Bloody Masquerade   作:ヤーナム製薬

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S.E.E.S

特別課外活動部(意味深)

今回は短いです。
あと急いで書いたので後日修正するかもしれません。
すマヌス・・・。(深淵の主並感)



5. S.E.E.S.

 あれから一悶着はあったものの、私は無事に退院をして寮に帰ってきた。十日近く気を失っていただけあって、再び学校に行った後もだいぶ心配されてしまった。実際に起きた事件の詳細を語るわけにはいかないため、周りには過労と心的ストレスによる一時的な入院として伝えられたようだ。

 無事、一般的な学生生活を再開したところで、私を待っていたのは四方山な面倒だった。我らが2年F組も結成して半月が経ち、仲の良いグループが固まり始めている。今後一年クラスでぼっち生活を送らないためにも交友を深める必要があり、そして入院生活は大きなハンデになっていた。幸い、顔の広い岳羽さん(あとノリの良い男子のクラスメイト、伊織君という名前だった)のおかげでクラスでの生活は良好なものになりそうだ。他にも部活動の見学に行ったり、担任に図書委員を任されたり、授業の課題が溜まったりと忙しい日々を送っている。

 

 今日も今日とて忙しく過ごしていると、帰り際に桐条さんに引き留められた。なんでも、寮に理事長が来ており、先日の件について話をしたいとのことらしい。なぜ理事長がわざわざ一生徒のために寮まで足を運んで? と疑問に思う。私は品行方正で模範的な生徒なので、問題行動の注意という訳ではないと思っている。

 ゆえに、先日の件と言われれば思い当たる節は一つしかない。新しい面倒事ではあるが、同時に新しい進展の予感も感じさせる。桐条さんに了承の返事をして、帰路に就く。私は道すがら晩飯を調達しつつ、足早に巌戸台分寮に向かうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 巌戸台分寮のホールでは、既に桐条さんが待ち構えていた。私の方が早く帰ったはずだが、彼女は車で送迎して貰っているらしい。セレブってすごい、と感心していると4階の部屋に行くように指示される。もう理事長がいらしているので、すぐ向かう様にとのことだ。私は手早く自室に荷物を置いてくると、桐条先輩の先導に従ってノコノコと歩き始めた。

 

 キョロキョロと辺りを見回し、寮にしては部屋数も少ないなー、なんて考え事をしながら歩いていると、すぐに部屋の前に着く。桐条さんがコンコンコンと扉を叩き、どうぞという声が聞こえてから中に入る。私が彼女に続いて中に入ると、部屋には岳羽さんが居心地悪そうにソファに座っており、その対面にロン毛で眼鏡をかけた男性が座っていた。その近くには赤いベストを羽織った男子生徒が立っており、此方を興味深そうに観察している。

 

「理事長、お久しぶりです」

 

「ああ、桐条君も久しぶり。そんなに硬くならないでもいいんだけど・・・おっと、君が有里君かな。話は聞いているよ。ままっ、座って座って」

 

 理事長に促されてガチガチに固まっている岳羽さんの隣に腰を下ろす。彼は私の名前を知っているようだが、礼儀として名乗っておいた方がよいのだろうか。失礼にならない程度の適当な挨拶をすれば、彼は人のよさそうな笑みを浮かべて話し始める。

 

「やあ、こんばんわ。私は幾月修司。君らの学園の理事長をしているものだ。退院早々呼び出しちゃって申し訳ないね。だけど、君たちに話さなきゃないけないことがあって・・・ってあれ、真田君。彼はまだ来ていないのかい? ついでだし、一緒に説明したいんだが・・・」

 

「いえ、とっくに来ている筈ですが・・・少し様子を見てきます」

 

 真田と呼ばれた赤いベストを着た少年は、時々寮で見かける顔であった。たまにすれ違うことはあったが、タイミングが悪く大抵どちらかが足早に去ってしまうために寮に住んでいるだろうこと以外に何も知らない人だ。

 

「真田明彦、私と同じ三年生だ。同じ寮に住んでいる」

 

 桐条さんの説明でそういえばと思うのだが、今まで岳羽さんは先輩二人に囲まれての寮生活だったわけだ。彼女は結構気にしいな性格っぽいので、中々息苦しい日々だったと推察する。私が労わる様にポンと肩を叩くと、岳羽さんは意味が分からないとばかりに眉を顰める。

 そうこうしていると、真田さんが苛立ちに眉を顰めて戻ってくる。遅れてドタドタと音がたって誰かがやってきており、彼はその様子に呆れながら急かす。

 

「おい、早くしろ。・・・全く、何をやってるんだ」

 

「おっとっと・・・ちっと、待ってっ・・・」

 

 よろめきながら、一人の髭面な男子生徒が入室する。

 

「テヘヘヘ。どうもっス」

 

「えっ、順平っ? ・・・なんであんたが、ここに・・・」

 

 どうやら同じクラスの伊織君も理事長に呼ばれていたみたいだった。岳羽さんは驚いているが、私も少し予想外だった。彼は問題児には見えないものの、品行方正とは言い難い。正直、私と伊織君が同時に呼ばれたという事実を鑑みると、知らずのうちに問題を起こして理事長から目をつけられた、という説も見当違いとは思えなくなって来る。

 私がちょっと不安になり始めていると、真田先輩が伊織君を紹介する。

 

「2年F組の伊織順平だ。今日からここに住む。この前の晩、偶然見かけたんだ。目覚めてまだ間もないようだが、彼にも間違いなく適性がある。事情は軽く話してあるが、俺たちに力を貸すそうだ」

 

「適性があるって・・・それ、ホントですか!?」

 

 ・・・適性? 話が見えなくなってきた

 

「ほらほら、有里君が置いてけぼりだろう。早く本題に入らせて欲しい」

 

 理事長も忙しい身なのだろう。さっさと着席を促し、世間話の一つも挟まずに口火を切る。

 

「さて、手短に話そう。キミたちが経験して来た事象を思い返して貰えば、これから僕が語る説明も滑稽な作り話とは思わないだろうからね」

 

 簡単な前置きの後、彼は語る。

 

「君達は、自覚しているだろう。自分が、普通と違う時間を潜ったことに。あれは影時間・・・1日と1日の狭間にある隠された時間だ。電気は止まり、普通の人間は活動を停止して棺のようなオブジェに置き換わる。夜空には大きな月が・・・最近では不気味な赤い月が浮かんでいる。一部の人間しか認識できない、異常な時空間、それが影時間だ」

 

 しかし、重要な点はそこじゃない。そう彼は念を押す

 

「影時間の一番恐ろしい所は、そんな事じゃないんだ。キミ達も見ただろう・・・怪物を。私達はそれを、シャドウと呼んでいる。シャドウは影時間にのみ現れて、そこに生身でいるものだけを襲う。そして襲われた人間は精神を食い破られ、現実世界で植物人間のような状態に陥る・・・このところ騒がれている事件も、殆どが奴らの仕業だろう」

 

 私は最近テレビで見た、無気力症患者を思い出した。ある日突然、死んだように。理事長は恐らくそれを指して話しているのだろう。私があの夜に見た、ヤーナムの獣に姿を変えた男性も、無気力症患者になってしまったのだろうか。現状では確かめようのない疑問を頭の片隅置いて、続きに耳を傾ける。

 

「シャドウに通常の銃火器や兵器では歯が立たない。だが、全く手立てが無い訳じゃない。目には目を、歯には歯を、そして、未知には未知を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・ペルソナについては、君たちも知っているね? 有里君は実践で、岳羽君と伊織君は先輩方から聞いて知っているはずだ」

 

 そういわれて、私たちは思い思いの反応を示す。伊織君は特撮ヒーローの話を聞いた子供のように目をキラキラさせ、岳羽さんは記憶にはなくとも先日味わった恐怖は覚えているようで顔を強張らせていた。そして私がベルベットルームでの一幕を思い出している間にも、理事長は話を進める。

 

「さて、説明は一先ずここまでだ。単刀直入に言おう、我々は特別課外活動部。表向きは部活ってことになってるけど、実態はシャドウを倒すための集団だ。部長は桐条美鶴君、僕は顧問をしている」

 

 いつの間にか席を外していた桐条さんが、物々しいトランクケースを抱えて部屋に戻ってくる。彼女は机の上にトランクを丁寧に置くと、それを開いた。中には怪しく輝く銀色の銃が二丁だけ鎮座していた。

 

「要は君達に仲間になってほしいんだ。シャドウと最前線で戦うのは君たちで、しかも命の保証は出来ない。・・・勝手な頼みだという事は重々承知の上だ。私達も出来る限りのサポートは全力でする。どうか、君達の力を貸してほしい」

 

 理事長は深々と頭を下げる。桐条さんもまた、真剣な面持ちで私達を見つめると頭を下げる。横目に岳羽さんの様子を伺うと、彼女は複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「私は、以前伝えたとおりです・・・これから、よろしくお願いします」

 

 そういえば、岳羽さんは既に銀色の拳銃を所持していた。いわば彼女は仮入部のような立ち位置だったのだろう。迷うことなく、この場で改めて共に戦うことを表明した彼女の真剣な様子とは対称的に、伊織君はブルブルと体を震わせると勢いよく立ち上がった。

 

「もちっすよ! オレも、世のため人のため! ゼンリョクを尽くさせていただきまっす! いや~、なんだか正義のヒーローみたいで、格好いいっスよね~」

 

 伊織君は軽い調子で承諾し、トランクケースへ手を伸ばして銀色の拳銃を手にした。うおーかっけー、と言って彼は新しいおもちゃを手にはしゃいでいるようだった。

 

 私自身、戦いからは逃れられない運命にあることは理解の上だ。一人で出来ることなど高が知れている以上、なんらかの組織に身を寄せる選択は間違いではない。活動の内容や組織の実情が不透明な点は気がかりだが、それでも渡りに船とはこの事だ。私は少しの間考え込んで、宜しくお願いしますと答えた。

 理事長は私たちの回答に満足したように目を細め、少し早口に話す。

 

「ありがとう、君たちの協力を得られて本当に助かるよ。天然のペルソナ使いは、本当に貴重な戦力なんだ。じゃあ早速活動の説明とか色々と・・・・・・っと、詳しい話は桐条君に任せてもいいかな? 僕も時間に押されていてね・・・悪いけど、そろそろ戻らなくちゃいけないんだ」

 

 理事長は腕時計に目を落とすと、桐条さんに目配せをする。彼女はピシりと整った姿勢のまま、堅苦しい雰囲気で受け答える。

 

「わかりました。理事長も、今日はお疲れ様です」

 

「うん、じゃあ僕は一足先に失礼するよ。それじゃあ皆も、良い学園生活を」

 

 理事長はパパっと身支度を整えると、足早に部屋を去っていった。学生の身分では想像がつかないが、理事長ともなると色々と忙しいのかもしれない。バタリと慌ただしく慌ただしく扉が閉まり、部屋には高校生だけが残った。先輩二人は落ち着いた様子だが、岳羽さんも伊織君もソワソワしているようだった。一人は不安で、もう一人は期待でという違いはあるのだろうが。

 

 暫くすると、部長である桐条さんが一つ深呼吸をして全員の顔を見渡す。彼女の表情は真剣で、心苦しいような声色で話始める。

 

「君たちが仲間に加わってくれて、感謝している。ようこそ、課外活動部へ。・・・初めに伝えたいことがある。あるいは、嘆願かもしれないが・・・」

 

 冷静に語っていた理事長とは異なり、桐条さんは些か感情的に語る。

 

「部活動と銘打っているが、我々の活動は人命に関わる。言語で表現不可能なほど悍ましい化け物と正面を切って戦うことだってある。人の命が・・・ましてや、自分の命が懸かった状況は尋常ではないストレスだろう。・・・脅している訳じゃないんだ、ただ知っておいて欲しい。私たちが身を投げ込む先は、平穏とはかけ離れた世界だという事を」

 

 言葉を区切り、真剣な眼差しが私たちを射貫く。

 

「勿論、君たちが共に戦ってくれるとしたら、これ以上に心強い事はない。けれど、戦わないことは恥ではない事も憶えておいて欲しい・・・後悔の念は決して、先には立ってはくれないからな・・・」

 

 悲観的に告げた桐条さんの顔は懺悔する罪人のような姿だった。その視線の先にいる真田さんは至極明るい表情で、肩をすくめて私たちに話しかける。

 

「美鶴の奴は大袈裟なんだ。シャドウは人間を襲う、だから俺たちはシャドウを倒す。シンプルで、刺激的な話だと思わないか?」

 

 彼の発言で重く息苦しい雰囲気が幾分か和らいだ様だった。すかさず便乗して伊織君が言葉尻に乗っかる。

 

「モチ、大丈夫っスよ! 心配せずとも期待の新星、この伊織順平がぁ~、シャドウをバッタバッタとなぎ倒しちゃいますんで!」

 

 芝居じみた口調でおどける伊織君は大きくバットを振るうように素振りをする。彼の頭の中では跋扈する魑魅魍魎を華麗になぎ倒す姿が浮かんでいるのだろう。その調子だ、と真田さんに煽られて調子づいたのか、伊織君は効果音付きで素振りをする。テンションの上がった二人は、これが本当のシャドウボクシングだな!という意味不明な真田さんの発言に腹を抱えて笑っている。

 どうにも場違いに明るくなってしまった雰囲気のせいで真剣さが伝わらないかもしれないが、私達二人は桐条さんに向き直る。

 

「桐条先輩・・・その、私は大丈夫です。・・・今度こそ、大丈夫です」

 

「私も平気ですよ。危なくなったら逃げるので」

 

 岳羽さんと私の発言を受けて、桐条さんは安心したような、しかし微かに青色を滲ませた吐息を吐いた。桐条さんは口を開き一瞬だけ逡巡すると、私たちに儚い笑顔を向けた。

 

「ひょっとしたら君たちには無礼な働きをしたのかもしれないな・・・済まない」

 

 そう言った彼女は雑念を払う様に頭を振って、まだワチャワチャしている男子高校生二人に呆れた眼差しを向けながら、良く通る声を部屋に響かせた。

 

「そこの二人も少しは落ち着け。岳羽と有里を見習ったらどうだ」

 

 徐に全員がテーブルの周りに集まり、視線が桐条さんに集まる。彼女は髪をバサリと掻きあげ、一つ深呼吸をしてから改めて音頭を取る。

 

「早速だが、今晩から活動を開始する。構わないな?」

 

「オッケィーっす! シャドウでもなんでも、バッチこーい!!」

 

 早速活動が開始すると聞いて色めき立つ伊織君、それにつられるように鼻息を荒くする岳羽さん。私もまた集団での狩りは初めてなので、少しドキドキしている。しかし、すぐさま桐条さんは私たちに冷や水を浴びせた。

 

「伊織、何を言ってるんだ? まだシャドウとは戦わないぞ」

 

「・・・へ?」

 

「ボクシングでも何でも、いきなり試合には出ないだろう。まずはトレーニングだ。トレーニング」

 

 キョトンとする私たちに、真田さんが当たり前だろうと告げた。正直な話、ミナトも碌な訓練も受けないまま狩りに没頭していったし、私も練習の機会も無しに実戦を強いられていたので、トレーニングという当然の発想が存在していなかった。しかしまあ、先人が居て指導をしてくれると言うならば、お言葉に甘えた方が良いに決まっている。

 成程、と納得した私と岳羽さんであったが、伊織君は違うようだった。不満ですと顔に大きく書かれている彼は腕をだらしなくブラブラさせ、全身で遺憾の意を表明していた。そんな彼も桐条さんの鋭い眼光で射貫かれれば、すぐさま背筋を伸ばし、叱られた小学生のように姿勢を正した。

 

「“敵を知り己を知れば百戦殆うからず”。いいか、やるからには中途半端は許さん・・・。君たちが命を落とさないためにも・・・全員で生き残るためにも、死ぬ気で鍛えてもらうぞ! 覚悟を決めろッ!!」

 

「いや、チョ・・・! 死ぬ気でって・・・マジっすか!?」

 

 物凄い気迫で宣言する桐条さんの目がギラリと光った様に見えた。それにビビりながら引き攣った声を上げる伊織君、冷や汗を垂らしながらも胸の前で両手を握って気合を入れている岳羽さん、その様子を眺めて面白そうに笑っている真田さん。話している内容に眼をつむれば、まるで普通の部活動みたいな光景だと思い、私はクスリと笑みを溢したのだった。

 

 




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ハム子「私、ペルソナ使わないですけどいいですか?」

順平「マジ!? いや無理だろ!」

美鶴「(監視カメラで確認した人外の身体能力を考慮すればシャドウと渡り合えるだろうし、何故か有里の武器はシャドウに有効だった。ペルソナ無しというのは不安だが、危なくなったら嫌でも使うだろうから)いいぞ」

順平「ファッ!?」

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次回更新は来月中に出来ると良いと思ってます。駄目だったらスミマセン。

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