仮面ライダー、という存在を知っているだろうか。素顔を仮面に隠し、世界を蝕む悪を討つ、そんな存在。だがその仮面ライダーも初めから強いライダーは稀有なものだ。何故なら中身はどう繕っても人なのだから。だからこそ、1度は闇に堕ちたライダーも居る。死んだライダーも、当然。この物語はその死したライダーの3度目の生を辿る、そんな話。
目覚めた時、彼は見覚えの無い場所に立っていた。所持品は肩に掛けたショルダーバッグと左手に持っている見覚えの有る銀縁の黒いアタッシュケース、ジーンズの尻ポケットに入っている財布だけだ。
――記憶はしっかり残っている。最期は蒼い焔に身体を灼かれて、灰になって消滅した筈なのに、しっかり身体は残ってる。砂にもならないし、どうやら生きているらしい。周りの景色に見覚えは無い。まさかパラレルワールドとか?…まさか、流石に非現実的過ぎる。いや、そもそも俺自体が非現実的なんだけどね。
そう思考した彼はどこかに向けて歩こうとするが、悲鳴が聴こえた。その悲鳴を見過ごすという選択肢を持たない彼は悲鳴の元へと走り出した。
「来ないで!」
彼女――美竹蘭は逃げていた。バンドの練習の帰り、暗くなったので早足で帰ろうとしている時に怪物に襲われたのだ。後ろを着いてくる
(もう、脚が…!)
運動が出来ない訳ではない蘭だが、決して体力に自身が有る訳ではない。しかも全力疾走で長距離を走るなど陸上部ですら滅多にしないだろう。既に蘭の体力は尽きかけ、脚も限界だった。
「オルフェノク!?」
捕まってしまうのか、そんな考えが頭を過ぎった。その時、1人の男がその場に現れた。
(オルフェノクがどうして…もう居ない筈なのに。王がまだ居るのか?でもアレは乾君が…)
飛来する触手を躱し、そして棒立ちになっていふ蘭の前に立つ。変に逃しても追撃される恐れがある上に相手がどんな能力を秘めているのか判らない。彼は見知らぬ少女を庇う様に立ち塞がる事しか出来なかった。
「誰…?」
「自己紹介は後で。…これから起こる事について、出来れば黙っていてくれよ?」
彼はアタッシュケースを開き、3つの道具を取り出す。1つ目は重々しいベルト、2つ目は短剣の様な何か、3つ目は昨今は殆ど見ない折り畳み型の携帯電話――ガラケーと今では呼ばれるものだった。
怪物は彼が取り出した金色の道具を見てたじろいだ。まるで自分の弱点を見せ付けられた様に、怯える様に後ろに下がる。
「そんなのであの怪物をどうにか出来るの!?」
「さぁ。でも少なくとも、追い払うくらいなら出来る筈だよ」
欄の口調が荒いのは危険な状況を脱していないと蘭が理解しているからだろう。聡い子だ、と思いながら空のアタッシュケースを地面に落とす。
ベルトを装着し、短剣をベルトの横に着ける。そしてガラケーを開き、キーの0を3回押して最後にENTERと書かれたキーを押す。
『0・0・0』
『STANDING BY…』
彼は閉じたガラケーを1度だけ見つめると、自らを仮面の戦士と化す言葉を静かに呟いた。
「…変身」
『COMPLETE』
ベルトから出た金色の筋の光が彼を包む。眩い光に蘭は目を閉じる。そして目を開けた後、その場には先程の彼は居なかった。その代わりに現れたのは黒と金の鎧を纏った戦士。その力強さを感じる立ち姿にはまるで王の如き風格を感じずにはいられなかった。
『READY』
短剣に小型のUSBメモリの様な物を差し込むと音声と共に刀身が形成され、騎士が扱う様な長剣になる。男はゆっくりと、だが確実にオルフェノクに近付いていく。怪物が弾かれた様に突然男に攻撃を仕掛ける。
「あ、危ないっ!!」
戦士の身体から舞い散る火花。もう駄目だと蘭は目を閉じて覚悟を決めるが、少し経っても何も起きない。恐る恐る目を開けると、一切動いていない戦士の背中が目に飛び込んできた。
戦士はオルフェノクの攻撃をその身体でしっかりと受け止めていたのだ。何度も攻撃を仕掛けるが、その戦士は微動だにしない。攻撃が効いている様子は全く見えず、そして何度目かの攻撃を右手で掴んだ。そして剣を握る左手を掲げ、勢い良く振り下ろす。それだけでオルフェノクは吹き飛び、何度も転がって漸く停止する。そして蒼い焔に灼かれて灰になり、この世から消滅した。
「…大丈夫だったかい?怪我は無い?立てる?」
「…大丈夫、ちょっと手を貸してくれれば歩ける。それより、あなた何者なの?」
「まぁ落ち着いて。俺は――」
彼は問い詰めてくる蘭をジェスチャーで宥めながら名前を伝える。もう1度自分の名前を名乗れる事に喜びを噛み締めながら。
「――俺の名前は木場勇治。それより雨風凌げる所知らないかな?ちょっと訳有りなんだ」
多分オーガなら下級オルフェノクなんて斬撃1発で終わるし、多少はね?