いつかまた、静かなる丘で   作:ツム太郎

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彼女は知らぬ間に呼び寄せ、街に試される。


何も知らぬ愚か者か、全てを包む無垢なる者か

「はっ…はっ…はっ…!」

 

藤丸立香は息を荒げ、ひたすらに走っている。

何かに怯え、必死に逃げようとする。

彼女は霧の立ち込める、人一人存在しない街の真っただ中にいた。

 

「どこか…どこかに隠れないと…!」

 

頼れる仲間も武器もない状況、それでも彼女は突破口を探し、なんとか「追っ手」を撒こうとしていた。

しかし、どれだけ走っても霧が深まるばかり、やっと見つけた建物も鍵がかかっており、何故か窓ガラスを割ることすら出来なかった。

恐怖と疲労で震える足を叩き、少しでも自分を追う化け物たちから距離を伸ばそうとする。

 

暫くして、霧の先に運良く見つけた物置の陰に隠れた彼女は、震える肩を両手で押さえながら必死に呼吸を整えようとする。

しかし、その焦りが新たな緊張を呼び上手く冷静を取り戻すことが出来ない。

 

(なんで…なんで私…こんな所に…? そもそも…私はあの冬木って所に…)

 

何度も深呼吸をしながら、彼女は今までのことを思い出す。

なぜ自分がこんな場所にいるのか、彼女には全く分からなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

人理継続保障機関カルデア

 

彼女はついさっきまで、雪山に砦を構える機関に身を寄せていた。

簡単な理由だ、突然家にやってきた怪しげな女性から、とある簡単なボランティアの勧誘を受けたというだけ。

なぜ自分なのかと問うと、「貴方にそのボランティアをやるにあたり適性があることが分かったため」と随分簡単な返答が返された。

 

(簡単なボランティアなのに、適正とかあるのかな?)

 

そんな素朴な疑問を抱いたりもしたが、結果立香はその勧誘を受けた。

怪しげではあったが、それ以上に興味が湧いたのだ。

自分の知らない景色を見て、今までに感じたことのない何かを得られるんじゃないか。

そんな希望を抱いて、彼女はカルデアへ旅立ったのだ。

 

実際、カルデアという場所はとても良い所であった。

魔術なんて突拍子もない事を聞いた時には目を丸くしたが、直ぐに受け入れることが出来た。

全てが真新しい、全くの新世界が広がっていた。

 

そこで彼女は様々な人にも出会った。

マシュ・キリエライトは心優しく、レフ・ライノールは穏やかな人であった。

オルガマリー・アムニスフィア所長は多少気難しい人ではあったが、直ぐに仲良くなれそうな気がした。

フォウはとても可愛いし、ロマニ・アーキマンはすごく面白い人だった。

そんな人たちと交流しながら、彼女は楽しい時間を過ごしていった。

 

しかし、そんな時間はそのまま続かず、いきなりその異変は起きた。

自分たち以外のマスターと呼ばれる人たちが、レイシフトと呼ばれる時間遡行をしようとした時に突如サイレンが鳴り響いたのだ。

アナウンスを聞くと、原因は分からないがレイシフト直前に何かしらの事故が発生したらしい。

赤いサイレンの光が辺りを埋め尽くす中、その時に彼女の頭に浮かんだのは先ほどまで笑顔で話していたマシュの顔であった。

 

彼女を心配し事故現場に駆けつけると、そこで立香は倒れた柱の下敷きとなり瀕死の状態となったマシュを見かけたのだった。

立香はマシュの願いを受けてその手を握り、共に最後を迎えようとしていたが、その瞬間にレイシフトが行われ二人は火の海となった冬木市へ送られたのだ。

 

その後、デミサーヴァントとなったマシュと再会した彼女は骸骨に襲われていた所長を助け、現地で聖杯戦争を繰り広げていたキャスター・クーフーリンに救われた後に、英霊召喚を行ったのだ。

ソレは所長の提案であり、今後のことも考え、一人でも多くの戦力を用意するべきである、という考えからであった。

 

暫くして、運よく召喚の材料を集めることに成功した彼女たちは、その場で英霊召喚を行った。

強く優しい英霊、どうか力を貸してください。

瞳を閉じ、そう強く願いながら立香は教えられた召喚のための詠唱を唱え始めたのだった。

 

そして詠唱を終え、魔法陣が光り輝きだした瞬間、ふと立香は何かが聞こえた気がした。

ソレは金属を擦りあわせた時に生じるような音であった。

一体何が起きたのか、そう思い目を開くと周りの状況は一変していた。

辺り一面は火の海ではなく霧の立ち込める異様な街になり、マシュや所長、クーフーリンの姿は無かった。

 

一体何が起きたのか、そう思いながら辺りを見渡していると、ふと霧の向こうで何かが動いているように見えた。

良かった、人がいるのか。

そう思い彼女は人と思い込んだソレに話しかけたのだ。

 

 

 

 

 

 

そしてその結果、現在の逃亡劇に至る。

人だと思っていたのは見たことのない化け物であり、自分を見かけた瞬間に追いかけてきたのだった。

なんとかしてこの街から出て、マシュ達と合流しないと。

そう考えながら物陰から辺りを見ようとした瞬間、肉を引き摺るような気味の悪い音が響いた。

 

「ッ!? き、来た…!」

 

「………」

 

その化け物は一切の言葉を発さない。

代わりに途轍もない異臭を発して、立香に這い寄っていた。

薄汚れたゴムに生肉を詰め込んだような、顔の存在しないソレは薄眼で見れば人間のようなシルエットをしていた。

 

「な、なんとか…なんとかして逃げないと…」

 

どうにかこの場を脱しようと思考するが打開できる策は思いつかず、対する化け物は着実に立香との距離を縮める。

 

もうダメかと諦めかけたその瞬間、ドンとその場に銃声が響いた。

 

「……え?」

 

何が起きたのか分からず、化け物を見ると苦しそうにのた打ち回った後、ピクリとも動かなくなった。

一体誰が?

そう思った時、後ろから声が聞こえた。

 

「おいっ、そこのお前! ここで何をしているッ!」

 

そんな怒鳴り声が聞こえ、彼女はほんの少し体の緊張が解けるのを感じながら背後を見た。

そこには一人の男が立っていた。

緊張が解けたと同時に四肢にジワリと熱が広がっていくのを感じながら、その男を観察する。

青色のキャップ、赤チェック柄のシャツの上に薄い黄土色のベスト、少し汚れたジーパンを身に付けた20代くらいの外国人。

男の手元には大きな銃が見えた、恐らくあれでさっきの化け物を打ち殺したのだろう。

 

「あ、あの…貴方は…」

 

「俺のことは後だ、なんでこの街にいる? 見た所君はまだ子供だ、この街に裁かれるような罪もないだろう?」

 

そう問われて彼女は考える。

なぜ自分はここにいるのか?

 

「わ、私は…だめ、分からない。 そもそも、私はカルデアにいて…いきなり事故で何もかも燃えて…いきなり冬木って所にレイシフトされてから…戦力が必要だって言われて、誰かを召喚しようとしてた…それで…何かを呼び出したと思ったら…ここにいたの…」

 

そんな彼女の独り言のようにか細い声を聞きながら、男は眉を顰めた。

 

「…まさか、その召喚とやらでアレを呼び寄せたのか? なんでよりにもよってアレを…」

 

「…分かるんですか? 私が呼び出した人が誰なのか」

 

「お嬢さん、間違ってもアレを人と思うな。 アレは辛うじて人の形をしているが、その実全てが俺たちの理解を超えた存在だ。 この街の獣共と、街そのものを支配する正真正銘の化け物、それが奴だ」

 

そう言って男は持っていたショットガンに弾を込めると、どこかに向けて放つ。

すると、放った先からドサリと何かが落ちる音がして、その後何の音もしなくなった。

 

「…貴方は、何者なんですか? それに、この街はいったい…」

 

「…俺はトラヴィス、目的を果たすためにこの街にいる」

 

そう言って彼はまた弾を込め、辺りを見渡しながら彼女の質問に応えていく。

 

「この街には名前がない、断頭台の末席、錆び付いた故郷、静かなる丘…ここに来た人間は皆好きなように呼ぶ」

 

「な、名前が無いって…」

 

「無いものは無いんだ、だから来た人間はこの街の特徴を知って、自分で勝手に名前を付けるんだ」

 

「特徴…化け物がいるってことですか…?」

 

「まぁ外見的な面で判断するヤツもいるが、一番重要なのはやってくる人間にある。 この街に来るやつは皆、違う場所で何かしらの罪を犯した奴だ。 この街は、そんな咎人達を逃さず殺しつくす」

 

そこまで言うと、彼は意を決したかのように立ち上がった。

そしてとある方角を見ると、隠れていた物陰から出た。

 

「…よし、ついて来い。 出口まで案内する」

 

「で、出口があるんですか!?」

 

「当たり前だろう、入口があれば出口もあるもんだ。 まぁこの街から出るのは、通常の街とは少し勝手が違うがな」

 

そう言いながら、男は立香の先を行き、途中で現れる化け物を全て銃殺していく。

暫く歩き続け、廃病院のような外見をした建物近くまでたどり着くと、男は徐に口を開いた。

 

「見た所、お嬢さんはここで裁かれる咎なんて持ってないだろう? 普段そんな子がこの街に来るなんてありえないんだが…現にこうしてイレギュラーで来てしまっているのも事実だ。 なら、何の罪もない君を街の犠牲にする必要なんてないだろうさ…っと、ここだ」

 

そこから少し歩いた場所で足を止めると、男は後ろにいる立香を前へ促した。

彼女が不安げに前を見ると、そこには鎖で雁字搦めに縛られた扉が一つ。

建物にあるわけでもなく、扉のみが不自然にそびえたっていた。

 

「…これが出口…ですか…?」

 

「あぁ、コイツは街の至る所に出てくるんだが…今回は運が良かったな。 まだ前に見た時から移動していなかった」

 

そう言うと男は扉の鎖に向かってショットガンを放つと、鎖は簡単に千切れ扉がギィと開いた。

 

「さぁ、君はここから早く出ろ。 さっさとしないと、裏を見る羽目になるぞ」

 

「と、トラヴィスさんは一緒に出ないんですか? それに裏って…この街にまだ何かあるんですか?」

 

不安げに彼に質問すると、男は意外そうな顔をした後、優しく微笑んだ。

 

「君は…とても優しいんだな。 大丈夫、俺はこの街に慣れているし、まだやることがある。 裏に関しては失言だったな…知らない方がいい、すまないが忘れてくれると助かる。 …さぁ、行きなさい!」

 

そう言うと男は勢いよく扉を開けると、その奥へ彼女を押し込んだ。

 

「えっ? …なっ!?」

 

「じゃあなお嬢さん、二度と会わないことを祈っているぞ!」

 

そう言われて押し込まれた先、そこは何もない闇が広がっていた。

地面すらなく、彼女の体はそのまま闇の奥底へと落ちていく。

悲鳴すら上げられず、理解も十分にできないまま、ふと先程通った扉が目に映った。

そこには自分を導いてくれた男がいたが、一瞬その姿にノイズが走ったように見えた。

 

一体どうして?

そう考える暇もなく彼女は意識を失い、更なる奥底へとその身を任せていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ター」

 

どれだけ経ったのだろうか。

ふと彼女は意識を取り戻した。

 

(誰かの声…)

 

そう思い、瞼を開こうとするが上手く開けることが出来ない。

 

「…スター。 マスター…」

 

マスター、そう聞こえた。

 

(マスターって…そう言えばさっき、マシュからも同じように言われて…)

 

そう思った時、全てを思い出した。

自分が何をしないといけないのか、何処へ向かわないといけないのか。

その瞬間、聞こえていた声がはっきりと聞こえ、目を見開くことが出来た。

 

「マスター、早く下がって下さい! 必ず私が守り通しますから!」

 

「何やってんだ嬢ちゃん! 早く引け! コイツは何時までも抑えてられる相手じゃないぞ!!」

 

『何だこれ、霊基が不安定どころか、コロコロ変わっていく!? さっきまでセイバーだったのに、今はライダー…また変わった!? 見たことのない霊基にまで…立香ちゃん、そこに何がいるんだ! 一体何を呼び寄せたんだ!?』

 

多くの叫び声が響く中、彼女が見たのは体中に傷を受け肩で息をしながらも、自分の前に立って防御の構えをとるマシュと杖を構えるクーフーリン。

怯えきって腰を抜かし、逃げることすらできていない所長に、何かに威嚇し続けるフォウ。

 

そして、全員が視線を向けるその先。

 

「……」

 

その先には、赤黒い血にまみれ、歪な三角錐型の兜を付けた人のような何かが、巨大な鉈を片手に此方を悠然と見据えていた。

 




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