いつかまた、静かなる丘で   作:ツム太郎

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どれだけ変わろうと、その根底は永劫変わりはしない。


躊躇いは無く、しかし震えは止まらない

躊躇いは無く、しかし震えは止まらない

 

 

 

即座、アルトリア・オルタは飛び退き、その斬撃を回避した。

紙一重で躱したその狂刃は、彼女が先程までいた場所を両断し、床を容易に砕いた。

 

「チッ、成程。 これが貴様の正体か、化け物め…何?」

 

目の前の異様な怪物に悪態をつくと同時に、彼女の両隣から新たな影が生じた。

 

「……」

 

「……」

 

その影より現れた獣は二体。

どちらも古ぼけた看護師の服装をしている。

辛うじて人らしい四肢は見えた。

しかしその色は人間のソレではなく、生気を感じない灰色の肌をしている。

さらにはその顔。

目や鼻、人間の持つ顔の部品は一切存在せず、パンパンに膨れ上がった顔の表面のみが見えた。

二体は、その姿を完全に体現させた瞬間、錆び付いたメスを握りアルトリア・ペンドラゴンへと迫ってきた。

 

「ッ、来るか。 ならば容赦はしないぞ、異形の者共…」

 

そう言って、彼女は二体を迎え撃つ。

先に迫ってきたのは右方の獣。

持っていたメスを前方へ向け、体をカクカクと人形のように動かしながらアルトリア・オルタの喉元を狙っていた。

そして横切りに首を切り裂こうとした瞬間、彼女は少しだけ顎を上げることで紙一重に交わした。

 

「ふん、その程度の動きで私を倒せると思っているのか? 舐められたものだ!」

 

そう言い放つと、彼女は手に持つ剣を高速で切り上げ、迫って来ていた獣を両断する。

 

「……」

 

獣の体は真っ二つに分かれ、メスはその場に乾いた音を立てて落ちた。

分かれた体はそのまま霞のように消えていき、次の瞬間にはその場に何も無くなっていた。

 

「…成程、コイツらは只の人形か」

 

その様子を見て、アルトリア・オルタはすぐに獣たちの本質を見切った。

直ぐに左方にいたもう一体の獣を、振り上げていたメスごと切り捨て、最初に現れた鉄兜の化け物を見つつ再び剣を構えた。

 

「貴様だ、貴様が獣共の首輪を握る者だな? 貴様を殺せば、この街も消える。 しかし、生かしておけば街は残り、獣共も無限に湧き続ける…違うか?」

 

「……」

 

返答はなく、しかし代わりに、辺りから再び影が生じる。

先程現れた数は二つ、しかし次は十二に増え、その場に満ちる殺気はさらに濃い物へと変わっていく。

 

「…正解か、脆弱だな。 裁きだのなんだのと大層なことを言っておきながら、結局は配下を無限に増やし自分を守ることしか出来ぬとは…」

 

そう言うと、彼女はその剣を両手で持って後ろへ向ける。

そのまま力を込めると、その黒い刃は歪な光を放ち始めた。

 

「貴様の底も知れた、恨みは一切ないが…ここで消えてもらうぞ」

 

「…ほぅ、それが君の生前に歩んだ軌跡の証…宝具か」

 

そんな時だ、部屋の片隅より声が聞こえた。

チラリとだけ見ると、ソコには部屋が変化したその時から一切動かない男が一人。

周りが不可解な変化を続ける中、全くの変化がない男を見て異様な不気味さを感じながら、彼女はその手を緩めなかった。

 

「…その通り、この剣こそ反転した我が写し身、光を呑む漆黒の極光だ。 この化け物を殺せば、貴様もすぐに消えるのだろう?」

 

「ふむ、反転し幾分か直感が鈍っているかと思ったが、案外機能している…これに関しては、私の予測が甘かったか」

 

「ふん…貴様の戯言も聞き飽きた。 これで終わりだ」

 

彼女は化け物達にトドメを刺そうとした。

光は限界まで込められ、鉄兜の化け物はおろか、赤黒く変色した街までも巻き込んで全てを破壊しようとしていた。

 

「卑王鉄槌、沈むがいい…」

 

 

 

そして、彼女がその黒い光を放とうとしたその瞬間だ。

彼女の手に会った剣の光が、一瞬にして消滅した。

 

 

 

「なッ…に…!?」

 

自分の身に、剣に何が起きているのか理解できず、彼女はその眼を大きく見開き剣先を見た。

体がグラつき、膝をついてしまう。

先程まで剣に宿っていたまばゆい光は消え失せ、黒いその身を露出させてしまっていた。

 

「何…だ…? …ッ!」

 

事態の把握も出来ないまま、彼女の周囲に先ほど現れた獣たちが迫る。

そのうちの一体は既にメスを彼女に目がけ振り下ろそうとしていた。

躱すには遅すぎる。

そう判断したアルトリア・オルタは、剣を前に出して防御しようとした。

 

だが、剣から伝ってきた衝撃は、彼女の予想を大きく上回るものであった。

 

「ッ!? グ…!?」

 

大きすぎる衝撃は彼女を地面に貼り付け、その場から逃げる事を許さない。

彼女はただ歯を食いしばり、獣の猛攻を耐えることしか出来なくなっていた。

 

(なんだ…何が…起きている…? 此奴らは…こんな力を…いや、違う…!? 逆だ、此奴らが強くなっているのではなく、私が…)

 

弱くなっている。

 

そう思った時、背中に激痛が走った。

後方より迫っていた別の獣が、その刃を彼女の背に深々と突き刺したのだ。

 

「グ…この…ガッ!?」

 

彼女の意識が後方へ向かってしまった瞬間、いつの間にか自分を囲っていた獣たちが一斉にアルトリア・オルタに刃を刺していった。

 

肩、腕、膝、足、様々な部位に凶悪な刃を受け、彼女は遂に剣を手放しその場へ倒れこんでしまった。

 

「グ…う…」

 

「…コレが、君の結末だ。 ペンドラゴン殿」

 

声が聞こえ、ゆっくりと顔を上げると、やはり一切の変化を見せない男が一人。

男は彼女が放してしまった剣を拾い上げると、その剣先を彼女に向けた。

 

「…何の…つもりだ…」

 

「言っただろう? 罰を受け入れろ、と」

 

そう言うと、今まで変わりなかった男の体が歪み始めていった。

倒れ伏した最早彼女には確認できなかったが、同じタイミングで鉄兜の化け物の姿が霧のように霧散し、残った殺意のみが男の下へと移されていく。

 

「君をその地に張り付けた者達、彼らに見覚えは?」

 

「…な…にを…見覚えなど…ある筈が…」

 

そう言って、彼女はふと視線を横に向けると、自分を囲っていた獣たちの姿が違っていることに気付いた。

 

「……」

 

その姿は先程までの看護師のような姿ではなく、重厚な鎧や剣をそれぞれ身に付けている。

同じデザインではなく、それぞれ特徴がある。

 

「…成程、そういう…ことか…ふ…趣味の…悪い…」

 

彼女には見覚えがあった、見間違えようも無かった。

彼女を倒した十二の獣、その姿は自分が生前円卓に座ることを許した騎士達であった。

 

切り裂かれ、打ち砕かれ、ボロボロになった鎧を身に纏う騎士たちは、その表情を見せずただ黒い顔に浮かぶ瞳で彼女を見続けていた。

そして、最初に目の前に現れて自分に猛攻を仕掛けた獣、ソレは心臓ごと鎧を貫かれ、赤黒い血を垂れ流していた。

 

「…ち…うえ…」

 

「反転した…この身でも…捨てきれて…いなかった……という…ことか…」

 

既に弱り始めていたその身は完全に動くことを止め、心までも沈みつつあった。

瞳は既に諦めの色を宿し、その姿は正しく咎人のソレであった。

 

「…ゆっくりと瞳を閉じなさい、息を深く、眠るようにその身を委ねるんだ」

 

気付けば、男の姿は鉄兜の化け物へと変わっていた。

持っていたエクスカリバーは巨大な鉈に変わり、悠然と彼女を見据えている。

 

 

 

「…結局、私は…何も為し得ない…か……やれ」

 

『…汝、罪を受け入れる事無かれ』

 

 

 

説き伏せるように囁くと、化け物はその凶刃を彼女の首へと振り下ろした。

ソレと同時に彼女の身は端より光の粒子となって消えていき、辺りも冬木市へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「さて、あちらも終わったかな? …おっと、主はもうすぐご到着か」

 

化け物もいつの間にか男の姿に戻り、目の前の空間を睨み付けた。

すると睨んでいた空間に古ぼけた窓が現れ、開くと三つの光景を写し出した。

ソコには赤い服の男にトドメを刺すクーフーリン、この場へ向かってくる立香とマシュ。

 

そして、異様な形相でこちらを見つめる男が一人。

緑色の服を着た男、レフ・ライノールが見えた。

 

「…貴様は…何者だ…?」

 

不意に後方より声が響いた。

振り返ると、先程見たレフがこちらを見ていた。

 

「何者か…かね。 随分と漠然とした質問だな、化け物」

 

「ふん、貴様に言われたくはない、この化け物が…!」

 

レフがさらに顔を歪ませ、明らかな敵意を持って睨み付けるが、対する男は薄い笑みを浮かべるのみ。

 

「貴様は…貴様は人類の終着点…いずれ辿り着く醜悪の極み…それが貴様だ、違うかッ!?」

 

「なんとも、過大評価してくれたモノだな、私はただのサーヴァント、それ以上でもそれ以下でもない…そろそろ到着かな? では、あとは任せるよ? レフ・ライノール」

 

「何ッ!? 貴様、どういうつもりだ!」

 

レフは言うと同時に姿を消していく男に向かってそう叫んだ。

疑問がいくつも浮上したのに、その一切の解明も許さず消えようとする。

そんな男を留めようとする以外の選択肢が、レフにはなかった。

 

「彼女に現状を説明する役は、私ではなく君が適任だ。 なに、心配することは無い。 君の前にも、近いうちに再び現れよう。 その時が早く来ることを祈っているよ」

 

男は意にも介さず、その場を後にした。

レフに残ったのは、多くの疑問、不安、そして恐怖。

しかし、いつまでもそのままでいるわけにもいかない。

深く深呼吸をし、少しばかり平静を取り戻すと、直後この場に現れた憎らしい人間たちを見て、カルデアにいた時と同じ笑みをその顔に張り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の結果は、ほぼご存じのとおり。

カルデアで起きた事件の真相を伝えられ、現在のカルデアを見せられた面々はただ燃えるように赤く染まるカルデアスを見ることしか出来ないでいた。

そしてオルガマリーは自らの死亡という事実を突きつけられ、無念を叫びながらカルデアスに放り込まれ完全に消滅された。

 

失意のままレイシフトを終えた面々は、少しの休息を経てロマニと再会。

さらにサーヴァントであるダ・ヴィンチと会い、特異点等の説明を受ける。

そして人理救済のため、己が身の余る使命をやり遂げると決めた。

 

そう、ほぼ変わりはない。

変わったと言えば、ほんの二つだけ。

 

一つ目は冬木市にて。

彼らは冬木市にてアルトリア・オルタと会合することは無かったこと。

 

そしてもう一つ。

 

「あ、ハロルド先生! おはよう!」

 

「あぁ、立香君。 おはよう、今日も元気そうで何よりだ」

 

偶然事故が起きた日に、マスター達を対象にしたメンタルセラピストとして派遣された男が一人いた。

その男はカルデアに来た際、偶然職員を一人も見つけることが出来ず、道に迷い下層の被害が少なかった倉庫にいたため、事故から逃れる。

そして偶然死んでしまった、自分を派遣した職員の紹介状を持って、偶然その場にいた誰にも疑われる事無く、カルデアの一員となった。

 

それだけである。

 

 

 

 




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※前話まででご感想、及びご指摘を下さった方々、誠にありがとうございます!
本来でしたら、全てのコメントにすぐ返信をさせていただきたいのですが、今後少々予定が立て込んでしまっておりまして、返信が困難な状況になっております。
恩を仇で返す形になってしまい申し訳ないのですが、数日後にコメントを返させていただきます。
また、FGOにおける聖杯戦争や、魔術師そのものに関するご指摘をして下さった方々、ありがとうございます。
完全に自分のミスです、知識ガバガバでした…。
次話は今一度設定を見直し、違っている点を修正した後に投稿します!
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