【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

100 / 191
お待たせしました。


第十二話 再会の刃

 石造りの院内に、怪しい香りが立ち込めている。

 まるで霧のように漂う紫色の香は空気中に溶け込み、吸った者を深い眠りへといざなっていく。

 石床の上に倒れる四つの影。その傍には、解毒薬をしみこませた布で口を覆うデルフィンとエズバーンがいた。

 眠りの香によって意識を奪われたグレイビアード達に、デルフィンたちは猿轡を噛ませ、拘束していく。

 

「制圧完了ね」

 

「ああ、これで後は、例のもう一人のドラゴンボーンが来るのを待つだけか」

 

 拘束したグレイビアード達を会議室に押し込めると、デルフィン達は一路、正門へと足を進める。

 

「どうやって仕留める?」

 

「私とドルマでやるわ。ドラゴンボーンとなったケントを封じる手はある。エズバーンは余計なのをお願い」

 

「分かった。しくじるなよ」

 

「ええ」

 

 ドラゴンボーンとして、伝説のドラゴンを退けるほどの成長をした健人。そんな弟子と戦うことになったとしても、デルフィンは全く焦るそぶりを見せない。

エズバーンもまた、デルフィンの言葉にそれ以上疑問や確認を投げかけることはせず、淡々と足を進めている。

 黙ったまま、隣り合って寺院内を進む二人。

沈黙が双方の間に流れる中、デルフィンが唐突に隣を歩くエズバーンに声をかけた。

 

「エズバーン。貴方は普通の生活を考えたことがある?」

 

「いや、ないな。そもそも、そんな余裕などなかった。どこに行っても、心が落ち着くことはなかった。お前もそうではないのか?」

 

「ええ、そうね。眠れた夜はなかったし、常に頭には、サマーセットに残してきた仲間たちの顔が浮かんでいた」

 

 白金協定が結ばれた大戦。この戦いで、二人はすべてを失った。

 寄る辺も、友も、仲間もすべて。

 特にデルフィンは、大戦が勃発する直前まで、ハイエルフの根拠地であるサマーセット島で潜入任務を行っていた。

 そして彼女がシロディールに呼び戻されている間に、サマーセットに残してきた彼女の部隊はサルモールの強襲を受け、全滅。その首が宣戦布告の印として、帝国に送り付けられた。

 

「目を閉じれば、今でも彼らの苦しみに満ちた最後の表情が、頭の中に浮かんでくる……」

 

 共に帝国に忠誠を誓い、共に血と汗を流し、共に困難に立ち向かった仲間達。そのすべてが、苛烈な拷問の末にサルモールに殺された。

 送り付けられた首には拷問の跡と思われる傷が無残に刻まれ、腐ってもなお、デルフィンにハイエルフ達の悪辣な仕打ちを訴えていた。

 

「最初の十年は憎しみで戦い抜いた。次の十年はより強い怨嗟で生き延びた」

 

 仲間達の全滅と、サルモールの宣戦布告。その日から、デルフィンの胸には、サルモールに対する強い憎しみが刻まれた。

 そして彼女は、サルモールとの戦いに身を投じた。

 戦争中は無数のハイエルフを切り殺し、破壊活動を続け、休戦協定で戦争が終わってもなお命を奪わんとする追っ手を退け、時には全滅させ続けた。

 

「でもいつの間にか、憎しみは消えて、諦観と惰性が心と体を麻痺させていった……」

 

 血と憎しみに塗れた人生。その中で、人だったはずの彼女の心は、確実に削られ、摩耗していった。

 そして最後には、憎しみすら削り取れてなくなった。

 

「残ったのはこのブレイズソードと、自分がブレイズだったという矜持だけ……」

 

 残ったのは、異常なほど磨かれた戦いの術と、自身がブレイズであるという誇りだけだった。

 その誇りですら、今の帝国では何の意味もない。

 ドラゴンボーンの血脈はオブリビオンの動乱ですでに失われ、皇帝近衛の任も、ペニトゥス・オクラトゥスに取って代わられた。

 

「だが、今は我らがブレイズであることが必要だ。そしてこれは運命だ。星霜の書に刻まれた、最後のドラゴンボーン。アルドゥインを倒すために、彼女を導くことこそが、我らの使命だ」

 

 エズバーンは脳裏にスカイヘブン聖堂に刻まれた壁画を思い出しながら、声高に自らの正当性を謳う。

 デルフィン自身、エズバーンの言葉を否定する気はない。

スカイヘブン聖堂の壁画を前にした時は、信心深くない彼女も運命を感じた。

 遥かな太古に先人たちが示した予言。それは、今このニルンを取り巻く状況に、全て符合していた。

 星霜の書に刻まれた予言が現実となる運命の時に、自らがブレイズであることの意味。それは、逃亡生活という暗黒の中にいた彼女にとって光明であり、救いだった。

 自分達が耐えに耐え続けてきた数十年に、意味はきちんとあったのだと。

 

「ええ。確かに。そのことに疑いはないわ。でも……」

 

 摩耗したはずの感情が、小さく震える。

 胸の奥に空いた穴を埋めてくれた使命。それとは違う別の感情が、彼女自身に何かを訴えていた。

 

「足を止めたくなったのか?」

 

「いえ、私はブレイズであることを捨てられない。頭にこびりついた彼らの顔が、それを許さない」

 

「ああそうだ。我らは最後に残ったブレイズ。ゆえに、今までのブレイズ達、すべての思いを背負わなければならない。ブレイズのために」

 

「ええ、すべてはブレイズ(仲間達)のために」

 

 アルドゥインと最後のドラゴンボーンが相対する瞬間。その運命の時のために、ブレイズとして己の使命を全うする。

 命を捧げた、全ての仲間達のために。

 胸の奥から響く小さな訴えを押し殺しながら、彼女は進む。

 自らの最後の弟子を、この手で始末するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七千階段。グレイビアードの寺院、ハイフロスガーへと続く山道であり、世界のノドの頂上へと続く唯一の道。

 激しい山風が吹き荒れ、ともすれば足を滑らせて眼下の崖に落ちそうな小道を、健人達は進む。

 すでにイヴァルステッドを発ってからかなりの時間が経っており、変わりがちな山の天気に悩まされながらも、彼らはハイフロスガーまであと少しというところまで来ていた。

 

「そろそろかな……」

 

 先頭を歩く健人の前には、石造りの祠がある。

 大きさは、大人の腰から肩程度。大きな石を削り出して作られたと思われる祠には、古代ノルド達の遺跡でよくみられる、川や大気の流れを思わせる曲線と、獣の頭を思わせる彫刻が施されている。

 この祠は元々、この山道を訪れた巡礼者たちによって作られ、山道のあちこちに散見されるものだ。

 そして、健人の目の前にある祠の奥。吹きすさぶ嵐の向こう側に、険しい山道の中腹に佇む石造りの建物が見えていた。

 ハイフロスガー。

 声の達人、グレイビアード達が住まう寺院である。

 

「ようやく着いたね。健人とリディアは、ここに来るの、二回目だっけ?」

 

「ええ、あの時は従士様と一緒でした。随分前のことのように思えます」

 

 時間にして一年も経っていないが、ここに来るまでの道程を考えれば、リディアが感傷的になってしまうのも無理はない。

 健人も、彼女の気持ちは理解できた。彼自身も、ようやく家族と再会できると思えば、どうしても気持ちがザワついてしまう。

 顔に叩きつけられる強風に手を翳しながら、寺院へと近づく。

 そして、ついに健人は寺院の正門前に辿り着いた。中央に塔を備えた、石造りの寺院。

 中央の塔の周囲を回るように儲けられた階段の前には、供え物を入れるため箱が置かれている。

 そしてその階段の前には、一人の男性が、登ってきた健人達を出迎えるように腕を組んで佇んでいた。

 

「……誰?」

 

 全身を黒檀の鎧に包んだ戦士。背中には鎧と同じ黒檀製の両手剣を背負っている。

おそらくは男性と思われる戦士の姿に、カシトは首をひねる。

 だが、健人はその佇まいからこの黒檀の鎧を身に着けた戦士に心当たりがあった。

 このタムリエルでの健人の家族と付き合いのあった、幼馴染のノルドの戦士。ノルドとしての在り方を体現したように排他的で頑固、そして不器用そうだった青年。

 そして、リータを守るという約束を交わしながらも、ドラゴンを庇った健人を、裏切り者として罵った人物。

 

「ドルマ……か?」

 

「久しぶりだな」

 

 久しぶりに聞いたドルマの声は、相も変わらずぶっきらぼうで、温かさというものがほとんど感じられない。

 

「あ、ああ、そうだな……」

 

 しかし、第一声から罵られることを覚悟していた健人にとっては、少し拍子抜けするような返答だった。

 黒檀の兜の奥から向けられる視線にも、怒りや憤りが感じられない。

 だが健人は、静かな光をたたえるドルマの瞳の奥には、何かを決意したような、ギラつくような光を秘めているような気がした。

 弛緩しかけた体が、少しずつ緊張感を取り戻していく。

 

「リータはどこだ?」

 

「山頂だ。少し用事があってな」

 

「やっぱり……」

 

 山頂。ドルマのその言葉に、健人はリータがドラゴンレンドの習得に行ったことを確信した。

 あと少し。健人は雲を被った世界のノドの頂上を見上げながら、気を引き締める。

 一方、そんな健人の様子を見つめていたドルマは、組んでいた腕を解くと、健人たちのところへ歩み寄ってきた。

 

「それで、お前は何をしに来た?」

 

「リータに会わせてくれ。少しでいい、話しがしたいんだ」

 

「奇遇だな。俺も確かめたいことがある」

 

 ドルマの瞳の奥に輝く決意の色が、さらに濃くなっていく。

 向けられる圧をともなった視線に、健人だけでなく、後ろに控えていたリディア達にも緊張感が走る。

 カシトにいたっては、すでに腰に差した短剣に手を添えていた。

 

「そんなけったいな鎧や武器を、どうやって手に入れたのかとか、リータが山頂に行ったのかを、どうしてそんなに気にしているのかとかな。なあ、ドラゴンボーン」

 

「…………」

 

 確信をもって発せられるドルマの言葉に、健人は目を見開いた。

 明らかに彼は、別れてからの健人について知っている。

 そして、ヌエヴギルドラールでの一件以外の理由で、健人に対して害意を抱いていた。

 

「ある意味これは、俺が招いたことなんだろう。あの時、洞窟でドラゴンを庇うお前を、斬ろうとしたその時から……」

 

 一方、ドルマは全身から発せられる戦意はそのままに、どこか諦めを含んだ言葉を漏らしていた。

 覚悟を決めたその瞳に、健人は胸の奥で渦巻いていた不安が、一気に膨れ上がっていくのを感じる。

 次の瞬間、ドルマは背中の両手剣を引き抜くと、健人に向かってその刃を振り下ろしてきた。

 

「だが、悪いなケント。恨んでくれて構わん。死んでくれ」

 

 唸りを上げて振り下ろされる刃が、健人の顔へと迫っていった。

 

「っ!」

 

 健人は左手を背に伸ばしてドラゴンスケールの盾を取り、掲げる。

 振り下ろされる斬撃に合わせて盾面を操作し、剣圧を受け流しながら弾く。

 

「っ、ドルマ!」

 

「おおおおおおお!」

 

 健人が呼び掛けても、ドルマは止まらない。

 初太刀をそらされても構わず、二撃、三撃と、両手剣を振りぬき続ける。

 その速度は、以前ヌエヴギルドラールの洞窟で戦った時よりもはるかに速い。

 体捌きも洗練され、無駄なく繋げられる連撃は、徐々にその圧力を増していく。

 今のドルマならば、同胞団の幹部ですら、正面から勝ちを得られるだろう。

 だが、そんなドルマでも、今の健人の守りを崩すことは全くできなかった。

 健人は斬撃の衝撃を両足から地面に逃がしながら、後ろに一歩も下がることなく、左手一本で受け流し続ける。

 ドルマとて、既に一流の戦士である。

危なげない様子で連撃を捌き続ける健人の様子を見るだけで、自身と相手の間に開いた力量差を、痛いほど感じ取れる。

 

(ちっ! 分かっちゃいたが、随分ととんでもない怪物になったじゃねえか。これでシャウトを使われたら、俺じゃぜってえ勝てねえ……)

 

 何か言おうとする健人の口を塞ぐように、ドルマは休む間もなく連撃を繰り出し続ける。

 彼は、健人が魔法など、武術以外の技術も身に着けていることを知っている。ゆえに、下手に時間を与える気はない。

 だが、たとえ健人がシャウトや魔法を使わなかったとしても、ドルマは今の彼に勝てるビジョンが、まったく思い浮かばなかった。

 現に健人は、腰に差した二本のブレイズソードを抜いてすらいない。

 

(でもいい。俺はあくまで撒き餌だ)

 

 だが、それでもドルマは構わなかった。彼の目的は、あくまで健人の足止めと、後ろに控えた仲間から健人を引き離すこと。

 受け流された振り下ろしの勢いを利用して踏み込み、横薙ぎの斬撃に繋げる。

 

「ちい!」

 

「おおお!」

 

 体を入れ替えながら、押し込むようにして健人とリディア達の間に割り込む。

 さらに押し込むように体を押しつけ、体重差を利用して引き離す。

 

「ドルマ殿!」

 

「こいつ、いい加減にしろよ!」

 

「二人とも、手を出すな!」

 

「でも!」

 

「いいから!」

 

 焦れたように、リディアとカシトが駆けつけようとした。だがその二人を、健人の声が押し止める。

 

「この、話を聞けよ!」

 

 話を聞こうとしないドルマに、健人もついに反撃に出た。

 右側から斬り上げられる両手剣に盾の縁を叩きつけて弾き、盾を引き戻しながら右の拳を振るう。

 健人の正拳突きが、兜に守られたドルマの顎を捉える。

 ドラゴンスケールの盾と黒檀の兜が激突し、黒檀の兜が脱げて跳ね飛んだ。

衝撃がドルマの頭に響く。

 

「ごっ……っ! まだまだ。お前をリータに会わせるわけにはいかない!」

 

 しかし、ドルマも退かない。

 揺れる視界を無視して両手剣を引き戻し、体ごと圧しつけるように健人に叩き付ける。

 鍔競り合うようにがっぷりと組み合う両者。

 互いの視線が至近距離で交差する中、ドルマは声を張り上げる。

 

「どうやってそれほどの力を身に着けた!」

 

「何!?」

 

「あれだけ貧弱だったお前が、ここまで強くなれるのには理由があるはずだ!」

 

 唐突な問い掛けに、健人は困惑する。

 一方、ドルマは返答に詰まった僅かな間を、健人が抱えた後ろ暗さ故だと判断する。

 すれ違う両者だが、次の瞬間、致命的な言葉がドルマの口から放たれた。

 

「言えないなら答えてやる。お前、デイドラと取引したな。デイドラロード、ハルメアス・モラと!」

 

「っ!」

 

 強烈な衝撃が、ドルマの腹に走った。

 全身のひねりを加えて水月に叩き込まれた拳の衝撃は腹を貫き、ドルマは思わずたたらを踏むように後ろに下がった。

 横隔膜を震わせるほどの衝撃に荒い呼吸を吐く。

 

「どこで……」

 

 ゾクリと、全身に氷柱を突き刺されたかのような悪寒が、ドルマを襲う。

 向けられる、竜のごとき眼光。怒りと嫌悪、そして敵意の混じった視線。圧倒的な威圧感だった。

 

「どこでアイツと会った……!」

 

 次の瞬間、健人の体が沈んだかと思うと、彼は一瞬でドルマの両手剣の間合いの、更に内側まで踏み込んできた。

 

「っ!」

 

 あまりにも高速の踏み込みに、ドルマは咄嗟に両手剣を振り下ろす。

 だが、救い上げるように振り上げられた盾が、両手剣が加速しきる前に、その軌道の側面から叩き付けられた。

 

「ぐっ!」

 

 次の瞬間、ガキン! と強烈な金属音が響き、両手剣の軌道が直角に跳ね飛ばされる。

 両手に走る強烈な衝撃。ドルマとしても、剣を手放さなかったのが奇跡だった。

 しかし、体は完全に死んだ。上体は浮き、無防備な姿を晒している。

 そしてドルマの目に、こちらを組み伏せようと手を伸ばしてくる健人の姿があった。

 健人の体術の巧みさは、ドルマも良く知っている。実際、ヌエヴギルドラールの洞窟で一度してやられている。

 

(だがそれでも、機は成った!)

 

 健人の手がドルマの体に触れようかというその時、どこからともなくエクスプロージョンが、崖の上目がけて放たれ、炸裂した。

 炎と爆音を響かせる破壊魔法。次の瞬間、崩落した雪が雪崩となって降り注いできた。

 

「なっ!」

 

「うわ!」

 

 健人とリディア達のちょうど中間を塞ぐように発生した雪崩。舞い上がる雪煙に、一メートル先も見えない程視界は悪化する。

 

「おおおおおお!」

 

「ちぃ!」

 

 一瞬、健人の意識がカシト達の方に向いた瞬間を狙って、ドルマが斬りかかる。

 袈裟懸けに振るわれた両手剣を受け止め、空いた右手を叩き込もうと引き絞る。

 だがその時、健人の視線がドルマに向いているその時を狙って、黒い影が健人の背後に回り込んでいた。

 

(貰ったわ……)

 

 それは、影の戦士で気配を消したデルフィンだった。

 確実な一撃を加えるために剣を鞘に納め、刃に反射する光すら防止しての奇襲。

 雪煙に紛れて健人の背中を取ったデルフィンは、腰を落とし、鞘に納めたままのブレイズソードを、一気に引き抜く。

 それは、地球では居合抜きと呼ばれる技術そのもの。

 達人が放つ居合は、鍔なりだけが聞え、刀の出入りは全く見えないという。

 デルフィンの居合もまた、達人と呼ばれる領域のものだった。

 鍔鳴り音と共に、濃口が切られる。

 次の瞬間、透徹の一閃が放たれ、致死の刃が健人の首めがけて疾駆していった。

 

「っ!」

 

 だが健人は、彼らの予想のさらに上を行った。

 磨かれたドルマの黒檀の鎧に反射して映る、黒い影。

 それを確かめた瞬間、健人は己の本能が示す警告のまま、身体を捻りながら、盾から手を離す。

 同時に両足に力を込め、ドルマの間合いの内側に身体を滑りこませながら、逆手でブレイズソードを引き抜く。

 

「なっ!?」

 

 ドルマが驚きの声を上げる中、居合の軌道上に滑り込んだデイドラのブレイズソードが、デルフィンの斬撃を弾く。

 デルフィンもまた、自分の奇襲が防がれると思っていなかったのか、眼を見開いて驚きの表情を浮かべていた。

 

「しっ!」

 

 健人は完全に引き抜いたデイドラのブレイズソードを順手に持ち替え、反撃とばかりに薙ぎ払う。

 しかし、デルフィンもまたタムリエル大陸有数の実力者。遅滞なく、次の行動に移っていた。

 彼女は後ろに跳びながら健人の斬撃を躱しつつ、左手で三本の短剣を取り出し、投げつける。

 眉間、眼、膝へと正確に向かってくる短剣を、健人はブレイズソードを振るって弾き返す。

 続けて健人は身体を回転させてドルマに向き直りながら、薙ぐように刃を振るう。

 ドルマもまた後ろに下がることで健人の刃を避けるが、その間に健人は落下するドラゴンスケールの盾を左手で回収していた。

 

「まさか、防がれるとは思わなかったわ」

 

 自分達の奇襲を防ぎ切った健人に、デルフィンは関心とも呆れとも聞こえる声を漏らす。

 

「……?」

 

 一方、健人は喉に、奇妙な違和感を覚えていた。

 痺れるような倦怠感。まるで自分の体の触覚が、部分的に切り取られてしまったような感覚。そして、その違和感は喉から徐々に広がりつつあった。

 健人は思わず喉に手を当てる。指先に何かが触れる感触があった。

 

「っ!?」

 

 指に触れたのは極細の針だった。鎧と繊維の隙間を縫うように突き刺さっている。

 健人は慌てて針を引き抜き、放り捨てる。

 それは、短剣に紛れてデルフィンが放ったものであり。そして、致命の毒を帯びた針だった。

 

「……っ、………っ!」

 

 声が出ない。何かをしゃべろうとしても口からは擦れるような息が漏れるだけで、健人は一言も発することが出来なかった。

 

「麻痺毒よ。あと数秒気づかなかったら、肺まで完全に麻痺させることが出来たのだけど」 

 

 麻痺毒。その名の通り、体の自由を奪い取る毒である。

 しかも今回デルフィンが使用した毒は、彼女お手製の特別な毒。痛覚すら一瞬で麻痺させ、刺されたことにすら気づかせない程強力な代物だった。

 実際、あと数秒針を抜くのが遅かったら、健人はそのまま呼吸機能をマヒさせられ、殺されていただろう。

 

(問題は、特殊な製法のために、一本しか用意できなかった事)

 

 健人に気づかれない内に殺すために用意した、特殊な麻痺毒。

 麻痺だけでなく体力減退効果もすさまじく、実際に健人の表情は徐々に悪くなってきている。

 

(あのぐらいの時間じゃ、殺すには至らない……)

 

 それでも、刺さっている時間が短すぎた。

 元々は相手に呑ませて使用する毒だけに、毒針だけで送り込める量ではどうしても少なすぎる。

 

「でも、これでケントはシャウトも魔法も使えない」

 

 だが、健人が声を封じられたのは、戦いの天秤をデルフィン達に大きく傾けた。

 シャウト使いの生命線は、その発声機能。

 そして、魔法を使うためにも、詠唱を必要とする。今の健人は、己が積み上げてきた力の半分以上を封じられてしまっていた。

 

「悪いわねケント。ドラゴンボーンの為に、貴方にはここで死んでもらうわ」

 

 デルフィンの気配がぶれ、蜃気楼のようにその姿が見えなくなる。

影の戦士の発動。数十年の妄執に囚われた絶腕の剣士が、絶殺の意思の元、全力でケントに刃を向けた。

 

 




今回はドルマとデルフィンとの再会です。
彼らをどうにかしないと、リータとは再会できません。まあ、様式美ですね。


おまけに師匠が本気で殺しにかかってきて、健人はシャウトと魔法を封じられました。
まあ、あと数秒対処が遅れていたら、そのままゲームオーバーでしたけど。
健人がドラゴンボーンであることを知っているデルフィンなら、その力の根幹である発生機能を止めに掛かると思ってこのように書きました。
健人が一方的に蹂躙すると思っていた方には、意外かもしれませんね。

今後のお話ですが、書籍化したオリジナル小説に二巻目のお話が来ました。
しばらくはそちらに対処することになるので、更新が不定期になるかと思います。ご容赦ください。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。