【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

67 / 130
お待たせしました。ハルメアス・モラ戦、前編です。
誤字報告をしてくださる方々、改めて、この場をお借りしてお礼申し上げます!



第十七話 偽りの頂点を超えて

「仕置きだ、わが勇者よ……」

 

 共に並び、知識の邪神に宣戦布告をした健人とミラークだが、ハルメアス・モラが戦いの始まりを宣誓した瞬間、空中に再び無数の単眼が出現した。

 同時に、健人とミラークの前に汚濁に満ちた水たまりが複数出現する。

 汚水の塊が次々に盛り上がったかと思うと、ドシン! と腹に響く音とともに、多数のルーカーとシーカーが姿を現した。

 

「グオオオオオオオオオ!」

 

 ハルメアス・モラに召喚されたルーカーが耳障りな咆哮を上げながら前線を構築し、シーカーの軍勢と無数の単眼がマジ力を高め始める。

 明らかに自分で手を下すつもりのないハルメアス・モラの行動に、ミラークが憤りをにじませた言葉を漏らす。

 

「自分の手ではなく、手下の配下共に嬲らせながら殺すつもりか。相変わらず陰湿な奴だ!」

 

「ウルド!」

 

 デイドラの群れを前にして、健人は即座に旋風の疾走を唱えて前衛となっているルーカーの軍勢に吶喊し、手にした双刀を振るう。

 最も近いルーカーの首を一太刀で斬り飛ばし、崩れ落ちる体に足をかけて跳躍する。

 後続のルーカー達が健人を捕らえようと手を伸ばすが、健人は空中で体を捻りながら回転させ、伸ばされた後続のルーカー達の手を微塵切りにする。

 さらに着地と同時に体を沈め、地面ぎりぎりを這うように駆け抜けながら、ルーカーの足や胴体を斬り裂いていく。

 ルーカー達が地を這うように駆ける健人を潰そうと腕を振るうが、ドラゴンアスペクトとハウリングソウルによって激増した身体能力を十全に使いこなす健人を捉えられるはずもなく、逆に近くの仲間を振るった爪で裂くなどの同士討ちが頻発。

 同士討ちが発生したことでルーカー達の動きが鈍り、さらに健人の攻勢が加速する。

 

「はああ!」

 

「ゴアアアア……」

 

 一閃が煌めく度にルーカーの断末魔の悲鳴が響く。

 一体でも帝国軍正規兵の隊列を一方的に蹂躙できるはずの化け物の群れは、異端のドラゴンボーンが振るう刃によって、まるで雑草が刈られるように、瞬く間に駆逐されていった。

 

「むっ!?」

 

 だが、敵も健人の猛攻を黙ってみているわけではない。

 後方に待機している無数の単眼とシーカー達が多数の魔法を構築していた。

 各々が炎、氷、雷の魔法を展開し、ルーカーを駆逐し続ける健人に向けて一斉に射出し始めた。

 まるでロケット花火のつるべ撃ちのように、色とりどりの魔法群が健人に向かって飛翔していく。

 

「さっさと下がれドラゴンボーン。でないと黒焦げになるぞ」

 

「ウルド、ナー、ケスト!」

 

 自分の背後から聞こえてくるミラークの声と同時に、健人は旋風の疾走で後方に退避する。

 次の瞬間、一筋の強烈な雷の閃光が健人の背後から放たれ、向かってくる多数の魔法もろとも単眼とシーカーの群れを薙ぎ払い、一瞬で消滅させる。

 さらに放たれた雷の閃光は、無数の魔法群と敵軍を薙ぎ払ってなお減衰することなく直進し、遠くにあった尖塔を切り裂いて倒壊させる。

 むせ返るようなイオン臭に包まれ、轟音を響かせて倒壊していく塔を眺めながら、健人は呆れにも似た声を漏らした。

 

「ライトニングテンペストか。それにしたってなんて威力だ……」

 

「言った筈だぞ。私の魔法はヴァーロックにも劣らぬとな」

 

 ライトニングテンペスト。

 クロサルハーとの戦いでネロスも使っていた達人魔法だが、ミラークのライトニングテンペストは、かの自称大魔法使いと比較しても比べ物にならない程すさまじい威力だ。

 地球の構造物に例えるなら、地上数十階建てのビルを魔法一発で倒壊させたことになる。

 相も変わらずヴァーロックという名の人物を引き合いに出すミラークに、健人は感嘆と呆れの混ざった複雑な表情を浮かべる。

 

「ヴァーロックっていうのが誰なのか俺には分からないけど、頼りになるよ」

 

 健人との戦いで己の武器を失ったミラークだが、その魔法行使能力は健在である。

 彼は元ドラゴンプリースト。戦士のように戦うこともできるが、強力な魔法とシャウトで相手を殲滅することが、彼の本分である。

 

「ふん、お前もな。あのルーカー共に怖気づくことなく吶喊し、一方的になます斬りにしていくとはな」

 

 一方、ミラークもまた健人の戦闘術の技量に素直に感心していた。

 今、健人を包み込んでいるドラゴンアスペクトは、彼の“ハウリングソウル”によって著しい強化が施されている。

 だが同時に、その高い身体能力に振り回される可能性もあった。

 いつも乗用車に乗っていた人間が、いきなりF1クラスのレーシングカーに乗ってしまったようなものだ。

 当然ながら、普通はその速度差に翻弄され、驚異的な能力も持て余す結果になる。

 踏み込む速度が違えば、刃を振るうタイミングも違う。

 手にかかる感触も、体幹の制御も、歩法による重心の移動も何もかもが変わってくるはずだ。

 にも拘らず、ミラークからから見ても今の健人は、激増した身体能力に振り回されることなく、むしろ十全に使いこなしている。

 

(おそらく、剣の術理を教えた師も、並大抵の剣士ではあるまい。それ以上に驚愕すべきは、やはりこのドラゴンボーンか……)

 

 完全にドラゴンボーンとして覚醒した健人を横目で覗き見ながら、ミラークは言い知れぬ昂ぶりを覚えていた。

 

「追加が来たか」

 

 その時 ハルメアス・モラが再び転移魔法を行使したのか、再び汚水の破裂音と共に、ルーカーとシーカーの群れ出現した。

 転送された十数体のルーカーとシーカー達は健人とミラークを円で囲むように配置されており、全方向から一斉に襲い掛かってくる。

 

「ウルド!」

 

 突進してくるルーカーを前に、即座に健人が動く。

 まず正面のルーカーを単音節の旋風の疾走で駆け抜け様に両断し、背後のシーカーを一閃。

 すぐさま振り向き、側面と背後のルーカーがミラークに襲い掛かる前に、再び旋風の疾走を唱えて、左翼の敵軍の進路上に割り込むと“激しき力”のシャウトを唱えた。

 

「スゥ、ガハ、デューーーン!」

 

 双刀に纏わりついた風の刃が、疾風の剣速を嵐へと変える。

 刃圏に入ってきたルーカーは一瞬で解体されて血風に変えられ、放たれた魔法も斬り裂かれ、叩き落とされる。

 前衛を務めていたルーカーを瞬殺した健人は、旋風の疾走に匹敵する加速力を単純な肉体能力だけで実現し、瞬く間にシーカーの軍勢に飛び込んで知識に魅入られたデイドラを一刀の下斬り捨てる。

 かつて人だったであろう哀れな異形の群れは、僅か数太刀で耳障りな悲鳴だけを残して霧散させられた。

 

「ふむ、こちらも負けてられんか」

 

 一方、ミラークは右手にチェインライトニングを構築して、背後にいるシーカー群に射出。

 同時に左手で構築した術式を、迫りくるルーカー達の足元に放り投げる。

 

「ガギイイイィイ!」

 

「ゴゥウウゥウ……」

 

 正確無比なチェインライトニングが次々とシーカー達を貫き、討ち取っていく。

 そして、直進してきたルーカー群が、ミラークが足元に仕込んだ術式を踏み抜いた瞬間、閃光と共に強烈な爆発が発生した。

 

 炎の罠

 

 侵入してきた敵対者に反応して爆発を引き起こす罠魔法。

 魔法式の地雷と呼ぶに相応しい魔法の炸裂がルーカー達の足と胴体を吹き飛ばす。

 さらにミラークは、再び両手に術式を纏わせ、右側面の敵に向き合いながら、両手を腰だめにして重ねるように構えた。

 両手に重ねた術式が紫電を放ち、融合しながらその眩いばかりの光を放ち始める。

 

「ゴオオオオ!」

 

「遅い、除け」

 

 腰に構えた光が極大に達した瞬間、ミラークは構えていた両手を突き出し、待機させていた魔法を解放した。

 次の瞬間、極太の閃光が迫りくるルーカーの群れを貫き、背後で魔法を放とうとしていたシーカー達に着弾。

 衝撃で複数の襤褸を纏ったデイドラ達を焼き尽くしながら塔の外へと弾き飛ばす。

 ミラークが放った魔法は、熟練者クラスのサンダーボルトだが、その威力は明らかに健人と戦っていた時よりも強力であった。

 “二連の唱え”と“二連の衝撃”

 両手に展開した同一魔法を融合し、その威力と衝撃力を倍以上に高める技術。

 健人に得物を破壊されて追い詰められたミラークではあるが、その健人という極めて強力な前衛に支えられて魔法戦に集中できるようになった今、むしろこれからが本領発揮とばかりに、轟雷を撃ちまくっていた。

 

「ウルド、ナー、ケスト!」

 

「ヨル、トゥ、シューーール!」

 

 健人が激増された身体能力と旋風の疾走で縦横無尽に駆けてルーカー達を蹂躙し、ミラークが数千年分の鬱憤を晴らすようにファイアブレスと破壊魔法を連射してシーカー群を塵芥のごとく焼き尽くす。

 先ほどまで死闘を演じていた二人のドラゴンボーンは、まるで数多の戦場を共に駆け抜けた戦友のような連携を見せ、ハルメアス・モラの配下達を狩りつくしていく。

 

(不思議な感覚だ……)

 

 共に戦う健人を横目で覗き見ながら、ミラークはふと自分の胸の奥で昂る高揚感に戸惑いを感じていた。

 それは、今まで彼が経験したことのない感覚。

 隣に立って共に戦う者がいる事実がもたらす高揚感に困惑しながらも、生まれて初めて感じる安堵と同族意識に、不思議と口元が緩む。

 周囲のルーカーの軍勢をひとしきり潰し終えた健人が、小休止とばかりミラークの後ろに戻る。

 互いに背中合わせで油断なく構えながら、ミラークはふと背中を預けている健人に声を掛けた。

 

「おい、異世界人。ふと疑問に思ったのだが、あれだけのルーカーを前に迷うことなく吶喊するあたり、異世界の人間はノルドと同じく血の気が多いのか?」

 

「いや、違う。むしろ俺の民族は向こうの世界では戦争しないことで有名で……あれ? 俺が異世界出身ってなんで分かったんだ?」

 

 ミラークは“戦争をしないことで有名な民族”という健人の言葉に、思わず仮面の下で目を見開いた。

 彼から見た健人の戦いは、戦争と無縁な人間が成せる戦闘ではないし、まして彼がミラークとの戦いで見せた成長は、戦意のない人間ができる飛躍ではなかったからだ。

 一方、どうして自分の出自を知られたのか疑問を覚えた健人が問い返すが、ミラークは何を今更と言うように、大きく息を吐く。

 ミラークから見れば、健人の異質さは一目瞭然であり、彼の魂がこのタムリエルはおろかニルンの出自ではない事はとっくに察している。

 

「お前の異質な魂は明らかにタムリエル由来のものではないからな。先の戦いであれだけシャウトを交わし、それだけ隆起している魂を見せられれば簡単に分かることだ」

 

 そもそも、ドラゴンの戦いは、真言と魂を巡る闘争だ。

 真言という魂の力が鍵となる力を使う以上、戦いの中で健人がミラークの魂やその感情を感じたように、ミラークもまた健人の魂と感情を、嘘偽りのない本心を曝け出すレベルで感じ、理解している。

 ミラークからすれば、健人の魂の異質さは、理解して当然の話。

 この辺りの双方の意識の齟齬は、力はともかく真言使いとしては若葉マークの健人と、数千年間シャウトを研鑽してきたミラークとの感覚の違いが如実に出た結果だった。

 

「……で、どうなんだ?」

 

「しつこいな。戦争しないことで有名っていうのは本当だよ」

 

「信じられんな。いくら私でも突進してくる巨人の群れを前にして、相手の気勢を削がないまま突撃はせん」

 

 ミラークなら、突撃してくる異形の巨人集団を前に、正面から飛び込むような真似はしない。

 接近戦をするにしても、シャウトか破壊魔法で機先を制した上で踏み込むだろう。

 一方、健人はそんな事を一切せず、真正面から突撃して一方的に蹂躙していった。

 出来ると分かっていても、実際に実行できるかどうかは別であり、傍から見ても尋常でない胆力を求められる行動を即座に取る健人を見たミラークが、健人と彼の種族、ひいては地球人そのものに妙な先入観を抱くのも無理はなかった。

 

「というわけで、このまま前線はお前に任せるぞ。血の気の多い異世界人」

 

「だから違う! 訂正させろ!」

 

 健人が必死に抗議の声を上げる。

 ハウリングソウルの影響で精神が昂っているためか、はたまたノルド並みに血の気が多いといわれたことが相当不服なのか、普段よりも言動が荒い。

 しかし、日頃は穏やかでも、一度スイッチが入ると別人のように変わるのが日本人である。

 また長い日本史を見ても、平和だったのは江戸時代と第二次世界大戦後の数十年間だけで、かなりの年月を内戦などに明け暮れている。

 特に元々金の産出国であり、銃火器などの保有量も莫大であった戦国時代頃の日本の経済力や軍事力は世界的に見ても頭一つ分以上突き抜けていたし、第二次世界大戦の時は文字通り周辺各国ほぼすべて敵に回して戦い抜いているため、ミラークの評価は決して間違っていなかったりする。

 とはいえ、タムリエルにおける脳筋民族代表であるノルドと同等の扱いをされた健人としては堪ったものではない。

 だが彼の必死な不服申し立てを遮るように、増援のデイドラ勢が転送されてくる。

 転送されてきたデイドラ勢は三度、主命を果たそうと健人とミラークに向かって突進してきた。

 

「ほら来たぞ」

 

「ええい、邪魔だ!」

 

 三度現れたデイドラの群れに、もはや反射の領域で反応した健人が斬りかかり、瞬く間に殲滅していく。

 ミラークもまた炎と雷を両手に宿し、強烈な破壊魔法でデイドラの群れを駆逐しながらも、異形の巨人の群れの中で縦横無尽に駆ける健人に、もう何度目になるか分からないため息を漏らしていた。

 

「やはり戦闘民族ではないか。アルドゥインといい、こいつといい、アカトシュはやはり人を選ぶのが苦手と見える……」

 

「その龍神に最初に選ばれたのはお前だろうが!」

 

 喧々諤々と言い争いをしながらも、瞬く間にハルメアス・モラが送り込んできた第三群目を駆逐していく健人とミラーク。

 健人がルーカーの群れで構築された前衛を崩し、空いた隙間を縫うように放たれたミラークの破壊魔法が後衛のシーカー達を貫いて消滅させる。

 二人の連携はまるでワルツを踊っているように噛み合い、相乗しながらその殲滅力を高めていく。

 

「ミラーク、魔力は大丈夫なのか!?」

 

「問題ない。私はこのように……」

 

 健人が破壊魔法を唱え続けるミラークの魔力枯渇を案じたその時、後衛のシーカーが放った衝撃魔法がミラークに襲い掛かった。

 ミラークは心配ないというように手を突き出し、障壁魔法を展開すると、後衛のシーカーが放った魔法を受け止めて四散させる。

 さらにその時、ミラークの障壁に激突して四散した衝撃魔法の魔力が、ミラークの体に吸収された。

 

「相手の魔法の魔力を吸収できるからな!」

 

「マジか……」

 

 吸収シールド。

 回復魔法の技術の一つであり、障壁で防いだ相手の魔力を吸収して、己の魔力に還元することができる。

 健人が驚く中、シーカーの破壊魔法の魔力を吸収したミラークは、お釣りを返すぞ! と言うように、反撃のエクスプロージョンでシーカー達を吹き飛ばす。

 

「そういうお前はどうなんだ、息が上がってきているぞ!」

 

 驚きの表情を浮かべる健人を煽るようなセリフを吐いたミラークだが、直後にズドン! という轟音と共に、ルーカーの守護者が彼の背後に転送されてきた。

 

「むっ!?」

 

 おそらくはハルメアス・モラが不意打ちのつもりで送り込んだのだろう。

 健人とミラークの意識が最初に転送されたデイドラ群に向いている間に、背中を刺すつもりだったのだ。

 ルーカーの守護者が、反応の遅れたミラークを叩き潰さんと腕を振り上げる。

 健人に己の得物であった魔剣を真っ二つに斬られたミラークには、咄嗟の接近戦となった時、相手の攻撃を防ぐ手段がない状態だ。

 

「ふっ!」

 

 だが、ルーカーの守護者の爪が振り下ろされるよりも早く、健人がミラークとルーカー守護者の間に割って入り、振り下ろされた腕を斬り飛ばす。

 

「そういうお前は魔法に意識を割き過ぎだ! 転移魔法で背後を取られているぞ!」

 

 返す刀でルーカーの守護者の首を撥ねながら、健人がお返しとばかりに口元に笑みを浮かべる。

 

「お前がいるなら何も問題あるまい」

 

「う……」

 

 反撃のつもりが、思った以上に素直な返事をミラークから返され、健人は何も言えなくなり、思わず視線を明後日の方向に逸らしてしまう。

 健人が言いようのない気恥ずかしさを覚えている中、ミラークは右手にマジ力を集中させ、意識下で用意していた術式を行使した。

 

「それから、ついでだ」

 

「回復魔法?」

 

 ミラークが唱えたのは、熟練者クラスの“大治癒”の回復魔法。

 自分を含めた周囲の味方の傷をほぼ全快させる極めて高位の魔法だが、健人が驚いたのは、治癒効果だけではなかった。

 ミラークと戦っていた時の傷は元より、体に残っていた筈の疲労までもが、一瞬で快癒したのだ。

 本来傷を治癒するだけの回復魔法で疲労などのスタミナも回復させるのは、高位術者の証である。

 また、先ほどミラークが使った吸収シールドは、さらに高位の回復魔法技術であったはずだ。

 

「お前のシャウトでより強力になったドラゴンアスペクトだが、反動も相応のはずだ。違うか?」

 

「……まあ、な」

 

 実際のところ、今の健人の体に圧し掛かっていたスタミナの消耗は、非常に大きかった。

 どうやら、ドラゴンアスペクトとハウリングソウルの効果で身体能力が激増している反面、スタミナの消費も激しくなっているらしい。

 

「一体お前は、どれだけの種類の魔法技術を習得しているんだよ、まったく……」

 

 健人が改めてミラークの持つ魔法技術の高さに感嘆していた時、彼の目が、毒々しい色の雲の奥から自分達のいる塔に向かってくる無数の影を映した。

 ドラゴンボーンとして異常に強化された健人の視力が、向かってくる影の正体を捉える。

 

「おい、なんか飛んでこの塔に向かってくるシーカー達がいるぞ!」

 

 それは、遠くの空から健人たちがいる塔へと向かって飛んでくるシーカーの群れだった。

 まるで紙の上に飛ばした墨のように現れたシーカーの群れは瞬く間にその数を増やしていく。

 

「シーカーだけではないな。ルーカーの群れも毒の海を泳いできている」

 

 ミラークの言葉に健人が海面にも目を向けると、ルーカーのものと思われる無数のヒレが、毒の海を櫛の歯で切るように向かってくる光景が飛び込んできた。

 それはさながら、クリーチャー系ディザスター映画を彷彿とさせる。

 当然ながら、健人達のいる塔に向かってくる敵の数は、転移魔法で送られてきていた数とは比較にならない。

 先ほどは一度に戦った敵の数は精々十数体だったが、今度は明らかに百を超える大軍団である。

 

「ハルメアス・モラの奴、一々転送していたら俺達に各個撃破されると踏んで、この塔を囲んで数で圧倒するつもりだな!」

 

「おそらく、招集したのはこの塔の周辺のデイドラだけではないな。白日夢全域の配下を集めているはずだ。いずれ、これ以上の大軍が押し寄せてくるぞ」

 

 ミラークの言葉を肯定するように、塔を囲むデイドラの軍勢は少しずつその数を増やしているように見えた。

 気が付けば、上空高くに再び出現したハルメアス・モラの単眼の群れが、再び健人とミラークを睥睨している。

 

「ふむ、まだ叛意は折れていないようだが。さて、いつまで持つかな? わが勇者よ……」

 

「だから、お前に勇者扱いされる理由はない! いいさ、邪魔をするなら全て倒すだけだ!」

 

 未だにペットを躾けるように語りかけてくるハルメアス・モラに、健人が声を荒げる。

 その戦意には如何程の陰りもなく、瞳は唯々前だけを見据えている。

 

「おい、異界のドラゴンボーン」

 

「なんだ?」

 

「お前の……名前は?」

 

 唐突に向けられたミラークからの質問に、思わず健人は隣にいるミラークに目を向けた。

 己の名と運命を取り戻すために足搔き続けたミラークにとって、名前は何よりも重要なものだ。

 健人もまたその事をシャウトを介した戦いという対話の中で感じ取っている。

 仮面の奥から向けられる視線が、まっすぐに健人を見据えていた。

 ミラークが己の人生でただ一人認めた好敵手。

 唯一対等と呼べる者と共に戦うことで生まれた、ミラーク本人も上手く表現できない高揚感。

 それが、彼に隣で戦う戦友の名前を求めていた。

 

「……健人だ」

 

「そうか。なら、ケントよ。続きと行こうか」

 

「ああ!」

 

 健人が己の意を高ぶらせるように双刀を一振りし、ミラークがその身に宿る絶大な魔力を滾らせる。

 向かってくるは百を超えるデイドラの軍勢。

 戦いは、無数のデイドラ勢と、たった二人による攻城戦へと移行した。

 




というわけで、ハルメアス・モラ前編でした。
お仕置き気分の邪神さん、配下を向かわせて高みの見物。
前回のアンケートありがとうございます。
オリジナルシャウト、思った以上の方々に受け入れてもらえているようで、少しホッとしています。
ただ、ハルメアス・モラ戦に関してはまた長くなりそうな予感が……。
今回もアンケートを入れておきます。もしよろしければ、ご回答ください。よろしくお願いいたします。

本小説のキャラクターを、原作の異なる二次小説で使うことにはどう思いますか?

  • 別に問題ない。
  • 主人公だけならいい。
  • ジャンルや設定が上手く合うならいい。
  • やらない方がいい。
  • やったら作者の頭ねじ切って玩具にしてやる!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。