美竹家は広い。ジ○リ映画なら子供が走り回る描写が有っても良い程度には広い。やる事が無くなったので掃除をしようとしていたが、モップの場所が見当たらなかった為に木場は雑巾を借り、長い廊下を雑巾がけしていた。雑巾がけなど子供の頃にしかしておらず、変な感慨を覚えながら丁寧に掃除を終わらせている。
「木場君、少し頼まれてくれるかね?」
「何ですか?」
「近くのスーパーから味醂を買ってきて欲しい。家内が足りないと言っていてね」
「分かりました。じゃあ行ってきますね」
「待ちたまえ、これを持っていきなさい」
「…バッグ?」
「エコバッグだ。地球には優しくしないとな。その中には味醂代と駄賃が入っている。余った分は好きに使うと良い」
「いえ、そんな…いや、ありがとうございます」
「うむ。では行きなさい」
お使いの駄賃として少しの小遣いを貰う木場。遠慮しようとするが過ぎた遠慮は却って失礼である事を思い出し、ありがたく頂戴する。それを見た蘭の父は1つ頷き、木場を送り出した。
木場は1度部屋に戻り、ショルダーバッグに無理矢理オーガギアと
(…ベルトがゴツゴツして痛いな)
ショルダーバッグは改善の余地アリらしい。
「今日数学の小テストあるの忘れてた…」
「ひーちゃんはおっちょこちょいだからね〜。もしかしたら赤点かも?」
「ちょ、モカ、縁起でもない事言わないでよ!」
「結構難しめだったし、ワンチャンあるかもな」
「巴まで!?」
「だ、大丈夫だよひまりちゃん。…多分」
「……………」
幼馴染5人組は並んで帰っている。が、蘭は1人だけクラスが異なる為に話に入れないでいた(そもそも蘭は
そんな蘭を見かねたつぐみが蘭に話を振る。
「蘭ちゃんは最近の授業はどう?ちゃんと着いていけてる?」
「…え?まぁ、ぼちぼちかな」
半分嘘で半分本当である。家でしっかり宿題や勉強こそこなしてはいるが、授業をサボりがちな為成績が緩やかにだが落ちてきていた。今までは上の下辺りをキープしていたが、最近では中の上に落ちつつある。しかし、補習は幼馴染組でやっている事の妨げになる為、蘭は少し真面目に授業に出ようと思っていた。
「ねぇ、アレ…何?」
「人だろ?それがどうかしたのか?」
「いや、何でだろ…
「奇抜なファッションとか〜?」
「でも、
「ッ!?」
ひまりとつぐみのその発言に、蘭は危機感を覚えた。フォルムがおかしく、全身灰色の人影なんてそうそう居ない。むしろ、それが人間かどうかすら怪しいのだから。
「みんな、逃げるよ!!」
「え!?蘭、いきなりどうしたの!?」
「良いから、早くッ!!」
「…分かった。みんな、走るぞ!!」
蘭のあまりの気迫に気圧され、全員は踵を返して逃げる。蘭は走りながら後ろを見ると人影が走ってくるのが見えた。それに釣られて全員後ろを見た時、その人影の姿が街灯で照らされる。
「ば、バケモノ!?」
「蘭、アレを知ってるの!?」
「偶々ね!捕まったらヤバいらしいし、早く逃げる!」
女子高生5人の全力疾走を以てしても、彼我の距離は変わらない。全員体力は有る方だが、
(木場が居ないと…でもどこに居んの!?ケータイ使おうにも連絡先なんて知らないし…)
遊ぶ事にも飽きたのか、ジリジリと距離を詰めてくる。口らしき部分からは長い前歯が、手からは鋭い爪が伸び恐らくアレが攻撃の手段である事は容易に想像できる。
「…え!?何これ!」
「こんな所に壁なんて無かったよね…どうして?」
「そんな事を言ってる場合じゃないぞモカ!どうするんだ、蘭!?」
本来は一本道である筈の道路を塞ぐ壁。本来、それは壁ではなく、ダムと呼称すべきものだ。今蘭達を追うオルフェノクの名は【ビーバーオルフェノク】。その固有の能力は水中での機動力とダム生成能力。そのダムは例え地上であっても壁として機能する、テリトリーの中での戦闘を得意とするオルフェノクだ。
蘭は鞄を威嚇する様に振り回すと、この状況を打開できる人物の名を叫ぶ。
「木場ッ!!!早く来てぇぇぇぇ!!」
そして鞄をオルフェノクの身体に叩き付けるが、全く効いていない。角は相当硬いが、それは所詮人間に当てた時の話だ。人を超越したオルフェノクに、その程度の打撃が効く筈が無い。1度ではなく2度、3度と叩き付けるが、流石に苛ついたのか鞄を手で掴むと、蘭を放り投げる。一応体育で柔道をしていた事もあり、受け身を取るが肺から空気が押し出され、咳き込んでしまう。その間にもビーバーオルフェノクは近付いてくるが、屈して堪るかと蘭はオルフェノクを睨み付ける。
蘭の目前まで迫ったビーバーオルフェノクは爪を突き刺そうと手を振り上げるが、不意に身体が横にブレた。
「うおおぉぉぉぉぉ!!!」
巴がタックルをブチかまし、オルフェノクを転倒させたのだ。不意打ちを考慮していなかったビーバーオルフェノクは倒れ、4人の鞄で滅多打ちにされる。
「み、みんな!?何してんの、危ないから止めて!」
「それを、してたのは、どこの蘭かな〜!?」
「蘭だけに、任せてられないよ!」
「ホント、1人にすると、危なっかしいヤツだな!」
「私達も、頼ってよっ!みんな、幼馴染なんだから!」
息を切らしながらオルフェノクに鞄を叩き付ける幼馴染達。その姿に感動する蘭だが、オルフェノクはその限りではない。当然の様にその包囲網から抜け出すと、器用に爪の間に4人の鞄を挟むとそのまま振り回して転ばせる。人間離れした膂力に振り回されれば、世間から言うとか弱い女子は容易く転んでしまう。
「蘭…どうするんだ…?」
「絶体絶命、かな」
普通ならば間に合わない。このまま【使徒再生】攻撃を喰らい、灰になるかオルフェノクとして蘇る。それが普通だ。そう、普通なら。
「――良く踏ん張ったね、みんな。後は任せて」
オルフェノクの身体に3発の光が突き刺さる。一瞬の硬直、その直後に爆発し、ビーバーオルフェノクはもんどり打って吹き飛ぶ。
「…遅い。遅過ぎ、木場」
「まだこの辺の道、覚えてないんだ。ゴメン。あと、コレ預かっといて」
木場はそれなりに重くなっているエコバッグを蘭に手渡す。その途中も、全力疾走してここに来たせいか息切れしていた。
「まぁ、間に合ったから良いけど」
「き、木場さん?アレに何したんですか?」
「…後で説明する。蘭ちゃんも粗方の事は知ってるし、蘭ちゃんからも説明しえ貰うから安心してくれ。まぁ取り敢えず――」
木場はベルトを巻き、オーガフォンに0を3回入力してENTERキーを押す。
『STANDING BY』
「――これからの事は他言無用で頼むよ。変身」
『COMPLETE』
ベルトにオーガフォンを差し込み、横に倒す。黄金の
オーガはベルトにマウントしているオーガストランザーにミッションメモリーを差し込む。
『READY』
無機質な音声が響き、短剣がフォトンブラッドにより長剣に姿を変える。【冥界の剣】とも呼ばれるその剣を構えると、オーガはゆっくりと歩き始める。ペースは変えず、ゆっくりと。
ビーバーオルフェノクは大きく腕を振りかぶってオーガを爪で斬り裂くが、手応えは無い。袈裟掛けに振り下ろした爪はオーガの堅い装甲に阻まれ、斬る事が出来なかったのだ。木場は右手の拳をビーバーオルフェノクの腹部に叩き付ける。ドゴムッ、と鈍い音を立てて吹き飛ぶビーバーオルフェノクに、オーガは跳躍して蹴りを加える。それだけで既にビーバーオルフェノクはフラフラとしている。
逃げようとするビーバーオルフェノクだが、オーガはそれを許さない。背を向けた瞬間に疾駆し、その剣で背を斬り裂いたのだ。眩しく火花を立てて転がるビーバーオルフェノクに走って追い付いたオーガはその膂力を活かし、転がるオルフェノクを思い切り上に放り投げる。水陸両用とは言え空中では思うように動けないらしく、バタバタと手足を動かすビーバーオルフェノク。オーガはその様を見る事無く、ベルトに差し込んだオーガフォンを開くとENTERキーを押す。
『EXCEED CHARGE』
オルフェノクにとっての死の宣告が鳴り響く。オーガストランザーにフォトンブラッドが送り込まれ、巨大な剣を形作る。オーガが剣を思い切り上に突き出すと、それに釣られてフォトンブラッドの刀身も突き上がる。その刀身はビーバーオルフェノクを容易く貫き、『Ω』の紋章を浮かべると蒼い焔が身体を灰に還す。
「…ふう。よし、じゃあみんな送って――」
「「「「………………」」」」
「――木場、諦めよう」
「…分かったからその目で見るのは止めてくれ。ちゃんと説明するから、蘭ちゃんの家に行こう」
「そう言えば、このバッグって何入ってるの?」
木場の事だから、対オルフェノク用の道具なのだろう。そう考えていた蘭に、予想外の言葉が掛けられる。
「その中?味醂だよ」
「…………」
戦闘があっさりし過ぎてないか?それも仕方無いんですよね。オーガは文字通り『仮面ライダーファイズに於いて最強』ですから。主人公よりも強いです。そんなオーガが序盤から苦戦してたら多分人類生き残れないです。初めからパラロス風の世界になります。