ガンダムビルドレイヴンズ(自称)   作:葉川柚介

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星に行ってももう誰もいなかったけど、更に追いかけたらGBNに辿り着きました

「ガンプラの民……私の使命を阻む者……」

 

 惑星エルドラの守護者、アルスは敗北した。

 この星を、この星に生きる新たな命を守るために決死の戦いを挑んだビルドダイバーズの思いと願いは4人のガンプラを一つに重ね合わせるリライジングガンダムとなり、衛星砲を破壊してのけた。

 アルスには、もはや惑星を一息に破壊する手段は、ない。

 

 かつての盟友、クアドルンは眠れという。

 だがアルスを形作る核そのものたる使命は、「止まるんじゃねえぞ」と駆り立てる。

 

 新たな民も、ガンプラの民も、己の邪魔をするものは、みな死ねばいい、と。

 ならば、アルスの成すべきことは決まっている。

 ビルドダイバーズがあるかぎり「道」の存在は確立されたもの。かつて何度となくその向こう側を見てもきた。

 ゆえに、それをアルス自身が辿る事もまた、決して不可能なことではない。

 

 

「異界からの妨害者……なら! 直接排除するまで!」

 

 

◇◆◇

 

 

「異常なトラフィック、確認!」

「GBN外のネットワークから、膨大なデータが流入しています!」

 

 その日、GBN運営は突然のトラブルに見舞われていた。

 ゲーム内に、決して正規のものではありえない大量のデータが押し寄せるという異常事態。

 つい先日には全世界規模の電子機器故障事件があり、それからの復旧が済んだのも記憶に新しいというのに、この事態。2年前のブレイクデカール事件とELダイバーに関する事象を思い出すような、GBNを揺るがす事態が起きているのではないかという危惧を抱かせる。

 

「……これは、まさか」

 

 その予感が、ゲームマスターの胸中をよぎる。

 あるいはまたしても、運営とダイバーたちの運命が大きく変わるかもしれない。

 

 

◇◆◇

 

 

「ガンプラの民を……殲滅する」

 

 GBNのフィールドに、アルスの軍勢が姿を現した。

 ベースとなるのはガンダムAGEのヴェイガン系兵器。

 その数はビルドダイバーズを迎え撃った時にも負けず劣らず、アルスの決意が伺える。

 

 出会う全て、目に映る全て、ことごとくを滅ぼしつくす。

 それこそがアルスの使命のために不可欠なこと。

 アルスの持てる全戦力による奇襲がここに成され。

 

 

「ところがぎっちょん! ……ってかぁ!」

「!?」

 

 そこに立ちはだかる者がいた。

 ガンダム、ガンダム、ガンダム。

 ザク、ジム、リーオー、カットシー、ヅダ、ヒルドルブ、トールギス。

 アルスの全戦力に匹敵する数のガンプラが、緑の大地と空に浮かぶ城のフィールドに結集していた。

 

 

 それは、かつて2度結成された有志連合に匹敵する大戦力。

 これあることを予想したダイバーたちが、GBNを守るためにノリノリで集まった勇気と決意、酔狂と欲望の大軍勢。

 

「いらっしゃ~い! GBNへようこそ~♪」

 

 それらを集めたのは、初心者への指導を趣味とする上位ダイバー、マギー。

 顔の広さ、声をかけて集まるダイバーの数でいえばチャンピオンにも勝るマギーがいたからこそ、これだけの数のダイバーを呼ぶことができたと言っていいだろう。

 

 そして、これだけの大軍勢を率い、指揮できるのはただ一人。

 チャンピオンのフォース<AVALON>にも匹敵する戦力を擁する<第七機甲師団>のリーダーたる智将。

 ロンメル大佐を置いて他にはいない。

 

 

「――歓迎しよう、盛大にな!」

 

 

◇◆◇

 

 

 そして始まったアルスとの戦闘は苛烈を極めた。

 奇襲のつもりが万全の戦力に待ち受けられていたとはいえ、複数の大型戦艦を含むアルスの軍勢はGBN側の戦力を相手に一歩も引かず、しかも惑星を管理するほどの能力を持った電子生命体としての本領を発揮し、GBNのサーバー自体にダメージを与えるなどゲームとしての領分を越える攻撃すらも繰り出した。

 

 意気軒高、必勝の心意気で挑んだダイバーたちをしてもなお、戦況は互角かあるいはGBN側不利とさえ言えるものだった。

 

 エルドラから帰還したビルドダイバーズも加わり、しかし戦況を決定的に覆しうるものではない。

 次々と現れる、エルドラにてコピーされたガンプラたち。

 ヒロトがドッキングしようとしたプラネットアーマーすら奪われる。

 

 はるか過去の生まれとはいえ、明らかに地球以上の文明を築いた存在の末の力、まさしくそこにあり。

 

 

 しかし地球人が、ガノタが、その程度の不利と苦境で諦めるわけがない。

 

 

『――敵の、増援?』

 

 戦場を裂くビームが、増した。

 ヒロトを庇った輸送機に続き、フィールド上の青空を幾筋もの、何色ものビームが彩る。

 それら全てはGBN勢の後方からアルスに向かって放たれたものであり。

 

「ヒャッハー! イベントバトルだぁー!」

「やたら盛り上がる配信だと思ったら、このイベントの告知だったわけか……悪くない!」

「2年前を思い出すなあ……! オラ、素材よこせ!!」

「ダメージ食らったらさっさと落ちろカトンボ! 断末魔が長いんだよ!」

 

『えっ』

 

 思わずアルスもドン引きするほどの勢いを持って迫りくる、GBN一般ダイバーの群れだった。

 

 GBNの存亡のかかった事件と、そこに可能な限り多くのダイバーの戦力を投入する必要性を、アルスにとっては残念なことにGBN運営は経験したことがあった。

 急遽この一件を特別ミッションとして多大な報酬を提示すれば、それだけで報酬欲とイベント欲に駆り立てられたダイバー共がうじゃうじゃと寄ってくる。

 GBNに耽溺するダイバーの性質として、身体は闘争を求めるものなのだ。

 

「ダイバーたちの騒ぎはまだしも……不正アクセスは許さない!」

 

 そして、更新したセキュリティパッチを適用すれば、GBNサーバーへのダメージはもう通らない。

 そこに残るのは、純然たるガンプラバトルの戦場のみ。

 強い者が勝ち、勝ったものが我を通す。

 シンプルにしてこの世界を愛するガノタの多くが望む物こそがそれであり。

 

 

「――ふう、滑り込みセーフだ」

 

 かつてはここを魂の場所と信じた者も、混じっていた。

 

 

◇◆◇

 

 

「くそっ、敵陣の防御が固い……! ここを突破しないと戦艦落とせないぞ!」

「だからって俺たちだけじゃなあ! くそっ、こんなことならMA使いのフレンドも呼べばよかった!」

 

 アルスの戦力は、ガンプラ。

 量産機ベースとはいえその性能、数共に歴戦のダイバーたちですら油断できるものではなく、電子生命体の一つの意志に対してどこまでも忠実な連携は突き崩すことすら難しい。

 いまもそう。

 新しく参戦したダイバーの一部が即席の連携で砲火を交えても、それだけでは埒が明かない。

 何か、きっかけが必要だ。

 

 敵軍に飛び込み、風穴を開けるような突破力のある機体。

 そう、それはたとえば……。

 

 

「では、私にお任せを」

「えっ」

 

 直後、彼らの横を飛んで行った巨大な影だとか。

 

 敵陣に接近と同時、「それ」は弾けるように砲火を吐いた。

 機体上部に居並ぶ砲口、その数実に32門。

 それに加えて多数のミサイルポッド、バズーカ、バスターキャノン。

 実体弾ばかりの装備とはいえ、正面にいた敵機は目を逸らしたくなるような消滅の仕方をする羽目になったのは、その機体があからさまに通常サイズのガンプラよりもはるかに大きく、それでいてMAのような装甲を持たない、ただひたすらに武器を束ねて乗せたような姿だからだろう。

 

「……え、デンドロビウム? それともディープストライカー? 大気圏フィールドだよなここ?」

「待て、よく見ると火器とプロペラントタンクだらけだ。あれ多分フルアーマーだぞ。ほら見ろよ。無理やり機体振り回して槍で殴ってるし」

 

「まあお気になさらず、皆さんもどうぞ続いてください。――試製決戦兵器、雷鎚(いかづち)。参ります!!」

 

 

 アルスの率いる軍勢は強力だ。

 当初待ち受けていたダイバーだけでも、ただのミッションと思って参戦したダイバーだけでもまだ足りない。

 アルスの軍勢を凌駕するためにはどうしても。

 

 イレギュラーが、必要だ。

 

 

 

「あっはっはー! この私を止められるヤツはいないのかー!」

「なんだあのガンプラ……なんだ? 元ネタはわからんけど強いな。クリアパーツもたくさん使ってるし、いい機体だ」

「あ、あれ……見たことあるぞ! <傭兵>と一緒にいたヤツ……じゃないな。似てるけど少し違う」

 

 この戦場を彩るのは、美しき剣舞。

 自在に空中を飛び回る高機動機は敵機を寄せ付けず、手本のようなヒットアンドアウェイを、驚くほどの奔放さの味付けをもって舞い踊るように敵を討つ様は紛れもなくエースのそれ。

 その姿に近しいものを、見覚えのあるダイバーも混じっていたようだ。

 だがそうと見られる当人はそれを気にすることはなく、ただただ自由に空を制する一振りの剣となった。

 

「うー、ん? いっけない、いつの間にか囲まれて……ちょっ、やー! 私ばっかり狙わないでよー!?」

 

 しかし、調子に乗り過ぎだ。

 他の仲間がついてこれない機動は突出に繋がり、敵陣の只中で孤立。

 四方八方から迫りくるビームの嵐はさすがのエースでさえも避け切れるものではなく、一発、二発と着弾を余儀なくされ。

 

「うわー! やーらーれーたー!」

「おいっ、大丈夫か!?」

 

 全てのダイバーが、ガンプラがそうであるように、爆炎に包まれ撃墜される。

 

 

「――とでも言うと思いましたか? この程度、想定の範囲内です!」

 

 

 否。爆炎を拭き散らして姿を見せる機影がある。

 よもや無傷、と驚く周囲のダイバーたちだったが、現実はさらにその上を行って度肝を抜く。

 現れたのは、先ほどまで戦っていたのとは全く違う機体。

 どことなく元の機体の面影はあるが、装甲、武器、あらゆるものが元と異なっている。

 多数のクリアパーツを内蔵しているらしきその意匠、どこか不思議な美しさと力を感じさせるものであり。

 

「――堕ちなさい」

 

――!?

「なっ、なんだ!? 機体が動かない!?」

 

 その時、不思議なことが起こった。

 先ほどまでの無邪気な印象から打って変わったクールな口調で命じられた言葉の通り、全ての機体が機能を停止し、墜落を始めた。

 そう、「全ての機体」。アルス側、GBN側問わず、周囲の機体全てが、である。

 ただの木偶となって落ちていく無数のアルス側の機体と、そしてガンプラたち。阿鼻叫喚の有様と呼ぶよりほかにない。

 

「……すみません、間違えました。慣れていないので、範囲の設定が上手くいかなかったようです」

「ちょっとー!?」

 

 が、すぐに気付いた当人によって修正されたらしく、制御を取り戻すガンプラたち。

 機体のフレームにちらほら見えるアレ、絶対サイコフレーム並みにヤバいやつだ。

 この場に集うガノタたちは、一様に恐れおののいたという。

 

 

◇◆◇

 

 

「――神様は、『人間』を救いたいと思っていた。だから、手を差し伸べた」

 

 言葉を紡ぐ。

 無数の砲火が弾ける空で、いくつもの思いが燃え上がる戦場で。

 既にして落とした敵は数知れず。すれ違ったタイガーウルフやシャフリヤールからは「うげぇ」みたいな反応をされた気もするが、気にしない。

 楽しい楽しい大暴れ、今はそれだけすればいい。

 

「でもその度に、人間の中から邪魔者が現れた。神様の作る秩序を、壊してしまうもの」

 

 迫りくる大軍勢。その名は「アルス」。

 遥か彼方の星を守る使命を長い長い時を越えて果たし続けてきた存在だという。

 それは「神」と呼ぶにふさわしいもので、だがそれは今を生きる命と相いれないこともある。

 

「神様は困惑した。人間は救われることを望んでいないのかって」

 

 その驚きと迷いの結論が、宇宙を越えてGBNへの侵攻という形になったのは、とてもとても悲しいことだ。

 遥かな時を超える使命感。

 守り続けてきた約束。

 

 きっと彼が今も信じるそのままであることはできないだろうけれど、その妄執を断ち切ろう。

 終わりから、新たな始まりを迎えるために。

 

 ビルドダイバーズを知り、GBNを知り、あれだけのガンプラを生み出した管理者(パルヴァライザー)としての彼を、俺はこんなにも求めているのだから。

 

 

「主砲が残っていてよかった。……こうやって、再利用できるからなぁ!!!」

 

 ダイバーによって撃墜された、アルス側戦艦の主砲。

 地上に落下しながらも機能を損なっていなかったそれを、無理やり掴んで引っ張って残るアルスの戦艦へと直接照準。

 今俺が使っている「この機体」なら、敵側のシステムだろうと射撃管制程度ならば乗っ取ることが可能だ。

 

 空に浮かぶ船を狙い、クラッキングしたシステムに発射信号を強制的に流し込む。

 大破したことでアルスの側からの管理も外れた兵器に抗いようなどあるはずもなく、蓄積された最後のエネルギーが、破壊の奔流となって迸る。

 空を裂く。鋼を穿つ。天すら堕とす。

 戦艦に直撃した同型艦のビームは装甲を焼き、内部機構を貫き、叩き込まれたエネルギーがあちこちを誘爆させ、中身が裏返るように爆炎の華を咲かせる。

 戦艦、轟沈。

 

 

 アルス。君の敗因はたった一つ。

 たった一つのシンプルな答えだ。

 

「お前はガノタを侮った。……そして、『傭兵』も、ね」

 

 無数の物量、不屈の闘志、あるいは「絆」と呼ぶもの。

 それらが、計算を狂わせた<イレギュラー>だと知り、その恐怖を魂に刻み付けるがいい。

 

 

◇◆◇

 

 

 ここはGBN。

 夢と可能性が叶う場所。

 

「私についてこられるか、少年」

「――望外だ。まだまだいけるぜ、キャプテエエエエエエエエエエエン!!!」

 

 憧れたヒーローと肩を並べて戦うことができる。

 

 

「とわーっ!」

 

「ああっ、あの緑のアストレイ! キャプテン・ジオンの動画で紹介されてバズった配信者!」

「自分の動画配信より前にガンプラの方でバズったっていう、あの!?」

「なぜかタクティカルアームズを常にデルタモードにしてるって噂、本当だったんだ!」

「この薄刃ニッパー風シザーシールド使ってー!」

 

「……うるせー! フォールディングケインで殴るぞ!!」

 

 噂に名高いダイバーが同じ戦場にいることもある。

 その自由を愛するがゆえに、ダイバーたちは今日も明日も、戦い続ける喜びに浸るだろう。

 

 

◇◆◇

 

 

「この不審なガンプラデータ……おのれ、おのれ<傭兵>いいいーーーーー!!!!」

「……だ、大丈夫ですか、ゲームマスター?」

 

 なお、そんなフィールドの片隅でGBN運営の一人が怨嗟の叫びをあげたという根も葉もない噂もあるが、誰も信じなかったという。

 

 

◇◆◇

 

 

 GBNの脅威は再び去った。

 アルスの軍勢は排除され、サーバーへのダメージは修復。

 GBNはいつも通りの平和なゲーム世界を取り戻すことができている。

 

 なお。

 

『あんなイベントあると知ってたら仕事休んででも参加したのに!!! 事前告知しろよ無能運営!!!!』

『復刻はよ』

『難易度がクソ。即撃墜されるとか聞いてねえぞ』

『サーバー不調でしばらくログインできませんでした。詫びパーツはよ』

 

 などなどのお便りが運営に寄せられ、ゲームマスターの胃がガンダム試作2号機の核バズーカ並みに爆発四散しかけたりもしたが、些細なことだろう。

 

 

 GBNへと侵略してきたアルスは敗北し、消滅した。

 彼を構成していた因子はGBNに広がる電子の海へと還り、巡り巡ることとなる。

 

 それはあらゆる場所に遍く広がることもあれば、あるいはどこかに集まり形を成すこともあるだろう。

 

 

『――ここは? それに、私は……?』

「誕生おめでとう、新たなファンタズマ・ビーイング」

 

 どこまでも広がる荒野に文明の気配はない。

 だがそれは知性の生まれたことのない地だからではなく、かつてそれらが確かに栄え、しかし滅びたのであると、荒野を睥睨する巨大な<タワー>が証明している。

 ここは、タワーの頂上。

 滅びに近い世界の中、力を、勝利を積み重ねた者でなければたどり着けない「ことになる」場所。

 

 そこで俺は、俺たちは、新たな誕生を寿いでいた。

 

 集まったのは俺と、GBNでのミッションにも協力してもらっていたいつもの面々。

 そしてこの場にこそいないものの、俺の夢に手を貸してくれているたくさんの人たちが見守っている。

 たくさんの人に注目され、確かな意識を持ちつつも己が何者なのかをはっきりとは見いだせていない、生まれたばかりの存在。

 これからの生き方は彼なりに楽しんでもらいたいところだが、それを見出すまでは得意分野で力を発揮するのがいいんじゃないかな。

 そのための準備は、すでに済んでいるわけだし。

 

「君には、この<タワー>の管理者を頼みたい。大丈夫、きっと向いているよ。……ふむ、名前があったほうがいいね。<ジュノ>、なんてどうだろう」

『私は……ジュノ……』

 

 さあ、楽しい楽しい世界が始まるぞ。

 誰もが自由にアクセスすることができ、GBNよりも自由な機体で広い広い世界で「なんでも」できる。

 

 そう、ここが君の、君たちの、魂の場所だ!

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