いつかまた、静かなる丘で   作:ツム太郎

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化け物と化し、咎人を殺す。


こんにちは、咎人共よ

こんにちは、咎人共よ

 

 

 

人間が死んだ後、再び人間になれるとは限らない。

 

それは虫であったり、獣であったり、野に咲く花であったり。

否、もしかしたら転生という言葉すら無く、生まれ変わることも無いのかもしれない。

そんな不明瞭な暗闇の先で、とある青年はその瞳を開けた。

 

青年は自らを覚えている。

名も、性別も、口癖も、趣味も。

己を特徴づけるほぼ全てを覚えていた。

自分は先ほど家に帰宅し、食事をし、風呂に入った後、眠りに着いた筈だ。

いつもと変わらない、ならば目を覚ました後もいつもと変わらない筈だ。

記憶をたどり、そして結論付ける。

自分は、いつもと違った行動などとった覚えはない。

何度も考え、何度も思い出し、その結論に至った。

故に、目の前の光景を信じることが出来なかった。

 

赤と黒、青年が見た光景はコレが全てであった。

部屋一面、などと生易しいモノではなく、空、地面、建物、ありとあらゆるものが赤黒く、禍々しく歪んで見えた。

次に獣、生きているとも言い難い、青年のあらゆる知識に該当しない化け物がその地を支配していた。

目や鼻が分からぬほどに顔が膨れた看護師。

ズルズルと音を立て、肥大化した腕を引き摺る男。

体の一部のみを融合させ、カクカクと動く人形。

挙げればキリがない程、様々な化け物がそこらに蔓延っていた。

 

見ているだけで正気を失いそうなその姿に、しかし青年は意識を失うことが出来なかった。

体が許さなかったのだ、悲鳴を上げようとも声は出ず、逃げようとも足は動かず、視線を逸らそうとも瞼を閉じることすら叶わない。

体中にありとあらゆる苦痛を感じながら、青年は何一つ行動できない。

ただただ、目の前の異様な光景を見続けることしか出来なかった。

 

それからもう一つ、青年の身にありえない何かが起きていた。

それは雄叫びであった。

青年が震えることも出来ぬまま怯える中で、頭の中に獣の雄叫びのような叫び声が響くのだ。

最初は何を言っているのか理解できなかった、ただただ獣が叫んでいるような、酷い耳鳴りのようにしか聞こえなかった。

しかし、眠ることすら許されない状況で妙に研ぎ澄まされていく神経は、その雄叫びを人語として聞くことを可能とした。

 

それは声であった。

底冷えするほど冷たく、燃えるように熱い、そんな矛盾を孕んだ叫び声。

常人ならば聞き続けるだけで正気を失いそうな叫びが、青年に語りかける。

 

 

 

咎人を殺せ、この地は汝が為に

 

 

 

その叫びは、青年の頭の中にスルリと溶け込んだ。

すると同時に体が動くようになった。

そのまま自分の体を見ると、錆び付いたように赤黒く変色した巨大な肢体が瞳に映った。

薄々感づいてはいたが、見慣れた自分の体ではなくなっていた。

そんな事実を前にしても、イマイチ実感がわかなかった。

そして右を見ると、巨大な鉄の塊があった。

徐にそれを持った瞬間、青年の頭に浮かんだのは怒りだった。

 

それは単純な考えであった。

何も分からない、理解できない。

ただ気付いたらこんな所に連れ去られて、何の説明もなく化け物にされていた。

なんで自分がこんな目に合わなければならない、ただの人間の自分が。

そんな至極当たり前の考えが、まるで塞き止めていたダムが決壊したかのように、青年の頭の中を駆け巡った。

 

そして思い至った。

他人にも同じくらい苦しみを与えてやる。

絶対に、思い知らせてやる。

そんなただの八つ当たりに近い感情を原動力として、青年は鉈を片手に己の体を再び支配した。

 

そこからの青年は、この地を利用する悪鬼のようであった。

街の形をするこの地を利用し、迷い込む人間を殺し続けた。

 

元々、この地に人間はいない。

しかし外からやってくる人間は存在した。

青年は、そんな人間がどのような部類なのか理解できていた。

 

来訪者たちは、皆断罪から逃げる者達ばかりだった。

かつての過ちを認めず、向き合おうとしない者、しかし逃げ切ることもできず無意識の中で断罪を求める者。

そんな者たちが最後に流れ着く場所、それが此処であった。

 

ならばくれてやろう。

罰をくれてやろう。

そんなに死にたいのなら殺してやる、同じ苦しみを味わいながら地獄へ落ちろ。

そう考えながら、青年は巨大な鉈を振るいその身を両断した。

 

青年に殺しに対する抵抗は無かった。

抵抗よりも、怒りが勝っていたのだ。

故にその動きにも一切の迷いは存在せず、女も男も関係なく、その首を切り裂き、心臓を貫いた。

最早まともな倫理など存在しない身を使い、青年はあらゆる来訪者を殺し続けた。

 

それは途方もない時間であった。

比喩でもなく、例えでもなく、青年は膨大な時間をその空間で過ごした。

何十年、何百年と来訪者を殺し、自らの怒りを鎮めていった。

狂いに狂い、殺しに殺し続けた結果、彼の心の中から「八つ当たり」は消えた。

代わりに、この街の支配者としての自分を受け入れ、咎人を理不尽に裁く事を責務として受け入れ、己が身を真の怪物へと昇華させるに至った。

 

そんな時であった。

街を彷徨う中、自分が何かに引っ張られるような感覚を覚えた。

何かが自分を呼んでいる気がした。

 

それが何かは瞬時に分かった。

かつて殺した咎人の中にいた、魔術師とかいう連中。

ソレは青年が化け物になった後にも唯一残った、かつての世界の知識にも該当した。

だが、そんな知識は彼にとってどうでもよかった。

既に自分がどのような世界に迷い込んだのか、という事にすら興味が無くなっていた彼にとって、残ったことは「呼ばれた」という事実だけ。

 

ならば出向いてやろうか。

咎人が街に来訪する事と、咎人が断罪を呼び寄せる事。

多少の違いはあれど結果は同じだろう。

 

なぜ自分が呼び出されるのか、その理由は分からない。

ヒシヒシと感じ取れる。

自分を呼ぼうとする人間は、恐らく罪を罪とすら思わない人間だ。

この街を求める咎人とは大元が違う。

言ってしまえばただの偶然なのだろう、かつて自分が感じていた理不尽と似通った、ありえてしまった可能性なのだろう。

 

しかしまぁ、呼ばれたことも事実だ。

それならば、行って責務を果たすとするか。

そう思い、彼は鉈を片手に外へ出た。

彼が狂気に身を寄せてから、おおよそ500年後の時であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に呼び出してはならない英霊が存在する。

 

そう言い伝えられるようになったのは、第二次聖杯戦争の時からであった。

事の発端は、とある下劣な魔術師が行った英霊召喚であった。

その魔術師は自らの金と権力を使い、己の欲を思うままに満たす傲慢な人間であった。

そのためには他者の地位を無くさせ、資産を奪った。

時には殺すことすら平然と行うような、まさしく俗世にまみれた外道であった。

 

そんな男が次に目を付けたのが聖杯戦争だった。

輝かしい栄光を得たいと考えた男は我先に参加を表明し、誰よりも先に英霊召喚を行ったのだ。

欲したクラスはセイバー、優れたクラスであるといった理由ではなく、単に自分に相応しいクラスだからという、あくまで利己的な理由であった。

 

結果を先に言えば、男は召喚に成功した。

いや、失敗したのだろう。

男は召喚したと同時に姿を消したのだ、その場に居合わせた多くの部下と共に。

不可解なのは、その場に魔術を行った痕跡がまるで見つからなかったことである。

自分に反抗的なサーヴァントが召喚されたとして、仮に殺されそうになったとしたら、多少なりとも抵抗するはずだ。

特に男の性格を知る者は、無抵抗にサーヴァントの攻撃を受けるなどありえないと思うだろう。

だが、男は消えた。

現場にわずかな血痕のみを残して。

はたして、男はどんな英霊を召喚したのだろうか?

男なのか女なのか、どんな武器を使っていたのか、魔術は使えるのか、そもそも本当にセイバーだったのか。

協会は総出で事の真相を探ったが何一つ手掛かりは見つからず、結局原因は分からないまま調査は打ち切りとなった。

 

様々な疑問、不可思議を抱え、結果としてこのような言い伝えが広がったのである。

その後、最終的にはセイバーのクラスは別の魔術師が召喚し、聖杯戦争は改めて開始されたという。

そして一度蒔かれた疑問の種は消えることなく、後世まで残ったのである。

決して召喚してはならない、正体不明の化け物として。

 

 

 

 

 

だがしかし、この正体不明のサーヴァントは再び呼び出されることになる。

舞台は日本、火の海と化した冬木市。

召喚した者は、前回と同じく咎人なのか?

いや、そうではない。

咎人どころか、大人ですらない。

魔術も知らず、英霊も知らない少女、藤丸立香。

彼女の召喚に応じ、化け物と化した青年は、表舞台へ姿を現したのである。

 

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