夕焼けに灰の怪物を   作:たぴぃ

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10話

 「…つぐ、過労だってさ。少し休めば大丈夫らしいし、みんな帰ろう」

 

 病院から出る5人。明らかに過労だけでない事は明らかだった。確かに過労も多分に関わっているのだろうが、あのパンダオルフェノクが信頼していた生徒会長だった事も有るのだろう。信じていた人が突然化け物になり、自分を殺しに来るのだ。倒れて当然で、トラウマになっても仕方無い。つい数日前までありふれた日常に身を置く女子高生が、そんな事に耐えられる訳が無かった。

 木場は手を握り締める。半ば確信を持っていながら自分から動けなかった情けなさと1人の生徒の命を助けられなかった事に。彼の犠牲があって確信を持てた側面こそ有れど、犠牲になっていい命だった訳でもない。そもそも、そんな命が存在してはいけないのだ。

 

 「ねぇ、木場」

 「…何だい?」

 「どうしてオルフェノクは人を殺すのかな。…人と共存は、出来ないのかな?」

 

 木場は悩む。だがこの答えで良いのだろう、そう思いながらまた嘘を重ねる。これが、彼女達の為なのだと。

 

 「…オルフェノクは血も涙も無い化け物だから、かな。アイツらは人の命を命と思ってない。ただの、玩具なんだよ」

 

 そう言って返事を聞かずに門を開ける。釈然としていない蘭は不満げな顔のまま「ただいま」と言って中に入る。その先のリビングに居たのは、蘭の父だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――逃げていても、何も変わらないぞ」

 「……ッ!!」

 

 つぐみが倒れたその夜、美竹家での事である。家に帰った蘭に父が向けて放った言葉が蘭を傷付けた。『高校生が遊びでやっているバンド』、そう言われた蘭は言い返したくとも言い返す事が出来ず、自分の部屋に逃げてしまう。それを蘭の父はまたか、という諦観が見える眼差しで後ろ姿を見送り、木場は逡巡すると蘭を追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うっ…うっ…」

 「…蘭ちゃん」

 

 自分なりに一生懸命やっていた事を一言で切り捨てられたショック故か、蘭は泣いていた。部屋の隅で丸くなり、膝に顔を埋めて嗚咽を漏らしていた。お人好しの木場が放っておける訳も無く、木場は隣に座った。

 

 「…………」

 

 だが決して口を開かない。まだ蘭の頭の中はグチャグチャで、今何かを言ったとしても逆効果になると思ったからだ。ただ払い除けられないか内心ビクビクしながら頭を撫でるだけだ。

 少しの間そうしていると、蘭が一言だけ呟く。

 

 「…あたし、遊びでやってるんじゃない…」

 「分かってる。どれだけ練習したのかは分からないけど、バンドに懸ける情熱がどれぐらいなのかは、俺にも分かるよ」

 

 そうでなければあんな演奏は出来ないだろう。つい先日聴いたRoseliaというバンドと比べれば、確かに練度は低いかも知れない。だが木場からすれば彼女達よりも蘭達のバンドに胸を衝き動かされた気がした。ずぶの素人の感想だが、だからこそ細かい事を抜きにした感想を言える。

 木場は自分に蘭を重ねていた。嫌な事から逃げて、好きな事しか見ようとしない彼女に自分を重ねていたのだ。だからこそ木場は間違って欲しくないと願い、口を開いた。

 

 「…逃げるのは、確かにいけない事だ。でも、それが必要な時だってある。手遅れになる前に現実と向き合えれば、きっとそれで良いと思う。取り返しのつかない事をしてしまう前に、ね」

 「……………」

 

 返事は無いが、それでも木場は続ける。

 

 「俺はもう間違えた。そのせいで色んな人に迷惑を掛けた。友達が止めてくれなかったら、多分もっと酷い事をしてただろうし、正気に戻った時に後悔したと思う。…俺は逃げる事は悪いとは言わないし、言えない。でもね蘭ちゃん、いつかは向き合わなくちゃいけない時が来てしまう。だから、その時に後悔の無い、君にとっての最善の選択が出来る様にするんだよ」

 

 木場はそれだけ言って、立ち上がって蘭の部屋から立ち去る。そして裏口から外に出ると、外に居る異形に向けて話し掛けた。

 

 「何故あの子達をつけ狙う?」

 「裏切り者が。【オリジナル】として生まれ変わっておきながら、何故貴様は人間を護る?そんな価値が有るとでも言うのか?」

 

 暗い中でも相手の姿は視える。犬の意匠が見える頭と両肩にも同じようなものがある。相手は確実に中級上位オルフェノクか上級オルフェノクだろう。木場は臨戦態勢を取るが、相手は全く動かずに話し続ける。

 

 「…まぁ良い、どうせ貴様も再び思い知るだろう。ヒトの愚かさを。そして覚えておけ、あの5人の人間は特別だと。この情報が、裏切り者とは言え同胞の貴様への手向けと知れ」

 

 そう言うと高く跳躍し、どこかへ消えるオルフェノク。木場は自分の手を見つめる。何の変哲も無い、肌色の人の手。それを苦悶の表情で一瞥すると、決意を抱く。あの5人の少女を護らねば。

 彼女達が言う『いつも通り』を自分が護って保っていくのだと。どんな事をしてでも、どんなリスクを負ってどんな代償を払おうとも。

 裏切り者と蔑まれても。例え戦いに耐える事が出来ず、自分の身体が灰に還ろうとも。

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