何やってんだよ団長ッ!(オルガ並感)
あと各話のサブタイトルはバンドの名前にしようと思ってたんですけど変えます。いきなりの変更大変申し訳ありません。
メンバー達との食事が終わって倒れるように眠った次の日の朝。片目を擦りながら2階に降りると、姉さんは既に座って山盛りのご飯を黙々と食べていた。この人はよく食べる。食べるのに太らない。ちなみに私は太る。これが原因で姉さんとはよく全面戦争が勃発する・・・いや、「していた」が正しいのかな。
「おはよう姉さん」
「おはよう・・・ヒカリって何時から仕事?」
「8時半だけど。どうしたのいきなり」
「私、車で連れていこうか?」
「姉さん、車で私を連れてく時間なんてないでしょ?自転車で行くつもりだし大丈夫だよ」
「だけど」
「大丈夫だって。ほら、早く朝ご飯食べて行った行った」
姉さんは基本無口で何を考えてるのかわからないけど、事故から私を過保護にしている気がする。確かにあの事故は本当に酷いものだったから、心配する気持ちはわかるんだけどそれが空回りしてるのかも・・・ん?このフレーズどこかで聞き覚えが・・・
『責任感も強い・・・いや、強すぎて空回りしてるのかもね』
あ、まりなが私に言った言葉と似てる。
うーん・・・なんというか・・・やっぱり姉さんと私って姉妹なんだね。
「むう・・・絶対に怪我とかしないでね?」
「わかってるって!行ってらっしゃい、気をつけてね」
「・・・ヒカリも気をつけてね」
そう言うと姉さんは私を見つめながら家を出た。さて、私も朝ごはん食べよ
バタァンッ!ドォンッ!(ドアノブが壁に当たる音)
「ピッ!?」
変な声出た。
「ね、姉さん!忘れ物でもしたの!?そんな焦らなくてもいいじゃないの!ビビリなんだよ私!?」
「知ってる。わざとやった」
いつも無表情な姉が腰を抜かした私を見てニヤニヤしている。前言撤回、この人絶対私のこと心配してない。
「・・・・・・」
「あ、違う違う。驚かせるためだけに戻って来たわけじゃない」
「じゃあ何?やっぱり忘れ物?取ってくるから何忘れたのか言ってみて」
「ついてきて」
「ん?」
「ついてきて」
「え?いや私今から仕事なんだけど」
「まりなちゃんにはもう話してる、間に合わなくなるから急いで」
「うーん・・・私が行かなきゃいけない理由をちょっと姉さん掴まないで私まだ朝ごはんも食べてないーー」
「現地調達する。ついてきて」
「0○食堂じゃないんだから!?だから!姉さん!私を!無理やり!車に入れようと!しない・・・・・・で」
姉さんは私が言葉を言い終わる前に私を車に押し込み、ドアを勢いよく閉めた。あの人は運動神経が形を成したものと言ってもいいぐらい運動が出来る。もうこうなったら逃げることは無理だろう。とにかく、まりなに電話してどういう事情があったのか教えてもらおう・・・はぁ、入って2日目で休む新人ってどうなのよ。
ーーーーーーーー
『ごめんねー!茜さんがどうしてもっていうから』
「そこは何とかして食い止めて欲しかったなぁ・・・」
『茜さん、前からだけどすっごい押しが強いというか、電話越しからでも断れない雰囲気がじわじわしてたから・・・ね?』
「ね?じゃないでしょ!就職2日目で欠勤するスタッフとか聞いたことないんだけど!」
『大丈夫だって!スタッフの皆もヒカリが昨日頑張ってた様子は見てたから!』
「・・・私が迷惑かけてたりはしないよね?」
『あ!また悪い癖出てるよっ!うちのスタッフさんは1人休んだぐらいで気にしないよ!・・・それにイベントはまだまだ先だからお客さんあんまり来ないし』
「まりなもそういうこと言うのやめようね?」
『と、とにかくっ!ヒカリが責任感じる必要ないから!じゃ、私そろそろ仕事に戻るから!じゃあね』
「わかった。頑張ってね」
通話終了のボタンを押し、一息つくと車のエンジンが止まる音がした。目的地に着いたみたいだけど・・・もう外に出てもいいよね?
ドアを開けるとそこには私が何度か訪れていた建物があった。中規模の芸能事務所だ。私達がまだ有名じゃなかった時代にここでメンバーの1人とダンスのレッスンコーチをしていた。そのよしみで、有名になってからもたまに特別指導をボランティアのような形でやっていた。
私は最後に来てからもう半年は経っているが。
姉さんは私にバックを渡したあと、ぽつぽつと語り出す。
ん?今手渡されたバック私のじゃん!なんで姉さんが持ってんの!?
「あなたが大怪我をしてからはリュウがレッスンコーチをしてるんだけど、今日はどうしても外せない仕事があるからって代わりを頼まれた。でも私教え方とかわからない。助けてヒカリ」
「・・・ここまで来たらやるしかないでしょ。それならそうと昨日の夜にでも言って欲しかったけど」
「忘れてた」
「姉さん頭ハッピーセットなんじゃないの?」
姉さんには仕事に責任を持ってほしいものだ。
事務所の中に入ると、女性が私達を出迎えてくれた。高橋さん・・・だったかな?名字しか知らないけどこの人がここのスタッフで1番前に話したことのある人だったはず。
「えーと・・・あかねさん?隣の女性は?マネージャーさんですか?」
「ヒカリ。ラプソディーのリーダーのヒカリです」
「・・・お久しぶりです」
「えっ!?ヒカリさん・・・!?その目は・・・」
高橋さんは途中ではっとしたように口を閉じ、頭を下げた。
「すみません!配慮が足りず傷つけるような言葉を・・・」
「あ、大丈夫ですよ。気にしてないですから」
もちろん嘘だ。この言葉は何度言われてもナイフのようにぐさりと心に刺さる。だから弱い自分が出そうになる。だけど絶対に弱い自分は人に見せない。あんな思いは二度としたくないし、させたくないから。
何故だろうか。
姉さんが少し悲しそうな顔をしたのが見えた。
「で、ではレッスンスタジオに案内します!今回も研修生のレッスンをお願いします!」
「相変わらずあがり症ですね、高橋さん・・・」
レッスンスタジオに入ると女の子達がいた。15人ぐらいだろうか。私が以前コーチを担当していたのも研修生だったがこの中に前に指導していた子は1人もいなかった。
私がスタジオに入るとザワザワしていた空気が少し引き締まるのを肌で感じた。
「今日限定でここのレッスンコーチをさせて頂くヒカリでーす。よろしくお願いしまーす」
「え?ヒカリさんって今休業してるんじゃないの?」
「でもアカネさんがいるってことは本人なんじゃない?あの人達は姉妹関係だし」
「でもあの片目・・・」
私が名前を名乗った瞬間、張り詰めていた空気がまた元に戻ってしまう。
・・・予想はしてたけど、こういうヒソヒソ話とかされるの1番嫌いなんだよね。さっさと始めよう。
「はいはい私のことなんてどうでもいいから。大事なのはレッスンよ。歌って踊るのがアイドル。これは時代が変わってもあまり変わってないイメージね。だからアイドルを目指すんだったら、私の話は聞いて損はないと思うわ」
「ヒカリ・・・キャラが違う」
「・・・いや、これが私が持ってる『先生』のイメージだったからさ。レッスンのコーチを最初にした時にちょっとやってみたら、後戻り出来なくなっちゃって」
「へー、ヒカリらしい」
「えーっとなになに・・・?『細かい動きのダンス』ですって?いやリュウの計画表、抽象的過ぎ・・・え?振り付けの載ってる紙があるの?だからそういうことは先に言ってよ姉さん・・・ま、いいや。じゃあまずは1回踊ってみようか」
私はまずは全体で踊らせて一人一人の課題点を確認。全員が出来ていないポイントは私自身が踊りながら説明。何回もこれを繰り返すのをレッスン方法としている。この方法を使って講師をしてきたからか、
そう、ここでも片目が枷になってしまったのだ。
片目になってから初めてコーチをするが、以前より圧倒的に視野が狭くなってしまった。そのため何人かの動きがよく見えず、結局そこは姉さんに見てもらうことにした。
「あなたはもう少しテンポを遅くして。あとあなたはBパートのところ、もう少し手の動きを止めるタイミング早くして」
「ん、君は静止するのがちょっと音楽よりも遅れてるから気をつけて」
この研修生達は才能があるのか、はたまた努力の賜物か。私の知るよしはないが、基礎がしっかりしているし指摘された箇所は1回で修正出来ている。
そんな研修生を指導出来ること。そして久しぶりにレッスンが出来る嬉しさに、私も少し熱が入ってしまったのだろう。あっという間に終わりの時間が来てしまった。
最終的には皆、紙に書いてあった振り付けを完璧に出来るようになっていた。
「いやー、皆凄いね。もっと頑張ればプロのダンサーとかとも互角に戦えそうだよ。私はもう来ないかもしれないから、今日のレッスンについての質問はリュウとかにお願いしてね」
「ヒカリさんのアドバイス、すっごくわかりやすかったです!ありがとうございました!」
「どういたしまして。私も貴方たちのこと応援してるから、ダンスはもちろんだけど、他のことも頑張ってね!」
「「「「「はい!」」」」」
元気な返事をした後に次々にスタジオを後にする研修生。聞いてみればアルバイトに行ったり、歌のレッスンに行ったりするらしい。アイドルの道は厳しい。食事もままならないと聞いた事がある。
・・・あれ?そういえば私今日1回も食事してないような気がする。誰かさんのせいで。
コンビニで菓子パンでも買いに行こうかと考えていると、スタジオに高橋さんが入ってきた。
「お疲れ様です!今日は本当にありがとうございました!」
「ふふん、いつでも頼ってください」
「ドヤ顔しないでよ姉さん。それに私の方が姉さんよりもずーっと働いてたと思うんだけど」
「あーあー何も聞こえなーい」
姉さんは無口なのに時々こういう意味のよくわからないボケをぶち込んでくる。姉さんの世間からのイメージは一言で表すならクールビューティーらしい。そんなクールなイメージのある人からいきなりよく分からないボケをかまされた大抵の人の反応はポカンとするか苦笑するかどちらかだ。
高橋さんは後者だったようだ。「あはは・・・」となんとも言えない様子で笑っていた。3人の周りを微妙な空気が支配する。姉さんは自分のイメージとか一切気にしないタイプだから、こういう時の空気の切り替えをするのも私の仕事だ。
だけどちょうど良かった。高橋さんには頼みたいことがあったから。
「高橋さん、ちょっとだけお願いがあるんですけど」
「え?あ、はい!私達に出来ることなら」
「ああ、そんな気負わないでください。難しいことじゃないですよーーーー
ーーー彩のいるバンド・・・パステル パレットが今この事務所にいるようだったら、少し会わせて貰えませんか?」
いかがだったでしょうか?
今回の話はこのまま後編へと続きますのでお楽しみにー
キャラ、単語補足
野田 茜
ヒカリの実の姉。スタイルがよく、無口で常に無表情なことから世間からはクールビューティーというイメージを持たれているが実は極度の天然なうえに子供っぽく、ヒカリの方が姉に見えるとラプソディーのメンバーからは言われている。
ラプソディー
ヒカリがリーダーを務める人気ダンスグループ。名前の由来は後々。ヒカリが休業してからは、リーダー不在の形になっているが活動はしている。基本的に仲はいいが、例外があったり。