【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第七話 比翼連理の夫婦(仮)

 

 目をぱちくりさせる彼に、セラーナが衛兵に聞こえないほど小声で呟く。

 

「話を合わせてくださいまし。夫婦ということにした方が、色々都合がいいですわ」

 

(は? え? は?)

 

 しかし、話を合わせてと言われても……夫婦? 誰が? 誰と? 自分と? セラーナが?

 頭の中で無意味な自問自答を繰り返す健人をよそに、セラーナは眼帯越しでも分かるほどの笑顔を浮かべながら、スッと健人の手に自分の手を重ねつつ、腕を組んできた。

 一気に増す密着度に、健人の混乱はさらに加速。同時に、顔に強烈な熱がこみ上げてくる。

 さらにセラーナは、全身を預けるように寄り添うと、ポン……と健人の腕に頬を摺り寄せた。

 その様はまさしく夫に惚れ切った妻と、そんな妻にくっつかれて恥ずかしがっている夫であり、新婚したての若夫婦そのもの。

 

「夫婦? なぜ、旅をしている……」

 

「私、見ての通り、目がよく見えないのです。夫は喉の古傷で声が出せなくて……。以前いた場所で色々あって住めなくなってしまい、安住の地を求めて旅をしているところなのです」

 

(いや設定変わってる! 商人って話はどこ行った……って、なんか甘い匂いが……!)

 

 鼻腔に香る、女性特有の柔らかな香り。

 数日間旅をしていたにもかかわらず、まったく不快感がない。それどころか、むしろ心地よいと思えてしまう匂いだった。

 当惑し続ける健人をよそに、セラーナと衛兵たちとのやり取りは続いていく。

 衛兵達は何度か互いに視線を交わすと、面倒そうな表情で一度大きくため息を漏らす。

 健人達を街に入れるかどうかで、かなり悩んでいる様子。

 これは無理か? 健人がそう考えたところで、衛兵の一人がため息と共に口を開いた。

 

「……分かった……許可する」

 

(え!? 許可出るの!? なんで!? 無害と思われた!?)

 

「感謝いたしますわ」

 

「ただし、鉱山には、近づくな。丘の上の塔もだ……」

 

 衛兵達が、ドーンスター南の丘の上を指さす。

 そこには、吹きつける海風に抗うように、一棟の塔がそびえ立っていた。

 遠目ではあるが、かなり古い建物のように見える。

 

(あの塔……)

 

 視界に入れた瞬間、健人は全身を包んでいたヒリついた空気が、更に増したように感じた。

 隣にいるセラーナも同じなのか、一瞬ではあるが、眼帯越しに鋭い視線を丘の上に等に向けている。

 

「理由を聞いてもよろしくて?」

 

「鉱山は今、スカルド首長に逆らった罪人たちを捕らえている……からだ。丘の上の塔については、サイラス衛兵長が、そう、言っている……」

 

(サイラス? ジョットさんの代わりに就いた、新しい衛兵長か? 確かスカルド首長の召使いの名前がサイラスだったはず……)

 

 ここに来るまでの旅の道中で、健人はジョットからドーンスターの内情と、スカルド首長の周辺にいる者達。そして、自分の代わりがスカルドに仕えているだろうと言うことを聞いていた。

 そうこうしていると、衛兵達が「はあ……」と疲れたような声を漏らしながら、膝に手を当てて身を折る。

 

「……大丈夫ですの? 随分疲れているようですけど」

 

「もう、ずっと働き詰めで、まともに休めてないんだ。さっきまで、港で荷の積み下ろしをしていたくらいで。それに、横になっても寝れなくて……街に入るならさっさと入れ」

 

(もしかして、疲れ切っているから、終わらせたかっただけか?)

 

 薄々感じてはいたが、この衛兵達、相当疲労が溜まっているらしい。判断力もかなり鈍っているだろう。衛兵としての職務も満足にこなせないほどなのは間違いない。

 セラーナの甘々演技に当てられたというのも理由の一つかもしれないが……。

 しかし、街には入れるなら万々歳である。

 

「感謝いたしますわ。宿に行く前に、少し街を見て回ってもよろしいですか?」

 

「……今は、色々とピリピリしているからな。やめておいた方が賢明だ」

 

「あら、どうしてですの?」

 

「サイラスの前に首長の右腕だった男が、鉱山で働かせていた罪人と、不穏分子を連れ出して逃げたんだ……。おかげで、首長は、カンカン、だ……。下手をして、目を付けられても知らんぞ……」

 

 どうやらジョットの謀反は、スカルドの怒りを相当買ったらしい。

 下手に目を付けられては、潜入した意味がない。

 街中に入ったら、さっさと宿屋に行って、夜を待つ方がいいだろう。

 

「お気遣い、感謝いたしますわ。さ、行きましょう、あなた」

 

(ちょ……!)

 

 セラーナに引っ張られ、健人は疲れ切っている衛兵達の脇を抜けつつ、街の中へと足を踏み入れた。

 湿り気を帯びた土の道を進む。目指すは、アレサンが世話になったと言っていた宿屋だ。

 

(あ、あの、セラーナさん? 胸、胸が当たってるんですけど)

 

 セラーナは街に入っても、健人の手をしっかりとホールドしたままだった。

 豊かな双丘が押し付けられ、思わず全身に力がこもる。

 

「あまり動かないでくださいな。変な様子を見せると、勘ぐられますわよ」

 

(いや、そう言うけどね。腕、放して……)

 

「ダメです。目がよく見えないという設定なのですから、こうしていた方が自然ですわ」

 

 黒板が出せない為に口パクで意思を伝えるが、セラーナは一刀両断。

 じゃあ、そんな面倒な設定にしなければいいだろ! と思わず健人は内心叫ぶも、彼の心情を知ってか知らずか、セラーナはさらに身を寄せてくる始末。

 

(そもそも、こんなにくっつく必要ないでしょ! 手を繋ぐ程度で……)

 

「ダメです。若夫婦という設定なのですから、このくらいの距離感が普通ですわ」

 

(いや、知らないよそんなこと!?)

 

 あーだこーだと口パクで抗議するも、セラーナは聞く耳を持たない。

 しかも、吸血鬼の能力か、それとも他に理由があるのか、セラーナは口の動きだけで健人が何を言いたいのかをきちんと分かっているらしい。

 

「一応、それなりに一緒にいますからね。口の動きだけでも、あなたが何を言いたのかは、なんとなくは分かりますわ」

 

 貴方、相当分かりやすいですし、と余計な一言を加えつつ、セラーナは満足げに微笑む。

 

「さ、参りましょう。目の見えない妻を、きちんとエスコートしてくださいまし」

 

(ああ、もう!)

 

「きゃ……」

 

 こうなったらやけくそだ、と開き直った健人は掴まれていた腕を曲げると、自分からセラーナの腰に手を回した。

 健人が手のひらにギュッと力を込めると、先ほどまで悪戯っ子のような笑みを浮かべていたセラーナがまるで彫像のように硬直していた。

 

(なに? そっちがやれって言ったんだからな)

 

「ん、んん! ええ、もちろんですわ。そのまま、しっかりと抱いていてください」

 

 取り繕うようなセリフと共に再起動するセラーナ。

 背筋は伸び、プイっと顔を背けつつも、目元は幸せそうに緩んでいる。

 

「~~、~~、~~~」

 

 彼女は今一度、健人に体を預けると、鼻歌を歌い始めた。

鈴の音を思わせる、涼やかな音色。

 一時ではあるが、潜入中とは思えないほど、穏やかな空気が流れる。

 そして二人は、互いに寄り添うように、街へと足を踏み入れた。

 ドーンスターは、海岸の坂を整備して作られた街だ。土木工事で段状にした土地に、基礎を築いて建物を立てている。

 下段は商店や港湾設備、住人達の者と思われる家が並んでおり、上段には宿屋や兵舎、そしてひときわ大きな屋敷がそびえ立っている。

 

「あ、あそこが首長の館ですわね。そして、その奥の突き当りが鉱山と。かなりの数の衛兵達がいますわね」

 

 首長の館ホワイトホールから奥に掛けて、三十名近い衛兵達が行き来している。

 そして奥には切り立った崖と、穿たれた坑道の入口が顔を覗かせていた。おそらく、あそこがジョットの言っていた、スカルドが逆らった者達を閉じ込めている鉱山だろう。

 

「ここまで近づくと、港町もよく見えますわね」

 

 健人達が今いるのは、ドーンスターの東から町に入り、道が街の上部と下部に分岐する分かれ道を、上段側へ少し進んだところだ。

 かつてアレサンが世話になったと言っていた宿屋「ウィンドピーク」もすぐ近くにある。

 

「船に積まれている物資も相当な量です。武器に食料、医薬品。どこから来た品なのでしょうか……。あら?」

 

 宿屋の場所を確認するついで、改めて港の様子を窺っていると、雷鳴を思わせる怒号が響いてきた。

 

「どういことだ! まだ荷が港から移せないだと!? 貴様、何をやっている!」

 

「も、申し訳ありませんスカルド首長。できるかぎり早く移送するよう命じているのですが、いかんせん馬車が足りず……」

 

 怒号が聞こえてきたのは、首長の館であるホワイトホールの前。

 そこには、クマの皮の外套をあしらった豪華な服を身に纏った老人と、その老人の前に跪く、ストームクロークのキュライスを纏ったノルドがいた。

 

「言い訳は聞きたくない! 使えない奴め。それから、逃げたジョットはどうした! 捜索を命じてからすでに相当な時間を使っているぞ!」

 

「そちらの方もまだ……」

 

「ええい、貴様は本当に使えないな!」

 

(あれは……)

 

「あれがおそらく、首長のスカルドですわね。傍にいるのが、新しい衛兵長のサイラスでしょうね」

 

 健人達はそっと宿屋「ウィンドピーク」の端に身を寄せ、絶え間なく罵声を浴びせるスカルドと叱責されているサイラスの様子を窺う。

 見たところ、スカルドはかなりの高齢。おそらく60から70歳には届いているだろう。禿げ上がった頭から湯気が出るのではと思えるほど、顔を真っ赤にしている。

 一方のサイラスは、

 その時、スカルドの視線が健人達の方に向けられた。

 

(見られたな)

 

 彼らの姿に気づいたスカルドは肩を怒らせながら、ズカズカと大股で健人達に近づいてくる。

 さて、どうするか……。健人は思考を巡らせる。

 思った以上に早い接触になった。街の入口にいた衛兵のように、上手く誤魔化さなくてはならない。

 

「任せてくださいな」

 

 先ほどと同じように、セラーナが前に出る。

 

「ノルドの女と……よく分からん異種族の男だと? 貴様ら、何者だ。この街の者ではないな」

 

「はい。彼は私の夫で、安住の地を求めて旅をしております。偉大なるスカルド首長。この度は道中疲れ切ったところ、気高き首長の衛兵殿が、慈悲深くも街で休むことを許してくださいました」

 

 セラーナは胸に手を当て、礼儀正しく腰を落としつつ、丁寧な口調でスカルドに応対する。

 スカルドは『衛兵が街に入ることを許した』という言葉に、不快そうに眉を顰めつつ、口を開く。

 しかし、一瞬はっとした表情を浮かべると、なにも言わずに黙り込む。そして、ねめつけるような視線をセラーナに向けた。

 

「私の衛兵が、街に入ることを許したと?」

 

「はい。戦の中で放浪の身となった私達の話を、親身になって聞いてくださいました。さすがは、気高いスカルド首長の精兵でございます」

 

(なるほど、感情とプライド。どちらを取るかの板挟みか……)

 

 ジョットの話から判断するに、スカルドはプライドが高いがゆえに、自分の間違いを認められない。部下の前で自分の威光が傷つけられることを一番避けたいはず。

 さらにセラーナは先んじて感謝の意を示すことで、スカルドが“そんな命令は出していない!”と言えない状況を作り出した。

 ついでに言えば、スカルドは先ほどまで部下を叱責していた身だ。

 ここで彼女達を拒絶し、首長にも多少の責任があるという雰囲気になれば、自分の威光に傷がつく。

 これで彼は一時的にもセラーナ達を受け入れざるを得ない。

 

(確かに、徹底的な異種族排他を掲げる首長相手では、このぐらい強引な手しかないが……)

 

 だが同時に、セラーナの言葉がスカルドの勘気に触れたのは間違いない。

 実際、スカルドは咎めるような視線をセラーナに向け続けている。ともすれば、怒りに任せた行動に及ぶかもしれないと思えるほど。

 そんな視線から彼女を庇うように、健人は自分の体を二人の間に割り込ませた。

 夫であるなら、こういう場面では妻を庇うだろうと思っての行動。

 健人の狙い通り、スカルドの目がセラーナから彼へと移る。

 

「貴様、さっきからなぜ黙っている」

 

 低く、かつ威圧感に満ちた詰問。

 異種族が相手であることが原因だろう。スカルドの瞳は、先ほどセラーナに対して向けていた時よりも、更に剣呑な光を帯びていた。

 

「夫は喉に傷を負っていて、声が出ないのです。ですが、ノルド以上に行動で示してくれる方ですわ」

 

 現に、今も。そう言うように、セラーナはスッと健人の背中に身を寄せた。

 既にスカルドは、不快さを隠すこともしなくなっている。

 だが、感情を顔に出しつつも、傍にいる部下に拘束は命じない。完全に、セラーナの狙い通りだった。

 

「……見たところ、相当な美しさだな。それだけの美貌を誇りながら、異種族の男を伴侶にしたのか? 実に勿体ないな」

 

「いえ、そんなことはありませんわ。むしろ、私のような醜い女を選んでくれた夫には、感謝しかありません」

 

「ふん……。おい、サイラス。貴様はさっさと荷を運べ。我らの勇士たちが必要としているのだ。一時たりとも遅れることは許さん! もし一日でも物資を送るのが遅れるなら、私自身でその首を斬り落としてやる!」

 

「は、は! わ、分かっております!」

 

「不愉快な女だ。一日だけ、この俺の街での滞在を許してやる。明日には出ていくことだ。もし残っていたら、貴様の夫を鉱山に叩き込んでやる」

 

 そして、スカルドは結局健人達へ強権を使うことはなく、背を向けて首長の館の中へと消えていった。

 叱責されていたサイラスもまた、首長が消えると大急ぎで港の方まで走って行く。

しばらくすると、港の方からサイラスの怒声が聞こえてきた。ほぼ間違いなく、部下達を叱責しているのだろう。

 とりあえず、危機は切り抜けた。健人はホッと息を吐くと、後ろに振り返る。

得意気な笑みで見上げてくるセラーナがいた。

 

『ありがとう。さすがだよ』

 

「ふふ、お役に立てて嬉しいですわ、あなた。それとも、旦那様、の方がよろしいかしら?」

 

(その設定、やっぱり続けるんだね)

 

 思わず苦笑を漏らす健人。

 ついさっき、衛兵を相手にしていた時よりも、恥ずかしさは幾分か和らいでいた。

 とはいえ、この状況で楽し気にできるセラーナを前に、感嘆の息を漏らさずにはいられない。

 本当に、肝が据わっている。

 

「さ、宿屋に参りましょう。情報取集なら、一番の場所ですから」

 

 一方、セラーナはそんな健人の反応に満足そうに微笑むと、再び腕を組む。

そして二人は、宿屋ウィンドピークへと足を踏み入れるのだった。

 

 




というわけで、いかがだったでしょうか?
夫婦設定をこれでもかと活用するセラーナさん。
ぶっちゃけ、これを書きたかったから、二人をドーンスターに放り込んだともいえる。(もちろん、他に書きたかったことあるよ!?)

以下、登場人物紹介

スカルド
ペイルホールドの首長。苛烈なノルド主義を掲げる人物であり、ゲーム本編では全面的にストームクロークを支援。
領民たちを「ノルドとしての栄誉を与えられる場に向かわせているだけだ!」と言って際限なく送り込んでいる。
本小説でもその辺りは変わらず、三年という年月の中でさらに苛烈な搾取を行うようになっている。

サイラス
ゲーム本編ではスカルドの召使であり、彼からは「使えない奴だ!」と罵倒され続けている。
本小説では衛兵長だったジョットが離反したため、衛兵長に昇進している。
しかし、慣れない業務から不手際を連発しているのか、スカルドからさらに馬鹿にされるようになってしまっている。


セラーナ
健人との夫婦設定をこれ以上なく楽しんでいるお方。
ちなみに、スカルドに言い放ったセリフは全部本音である。


健人
お姫様の手の上で転がされかけるも、反撃した主人公。
もっとも、お姫様的にはむしろご褒美。
夫婦設定を知った瞬間こそ動揺したものの、すぐに順応しているあたり、本人も悪い気はしていない。
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