【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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今回でミラーク戦は終了です。

閑話についてですが、皆さん書いても良さそうなので、いつお見せできるかは分かりませんが、本編の執筆に問題ない程度に書いていこうと思います。


第十六話 真なる声の片鱗

 朦朧とした意識の中で、健人は己の死を確信していた。

 もう既に、体の感覚は無くなっていた。

 極度の疲労と大量出血、ドラゴンアスペクトの反動、そして、魔力の枯渇。

 己の活力全てを絞り出してなお、ミラークには届かない。

 だがそれでも、健人の気持ちはまだ折れてはいなかった。

 溢れんばかりの想いは、未だに胸の奥で燃え続けている。

 

“心を……魂を震わせろ。その魂の輝きが、己の強さを決める”

 

 脳裏に浮かぶのは、戦士としての気構えを最初に教えてくれた恩人の言葉。

 魂の輝き。

 自分の肉体が限界を迎えている事など意識の彼方に放り捨て、健人は己の内側に意識を埋没させていく。

 自分の想いは自覚している。それこそ、今も己自身を焼き尽くさんばかりに猛っている。

 だが、何かが足りない。

 まるで1ピースを無くしたジグゾーパズルのような違和感が、健人の胸に渦巻いている。

 

“怒りや激情だけで勝てるのは、物語の中の英雄だけよ。そんなことが出来る人間は、現実には存在しないわ”

 

 己に戦士としての技術を授けてくれた師の言葉が蘇る。

 その通りだ。想いだけでは意味がない。

 健人は足りないのは何かを、必死に己の内に問いかける。

 

(自分の想いを外に示すのは力……。いや、言葉そのもの……)

 

 必要なのは震える魂を現出させる言葉。

 自分という内にある熱を外の世界に伝えるための要素(ファクター)だ

 ドラゴンアスペクトではない。あれはドラゴンの魂を昂ぶらせるための言葉。

 本質的に、健人自身が、己の魂を震わせるための言葉ではない。

 ゴクリと、口の中に溜まった血を嚥下する。

 

「震わせろ(モタード)……」

 

 健人が真に求めた力の言葉。それを欲した瞬間、彼の口が自然と“力の言葉”を紡ぎ始める。

 

「魂(ゼィル ゙)を……」

 

 小さく擦れて、他者には聴き取れぬほどの声量。

しかし、声という形で紡がれた瞬間、健人の世界は一変した。

 彼の胸の奥で押し込められていた熱が、一気に全身を駆け巡り、更に虹色の光という形で外へと現出する。

 

「な、なんだと!?」

 

 爆発的に弾けた燐光はミラークを吹き飛ばし、溢れんばかりの光でミラークの塔を包みこむ。

 それは、健人の魂、ドラゴンソウル、そしてアカトシュの祝福が、シャウトによって真に隆起した結果“生み出された”力。

 指向性もない単純な力はそれを生み出したシャウトが示すように、ミラークの塔全体を包み込み、震わせていた。

 

「ムゥル……、クゥア、ディヴ!」

 

 健人がドラゴンアスペクトを叫ぶ。

 無秩序に溢れ出していた力の燐光は、主の声によって導かれるように集まり、再び光の鎧を形成する。

 構築された光鱗は上半身だけでなく下半身すらも覆い、その姿は正に翼無きドラゴンそのものであった。

 

「“この世界”という言葉に……震わせろ(モタード)……。っ! そうか、お前の力の源は、そういう事だったのか!」

 

 目の前で現出した魂と、構築された光鱗を前に、ミラークは戦慄を帯びた声を上げる。

 彼から見ても、今の健人が纏うドラゴンアスペクトは、自らのものと比べても遥かに力強さに溢れていた。

 

「ハルメアス・モラが求めたのも当然だ! そうであるなら、お前は間違いなく、この世界の特異点足りえる!」

 

 今の健人の姿にある種の確信を抱きながらも、ミラークは魔剣を振り上げ、力の言葉を紡ぐ。

 

「ティード、クロ゛、ウル゛! スゥ、ガハ、デューン!」

 

 時間減速、激しき力。

 二つのシャウトを重ね合わせ、ミラークは更に強大となった坂上健人というドラゴンボーンと切り結ぶ。

 

「あああああああああああ!」

 

「おおおおおおおおお!」

 

 衝撃波を伴うほどの炸裂音を響かせながら、ぶつかり合う刃。

 しかし、二人の剣戟は僅か数合でその趨勢が明らかになった。

 

「はああああああああああ!」

 

「があ!」

 

 重ねるように繰り出された健人の双刀が、ミラークの斬撃を彼の体ごと弾き飛ばす。

 魂の真なる隆起を起こした今の健人は、今までと比べてもあらゆる能力が爆発的に増大していた。

 時間減速と激しき力、二つのシャウトを重ね合わせたミラークを、真正面からの容易く一蹴するほどに。

 弾き飛ばされたミラークを追って、健人が駆け出した。

 踏み込んだ床が粉砕され、爆発的な加速が健人の体を前へと押し出す。

 その速度はまるで風を切る隼のようで、旋風の疾走と比べても遜色ない加速だった。

 

「ファイム! ウルド、ナー、ケスト!」

 

 ミラークが霊体化と旋風の疾走を重ね合わせ、再び距離を取る。

 明らかに逆転した趨勢に、ミラークの口から焦りの声が漏れる。

 

「ぐう……まだだ、まだ終わっていない! クルジークレフ、レロニキフ、ジー、ロス、ディ、デュ!」

 

 ミラークが眷属竜の名を読んでシャウトを叫ぶと、上空でサーロタールと戦闘をしていたクルジークレフとレロニキフの二頭が、断末魔の声を上げた。

 突然力を失い、落下し始めた二頭の竜が炎で包まれ、溢れ出したドラゴンソウルがミラークに注がれる。

 

“魂簒奪”

 

 服従のシャウトで従属させたドラゴンの魂を奪い取り、己の力に変えるシャウト。

 ミラークは配下であるドラゴンの魂を取り込み、力を増した健人に対抗するつもりなのだ。

 

“クオオオオオオ!”

 

 戦闘をしていたクルジークレフとレロニキフが死んだことで、自由となったサーロタールがミラークに襲い掛かる。

 

“我を囚われの身に落とした借りを返してやる! フォ、コラ、ディーーーン!”

 

「邪魔だ、サーロタール!」

 

 上空からサーロタールが降下しながらフロストブレスを吐きかけるが、ミラークは素早く伸縮自在の魔剣を一閃。

 サーロタールの首に魔剣を巻き付け、かのドラゴンの首を一息に斬り落としてしまった。

 首を切断されたサーロタールの肉体から炎が猛り、溢れ出したドラゴンソウルがミラークに吸収されていく。

 力を増したミラークのドラゴンアスペクトはさらにその光を増し、溢れんばかりの存在感と威圧感を全身から滲み出していた。

 先程屠った、かつて眷属だったドラゴンの事など一顧だにせず、ミラークは己の宿敵のみを見つめている。

 

「お前の魂の震え、それに呼応した竜の魂とアカトシュの祝福! それらがまるで螺旋を描くように共鳴しながら、互いを強め合っている!」

 

 史上最古のドラゴンボーンの瞳には、今の健人の奥底で渦巻く存在達が、はっきりと見て取れた。

 彼が見たのは、虹色の燐光の中心に穿たれた黒点。その深淵の中にある三つの光。

 一つは、虹色の燐光の源。健人がサエリングズ・ウォッチで取り込んだ、ドラゴンの魂そのものだ。

 もう一つは、アカトシュの祝福。本来ドラゴンではない人に竜の力を与える呪い。

 そして、何よりもミラークの目を引いたのは、健人自身の魂の姿だった。

 

「そうなのだろう!? 異界のドラゴンボーン! この世界の外から来た異邦者! アカトシュも耄碌したか!? とんでもない人間に祝福を授けたものだ!」

 

 ドラゴンソウルとアカトシュの祝福を飲み込む形で存在する黒点、その深奥に、この世のものとは思えない明らかな異質な魂が存在している。

 そして、異質な魂は今まさにアカトシュの祝福とドラゴンソウルを巻き込みながら相互に猛り狂うように震え、螺旋を描きながら無尽蔵に力を引き出し続けている。

 それは正に“共鳴”と呼ぶに相応しい現象だった。

 

“ハウリングソウル”

 

 異種の存在同士を響き合わせるスゥーム。

 健人の胸の内でずっと燻り続けていた“震える”“魂”の想いが、真言という明確で力のある言葉で形を得た結果、この世界に生み出された、文字通り健人の“声”だった。

 

「いや、違うな。お前自身が、アカトシュの祝福をそれほどまでに強大に育てたのだな!」

 

 そして、健人のあまりに異質な魂、そして、響き合う事で無尽蔵に力を引き出し続ける“声の力”を目にし、ミラークは宿敵の出自と、彼の力の正体について理解していた。

 

「お前の前では、私の服従のシャウトですら霞むだろう! 根源すら異なる魂、存在すらしないはずの異端の魂が、ドラゴンの魂と共に叫ぶスゥーム、それがどれほど強大になるかなど、想像すらできん!」

 

 ミラーク自身も、今の健人を目の前にして、彼がこれから先どれほど強大になるのか想像も出来なかった。

 そもそも、異世界の魂など、想定できるはずもない要素だ。

 シャウトや技術の習得速度も異常だったが、ミラークから見ても、今の健人の魂から生み出され、溢れ出す力はもはや言葉に出来ないほど異質過ぎた。

 

「だが、それでも私は自分の運命を取り戻す! ミラークという忌まわしい名を消し去り、己の名前を取り戻すのだ!」

 

 だがそれでも、ミラークは己の心を叱咤し、強大な存在となった宿敵に相対する。

 

「ストレイン、ヴァハ、クォ!」

 

 唱えるのは、彼が持つ中で最大にして最も広域殲滅に特化したシャウト、ストームコール。

 アポクリファの空にスカイリムの嵐が吹き荒れ、瞬く間に出現した積乱雲が、渦を巻きながら紫電を纏い始める。

 

「天の雷! これだけの量の雷撃、耐えきれるか!?」

 

 ミラークの宣誓に応えるように、空一面を覆う雲から、無数の雷撃が健人めがけて撃ち降ろされ始めた。

 その数はあまりに膨大で、まるで驟雨のように健人めがけて襲い掛かる。

 

「ぐっ!?」

 

 あまりにも膨大な数の雷雨は、今の健人をしても躱しきれるものではなかった。

 数本の雷が健人の体を打ちのめし、健人の口から苦悶の声が漏れる。

 さらに強固となった光鱗が人を容易く感電死させるほどの雷撃の威力を、多少動きを鈍らせる程度にまで減衰させるが、それでも無視できない威力を誇っている。

 更にミラークは膨大な量の魔力を猛らせ始めた。

 ミラークの両腕に魔力光が灯り、その光が徐々に炎に変わっていく。

 間違いなく、桁外れの威力を誇ったファイアストームを再び放つつもりなのだ。

 

「ウルド!」

 

 ストームコールとファイアストーム。

 極大ともいえる二つの術を前に、健人は旋風の疾走を一節だけ唱えて空中に跳躍しながら、自ら雷の驟雨の中に身を投じていた。

 さらにスタルリムの短刀を腰に納め、背中から既にボロボロになったドラゴンスケールの盾を取り出すと、右手の黒檀のブレイズソードを突き立てる。

 黒檀の刃は損傷した盾を容易く貫く。

 

「スゥ……グラ、デューーン!」

 

 健人は黒檀のブレイズソードで己の盾を貫いたまま“激しき力”のシャウトを唱える。

 刀身を包み込むように生み出された風の刃が、ボロボロになった盾を粉微塵に砕き、粉砕された破片が刀身に纏わりつく。

 次の瞬間、天から降り注いだ雷群が、一斉に黒檀のブレイズソードに落ちた。

黒檀のブレイズソードの刀身が、眩いばかりの雷光を帯びる。

 ドラゴンスケールの盾を作る際に、繋ぎ合わせの為に使われていた鉄が風の刃で微塵に砕ける。

 粉々に砕かれた鉄は異種金属である黒檀と共に強力な磁界を帯びる媒体となり、天から降り注いだ無数の轟雷をその刀身に押し込める。

 

「なっ!?」

 

 天からの無数の雷撃を受け止めるという無茶苦茶な行動を実現した健人を前に、ミラークの思考が一瞬停止する。

 そしてその間に、健人は目が潰れんばかりの雷光を抱いた刃を振り下ろしていた。

 

「ぜええええい!」

 

「がああああああああ!」

 

 振り下ろされた刃の軌跡に沿って薙ぎ払われた雷光が、ミラークの体を捉える。

 霊体化を使えなかったミラークは己のスゥームの雷撃群を纏めた一撃を受け、思わずその場に蹲る。

 そう、今のミラークは、霊体化を使えなかった。

 天候操作という桁外れのスゥームがもたらす負荷は、ミラークをして無視できないものであり、シャウトの連続使用が出来なかったのだ。

 

「ウルド、ナー、ケスト!」

 

 軽やかに着地した健人が、踏み込みながら旋風の疾走を唱える。

 激増した脚力に旋風の疾走の加速を加え、一直線にミラークめがけて踏み込んでくる。

 受け止める媒介を失った健人に天から無数の雷が再び降り注ぐが、超高速で踏み込む健人を捉えきれず、疾駆する彼の背後に着弾して空しく散るのみだった。

 

「はああああああああ!」

 

 健人の渾身の一太刀がミラークに襲い掛かる。

 ミラークは魔剣を掲げて健人の刃を防ごうとするが、突進の勢いを重ねる形で放たれた斬撃はミラークの魔剣を半ばから両断し、鎧となっていた光鱗を切り裂く。

 

「クレン(壊れろ)!」

 

「なっ!?」

 

 さらに健人の“真言”に反応するように、付呪されていた風の刃が炸裂した。

 展開されていたスゥームに意味を追加し、効果を派生させる技術。

 ミラークが使うスゥームの連続使用に連なる技術によって、激しき力の風の刃がミラークの至近距離で炸裂した。

 咲き乱れる花弁のように散った無数の風の刃が、斬り裂いた魔剣を粉砕しながらミラークに襲い掛かる。

 

「がっ!?」

 

 風の刃が炸裂した衝撃で、ミラークのドラゴンアスペクトの光鱗が吹き飛ばされる。

同時に彼の体は吹き飛ばされ、大広間に縁に激突して停止する。

 

「ぐ、ウィルムの鎧が……」

 

 ミラークの視界には、力なく散っていく虹色の光鱗の先で、スタルリムの短刀を引き抜いて双刀となった健人が、トドメを刺さんと踏み込んでくる姿が映っていた。

 ここに来て、ミラークは健人が己の力を真に上回ったことを理解した。

 眷属竜の魂を取り込みながらも、己の持つ最大のスゥームも魔法も武器も全て潰された。

 健人の“共鳴”のシャウトによって高まり続ける彼の力はあまりに絶大で、自らのドラゴンアスペクトも吹き飛ばされたミラークには、既にこの強大なドラゴンボーンを止める手段は残されていなかった。

 

「今は、お前の方が強い……」

 

 自らの敗北を認め、ミラークは即座に保険であった魔法を発動させた。

 毒々しい水がミラークの体を包み込み、転移魔法が発動。彼の体を別の場所へと飛ばす。

 

「なっ!? どこに……」

 

 振りぬいた刃が空を切り、目標を見失った健人は周囲を見渡す。

 術者であるミラークが逃走したためか、天を覆っていた嵐も治まっていたが、肝心のミラークの姿はどこにも見えなかった。

 

「があ!?」

 

 だがその時、ミラークの苦悶の叫びが響き、逃走したはずのミラークが空中に出現した。

 彼の体は触手に絡め捕られる形で空中に固定されており、その姿は磔にされているようだった。

 

「ミラーク、逃げられると思っていたのか? ここで、私に隠し事はできない……」

 

「ハルメアス・モラ……」

 

 突如として響いたハルメアス・モラの声。

 気がつけば、全天を覆うように泡立つ無数の瞳が出現し、健人とミラークを睥睨していた。

 

「まあいい、新しいドラゴンボーンが、私に仕えてくれるだろう。お前の役目も終わりだ……」

 

 大広間の彼方此方にあった沼地から無数の鋭い触手が出現し、その切っ先をミラークに定める。

 ハルメアス・モラはここで、ミラークを処刑する気なのだ。

 己に反抗したドラゴンボーンを放置するつもりなど、初めから彼にはなかったのだ。

 

「初めから最後まで、こいつの掌の上のままか……」

 

 健人との戦いに敗れ、疲弊したミラークは、更にここに来てハルメアス・モラが介入してきた事で、己の死を悟ってしまった様子だった。

 深い諦観の念を漂わせた言葉をつぶやきながら、己を倒したドラゴンボーンを見下ろす。

 

「私のように献身が報われることを祈ろう。最後の忠告だ、ドラゴンボーン。ハルメアス・モラはいずれお前も騙し、私と同じ目に遭わせるだろう……」

 

 ミラークを貫かんと、掲げられた触手に力が籠る。

 このハルメアス・モラの手足に貫かれて、死を迎える前に、ミラークは遺言のように、健人に忠告を残す。

 

「さらばだ……我が宿敵」

 

 最後にミラークの口から出た言葉は、彼自身が驚くほど穏やかなものだった。

 ハルメアス・モラの触手がミラークの体を貫かんと迫る。

 だが、毒々しい触手がミラークの体を貫く直前、無数の銀閃が宙を舞った。

 

「なっ!?」

 

 走った銀閃はミラークを貫こうとした触手を、彼を拘束していた触手諸共切り裂く。

 唐突に宙に放り出されたミラークが地面に倒れ込む。

 ハルメアス・モラは己の裁定に割って入ってきた闖入者に、眉を顰める。

 

「……ほう、逆らうつもりか? わが勇者よ」

 

「俺は初めから、お前の勇者になった覚えはないぞ、ハルメアス・モラ……」

 

 ハルメアス・モラの処刑を邪魔したのは、双刀を携えた健人だった。

 眩いばかりの光鱗を纏った翼無きドラゴンは、宙に浮かぶ無数の瞳から向けられる怪訝な視線を受け止めながら、睨み返すようにかの邪神がいる空を見上げている。

 

「お前の目的はミラークを殺し、彼のシャウトの影響をソルスセイムから消し去ることのはずだ。違うか?」

 

「……服従のシャウトの影響を消すことはそうだ。フリアも、ミラークを殺せと言っていた。だがもう一つ、俺がフリアから頼まれたのは、お前の影をソルスセイムから消し去る事だった」

 

 フリアの願いはミラークを殺して、ハルメアス・モラの影響をソルスセイムから払う事。

 そしてミラークの服従のシャウトは元を辿ればミラークではなく、ハルメアス・モラの力だ。

 つまり、ミラークを殺したところで、ソルスセイムが抱える問題は解決しない。

 ハルメアス・モラ。正確には彼がソルスセイムにばら撒いた黒の書を排除しない限り、この邪神はいずれ必ず、再びソルスセイムにその魔の手を伸ばす。

 ならば、健人が本来闘うべきはミラークではなく、ハルメアス・モラという事だ。

 

「それから、お前の持っているストルンさんの魂、返してもらうぞ」

 

 健人のもう一つの目的は、スコールの秘密と共にハルメアス・モラに囚われた、ストルンの魂を解放すること。

 その為には、やはりハルメアス・モラと相対する必要があった。

 不遜な要求とも取れる健人の言葉に、彼の姿を傍で見上げていたミラークは目を見開く。

 明らかに健人が、ハルメアス・モラと事を構えるつもりだったからだ。

 

「お前、ハルメアス・モラと戦う気なのか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

 ミラークが信じられないという声を漏らす一方、健人はこれ以上ないほどはっきりとハルメアス・モラへの宣戦布告を口にした。

 

「……本気か? 相手はハルメアス・モラだ。この世界で逆らえる者のいない、デイドラ十六柱の一柱だぞ?」

 

 神々が身近なこの世界において、人々は神が持つその強大な力を、嫌が応にもその魂に刻まれている。

 

「俺の生まれた世界じゃ神様だって死ぬ。神殺しの英雄の伝説なんて、ありきたり過ぎるくらいある」

 

 無茶苦茶で論理の通らない理屈だが、デイドラの強大さが理解できないわけではない。

 むしろ、ミラークと同じ領域まで力を高めたからこそ、デイドラの強大さは嫌が応にも理解できてしまう。

 

「確かに、お前を殺せば服従のシャウトの影響は消えるだろう。一時的にソルスセイムは平和になる。だが、それでは俺は俺のケジメをつけられない。フリアとの約束も本当の意味で果たせない」

 

 デイドラロードとは、文字通り次元違いの存在だ。

 アリとゾウなどという生易しい差ではない。そもそもの存在規模が違いすぎる。

 彼らは文字通り、このニルンの中で一つの概念を司る存在。

 言うなれば、この世界そのものなのだ。

 

「俺は必ず、フリア達との約束を果たす。その為に、ここに来たんだ!」

 

 ただ、相手の力の多寡は、今の健人の想いを止める理由にならない。

 己の内なる魂が叫ぶままに、健人は己を鼓舞するように、黒檀のブレイズソードを振るう。

 流麗な刃が、まるで健人の言葉を体現するように、内に抱いた雪の光でアポクリファを満たす毒々しい光を跳ね返していた。

 

「フ……なぜ、今この場にあのスコールの魂があると思う?」

 

「単純だ。秘密を知りたくて堪らないお前が、手に入れたばかりの知識を簡単に倉庫の奥底にしまうものか。自分が眺めるために、そしてまた俺に言うことを聞かせるために持っていると考えるのが自然だ」

 

「確かに……私は今ここに、あのスコールの魂を持っている」

 

 健人の言葉を肯定する言葉をハルメアス・モラが呟くと、虚空から毒々しい触手に絡め捕られた小さな光の塊が出現した。

 間違いなく、この白日夢の領域に来る前に、ハルメアス・モラが奪い取ったストルンの魂だった。

 

「だが、言うことを聞かぬ猟犬には、躾が必要だな……」

 

 ハルメアス・モラはこれ見よがしにストルンの魂を健人に見せつけると、強大な魔力を生み出し、転移魔法を発動させた。

 健人の周囲で風船が破裂したような音が三回響き、続けて巨大な人影が出現する。

 

「ルーカーの守護者が三体……か」

 

 ハルメアス・モラの声に応じるように、転移魔法で飛ばされてきたのは、三体のルーカーの守護者だった。

 異形の巨人はこの世界の神であるハルメアス・モラの意思に従うように、健人を囲むと、一斉に襲い掛かる。

 

「しっ!」

 

 だが、襲い掛かったルーカーの守護者は一瞬で解体された。

 円を描く様に走った銀閃が硬質な鱗ごと三体分の胴体を両断し、続いて返された無数の太刀がルーカーの巨体を粉微塵の肉片に変える。

 

「ミラーク、お前はどうする?」

 

 ヒュン! と刃についた緑色の血を払い、ストルンの魂を人質にするように掲げるハルメアス・モラを睨み返しながら、健人は後ろで項垂れるミラークに問いかける。

 

「…………」

 

「名前なら、自分でつければいい。誰も止めないし、止める権利もない」

 

 名前とは、自らを定義づける言葉であり、己の在り方、生き方の指針ともなる言葉だ。

 ミラークの本来の名前は、もう時の彼方に消え去っている。

 今更それを探す事など不可能だろう。

 だが、もしも“忠誠”と名付けられた己の名が忌まわしいのなら、己が望む名を新しく自分でつければいいと健人は語った。

 

「お前の魂は、今何を求めている?」

 

「私は……」

 

「茶番はそこまでだ……」

 

 迷うミラークの前で、健人を取り囲むように複数の漆黒の淀みが生まれ、覗き見るような単眼が出現する。

 おそらくは、ハルメアス・モラの分け身か、端末だろう。

 単眼が健人を睨み付けると、巨大な炎塊が形成され、一斉に健人めがけて撃ち出された。

 健人が迫る炎塊を迎撃しようと構えた瞬間、彼の脇から紫電が走り、撃ち出された炎塊と単眼を次々と撃ち抜いていく。

 

「チェインライトニングか、相変わらず凄い精度……」

 

「私もヤキが回ったな。こんな絶望的な戦いに身を投じるとは……」

 

 正確無比な破壊魔法に健人が感嘆の声を漏らす。

 彼の後ろでは、先ほど破壊魔法を行使したミラークが、呆れ交じりの言葉を吐きながら立ち上がっている。

 その声には、どこか吹っ切れたような清々しさがあった。

 立ち上がったミラークは自然と健人の隣に並び、同じように自分たちを睥睨するハルメアス・モラを睨み上げる。

 

「忠実だった老犬すら牙を剥くか。ならば、その首を折るしかあるまい」

 

「どんな忠犬も、完全に見捨てられたと分かれば牙を向くものだ。もっともお前に対する忠誠は初めから微塵もなかったがな」

 

 看守にして主だったハルメアス・モラに明確な宣戦布告を叩きつけながら、ミラークは己が認めたドラゴンボーンの隣に立つ。

 二人が戦う理由は同じ。

 運命を切り開け。

 縛られた因果の鎖を断ち切れ。

 己の内なる魂が震えるままに、二人のドラゴンボーンは共に、知識の邪神に相対した。

 




というわけでミラーク戦は終了です……ミラーク戦は。
次回はハルメアス・モラ戦。これが最終戦となるでしょう。
オンラインでもデイドラロードと戦っていたから、別にいいよねと自分に言い訳していますが、不安です……。

ついでに、本作品のタイトルになっているスゥームの登場。以下、説明。

”ハウリングソウル”

motaad,sil
”震える””魂”で構築されるシャウト。
異種の存在同士を共鳴させるスゥームであり、効果は共鳴させる対象によって変化する。
今回は健人が自分の魂とドラゴンソウル、アカトシュの祝福を共鳴させた結果、ドラゴンアスペクトの効果を劇的に引き上げることになった。
健人が自身の胸の内で響いてきた”魂”の”震え”を形にしようとした結果生まれた、彼自身のオリジナルスゥーム。
しかし、まだ二節であり、不完全な状態である。


最近チートのタグが必要な気がしてきた……。
今回のアンケートはオリジナルシャウトについて。また、もしよければ感想等もお願いいたします。

オリジナルスゥームについてどう思いますか?

  • あった方がいい!
  • 習得理由がきちんとしてるならいい。
  • 習得理由が不可解なのでない方がいい。
  • 無い方がいい。
  • ワバジャック!
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