【完結】輝けケアキュア 〜紫陽花の季節〜   作:主(ぬし)

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書きたいものが多すぎてどんどん文量が増えていく。ルキナの最期の輝きです。


いつか彼が紫陽花になるまで 最終章9話

「ルキナ!諦めちゃだめだよ!」

 

 ライトイエローの煌めきが視界に閃いたと視認すると同時に、巨大な手と手を打ち合わせたような轟音が耳朶を打ち、触手がルキナの寸前で空中に縫い留められた。稚さの残る背中が触手を真剣白刃取りの形で受け止めたのだ。

 

「そうよ!貴女、そんな殊勝な性格じゃないでしょう!」

 

 大気をどよもす余韻を突いて、ミントグリーンのドレスを纏った少女が助太刀に入る。ミシミシとスティレットヒールの踵が音を立ててアスファルトの路面に食い込み、関節が軋みを上げるも、少女たちに怯む気配はない。自分たちの胴体ほどもある触手の鞭をまるで丸太を担ぐように肩口で受け止めると、血管が浮かぶほど腕に力を込めて締め込み、動きを封じ込める。食いしばった歯の間から声を絞り出すのは、ケア・バウトとケア・エオスだった。

 

「チッ!ケアキュアども、余計な真似を───うおおっ!?」

「余計な真似はそっちよ、ゲキヤック!」

 

 舌打ちして駆け出そうとしたゲキヤックの足元に、オパールブルーの鋭い輝きが流星のように滑り込んだ。ケア・イシュタルがサッカーのシザーズキックの要領で彼に足払いを仕掛けたのだ。変幻自在の戦いを得意とするイシュタルに虚を突かれて引き倒されそうになるも、あわやというところでバランスを取り戻し、さすが幹部は伊達ではないゲキヤックは鮮やかにバック転してイシュタルの間合いから逃れる。

 

「小娘どもが、小賢しい───」

 

 冷や汗を誤魔化してゲキヤックが冷笑する。しかし、この時はケアキュアたちが一枚上手だった。

 

「「だぁあああああああッッ!!」」

 

 雄叫びを上げたバウトとエオスが渾身の力で触手を引っ張ったかと思いきや、まるでクレーンのような馬力でフザケンナーの巨体を引きずり倒した。バウトの得意とする電撃攻撃が触手を伝わってまたたく間に本体のフザケンナーに到達し、バリバリと音を立てて動きを麻痺させる。さらにエオスの風を操る能力とイシュタルの水流を司る能力が合体炸裂し、たたらを踏むフザケンナーの胴体上部のど真ん中に飛沫を上げて命中。巨体を一挙に押し倒した。傷ついた牛のような呻き声を轟かせたフザケンナーがグラリと傾ぎ、濃い影が生じる。

 

「なにぃいいいいっ!?」

 

 バック転を終えたゲキヤックが着地した先は、まさにその影の中心だった。泡を食ったゲキヤックの叫びをまるまると飲み込み、トレーラートラックに匹敵する大きさと重さのフザケンナーが地響きを立ててゲキヤックの長身痩躯をアスファルトとの間にサンドイッチのように挟み込んだ。ズズンと大質量が激突する振動が大地を揺らす。「やったか」などと不穏な台詞は軽々しく口にしない。これで倒せるなら苦労はしていない。だが、時間は稼げるはずだった。

 新たな仲間を(・・・・・・)目覚めさせる(・・・・・・)、大事な時間を。

 

「頼んだわよ、アストレア」

 

 ゲキヤックの復活を警戒して半身に構えるイシュタルが万の信頼を込めて呟く。バウトとエオスも続いて希望の眼差しを向ける。それに強い頷きで応え、ケア・アストレアがウェディングフォームのヒールを音高く鳴らして堂々と歩む。彼女が歩を向け、立ち止まり、見下ろす先にいるのは、満身創痍で地面に膝をつくルキナだった。

 

「な、なんで、アンタたちが」

「当然よ。私たちはケアキュアだもの」

 

 突然の加勢に呆然とするルキナに対し、アストレアは鉄の壁をも貫くような鋭い眼光で彼女を射抜くばかりだ。心身ともに弱りきったルキナには、威風堂々たる彼女の語気と威容は厳しく、眩しすぎた。青白い光のオーラがアストレアの全身を覆っているようにみえた。アストレアとまじまじと向き合ったのは初めてだった。これがケアキュアなのか、とルキナは息を呑んで尻込みした。どんな困難にも決して屈せず、たくましく乗り越えていく正義の少女たち。勇気に溢れる気高い彼女たちには不可能なことなど何も無さそうだった。自分なんかより遥かに(マトモ)で、人の役に立ち、世の中への存在意義に満ち満ちていた。それに比べて、自分はなんて矮小なんだろうか。彼女たちが羨ましかった。

 多大な劣等感に苛まれ、ルキナはあてどなく視線を外すと力なく俯く。

 

「……お願い、助けて」

 

 消え入りそうな声だった。ポツポツと大地に涙の粒が落ちる。今までさんざん虐げてきたケアキュアたちに頭を下げて助けを求める自分自身が情けなかった。惨めだった。それでも、青年を助けられないよりは何億倍もマシだと思った。

 

「助けて。あの人を助けて。私はどうなってもいい。私なんて消えて当然。アンタたちも知ってる通り、私はどうしようもないバカよ。他人の足を引っ張ることしかできない役立たずよ。でもあの人は違う。救う価値がある人なの。お願い、ケアキュア、助けて───」

甘ったれるなァ(・・・・・・・)!!!!!!」

 

 憤激の衝撃波が全方位に轟いた。吼え猛る獅子の如き怒声があらゆる物質を原子レベルでビリビリと叩き揺らす。嵐のような(はげ)しい風が轟と吹き抜け、周辺の炎を塵と化して消し飛ばした。天地を張り裂く稲妻のような咆哮が目の前のアストレアから発せられたのだと理解するのに、ルキナにはきっかり1秒も要した。

 

「ひぅ」

 

 ルキナが目を丸くして息を呑む。目の前の少女は、とても同年代とは思えない圧倒的な“凄み”を瞳に宿し、轟々と全身で燃えていた。仲間たちも、それどころかフザケンナーとそれに下敷きにされたゲキヤックさえも思わず縮み上がって動きをビタリと止めるほど仁王めいた迫力だった。胸元のマスコットのような妖精は耳を抑えて真っ青に震えている。

 はるのの実家は代々、空手道の極地に至らんとDNAに研鑽を刻み、それを誇りとしてきた由緒正しき武術の家系である。数ある実践格闘空手(フルコンタクトバトル)の流派のうち、もっとも雄々しいとされる剛柔流の若き覇者として全国大会を連覇してきたはるのが本気(マジ)になれば、たとえサバンナでライオンと真正面から睨み合ってもすごすごと退散するのはライオンの方に決まっている。

 悪に傾きかけた際に横っ面を思い切り殴られて引きずり戻された経験を持つイシュタルは、その時の痛みを奥歯に蘇らせて苦笑を浮かべた。ケアキュアの奇跡の力がなければ今ごろ総入れ歯になっていた。だからこそ、イシュタルは信じていた。アストレアの本当の力(・・・・)を。

 

「甘えてないでしっかりしなさい。彼は貴方が救うのよ」

 

 突き放すようなアストレアの台詞にルキナは失望を隠せなかった。しかし、自業自得であることはわかっていた。

 

「……なによ。あてつけのつもり?そんなの、無理よ。無理に決まってる。だって、私にはもう、なんの力も……」

 

 見た途端に力負けしそうな眼光にルキナは再び目を逸ら……そうとして、ガシッと両肩を鷹のように掴まれる。驚いて再び顔を上げたすぐ眼の前にアストレアの顔があった。

 

あるわ(・・・)!だって貴女は、ケア(・・)キュ()()だもの!」

 

 視界いっぱいに広がる彼女の瞳は月の慈しみと太陽の覇気を等分に秘めて爛々と輝いている。その眼差しは確かなエネルギーの乱流となってルキナの瞳に流れ込んでくるようだった。ドクンと勝手に跳ね上がる心臓に驚きながら、ルキナが目を瞠る。心臓が活気を取り戻し、全身に新鮮な血流を送る。エネルギーの粒子が血流にのって肉体の末端まで行き渡り、身体が火照り出す。

 

「私が、ケアキュア?違う、私は出来損ないよ。ケアキュアの粗悪なコピー」

「いいえ!ケアキュアとは、誰かの夢のために戦う者のこと!大切な人を毒牙から護るために命をかける戦士のこと!人々の夢と希望の盾こそ、ケアキュア!それならば、貴女はケアキュアよ!だから───」

 

 必死に身をよじってフザケンナーの下敷きからの脱出を完遂したゲキヤックが、アストレアの背中を見て、彼女がやろうとしていることを想起して顔面を蒼白にする。

 

「やめろ!」

「させないわ!」

 

 死にものぐるいの威嚇とともに放たれたエネルギー弾をエオスの風のバリアが受け流した。瞠目するゲキヤックが睨む視界で、アストレアの頭上の暗雲がゆっくりと押しのけられ、渦状銀河の如き神秘の煌めきが展開するのを見た。金色の後光がアストレアの全身の輪郭を縁取り、天上におわす女神の如き気高い姿を世界に対して際立たせる。否、これこそがアストレアの本当の力(・・・・)なのだ。

 彼が狂おしいほどに欲し、同じくらい拒絶していた奇跡が、彼が望まない状況で顕現する。

 

「さあ、目覚めなさい!新たなるケアキュア───ケア(・・)ルキナ(・・・)!!」




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