどんな感じ?」

「オーディションが終わって、今は話し合い中だな。たぶん、もう少しで終わると思う」

「大方は決まってるから。三十分以内に終わるとは思うな」

「分かりました。配役が決まったら教えてください」

「うん。……あ、みんなにもそう伝えておいてくれる?」

「はい、伝えておきますね」

「ありがと~」

 

 新藤さんの言伝を聞いてから、部室に戻る。

 後三十分くらいで終わるといっていたけれど、それで終わる気がしない。だけど、別に今日いっぱい使うほどでもなかったみたいだし、そこまで心配することはないだろう。

 

「とりあえず、部屋に戻って役者の皆に声かけましょうか」

「そうですね。役者側は二人の様子見に行けないでしょうし」

 

 オーディション受けてる人がその相談を聞いちゃうのは、なんとなくまずい気がする。

 後方から聞こえる話し合いの声が遠のくのを感じながら、僕達は部室に戻った。

 

 

 

 部室に戻ると、柴田が僕の方にやってきた。

 

「高橋のとこ行ってたんだろ? 後どれくらいかかるって?」

「三十分。でも、もうちょっとかかるような予感がしてる」

「そうか」

 

 それだけ伝えると、「話は変わるが」と柴田がスマホを出した。

 

「劇団の人紹介するって話しただろ?」

「え? ああ、うん」

 

 柴田の知り合いの裏方の人に、プロの裏方の人達の様子を見せてもらうって話だ。

 

「今、ちょうど劇団ファンタジアの宮川タカユキさんがやってる舞台に関わってるらしくて」

「え? 宮川タカユキさんって、演出家の?」

 

 宮川タカユキといえば、数々の舞台を手掛けてきた人物だ。

 僕も柴田と一緒に見に行ったことがある。普段は照明等にしか目がいかない僕ですら、あのときはそんなことを考える余裕もない程に舞台にくぎ付けにされていた。

 

「そうだ。今忙しい時期だけど、一日だけ見学ってことで予定が開けられるらしくて。8月2日だから……来週の木曜だが大丈夫か?」

「うん、強いて言えばこれの準備だけど……」

 

 と言葉を継いで大和さんの方を見ると、大和さんは「大丈夫ですよ!」と頷いた。

 

「一日くらいなら全然問題ないですし、あの宮川タカユキさんの舞台で裏方やるような方のお話なら、きっと身になると思います! なんなら、ジブンが行きたいくらいです!」

 

 大和さんが羨ましいと尊敬が同時にこもった表情をしているので、僕は柴田を見た。

 

「ねえ、柴田」

「ん? 大丈夫だぞ。一人も二人も変わらん」

 

 何も言ってないが、用件は伝わったらしい。

 

「それで、あんたも行けると思うが、来るか?」

「え? あー、ジブンはその日パスパレの活動で行けないんです。本当に残念ですが……」

 

 先ほどの興奮した表情とは一転、表情を暗くして肩を落とす。

 

「まあ、ジブンのことはお気になさらず。山科君は行ってきていいと思います。今の進捗状況なら、二人が欠けても十分仕事は回ると思いますし」

「そうですか? ……じゃあ、柴田、頼んでいいかな?」

「そう伝えておく」

 

 柴田がメッセージを打ち始める。

 横では「そういえば」と大和さんが呟いた。

 

「宮川タカユキさんといえば、千聖さんが舞台に出てた時の方でしたね」

「千聖さんって、パスパレのメンバーの人っていう? 舞台にも出てたんですね」

「千聖さんはもともと子役で芸能界に入って、音楽はパスパレが初めてだったはずです」

「へぇ」

 

 確か、モデルをしていた子もいると言っていたし、パスパレというグループの活動範囲は広いのかもしれない。

 

「ジブンも千聖さんが出るということで見学させてもらったことがあるのですが、やはりプロの舞台は作りこみが全然違いますね。ジブンも頑張っていたつもりでしたが、まだまだ未熟だなと感じました」

「そんなにですか……」

 

 普段は客席側から見ているだけだから分からないこと、というのはある。

 そういった、普段は見えない部分を知ることができるのは貴重な機会だ。

 

「……なあ、今、千聖って言ったか?」

「え? ああ、はい」

 

 メッセージを打っていた柴田が、大和さんの方を見ていた。

 

「それって、あの白鷺千聖? 知り合いなのか?」

「はい。Pastel*Palettesというバンドのメンバーで」

「ああ、そういえば白鷺千聖がバンドを始めたというのは知ってたが……」

「おや、千聖の話をしているのかい?」

「ん? なんだ、お前も知ってるのか、瀬田」

 

 柴田の後ろから声をかけてきたのは瀬田さんだった。

 

「千聖は私の幼馴染さ。……と、克之」

「どうした?」

「あの二人が熱く語らっているのなら、私達はダンスでもどうかと思ってね」

「普通に練習しようって言ったらいいだろ」

 

 疲れたように柴田がツッコミを入れると、こちらに振り向いた。

 

「まあ、連絡はしておいたからまた追って連絡する。……山科の連絡先教えてていいか?」

「いいよ」

「分かった。直接来るかもしれんから、そのつもりで」

「ありがとう」

「気にすんな」

 

 柴田が瀬田さんの肩を叩いて「いくぞ」と声をかけて役者達の輪の中に戻っていく。

 いつもはあんまり人と関わるのが得意ではない方だけれど、様子を見ている感じだと心配する必要はなさそうだった。柴田も柴田なりにやっているのだろう。

 

「山科君、宮川タカユキさんの舞台を見学しに行くなんて、すごいですね」

「そうですね。柴田には感謝しなきゃ」

 

 有名な演出家の舞台の裏方を見せてもらえるなんて凄く嬉しい。鼓動がいつもより早くなっているのが、手を当てなくても分かった。

 少し落ち着くために、胸に手を当てて軽く深呼吸をした。

 

「…………うん」

 

 後、一週間も待っていられないかもしれない。

 

 

 

 その後、役者が決まったのは僕達が予想していた通り一時間後だった。高橋と新藤さんが申し訳ないと謝っていたが、納得いく結果になったのならそれでよかっただろう。

 葛西さんが確認していたCDについても、インターネットにあるフリー素材だったため、今回の使用に関しても問題なかった。

 

 役者が決まって時刻は4時を過ぎ、キリがいいタイミングだったのもあって今日は解散、ということになった。

 オーディションに落ち、裏方になった人達との顔合わせも行えたので今日の成果としては十分ではないかと思う。

 

「疲れた……」

 

 リビングにあるソファに沈みながら、ぼうっと天井を眺めた。

 

 今日から活動が始まり、初日にもかかわらず忙しなく動いていた。きっと、これからもあれこれと忙しく動き回ることになるのだろう。

 そうなれば、疲労は今日の比ではないはずだ。一応、裏方の責任者みたいなものだから、他の人にも目を配らないといけないだろうし。

 

「でも、きっと大丈夫」

 

 少しめげてしまいそうな心に、そっと言い聞かせる。

 昨日までの僕ならダメだったかもしれないけれど、今の僕には大和さんの言葉が残っているから。

 

「皆で頑張れば、きっとうまくいく」

 

 僕は、僕のできる努力をすればいい。

 僕ができるすべての力を以ってこの舞台で出来ることをすればいいはずだ。

 

 体勢を変えず、ポケットからスマホを取り出した。開いたメッセージアプリには「大和麻弥」の名前が表示される。

 これから連絡する機会が多くなるだろうからということで連絡先を交換したのだ。

 

「……よろしくお願いします、とか送った方がいいのかな」

 

 連絡先を聞いたタイミングからずっと考えているけれど、7時を過ぎた今になってもメッセージは送れていない。

 入力欄に『これからよろしくお願いします』とか『お疲れ様でした』とか『明日も頑張りましょう』とか『ご機嫌麗しゅう』とか、いろんなメッセージを入力しては消す作業を繰り返す。

 

「あー、もう分かんない。送らない方がいいかなぁ……」

 

 結局、メッセージを送るのを諦めて体を起こすと、兄さんが奇妙なものを見つけたようにこちらの様子をうかがっていた。

 

「…………」

「な、何?」

「さっきから変だぞ、お前」

「そ、そう?」

「ああ」

 

 兄さんはこちらを見たまま、リモコンを手に取って録画していたらしい番組を一度止めて返事をした。

 テレビでは銀髪の女の子が鍵盤を肩にかけてキーボードを演奏している姿が映っている。どこかで見たような気はするが、思い出せない。

 

「部活で何かあったわけ?」

「んー、まあ、ね」

 

 どう説明したらいいのかも分からないので適当に言葉を濁した。

 そもそも兄さんは青蘭卒だから女子と関わってる機会はほとんどない。下手に女子と一緒に部活することになった、なんて説明した日には締められそうな予感がする。

 

 兄さんが訝し気な顔で口を開くよりも早く、僕はテレビの女の子を指さした。

 

「ね、ねえ。その人って誰?」

「これか? イヴちゃんだよ。pastel*palletのキーボードの子で、武士道が好きなんだよ」

「武士道が好きな、イヴさん……?」

 

 それ、どっかで聞いた気がする。

 いつも「ブシドー!」って口癖にしてて、いろんな部活に入ってて、何でも全力で取り組んでいる凄い子が――

 

「――あ! パスパレだ!」

「なんだよ、知ってたのか」

「え、あ、いや、これは大和さんに教えてもらったからってだけで……」

 

 その瞬間、冷汗が伝った。

 兄さん相手に名前を出すのはまずい気がしてきた。

 

「大和さん?」

「あー……」

 

 跳ねるようにソファから立ち上がって、一瞬で兄さんとの距離を開ける。

 

「いや、本当に何でもなくって! ちょっと部活の人に教えてもらっただけだから別にそんな大したことがある話じゃなくて!」

 

 とりあえず言い訳を始める。

 だけど、兄さんは「嘘つけ!」と僕を指さした。

 

「お前、さん付けしてるってことは女子だろ! 女子と連絡とるので悩んでたんだろ! ……その、大和って女子と! ……大和?」

 

 兄さんはハッとした顔でリモコンを手に取って録画を再生し始めた。

 すると、テレビの中でドラムをたたいている短髪の女の子が登場した。眼鏡こそないものの、間違いなく大和さんだ。

 

「大和麻弥。やっぱり麻弥ちゃんの名前って大和だよな……。おまけに部活は演劇部、だったか」

「き、気のせいじゃない?」

「挙動不審になりながら否定しても、説得力ねぇよ」

「うっ……」

 

 全部見破られてる。

 これ以上の言い訳は思いつかず、僕は両手を挙げて降参の意を示した。言い逃れてもいいが、これまでの反応を見る限りどうしたって無理だろう。

 

「それで、本当に麻弥ちゃんと知り合ったのか?」

「演劇部の活動でたまたま知り合いになって……」

 

 あんまり聞かないでよ、と少しにらみを付ける。兄さんも視線の意味を理解したのか「落ち着けって」と苦笑しながら僕をなだめてきた。

 アイドルオタクとして過激な姿をよく知っているから、我が兄ながらあまり信用ならない。

 

「とりあえず、難しいことは言わん」

「いや、いきなり何を頼もうとしてるのさ」

「何言ってんだ! 弟が推しのアイドルと知り合いになったんだぞ! このチャンスを逃す理由があるのか? いや、ねぇよ!」

「う、うるさい」

「まずは、サイン貰ってきてくれ! 頼む!」

「え、えぇ……?」

 

 「何でもするから!」と無駄にキレのある動き方で兄さんが頭を下げた。その姿はいつになく真剣で、大学受験の時よりも気合入ってるような気がする。

 ……でも、大和さんについて知るには兄さんに聞くのが一番早いはずで、それなら兄さんに恩を売っておくのも悪い話じゃないのかもしれない。

 

「じゃあ、代わりに、パスパレのことを教えてよ」

「それでいいのか?」

「僕は全然知らないし」

「おう、任せろ!」

 

 兄さんは再生していたビデオを終了して、DVDを出してきた。

 

「それは?」

「俺が集めた、パスパレのビデオだよ。特に麻弥ちゃんについて集めてる分」

「編集したの?」

「まあ、個人用なら大丈夫だしな。これのために動画編集の勉強したんだぜ?」

 

 自信満々に話しながら、DVDをセットしている。

 僅かに読み込む時間がかかってから、ドラムをたたく大和さんの姿が映った。

 

「麻弥ちゃんはパスパレのドラマーだ。もともとはスタジオミュージシャンをやっていて、ドラムの腕は贔屓目なしで一級品。スタッフからアイドルになった経緯は、シンデレラストーリーだって有名な話だな」

「それは本人も言ってた」

 

 兄さんの解説に合わせるように、テレビの向こうの大和さんがドラムパフォーマンスを行っている。いや、動画が合わせているんじゃなくて、兄さんが編集した内容を思い出しながら内容に合わせて喋っているだけだ。

 

「パスパレは演奏できるアイドルだけど、ベースはパスパレをきっかけに始めてる初心者、キーボードもブランクありだから、技術レベルの話をするとそんなにうまくない。最初の方はマジで俺の方がうまかったと思う」

「え、そんなのでいいの?」

「良くはないな。……まあ、初期はいろいろあったからなぁ。とりあえず、その辺は置いておこうか」

「う、うん」

 

 最初はそんなに大変だったんだろうか?

 

 そんなことを考えている間に、映像はドラムを叩いているシーン集からバラエティ番組に出ているものに変わっていた。

 

「テレビに出るようになったのは割と最近だな。デビュー自体もそんなに昔ってわけでもないし。むしろ、短期間でこんなに露出が増えたのは凄いよな」

「テレビにも出てたんだ……」

 

 僕の知っているはずの大和さんは表に立つのが得意そうではなかったから、こうして大勢の前でドラムの演奏をしている大和さんの姿は異様な光景に見えた。

 

「麻弥ちゃんはもともとスタジオミュージシャンだったり、本人が機材オタクを自称していることもあって、そういう連中向けの雑誌に出ることが多かったんだが、ある特番がきっかけでクイズ番組へのオファーが増えたな」

 

 映像が少し早送りされ、森の中を歩き回っている大和さんの映像に切り替わった。

 ナイフを持って果実を回収したり、本を片手に周りへ指示を出している。

 

「これは?」

「パスパレのメンバーが無人島でサバイバルをするっていう特番。この時の麻弥ちゃんは凄かったんだぜ? スタッフが用意してたミッションを、発表される前にクリアしていってさ」

「へぇ」

 

 しっかり者だとは思っていたけれど、そういった姿を見ることはなかったのであまりイメージができずにいる。

 しばらくドタバタ珍道中を経て、ピンク色の髪の女の子が大声で新曲の告知を叫ぼうとしたところで次の映像に切り替わった。

 今度はクイズ番組みたいだ。

 

「こっちはクイズ番組に出た時の。時事ネタはあんまり得意じゃなかったみたいだけど、雑学的な知識やパズル系の問題はサクサク解いてたよ」

 

 画面の向こうでは、さっき兄さんが話していたパスパレに所属する経緯の話をされ、恐縮している大和さんがいた。

 作業等で出てくる私服も可愛い系の物がないため、アイドルの衣装を着ている大和さんの姿に違和感を感じてしまう。

 

「普段の麻弥ちゃんってどんな感じなんだ? やっぱり、テレビで見たまんまだったりするのか?」

「うーん……」

 

 答えが、すぐに出てくることはなかった。

 

 そもそも僕と大和さんが出会ったのは一週間前だし、一緒に話している日数は二日しかない。僕は()()()()大和さんを語ることができるほど、彼女のことを知らないのだ。

 もしかすると、アイドルとして追いかけてきた兄さんの方がよっぽど大和さんのことを理解しているかもしれない。

 

「どうなんだろう……」

 

 僕が知っているのは、裏方が好きで、機材が好きで、ついつい熱くなり過ぎちゃって、舞台に一生懸命に頑張れる女の子、ということだけ。

 

 無意識にテレビを見つめれば、画面の向こうでは慌てながらもクイズに正解して胸をなでおろしている大和さんの姿が映っている。芸能人という縁遠い世界の人のはずなのに、画面の中での一挙一動がずっと目の前で見てきた大和さんの姿そのままだった。

 

「……あ」

 

 機材の話を振られて、勢いよくMCの人に語っている姿は、僕にパスパレのメンバーについて話している時とそっくりだった。

 練習風景でメンバーの演奏にアドバイスを送っているのは、裏方の責任者として話をしている時と同じだった。

 

 テレビの中にいるアイドルと、僕が知っている大和さんが徐々につながっていく。

 大勢の人の前でドラムを演奏している姿も、裏方として役者をより魅せる方法を考えている姿も、アイドルとしての可愛い服を着ているところも、制服で周囲に指示出しをしているところも。

 

 それに気が付いてしまえば、違和感はなくなっていた。

 

「……きっと、イメージ通りだよ」

 

 彼女は、アイドルで裏方の女の子だ。どっちかが彼女という訳でもなく、どっちもあって大和さんになるんだ。

 僕が知っていたのは裏方としての大和さんで、みんなが知っていたのがアイドルとしての大和さんだった、というだけ。

 

 僕はスマホを取り出してメッセージアプリを起動する。そして、『テレビに出ている姿、見ました』と、何も考えずにそれだけ送信した。

 すぐに既読の表示が出てきて、メッセージが追加された。

 

< やまとまや

今日

      
既読

22:43

テレビに出ている姿、見ました

そうなんですか? 22:44
      

何か出てましたっけ? 22:44
      

      
既読

22:45

兄さんがパスパレの出演番組をまとめてて

お兄さんが?ちょっと恥ずかしいですね 22:45
      

      
既読

22:45

クイズ番組とか、無人島のを見ました

……へんなところ、なかったですか? 22:46
      

Aa          

 

 大和さんの質問に一瞬詰まったが、僕はすぐにテキストボックスに文字を入力していく。

 

「これでよし」

 

 送信ボタンを押して、メッセージが表示された。

 ちゃんと既読が付いたのを確認したところで、兄さんがスマホを覗こうと近付いてきた。

 

「なんて送ったんだ?」

「秘密」

「なんだよ、麻弥ちゃんのこと教えてやっただろ?」

「それはサインでチャラだから」

 

 すぐに電源ボタンを押してロック状態にする。

 

「恥ずかしいから、絶対に教えない」

 

 手に持ったスマホがバイブレーションして、ロック画面に大和さんからのメッセージが表示された。

 兄さんにはバレないように内容を確認する。

 

「おい、にやけてるぞ」

「にやけてないし」

 

 澄ました表情を作ろうとするけど、多分兄さんが言った通り、今の僕は表情がにやけてしまっていると思う。

 だけど、今だけは許してほしい。

 

「教えてくれてありがと。サインの件は聞いておくから」

 

 兄さんにそれだけ言って自分の部屋へ逃げる。

 

 

 

 今の僕の大和さんへの気持ちがどういうものなのかは、僕にもよく分からない。

 

 恋と呼ぶにはきっと弱すぎるけど、ただの友人というにはいささか甘すぎた。

 これを“()()”と表現するのは間違いないかもしれないけれど、想い人なのかファンなのか仲間なのか、その区別がついていない。

 

 だけど、一つだけ確かに言えることは、

 

「ふ、ふへへ…………なんてね」

 

 これからも大和さんと一緒に舞台をやっていけることがたまらなく嬉しい、ということだけだ。




大和さんのイベントに「舞台裏のメソッド」というのがあります。
本作を気に入っていただけた方ならきっと好きになれるだろう、羽丘演劇部をメインにした裏方の物語です。

この話はイベントよりも前に投稿していまして、この作品の相違点が出てきてしまいました。ですが、特に設定に修正等はしないつもりです。もう遅いので……。
先に書こうとすると、こういうところで問題が出ちゃうんですよね。
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