「で、アレはどういう事なんですか?あの怪物とかガラケーとか、説明してくれますよね?」
「うん、勿論説明はする。取り敢えず着替えてもいいかな?」
「着替えるって…」
「君が突然来ちゃったから、まだ寝間着のままなんだ。俺の身体なんて見たくないだろうし、外に出た方が良いと思うよ」
微かに頬を赤く染めた蘭はドアを開けて木場が着替え終わるのを待つ。今は早朝、物音が少なく木場が服を脱ぐ衣擦れの音が嫌に耳に入ってくる。蘭は何故か恥ずかしくなって頭を左右に振った。
「もう大丈夫。入ってくれ」
「…はい」
「どこから説明しようかな。…じゃああの怪物、【オルフェノク】の事についてかな」
木場は自分もオルフェノクである事を隠し、それ以外の情報は包み隠さず話した。奴等は死んで蘇り、人を超えた力を得た存在だと。そして自分の同族を増やす為に人を殺し、低確率での変異を起こそうとしていると。そしてオルフェノクは人に化ける事が可能で、昨日友達だったかも知れない者が今日オルフェノクになっているかも知れない、と。
「そんな、バカみたいな話…」
「でも事実だ。君も見ただろ?あの灰色の怪物、アレがオルフェノクなんだ」
「…正直、まだ呑み込めてないです。でも取り敢えず次、あのベルトとガラケーは何なんですか?」
「これは【オーガギア】。オルフェノクを殺す為に造られた、本来は暴走したオルフェノクを止める為に使う筈だった物だよ」
木場は不思議に思う。自分が知るライダーズギアの中にこんなベルトは無かったからだ。木場が知るのは3つしか無い。乾巧が使い、最後には自分ごと王を葬った【ファイズギア】。次に草加雅人が主に使い、木場が草加を殺して奪い取り最後に破壊された【カイザギア】。最後に三原修二が使う、変身者を戦わせ続ける悪魔のベルト【デルタギア】、この3つだ。
それもそうだ、このベルトは本来の世界線のファイズでは存在しないベルトなのだから。このベルトが存在するのは世界中の人間の殆どがオルフェノクと化した世界。その中でも最上位のオルフェノクのみが使えるベルト、それがオーガギアなのだ。カタログスペックでは全てのライダーズギアを凌駕する性能を誇る、最強のベルト。ソレの唯一の変身者、それがその世界線の木場勇治だった。
故に、オーガギアを持って今ここに居るのだろう。
「ソレ、あたしにも使えるんですか?」
「無理だね。変身しようとした時に弾かれて終わりだよ」
「…じゃあ、オルフェノク?はあなたしか倒せないんですね」
「そうなるのかな。そうだ、俺の事は呼び捨てで良いし、敬語も要らないよ。初対面の時、君は普通にタメ口で話してた訳だしね」
「分かった。よろしくね、木場さ…勇治。あたしの事も君じゃなくてちゃんと蘭って呼んで、良い?」
「分かった、しっかりと名前で呼ばせて貰うよ、蘭ちゃん」
大の大人にちゃん付けされた事が余り無いからか、蘭は少しムズムズした感じを抱えながらも訂正が面倒なのでそのまま呼ばせる。
「蘭、それと木場君だったかな?私の部屋に来なさい」
「はい、分かりました」
「今行く」
充てがわれた部屋を出て、蘭の先導に着いて蘭の父親の部屋に向かう。それにしても広い。和風と洋風が入り混じった建築の家は少なく、それでいてお屋敷と呼べる様な家などそうそうお目に掛かれない。木場は単純に凄いな、と思いながら歩く。大きさに圧倒されないのはライダーズギアの製造元である【スマートブレイン社】の大きさに慣れているからだ。比較対象が比較対象である為、感動が少し小さくなるのも仕方無い話なのだが。
「初めまして、木場勇治君。私が蘭の父だ」
「昨日は突然ながらも泊めて頂き、有難うございます。改めて名乗らせて頂くと、私の名前は木場勇治です。今は旅をしており、家を持たない根無し草、と言った所ですね」
「ふむ。君はどうして蘭と知り合った?蘭は、まぁ言ってしまえばそこまで社交的ではない筈だが。ましてや見知らぬ男を夜家に連れて来るなど、考えられん」
「あたしを助けてくれたからだよ。
木場が説明しようとした所、蘭が割り込んで父に向けて説明してくれた。馬鹿正直に『オルフェノクに襲われて死にかけたけどこの人が助けてくれました』などと言える訳も無く、蘭は適当に交通事故に遭いそうになったという事にしたらしい。蘭の父が『それは確かか?』といったカンジに視線を送ってくるので木場はゆっくりと目を見て頷いた。確かに命の危機から助けたのは事実なので嘘ではない、筈だ。
「木場君」
「はい?」
「君はこの街に留まるのかね?」
「そうですね、暫くはここに根を張っても良いかなとは思ってます」
「家はどうする気かね?」
「それなりにお金は持っているので、安いアパートとか下宿を探そうかなと。それからはアルバイトをして繋いでいこうと思ってます」
「…木場君、家事は出来るかね?」
「まぁ、一通りは出来ますよ」
蘭の父は腕を組み直し、何でも無い様に言った。
「しっかり3食は保証しよう。家内の家事手伝いをしてくれれば、の話だが」
「…つまり、ここに住んでも良いと?」
「そういう事だ。しっかり働いて貰うが、な。あと君の部屋は蘭の隣にしておく、手を出すなよ?」
「はぁ!?おかしいでしょ、別に今の場所でも良いじゃん!!」
「あの部屋は来客用だ。どうせ空いてるんだから良いだろう」
木場からすれば別に気にする事では無いし、彼の様子を見るに意見を変える事が無い事が分かった。そもそもの話、木場はこの家で立場が1番下である事も有って家主の彼に意見出来る立場では無いのだが。
「っ、勝手にすれば!」
「あ、蘭ちゃん…」
素早く立ち上がり、ドアを乱暴に開けて出て行く蘭。それでもしっかりと閉めていく所は良い子なんだな、と木場は思う。蘭の父は木場を見て言った。
「あんな娘だが、悪い子ではないんだ。仲良くしてやって欲しい。年も近い大人にしか話せない事も有るだろう。相談相手になってくれると助かる」
「えぇ、大丈夫ですよ。まだ少ししか話してませんが、良い子だって事は分かってますから」
ついでに言えば、木場はもっと人間性に問題が有る者達と付き合ってきた。あの程度、可愛いものだ。
木場は立ち上がり、取り敢えず自分の部屋に戻る。オーガギアの説明書を読む為だ。今度こそ大切なモノを護る為に、そう覚悟を決めて。
この木場さんの記憶はファイズ本編の記憶しか無いです。でもオーガになれたのは身体から憶えているから、そういう事です。