【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
色々とリアルがドタバタしている結果、再び執筆時間一日となりました。
雪崩によって分断されたカシトとリディア。
崩落した崖の雪が山道に流れ込み、丘のようにうず高く積み上がってしまっている。
乗り越えることは出来るだろうが、今の彼らは悠長にこの雪の丘を登っているわけにはいかなかった。
カシト達の後ろに立つ一人の老人が、カシト達に睨みを利かせていた。
エズバーン。デルフィンと同じブレイズの生き残りであり、そして志を同じくする者。
「悪いが、デルフィンが事を成すまで、ここを通すわけにはいかない」
「誰です、貴方は?」
「どうでもいいよ。邪魔するってことは敵なんでしょ」
エズバーンと面識のないリディアが疑問の声を上げる一方、健人と分断されたカシトは腰の短剣を抜きながら、明らかな敵意をエズバーンにぶつけていた。
「ああそうだ、敵だ。お前達が、あのもう一人のドラゴンボーンの仲間である以上は」
エズバーンが魔法を発動する。
紫色の炎が渦を巻き、中から炎の精霊が姿を現す。
「ドラゴンボーンは一人でよい。そして我らのドラゴンボーンこそが、アルドゥインを倒すのにふさわしい」
「だから、敵の口上なんてどうでもいいって。さっさと排除して、ケントの所に戻るよ」
「たとえ崇高な使命だろうと、従士様とそのご家族を守るのが私の役目。故に、退いてもらいます!」
短剣を構えたカシトと盾を掲げたリディアが、エズバーンに向かって踏み込むに、炎の精霊と老人の魔法が二人を迎撃する。
そして剣戟の音と魔法の炸裂音が、ハイフロスガーに響き渡った。
デルフィンの体が沈む。
落下する自重の力を踵で受け止め、前方への推進力に変える。
ブレイズソードを扱う者達特有の歩法。さらにデルフィンは隠形で気配を消しながら健人の右側面へと回り込む。
一方、ドルマは正面から健人めがけて斬りこむ。膂力と技量の配分を考えれば、二人の行動は当然の選択だった。
二方向から迫る二人を前に、健人もまた即座に行動に出る。
声帯を麻痺させられた以上、シャウトと魔法は使えない。だが、健人とてここまでの道程で幾つもの修羅場を乗り越えてきた超一流の戦士である。
当然、一対多の戦いも数多く経験してきた。
その中での大原則は、決して足を止めない事である。
「ヒュー、ヒュー……っ!」
口から擦れる息を漏らしながら、健人はデルフィンと同じように体を落とし、全力で踏み込む。向かうは、正面から斬りかかっているドルマである。
デルフィンの毒は声帯だけでなく、呼吸器官にも多少影響を及ぼしている。
おまけにここはタムリエル最高峰、世界のノドの山道だ。高所故に酸素濃度も薄く、肺に掛かる負担は大きい。
だからこそ、健人は短時間での決着以外には考えられなかった。
「おおお!」
正面から振り下ろされるドルマの烈撃。
重厚な鎧の守りで相手の攻撃を弾くことを前提としているが故に、防御を考慮していないその一撃の圧迫感はすさまじい。
しかし、健人はその一撃を側面から盾で殴りつけて逸らす。
さらに彼はドルマの側面に回り込み、デルフィンとの間に彼の体を割り込ませる。こうすれば、彼女はヘタに剣を振れない。
「しっ!」
しかしデルフィンは、両手剣を振り下ろしたドルマの脇の下の僅かな隙間を縫うように、鋭い突きを繰り出してきた。
デルフィンの躊躇の無い攻撃に、健人は顔を顰めつつも、咄嗟に“血髄の魔刀”でデルフィンの突きを払う。だが、その隙にドルマが両手剣を薙ぎ払ってくる。
健人はドラゴンスケールの盾を掲げてドルマの横薙ぎを防ぐ。その間に、今度はデルフィンが回り込んで間合いを詰めてきた。
まるで蛇を思わせる、滑らかな踏み込み。
一切減速しないまま、デルフィンは健人が盾にしたドルマを、全く障害に感じさない動きですり抜ける。
「しっ! ふっ!」
間隙のない斬撃の雨が、健人に襲い掛かる。
しかも、デルフィンの刃はまるで蛇のように斬撃の軌道が変化していく。
横薙ぎと思った袈裟切りに、斬り上げと思ったら突きに。
まさしく変幻自在というのがふさわしい、卓越した連撃だった。
「っ!」
だが健人は、その疾風のごとき連撃を正面から弾き返す。
よどみなく繰り出される血髄の魔刀、そしてドラゴンスケールの盾。
デルフィンの膝、腰、肩、肘、そして手首。全ての関節の連動から、彼女が行おうとする剣の軌道を読み取り、先んじて迎撃していく。
「くっ!?」
これにはデルフィンも驚いた。
盾術の研鑽によって身に付けた、相手の呼吸を把握する術。両の手に持った得物を遅滞なく、滑らかに、そして力強く振う技術。全てがかつての健人には無かったものだった。
気圧されるように僅かに後退したデルフィンに、今度は健人が逆に踏み込む。
片手剣が薙ぎ払われ、盾が叩き付けられる。攻守が逆転し、デルフィンが受けに回った。
デルフィンは両手で保持したブレイズソードを巧みに操り、健人の攻撃を受け流す。
健人の連撃を前にしても、一歩も引かずに捌き続けるのは、流石は師匠といったところ。
だが、その口元は、僅かに引きつっていた。
(予想以上ね……)
こうして刃を交わして初めて分かる、弟子の異常なほどの成長。デルフィンは内心で驚嘆しつつも、目的達成のために思考を巡らせる。
(まずは、この連撃の手を止めさせないと……)
健人の攻勢はデルフィンの予想以上に激しく、そして巧みだ。彼女は足を止めての打ち合いでは、限界があると直感で悟る。
その時、デルフィンと健人が打ち合っている間に、ドルマが横合いから両手剣を薙ぎ払って来た。
「おおおおお!」
健人は右手の血髄の魔刀を斜めに掲げ、迫る斬撃を上方向にそらすと、ドルマと体を入れながら、彼の側頭部にドラゴンスケールの盾を叩き込んだ。
「がっ!?」
衝撃でドルマの視界が揺れる。
隙を晒したドルマに、健人の意識が向いた。
(今!)
その機を逃さず、デルフィンは半身に構え、一足で踏み込む。
「っ!?」
肩口から突進てくるデルフィンを、健人は盾で受け止めた。
次の瞬間、デルフィンは逆手に持ち変えたブレイズソードを、健人の盾の裏面に沿わせるように突き入れる。
デルフィンの刃は健人のドラゴンスケールの手甲と火花を散らしながら、盾の持ち手と手甲の僅かな隙間に滑り込む。
自らの刃が相手の盾の持ち手を捉えた事を確かめた瞬間、デルフィンはブレイズソードの刃を立て、そのまま健人の指を引き切ろうとする。
「っ!?」
指に刃を立てられる直前、健人は咄嗟に盾を手放す。次の瞬間、デルフィンが刃を引き切るように払った。間一髪、指を切り落とされることは免れる。
しかし結果として、健人はデルフィンに盾を奪い取られてしまった。
デルフィンは奪い取った盾を遠くに放り捨て、追撃をかける。
繰り出される刺突。健人が逸らそうと刀を振るった瞬間、デルフィンは脇を締め、ブレイズソードの軌道を変化させる。
すると、点の軌道だったデルフィンの刃が、再び波のような動きに変わる。
健人は変化する相手の刃の軌道に合わせ、ドラゴンスケールの手甲で弾こうとするが、ここでデルフィンの刃はさらに軌道を変え、己の刃を手甲に施された装甲の隙間に滑り込ませた。
「ぐっ!?」
鮮血と共に、手甲の装甲の一部が弾け飛ぶ。
デルフィンが繰り出したのは、一種の鎧剥しの技法。固い鎧を纏った相手と戦う際に用いられる技術の一つだ。
実際、デルフィンはこの技術を応用して、サーロクニルの翼の機能を奪ったことがある。
「しっ! せい!」
ニ撃目、三撃目と、続けざまに放たれる鎧剥しの斬撃。その度に健人の鎧は、まるで貝の殻をこじ開けるように、剥されていく。
だが、健人も負けていない。
四撃目には鎧の隙間に刃を滑り込ませられないように体捌きを調整し、五撃目には蛇のようなデルフィンの斬撃に先んじて弾き返すようになる。
(また対応するようになった。本当にこの弟子は成長が早くて始末に悪い!)
次々と健人の知らない攻撃で翻弄しようとするデルフィンと、瞬く間に対応する健人。
双方の攻防はまるで鼬ごっこのように繰り返されながらも、二人の技術をあっと言う間に昇華させていく。
(だけど、そろそろ……)
「っ、っ!?」
連撃を繰り返す健人の表情が、徐々に青くなっていく。典型的なチアノーゼ、酸素欠乏症状だ。
デルフィンが健人に打ち込んだ毒は、死には至らずとも、肺機能に影響を及ぼしている。
そして今の健人は、無酸素運動を繰り返している状態だ。酸素が欠乏すれば身体機能は鈍り、視界は朦朧とし、強烈な頭痛に襲われることになる。
そしてデルフィンの予想通り、健人のチアノーゼが進行するとともに、彼の動きも鈍っていく。
ここで、さらに健人を追い詰める事態が発生する。
「く、まだまだだ!」
意識を持ち直したドルマが再び参戦してきた。
微妙な釣り合いを見せていた攻防が、一気にデルフィン側に傾く。
そしてついに限界を迎えたのか、健人の上体が揺らぎ、地面に手をついた。
「今よ!」
「おおおおお!」
チャンスとばかりに、全力の斬撃を繰り出すドルマとデルフィン。烈風のような斬撃と、雷のような剛撃が、交差するように健人に迫る。
「っ!」
迫る斬撃を前に、健人は地面に這うように身を屈める。
頭上を二人の斬撃が風と共に通り過ぎるのを確かめると、そのままドルマの足元に滑り込む。
そして、雪原で光る細い“ソレ”左手を伸ばして掴み取り、ドルマの左足の鎧の隙間に打ち込んだ。
「ぐっ!」
指すような痛みが、ドルマの左足に走る。
さらに健人は立ち上がりながら、ドルマの両腕と右足の具足の隙間に、手に持った“針”を突き入れた。
「がっ!?」
四肢に走る痛みと共に、ドルマの四肢に強烈な痺れが走る。
両手足から力が抜け、彼は倒れ込むように雪の上に膝をついた。
「お前、それは……」
ドルマの視線が、健人の左手に握られたソレに釘付けになる。
それはデルフィンが健人の喉を潰すために使った毒針だった。強力な麻痺毒はドルマの四肢を麻痺させ、彼の戦闘力を完全に奪い去る。
ドルマが痛みを感じていたところを見るに、一度使用したために毒の効果も減退しているのだろう。
それでも即座に麻痺効果が表れる辺り、どれだけこの毒が危険な代物であるかを物語っている。
とはいえ、毒の作成者であるデルフィンには通用しないだろう。
慎重なデルフィンのことである。何らかの対策を施していると考えられた。
健人は持っていた針を奪い取られたりしないよう、崖下に放り投げる。
一方、デルフィンは額に手を当て、呆れたように天を仰いでいた。彼女からしたら、健人のこの行動は予想外の結果だったのかもしれない。
「まさか、私が仕組んだ手を逆手に取られるとはね。ケント、貴方もしかして、初めから私達を欺くつもりで針を放り捨てたの?」
デルフィンの問い掛けに、健人は反応を返さず、デルフィンの不意打ちに備えるように腰を落す。
一息入れることが出来たおかげか、彼の顔色は幾分か和らいでいる。
とはいえ、肺機能が不十分であることは変わらない。
すると健人は何を想っているのか、抜いていたブレイズソードをゆっくりと鞘に納めた。
鍔に左手の親指をあて、右手を柄に添えるように構える。
それは最初の不意打ちの際に、デルフィンが見せていた居合抜きの構えだった。
「本気? その刀法は確かに一撃の威力と速度は比類ないけど、代わりに外せば完全に無防備になるわよ。何度か見ているならともかく、一度しか見ていない貴方にそれが出来るのかしら?」
「…………」
挑発するようなデルフィンの言葉。しかし、酸素欠乏で青い顔色をしながらも、健人の瞳は強い輝きを宿し、そして静かな闘気で満ちていた。
その弟子の姿に、デルフィンも同じ構えを取る。健人の行動がハッタリでないと気付いたのだ。
実際、健人は現代日本で、テレビや動画などで居合の様子を見たことがある。
イメージは既に頭の中に細部まで刻まれているし、彼自身もこの世界に来てから実際に同じ形状の剣を振るい、研鑽を積んだ身。自らの体にイメージを落とし込む術は、とっくに身についている。
共に腰を落し、剣を鞘に納めた両者。
双方の意識は研ぎ澄まされ、視線がぶつかり、剣気が鬩ぎ合う。
断崖絶壁に吹き荒れる風の音が響く中、二人は世界が遠くに感じられるほどの集中力を発揮していく。
「スゥ……っ!」
デルフィンの気配が拡散し、その姿がぶれ、まるで霞のように消えていく。
影の戦士の発動。その瞬間、健人は眼前の剣士の全てを見抜こうと、研ぎ澄ませていた集中力をさらに深めていく。
音が消え去り、視界から色すらも消えていく。
いつしか健人の目には、横薙ぎに叩き付ける雪の結晶の一つ一つすらも認識できるほどの集中力を発揮していた。
霞のように曖昧だったデルフィンの姿が、徐々にその輪郭を取り戻していく。
視界の中の時間全てが引き伸ばされる中、健人は地を蹴った。
デルフィンの影の戦士は、気配分散と体術の併用により相手の五感全てを欺瞞し、自分の姿を無いものと認識させる技術。
それは全周囲から監視されていても、その目全てを欺く隠形の完成系。
だからこそ、それが完全に発動する前に、健人は勝負をかけようと思ったのだ。
「っ!」
だが、踏み込もうとした健人の前で、再びデルフィンの姿が掻き消える。
いくら集中力を発揮しようが、影の戦士が相手の五感全てを欺瞞する以上、惑わされることを避けるのは不可能だった。
健人の目の前で、デルフィンの姿が完全に消える。そして次の瞬間、猛烈な死の気配が、健人の首筋から全身に走った。
「終わりよ……」
「っ!?」
デルフィンが姿を現したのは、健人の右後方。構えた健人の刀から最も遠く、圧倒的にデルフィンが有利な位置取りだった。
そして二人は濃口を切り、抜刀。
刃を抜いたのは全くの同時。故に、デルフィンは自分の勝利を確信した。
「ぐう!」
「なっ!?」
しかし、結果はデルフィンが予想した結果とは違っていた。
ガィン! と甲高い激突音が響く。
最速で放ったはずのデルフィンの一撃は、さらなる速さで放たれた健人の刃に迎撃されていた。
デルフィンに回り込まれた事に気づいた時点で、健人は両足を僅かに浮かせ、腰を切りながら体を入れ変えつつ、抜刀。
足首から頭まで全ての関節を連動させ、更に振り返る際の運動エネルギーすらも抜刀に上乗せしたのだ。
その一撃はデルフィンの剣速を上回り、見事デルフィンの居合を迎撃することに成功した。
だが、その程度で終わるデルフィンではない。
(まさか防がれるとは……でもこれで終わりよ!)
デルフィンは身体を捻り、見事な体幹制御を披露。激突の衝撃で流れる刀の軌道を修正し、そのまま袈裟斬りへとつなげる。
実のところ、居合と言うのは刀だけでなく、柔術等の体術を含み、立ち合いだけでなく座位からの抜刀なども含む、複雑な体系の総合技術だ。
故に、初太刀を外した際の対処も無数に存在する。
つまるところ、「初撃を外せば無防備」という言葉も、実はデルフィンのブラフであり、それでも全力の居合を放った後に遅滞なく二撃目へと繋げる彼女の技量は、さすがと言えた。
「なっ!?」
だが、デルフィンが己の刃を振り降ろす前に、彼女の目に予想外の光景が飛び込んで来た。
それは弾かれた刃をそのまま鞘に納め直し、再び居合の構えを取っている健人の姿だった。
デルフィンに後ろを取られた時点で先を取れないことを悟り、迎撃に移行した健人。
彼は自分の刃が撃ち返されることを前提にし、跳ね返された瞬間に刀の切っ先を返し、鞘口へ叩き込んだのだ。
一歩間違えば、自分の指を切り落としかねない行為。しかし、デルフィンが彼に施した思考と体の運動を完全に一致させる訓練と、舞う雪一つ一つの結晶の形すらも見抜くほどの極限の集中力が、その奇想天外な行動を可能にしていた。
「まさか、ね……」
「っ!」
そして、デルフィンがブレイズソードを振り下ろすより先に、再び健人の刃が鞘から放たれた。
斬り上げるように放たれた健人の居合は、デルフィンの左手を上腕から切り飛ばす。
鮮血と共に、デルフィンのブレイズソードが宙を舞い、彼女の手から離れた刀は放物線を描きながら、崖下へと消えていく。
(ああ……)
手から離れ、落ちていく愛刀に見向きもせず、デルフィンは自分を破った目の前の剣士を見つめる。
自らの最後の教え子。取り入るために利用しようとした手駒。そして今、完全に自分を超えた弟子。
「本当に、強くなったわね……」
感慨深く呟く彼女の声色は、どこ穏やかで安堵を漂わせるものだった。
健人とデルフィンの戦いが始まったころ、星霜の書を持ったリータは、世界のノドの頂上に到着していた。
戻って来たリータを、パーサーナックスが出迎える。
“手に入れたか。ケル、星霜の書を。ティード、クレィ、クァロウ、それが触れれば、時が震え出す。疑うべくもない、お前は運命に導かれている。コガーン、アカトシュ、この大地の骨組みは、お前の思うがままだ……”
世界のノドの頂上にある一際大きな岩の上から、老竜はリータを見守っていた。
彼らの父が祝福した、正当な竜の血脈。
竜神アカトシュの子として、時を感じる竜の本能が、歴史の特異点が迫っていることを感じ取っている。
だが同時にパーサーナックスは、時の流れに奇妙な違和感も覚えていた。
はるか遠く、それこそ違う世界で起きた、時の震え。
彼の父が扱う力とは違う、しかし、世界を震わせるほどの声。それが何故か、身近に近くに忍び寄ってきているような感覚を。
(ウォト、ファード、ダーマーン。なんだろうか。この切ないような、寂しいような感覚は……)
湧き立つ懐かしさと、寂寥感。常に胸の奥で渦巻く欲望とは違う、意味不明な感情の発露。
そしてそれは、リータの持つ星霜の書を見る度に、徐々に大きくなっていく。
だが、脳裏に浮かんだビジョンが、パーサーナックスの思索を中断させる。
それは、まっすぐにこの世界のノドに向かってくるアルドゥインの姿だった。
“……行くがいい。運命を全うするのだ。巻物を、時の傷跡へと持っていけ”
一方、リータはパーサーナックスの言葉に従うように、時の傷跡へと向かう。
光の粒が渦を巻き、蜃気楼のように周囲の光景を歪ませる場所。
かつてリータが持つ“竜の星霜の書”が用いられた場所であり、そしてアルドゥインと古代ノルドの英雄たちとの古戦場だ。
“急げ、アルドゥインが来る。奴がこの兆しを見逃すはずがない”
重苦しい声で、パーサーナックスはリータにアルドゥインの襲来を予言する。
アルドゥインが来る。その言葉に、リータは憎悪を高ぶらせた。
ようやく復讐できる。父と母、自分の大切なものを奪い取った邪悪な竜に、鉄槌を下すことが出来るのだと。
光の渦の中に入り、星霜の書を掲げる。
時の傷跡と共鳴するように、宙を舞う光が、星霜の書に纏わりついてきた。
「力を。全てのドラゴンを屠る力を……」
己の内で渦巻き、響き合いながら膨れ上がる渇望。
それに従うまま、リータは書を開く。
次の瞬間、星霜の書のページから光が溢れ、天球図を思わせる図形を描くと、リータの意識は過去の竜戦争の時代へと遡っていった。
そして、気がつけば101話目。マヌケな作者は感想欄を読んで初めて気づきました。
皆さん応援ありがとうございます!
そして良ければ、書籍化したオリジナル作品の方もよろしくお願いします(再びあからさまな宣伝をする作者)