ねーさま、ヨロシク!-桂木エリふたたび-   作:北河まき

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困った贈り物

 市内循環バスが駐車場のアスファルトに停まって中扉が開き、電動スロープが出てエリは車いすを押してみちほと降りた。運転手は何が起こったかを理解できずにいたが、しばらくして制帽をかぶり直してエンジンスタートさせた。エリがかけた魔法により、新舞島駅の通りを駅表へ向かうバスはいきなり自動運転に切り替わって右折して踏切を越え、山を上って脇道に入って新舞島寺にたどり着いた。

 走り去ったバスの陰からスーツ姿の薄い黒鞄を手に提げる中年女性が歩いてきた。エリとみちほはしれっとした顔で擦れ違った。その人物は肩を落として二人の横を通り過ぎ、奥に停められた国産セダンに乗ってバスと同じ脇道へと消えた。

 寺では男性従業員が竹箒で宿坊の入り口前を掃いた。急いでエリは彼の前へ車いすを押し、少し首を傾けてニコリと笑った。

 

「すいません、宿坊の支配人さんいらっしゃいますか」

「あ、ちょうど出ていったところでして」

「いつ頃戻ってこられますかねぇ」

「ははは、それが正直分からないんです。申し訳ありません」

 

 苦笑いをした彼はそそくさと入り口脇へ入っていった。エリは車いすを反転させて石畳を押してアスファルトまで戻った。シート上で後ろへ体をひねったみちほが手のひらを出し、パーンと勢いよく二人でタッチした。

 

「やったね、エリ姉。さっきのは支配人で本社に呼ばれたんだよ」

「ええ、これで心のスキマが埋まって当麻さんの駆け魂が出てくるわ。勾留ビンをこっちに貸してちょうだい。それから、M42で駆け魂センサーの方向を確認しなさい」

 

 てきぱきと指示を出すエリに従い、みちほが前を向いて勾留ビンの底を掴んで後ろへ向けつつ、反対の手でダウンのポケットからM42を取り出して太腿の間に載せた。

 端末画面に浮んだ駆け魂センサーの鎌は入り口を指したが、宿坊内はガラスから二階への階段が見えるだけだった。次第に、3Dホログラムの人物が着る黒いマントが紫色に変わり、みちほは車いすの後ろへ振り向いた。教えようとしたエリは姿をくらまし、背中に向かって冷たい突風が吹きつけた。

 

「へ、へっくしょん……もぉ~、エリ姉は一体どこ行ったんだ」

 

 みちほは背中を丸めてファスナーが壊れたダウンジャケットの前を引っ張って合わせた。視線を上げると、石畳を歩く巫女姿の当麻がゆっくりと近づいた。彼女の頭のてっぺんからは白い霊魂の顔がにゅっと飛び出た。驚いたみちほは両腕を回して体を反らせた。

 

「うぇっ」

「あら、みちほさんなの。外にいると風邪をひくわよ」

 

 イヌツゲの枝脇にみちほの上体がさっと隠れた様子を目にし、当麻が暗い顔をして下を向いた。

 

「ごめんなさい。無理ないわね、あんなひどい事をしたのだから」

 

 悲しげな声を聞いてみちほの脳裏に『BAD END』の文字が浮かんだ。せっかく心のスキマから出かかった駆け魂がまた入り込んでしまう可能性があった。みちほは意を決して車いすのハンドリムを回し、当麻の前に行って声を振り絞った。

 

「あのっ、お仕事頑張って下さい。たぶ…きっと素敵な女性に出会えますから」

 

 な、なんてありきたりなセリフなのだ――と、みちほは自分の口から出た言葉に驚愕した。だが中学生らしい物言いに、微笑んだ当麻が車いすの傍らに来た。しゃがみ込んで赤い袴の膝を抱えて少女の顔を見上げた。

 

「みちほちゃん、将来就きたい職業とかあるかしら」

「ま、まだ考えてませんけど」

「私もそうだったわ。心理師の資格を取ろうと思ったのは学部の三回生の時だった。大学院に行けば2年で取れる。でも、現場で経験を積みたかったから鳴沢パートナーズに入社したの」

「はぁ、そうなんですか」

「会社説明では鳴沢市内のお店で相談助手として働けるって言われたけど、なぜか舞島市の宿坊に配属されてカウンセリングをすることになってね。支配人が作ったノルマに耐えられなくて仕事を辞めようと思ってた……だけど、もうしばらく頑張ってみようかな」

 

 何かが吹っ切れたように彼女は笑った。安堵の吐息を漏らしたみちほ。アームレストから当麻が身を乗り出し、頬に軽く口づけして「ありがとう」と微笑みかけた。

 その時、当麻の頭上に鮮烈なスパークが四方八方へ走り、霊魂が凶悪な唸り声を上げて駐車場の方へ飛び出した。体長三メートルを超えるブヨブヨした駆け魂は糸の切れた凧のように中空を旋回し、軌跡が青白い渦を巻いて地上のアスファルトを明るく照らす。この光景が見えているのは悪魔とバディを務める人間だけで、みちほは車いすの後ろに首を倒して呆然と眺めた。

 やがて、駆け魂は宿主からエネルギーを受けられなくなって弱々しい表情になり、フラフラして動きが鈍くなった。宿坊を囲む植物の間から様子をうかがうエリが枝をガサガサと揺らした。勾留ビンの蓋を開けると円柱形容器は膨張して直径が丸のみできる程に大きくなり、両腕で抱えて芝生が短く刈られた土手を駆け魂へ向かって飛び跳ねた。強力な吸引力を発生させる勾留ビンは弱った駆け魂に抵抗する間を与えず後ろ向きで内部に吸い込んだ。

 

「駆け魂、勾留!!」

 

 アスファルトに着地したエリはつんのめった体を起こして勾留ビンの蓋をポンッとはめた。振り返ってドヤ顔で親指を立てた。当麻が宿坊に戻って石畳にみちほは一人たたずみ、ダウンの袖で頬を拭ってエリへ恨めしい目を向けた。

 

 曇り空に太陽が沈みかけた頃、桂木家の一階はカーテンを閉じてダイニングとキッチンに電灯が点った。ダイニングではテーブルの中央に小さいクリスマスツリーが飾られ、少し早く来た京太が窓側の席で端末画面に目を落としてUFO動画のチェックに勤しんだ。キッチンでトレーナーの袖をまくった彩香はチキンやソーセージの詰め合わせの箱とコーン入りポテトサラダのカップを出して作業台に両手をついた。年長者として子供たちと初めて開くホームパーティ。ささやかな身内の集まりを冷蔵庫に入れたショートケーキが今か今かと待った

 キッチンに門扉のインターホンが鳴り、彩香が引き戸脇の壁にあるパネルを押した。モニターに朋己が映って開閉スイッチを押して「入ってちょうだい」と言って玄関へ向かった。ドアを開けた彼女はダッフルコートを着た少年をすぐ玄関に招き入れた。

 

「いらっしゃい。外は曇ってて寒かったでしょ、どうぞ上がって」

「はい、お邪魔します」

「今日は廊下も温めてあるし、ここでコートを脱いで、ついでにプレゼントも預かるわ」

「あ、これ洗っていいのか分からなかったので……」

「あら、そんなの気にしなくていいのよ」

 

 差し出されたマフラーを彩香は適当に掴んで下駄箱の上に置いた。玄関ホールに上がった朋己がコートを脱ぐのを手伝い、腕に抱えるリボンを結んだ緑色の袋と一緒に受け取った。ピッタリしたスキニージーンズを履いた彼は十センチ以上高いが足が細く、コートを腕に掛けた彼女は高校一年生の体型に微笑んだ。

 

「それじゃあ、奥にある洗面所で手を洗ってからダイニングへ来てね」

 

 リビングの戸口に消えた彩香に、朋己は手渡そうとしたプレゼントを回収するように持っていかれて変に思った。だが、信頼する彼女に従ってスリッパを履いて廊下の奥へ行った。

 洗面所で手を洗った朋己はハンカチで拭いてポケットに仕舞い、鏡の前でネルシャツのボタンを二つ外して胸元の襟を開く角度を整えて恰好をつけた。服のほこりを払って廊下からキッチン横の戸を引くと、ダイニングに背が高い眼鏡を掛けた男子が見えた。首をひねって彼がテーブルに近づき、彩香は椅子を引いて手を広げた。

 

「紹介するわ、美雪お姉ちゃんの子で京太君。双子で兄の裕太君は部活の合宿で来れなくて、妹のみっちゃんはエリと出かけたみたいなの。帰ってきたら早速プレゼント交換しましょう」

「どうも、京太です」

「彼はエリの一個下で中学二年よ。さ、遠慮なく座って座って」

「はぁ、エリがお世話になっています」

 

 朋己はテーブルで五角形に並ぶ機器に気を取られ、敬語を使ってペコっとお辞儀した。彼も音楽に合わせて卓上を回転して止まるパーティグッズを知っていた。しかも、すでに機器の上に緑色の袋が置かれる。ポーカーフェイスで椅子に腰掛けたものの、内心は「聞いてないよ~」と叫びたい気分だった。中身のハンドバッグが彩香に当たるか心配で緊張した面持ちに変わり、縮こまって太腿に手を置いた。

 リビングの戸を引いてエリたちが喋りながら室内に入った。みちほはダウンジャケットから両腕を引き抜き、側の一人用ソファーへ放り投げた。

 

「自分だけ逃げるんだもんな。ほんっとに、彼女の記憶から消えるんだよねぇ」

「だから、ゴメンって言ってるじゃない。それに記憶の方は法治省で消してくれるとハクアさんに聞いたわ」

「フン、こっちの記憶も消して欲しいよ」

 

 へそを曲げたみちほが一人でダイニングへ行き、エリがソファーの背に脱いだブルゾンを掛けると彼女に朋己を紹介する声が聞こえた。テーブルの横に立つ彩香の奥に座る人物が見え、スリッパで大きな足音を立ててカウンター側に回った。

 

「どうして来れたの。お兄ちゃん、金曜まで実習があって忙しいんじゃ…」

「今週は実習なかったよ。そんなこと言ったっけ」

「ほらほら。洗面所で手を洗ってきて、エリ。みっちゃんもよ」

 

 彩香が朋己の頭越しに首を振って二人に声をかけた。廊下へ向かうみちほが彼をまじまじと見て椅子の後ろを通り、すかさずエリは肩を押して彼女とキッチン横の引き戸から出た。いつも一緒に行動する仲の良さに目を細めた彩香は戸の脇へ電灯を消しに行った。

 エリは洗面台で両手を流し洗いしてタオルで水分を拭い、戸のガラス部分からダイニングをうかがいつつアコーディオンカーテンを閉じた。壁にもたれたみちほが小さな声で不平を漏らした。

 

「どうなってんのさ。プレゼントが一個増えちゃったじゃん」

「ジングルベルが流れる時間はおんなじだし、移動距離は変わらないわ。だから少しずれて止まるくらいよ。4つだとプレゼント間の回転角が90度ずつで、5つになったから……」

「360度を5で割って72度。最後の周は270度回転するから、昼間エリ姉のプレゼントがわたしの席の前に来た時と違って18度右にずれるって言うんだろ。だけど、叔母さんが適当に配置を動かしたみたいだし、京兄の近くに止まる可能性もあるんじゃないの」

「それじゃあ、反射神経を研ぎ澄ますしかないわね。多少遠くても京太に取られないように止まったらすぐ手を伸ばすのよ」

「結局、力業になるのか。しょーがないなぁ」

 

 首尾よくナイトブラを手に入れたい彼女が朋己の参加に気を揉んだ。昼の実演が頭にある二人の検討は京太との間に下着セットが止まることを前提とした。作戦が決まってエリが指をぽきぽきと鳴らし、みちほは頭を掻いて洗面所を出た。

 キッチンとともに電灯を落としたダイニングは全体的に暗く、テーブルの中央に置かれたミニツリーのLED電飾が赤、青、黄、緑色に光って卓上にほのかな明かりを宿した。キッチン側に立った彩香が各席の前にあるプレゼントを一つずつ指差し、ほぼ五角形に位置する機器を確認して頷いた。彼女はカウンター端のスピーカー付き音楽プレーヤーに手を掛けた。

 

「みんな準備はいいわね。さあ、今からプレゼント交換するわよ」

 

 再生ボタンが押されてダイニングに流れる曲がゆったりした雰囲気を醸し出した。プレゼントを載せた機器が同時に遅いテンポに合わせて動き始め、テーブル上を右回りに彩香、京太、みちほ、エリ、朋己の順に前を通過する。明るいミニツリーを囲んだ五個の点滅する青い光が輪となって広がった。光景にうっとりした彩香は胸の前で手のひらを合わせ、室内の暗がりに目を凝らした。

 

「いい感じでしょ。やっぱり、クリスマスは『きよしこの夜』よね」

「え、ええ、そうですね」

 

 テーブルを挟んで向かい合う朋己がハンドバッグの行方にドキドキしながら答え、隣の席でも妹が別の意味で焦っていた。ジングルベルのはずがゆっくりした音楽に変わったことでエリの用意した下着セットはどこで止まるのか。公式は『距離=速さ×時間』であり、魔法の効果で曲が止まるまでの時間は一定。とどのつまり、プレゼントを載せた機器の速度は曲に合わせるため遅くなって移動距離が当初の予定より短くなってしまう。頭を抱えたエリが斜め前の席へ助けを求めた。

 みちほはイントロを聞いた時点で失敗したと分かって椅子の上にあぐらをかいた。ばくち打ちのような眼差しで白い紙袋を見つめ、席の前を通過する度に膝を叩いて露骨に舌打ちした。もはや、エリにはどうする事もできずミニツリーの周囲を回転するプレゼントを眺めた。

 そうこうするうちにテーブル上で一斉に機器が止まって一瞬赤く光り、暗い中でエリは椅子から跳ね降りて朋己の後ろをキッチン横へ電灯を点けに走った。その間に、京太が前に止まった平たいプレゼントに手を伸ばし、包装紙をベリベリと破って箱の中から黒いタブレットを出して肩をすくめた。

 

「クリスマスのプレゼントに学習用ノートはないよ。これは叔母さんかなあ」

「ふふっ、来年は受験生だし京太君でちょうど良かったわ」

 

 彩香が横を向いてイタズラっぽく笑い、二人の会話を聞いたみちほは前のプレゼントへ嫌そうな顔をした。直方体の古びた箱は京太が用意したもの。超常現象グッズの他になく、手に掴んで前を向いたまま後ろへ放り投げた。

 ダイニングに電灯が点いて明るくなり、朋己の席から向こう側に緑色の袋が見えた。ホッと胸をなで下ろした彼は前にあるプレゼントを機器から卓上に置き、折った口に貼られたテープを剥がして紙袋の中に手を突っ込んだ。ふわふわした感触の厚みを掴んで出すと、二つ連なる山なりの布が目の前に現れた。

 

ガタッ

 

 急に朋己が立ち上がった。キッチンから戻ったエリが椅子の脇で驚いて斜めに腰を下ろし、彩香が心配して彼の元に近寄った。

 

「どうしたの、朋己くん。大丈夫?」

「へぇっ、いや、何でも……」

 

 動揺した様子の朋己が視線を上方へ逸らし、彩香はテーブルに目をやった。彼が開けた袋の外に転がるブラは納戸に仕舞っておいたはずと思い、エリの用意したプレゼントを手に取った。中学生用のブラジャーとショーツが一枚ずつにナイトブラが二枚。再び袋に入れて彩香はテーブルに片手をつき、キッと睨んでエリの方へ身を乗り出した。

 

「エリ、この下着はどういうことなのっ」

「え、えっと、その。今日はお兄ちゃん来ないと思ったし…」

「ダメじゃない、京太君もいるのよ。母さんから小遣いもらってるんでしょ」

「ごめんなさーい」

 

 怒られたエリが顔の前で両手を擦り合わせた。彩香は下着が入った袋をテーブルに置き、頭を掻いて代わりになる物がないかと見回した。自分の席にある機器の上は朋己が用意したプレゼント、エリの席は透明のビニールからぬいぐるみの耳が見え、みちほの席はすでに何も無かった。朋己が胸元を開けて突っ立つ姿に、彼女はポンと手を打ってリビングの引き戸へ駆けた。

 ダイニングの一同が注目する中、彩香がマフラーを手にしてテーブルに戻ってきた。エリが座る椅子の背を回り込み、それを立っている朋己の首に掛けた。

 

「映画行った日に初めて下ろしたの。だから新品同様よ、これ」

「もらってもいいんですか」

「当り前じゃない、プレゼント交換だもの」

「じゃあ、僕が買ったプレゼントも開けて下さい」

 

 朋己はテーブルの向こう側へ体を伸ばして緑色の袋を取り、満悦した表情で彼女に手渡した。サンタやリースが描かれた袋の口を結ぶ赤いリボン。クリスマスらしいラッピングで彩香はどんな可愛らしい物が出てくるのだろうとリボンをほどいた。

 袋から出した彩香は半円の持ち手を掴んで黙って顔の前に持ち上げた。蓋付きで台形のしっかりした黒いハンドバッグだった。反応が薄い彼女をエリが意外そうに見上げた。

 

「姉さま、そのバッグもらって嬉しくないの」

「あー、そうじゃなくて。こういうのは結構値が張るかなと思ってね」

 

 革製バッグの価格を知らない彩香ではなかった。いくら彼が純粋に他人を喜ばせるつもりだったとしても、プレゼント交換の常識とは違う気がした。プレゼントを用意しないエリを怒ったからには朋己にも何か言うべきだと静かにミニツリーの前にハンドバッグを立てて置いた。

 

「ねえ朋己、このハンドバッグ高かったんじゃないの」

 

 下を向いてごく自然に、まるで親しい年下に尋ねるかのように聞いた。ニコニコしていた朋己は価格を問われてギクリとした。受け取りを拒否されてはたまらないと、とっさに嘘をついた。

 

「い、いえ、フリマサイトの中古で4千円です」

「ほんとに4千円?」

「僕が彩香さんを騙す訳ないじゃないですか、ははは」

「まあ、それはそうだけどさ」

 

 顔を上げた彩香は彼が嘘をつく理由が思いつかず、それ以上の追及をやめた。改めてテーブルの上を見るとハンドバッグは朋己が選んだだけあって堅い印象を受け、冠婚葬祭や見合いにしか用途がなさそうなデザインに思えた――プレゼントに一万円以上使ったりはしないか、まだまだ朋己も子供だから――と首をさすり、気を取り直してパンパンと手を叩いた。

 

「はいはい、次はケーキを食べるからテーブルの上を片付けてちょうだい。エリ、あんたは今すぐ下着を二階へ持っていきなさい」

 

 彩香がギロッと目を向け、急き立てられたエリは立って白い紙袋とぬいぐるみの袋を掻き集めて腹に抱えた。リビングへ少し歩くと横にみちほが立っていた。長い腕が伸びて肩を組まれ、彼女は「車いすに載せといて」と囁いて親指を立てた。

 ダイニングテーブルはミニツリー以外の物がどけられ、卓上に種類の違うケーキの皿とコーヒーカップが並んだ。京太が箱から出したグレイ人形をツリーの前に掲げて鳴沢駅路地裏の怪しい店で買った話をし、それを無視してエリはみちほと互いにケーキを交換して食べ比べをした。ちはるがいない桂木家で彼の話を聞いてあげるのは彩香の役目。彼女が頬杖をついて隣へ顎を傾ける仕草に色気を感じながら、朋己はフォークをくわえて向こう側を眺めた……がしかし、これ以降の彩香は完全に弟として朋己に接するようになった。エリとみちほが私生活も含めて協力関係を深化させるのと対照的に、彼の恋心は気づかれないまま年が暮れていくのだった。

 




―― 次章予告 ――

エリは駆け魂レーダーが示す千匹以上の弱った駆け魂を全て回収しようと意気込む。だが、一匹を捕まえた頃には日が暮れた。暗くなった桂木家のスロープではメイド服の女性が… ⇒FLAG+18へ
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