夕焼けに灰の怪物を   作:たぴぃ

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11話

 「…木場さん」

 「来てくれたんだ、ひまりちゃん。取り敢えず、そこのカフェにでも入ろうか」

 

 木場はメッセージアプリを使ってひまりを呼び出していた。その表情はいつもの彼女と比べ物にならない程に暗く、泣きそうな表情になっていた。そんな彼女の表情に気付きながらも木場はひまりを連れてカフェに入る。たまたま見つけたこじんまりとしたカフェで、コーヒーが人気の店だ。隠れ家的な雰囲気が木場の琴線に触れ、たまに来ているカフェだ。

 

 「マスター、奥の個室借りて良いかな?」

 「おぉ、良いぞ。注文は?」

 「ブラック2つ、その内片方は一応ガムシロとミルクを別にしたブラックを1つ」

 「承った。後で持っていくから個室を使うと良い」

 

 ここのマスターは人生経験が兎に角豊富らしく、悩みを相談しに来る人も多いらしい。そんな人の為の個室を今日は借り、2人はそれなりに狭い個室に入った。

 

 「その様子を見るに、喧嘩したのかな?多分、巴ちゃんと蘭ちゃんかな」

 「スゴイですね、木場さん。私なんかより、みんなの事が分かってて…私、蘭が悩んでる事に気付いてたのに…」

 「蘭ちゃんなら大丈夫だって、放っておいた?」

 

 その言葉にひまりは俯く。その様子を見るに、きっと図星なのだろう。

 

 「…ひまりちゃんは、どうしたいんだい?」

 「え?」

 「君は蘭ちゃんじゃない。だから蘭ちゃんの背負う苦悩も苦労も代わる事は出来ないんだ。その上で、君はどうしたい?」

 

 そう、結局は蘭の抱える問題は蘭次第なのだ。ぽっと出の木場が解決など出来る訳が無く、関係が深い4人でさえ協力は出来ても解決は出来ない。どれだけ木場が味方しても、彼女達が蘭の背中を押しても踏み出して乗り越えるのは他ならぬ蘭自身で、ひまりも木場も、誰も解決は出来ないのだ。

 だが、だからと言って何もしないのが正しい訳ではない。解決は出来なくとも手出しは出来る。自分達が解決する事は不可能だと知った上で、それでもより善い方向に蘭が向かえる様に足掻く。それが今の4人に出来る唯一であり精一杯の『応援』なのだ。

 

 「…私は、蘭を応援したい、信じたいです…!」

 「ほら、答えはやっぱり出てるじゃないか」

 「…ふぇ?」

 「俺は物語とかそういうのの主人公じゃないから、覚悟を試すなんて事はしないしやれない。出来るのは君の中の本当の意思を表に出す手伝いをこうやってしてあげる事くらいだ。なんだかんだ言って素直じゃないからね、みんなは」

 

 蘭ちゃんだけじゃないんだよ、と木場は苦笑する。なんだかんだ心の奥底に本当の気持ちを封じ込めてしまう彼女達が、猫舌の友人を思い出させるのだ。彼は口調はぶっきらぼうだし無愛想、口も良い方ではなかったが本当は優しい男だった。彼は頑固な方で、そんな彼を説き伏せた事もある木場からすればひまりを説得するなど容易い事だった。

 

 「そう、ですよね。リーダーの私がしっかりしなかったら駄目ですよね!よ〜し、これから頑張るぞ!えい、えい、おー!」

 「…………」

 「盛り上がってるとこ悪いが、注文のコーヒーだ。味わって飲め」

 

 突然の掛け声に呆けている木場。乗ってくれなかった事にひまりは不満を告げようとするがタイミングを図ったかの様に現れるマスター。ひまりはストンと椅子に座り、ミルクとガムシロップを全て入れて、木場はブラックのままコーヒーを味わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (…この量のパン、どうしろと?)

 

 食べられなかったから、という理由でパンをひまりから貰ったは良いが、明らかに昼食の量ではない。1日分どころか木場が1週間で食べるパンの量を普通に超えている。しばらくはパン漬けの生活になるかも知れない、そう危惧する木場は視線を察知し、後ろを振り向いた。

 

 「……じー」

 「も、モカちゃん?」

 「…じー」

 「……あの、パン食べる?」

 「え、良いの!?やった〜。木場さん、好き〜」

 「あはは…そこのベンチにでも座ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい。ミルクティーで良いかな?」

 「わぁ〜、ありがと〜」

 「どういたしまして」

 

 モカと少し間を空けてベンチに座る。袋から1つ『やまぶきベーカリー』と銘打たれたアンパンを取り出すと、齧る。ふわりと香る小麦の香りと餡の絶妙かつ濃厚な甘みに驚愕しながらも買ってきたブラックコーヒーを飲む。

 隣のモカは2つ目のクロワッサンを食べようとしている所だった。木場は半分まで食べるとふと隣を見る。モカは次にクリームパンを選んだらしい。

 

 「………!?」

 

 木場は自分のパンを見る。まだ1つ目だ。それに対してモカは既に3つ目である。…いや、袋の数を見る限り4つ目に到達したらしい。某星のピンク玉の様な速度だ。まぁ人それぞれだろう、そう無理矢理結論付けた木場はアンパンを再び齧る。

 

 「…あたし、蘭に何も言えなかったんですよ〜」

 「何もって?」

 「逃げるな、とか〜そういう事ですねぇ」

 「…多分、それは言っちゃ駄目だよ。君が言ったら、蘭ちゃんは潰れてしまう」

 

 蘭は逃げている。それは木場にだって分かるし、事実から逃げるを行為をしてきたのだ、痛い程に気持ちは分かる。だからこそ、()()()()()()()痛みだって知っている。相手の掛け値なしの好意だからこそ向けられる助言の棘を、彼は知っていた。

 だからこそ彼は蘭に助言した。彼女に苦痛を与えるのは自分で良いと思ったから。蘭は自分を強気に見せてはいるが、その実人一倍打たれ弱い事は分かっている。これ以上の助言(苦痛)を与えれば確実に潰れ、再起は難しくなるのだろう。ただ寄り添う事でも苦痛になる事も有れば、癒す事だってある。人とは難しいものなのだ。

 

 「助言を与えるとか、導くとか、そういうのが大事って思われがちではある。でも、それが助けたい人を傷付ける事だって有るんだ」

 「難しいんですね〜」

 「そう、難しい。俺はみんなより少しだけ長く生きてるけど、分かんない事だらけだよ。…きっと、蘭ちゃんのお父さんも言い方が分かんないだけで、もっと単純な話なんだろうけどね」

 

 木場は立ち上がり、腕を振りかぶって缶コーヒーを投げる。缶は放物線を描き、カコンと音を立ててゴミ箱の中に入った。密かに木場はガッツポーズをして喜ぶ。そんな木場を見たモカは問うた。

 

 「木場さん、何か隠してなーい?」

 「…え?」

 「たまーにだけど木場さん、すごく怖い時があるんだよ?何か普通と違うような、そんな感じするの」

 

 何かを隠している。それは事実で、木場が抱える最大の罪だ。それを言う訳にもいかず、木場はまた罪を重ねていく。

 

 「ううん、何も隠してないよ。…もう暗いし、送っていくよ」




 この小説はあんまり他のバンドと関わりません。絡ませて欲しいバンドがあれば感想で言って下されば幸いです。
 …バンドリで違う作品を次回作にすれば、もしかしたら…?
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