その名は、榛か遠く   作:Falke

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#9 煉獄の夢

朧「艦隊が帰投しました」

 

漣「いやー、此度も良き遠征でありましたなー」

 

提督「おかえり、みんな。遠征お疲れ様」

 

潮「提督。みんなでたくさん資材を集めてきました」

 

提督「ありがとう。とても助かるよ」

 

暁「当然よ。これもレディの嗜みなんだから!」

 

響「司令官、資材はまた工廠へ持って行けばいいかい?」

 

提督「ああ。そのままみんなは補給もしてくるといい」

 

朧「やった! 朧、お腹が空きました」

 

潮「何食べようかな~。楽しみだね」

 

漣「漣はやっぱり、遠征の疲れを癒すためにガツンと糖分補給したいですな~」

 

暁「ダメよ! レディは体重も気にしなくちゃ!」

 

漣「漣は太らない体質なんですー」

 

 

 

曙「……」

 

提督「曙。遠征お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

 

曙「うっさい。アンタに言われなくても休むわよ」

 

提督「ははっ……相変わらずだなぁ」

 

響「ほら、曙。行こう」

 

曙「……フン」

 

 

 

 

 

響『大戦前……私と曙は、同じ鎮守府に所属していた。そこの司令官は優しい人だったし、そこでは曙の姉妹艦の朧、漣、潮に、私の姉の暁も一緒だった。私たちは大きな作戦にはあまり参加させてもらえなかったが、遠征で資材を集めて、それがみんなの役に立ってると思うと、自分たちの役割がとても誇らしかった』

 

 

 

 

 

朧「ほほほへ、はへほほはは」

 

曙「リスみたいな顔して喋るな」

 

朧「(ゴクン)ところで、曙は提督のことが嫌いなの?」

 

曙「何よ、急に」

 

朧「いやー、いっつも提督に冷たいし、「クソ提督ー!」って言うぐらいだから、何かあったのかなーって」

 

曙「別に。なんとなくよ」

 

潮「で、でも曙ちゃん……あんまり提督にそういうこと言わない方が……」

 

暁「そうよ。そもそも、一人前のレディはクソなんて言葉を使っちゃダメなのよ!」

 

曙「私は一人前のレディになりたいわけじゃないし。アンタ一人で勝手にやってなさいな」

 

暁「む……! そうやって失礼なことばっかりしてると、いつか自分に悪いことが起きるわよ!」

 

曙「私の心配してるの? 人のことより、まず自分のことを心配したら? いつまでも子供みたいなこと言ってると、そのうち深海棲艦に足もとすくわれるわよ?」

 

暁「なんですって~~~!!」

 

響「暁、ケンカはダメだ」

 

潮「曙ちゃんも。ちょっと言いすぎだよ」

 

曙「フン」

 

朧「ごめんね。曙、ホントはそんなこと思ってないから」

 

曙「本心よ」

 

漣「そうですぜぃ。いつもの、ぼのやん特有のあまのじゃくですからなぁ」

 

曙「アンタは黙っとけ」

 

漣「ご主人様にあんな態度をとっているのも、実はご主人様がだーいすき♡ という気持ちのうらがぼぼぼぼぼ」

 

曙「あーなんか急に漣にパフェをお腹いっぱい食べさせてあげたくなったわー。よかったわねー漣ー」

 

漣「いや、これ食べさせるっていうか流し込んで、ちょ、ぼのやん、グラスは死ぬもがががが」

 

潮「それにしても、最近大きな出撃がないね」

 

朧「最近、深海棲艦の動きが穏やかだからね。今のうちに資材をできるだけ溜め込んでおいて、大規模作戦に備えてるんだって」

 

響「ということは、近々仕掛けるつもりなのかな」

 

暁「き、緊張してきたわ……!」

 

響「早いよ暁」

 

曙「無駄な心配よ。どうせ私たちの役割は変わらない。いつもと同じ場所へ遠征に行って、いつもと同じ資材を取って来て、いつもと変わらないメンバーで帰ってくる。それだけでしょ」

 

4人「「「「……」」」」

 

曙「な、なによ」

 

朧「曙……アンタ、急にそういうこと言うの反則……」

 

潮「曙ちゃん……かっこいい……」

 

暁「べっ……べつに泣いてなんかないんだから!」

 

響「素直じゃないな、曙は」

 

曙「なによ! 4人ともむず痒い反応をするな!」

 

漣「いやー、さっすがぼのやn」

 

曙「追加」

 

漣「やめて! 漣のライフはもうゼロよぼぼぼぼ」

 

 

 

 

 

響『楽しかったよ。私たちの小隊はみんな、本当に楽しそうに毎日を過ごしていた。もちろん、曙も。ケンカはするし、よく誤解されるし、素直じゃないけど……私たち6人は、お互いのことを心から信頼していた。絆で繋がった、かけがえのない仲間だった』

 

 

 

 

 

朧「新天地……ですか?」

 

提督「ああ。新たに資材が豊富な海域が見つかったと、上から通達があってね。君たちには早速、この海域で新たな資材を調達してきてほしい」

 

潮「あの……新しく拓かれたばかりの海域ですよね? だ、大丈夫なんでしょうか……」

 

提督「心配ないよ。既に近隣海域の偵察は済んでるらしい。戦艦クラスなどの大型の深海棲艦は確認されていないから、君たちの実力なら充分さ」

 

漣「新天地……くぅ~~~、心が躍りますなぁ!」

 

暁「任せて! 一人前のレディとして、きっちり任務を果たすわ!」

 

提督「ありがとう。武運を祈ってるよ」

 

 

 

 

 

響『ある日、司令官から告げられた新天地への遠征。小隊の中には少なからず不安の色が漏れていたが、私たちは命令に従って遠征海域へと出発した』

 

 

 

 

 

漣「ね~朧~、まだつかないの~?」

 

朧「しょうがないでしょ。結構遠いんだから」

 

潮「漣ちゃん、ふぁいとっ」

 

漣「可愛い。元気100倍サザパンマン!」

 

暁「まったく。だらしないんだから……」

 

曙「……」

 

響「曙? どうしたんだい?」

 

曙「……響、静かすぎると思わない?」

 

響「……ああ、確かに」

 

曙「いくら開拓されたばかりの海域だからって、この静けさは不気味よ。まるで仕組まれてるかのような……」

 

 

曙がそう呟いたのと、ほぼ同時に。

6人全員の電探に、深海棲艦の影が浮かんだ。

方向は———全方位。

 

 

潮「朧ちゃん! 囲まれてる!」

 

朧「待ち伏せ……!? こいつら、私たちを誘い出して……!?」

 

漣「どうするの、朧?」

 

朧「決まってるよ。迎え撃つ。全方位から来るなら、全方位に対応してやる。そうして開いた突破口から、6人全員で離脱する」

 

曙「朧、アンタ正気? 自分が頭の悪いこと言ってるのわかってんの?」

 

朧「別に頭がイかれたわけでもないよ。それとも、曙はこのまま何もしないでボコボコにされる方が好き?」

 

曙「嫌に決まってんでしょ。誰も反対だなんて言ってないし」

 

響「仕方ない。やりますか」

 

暁「こ、怖くなんかないわ! みんながいるもの、怖くない!」

 

曙「……みんな」

 

朧「?」

 

曙「……帰るわよ。私たちの鎮守府に」

 

朧「もちろん!」

 

潮「うん!」

 

漣「ほいさっさー!」

 

響「ああ」

 

暁「ええ!」

 

 

6人全員が覚悟を決め、それぞれの背中を合わせ、全方位が見渡せる隊形をとる。

絶望的な無数の黒い軍勢、その第一波の姿が視認できる位置まで敵が近づいてくる。

 

 

朧「朧、敵艦多数確認。駆逐、軽巡クラス確認」

 

漣「漣、同じく」

 

潮「潮、同じく」

 

曙「曙、同じく」

 

暁「暁、同じく」

 

響「響、同じく」

 

朧「……なんとかなる、かな……。すごく順調にいけば」

 

潮「敵艦、砲撃開始! 来るよ!」

 

朧「各艦、散開! すぐに隣の艦のフォローに入れるよう、一定以上の距離を空けないで! 沈めるよ!!」

 

 

朧の号令と共に、それぞれ分散して深海棲艦との攻防が始まる。

敵は軽巡、駆逐艦からなる水雷戦隊。曙たちも同じ駆逐艦故、個々の戦力差は大したものではない。

6人それぞれ的確に相手の動きを読み、着実に敵艦を沈黙させていく。駆逐艦は一撃の火力に乏しいが、その分機動力においては他の追随を許さない。

 

 

朧「はぁっ!!」

 

漣「ほいさっ!!」

 

潮「やぁっ!!」

 

響「沈め」

 

暁「てやあーーー!!」

 

曙「くらいなさいっ!!」

 

 

敵駆逐艦が悲鳴を上げ、次々に沈んでいく。

敵の砲撃も激しさを増すが、6人は尚も避け続け、突破口を開いていく。

絶望的な戦力差であったが、誰一人として諦めている者はいない。

自分たちの力を、6人の絆を信じている。

 

 

朧「よし、これなら———」

 

 

朧が叫ぼうとした瞬間、突然意識外から砲弾が飛来し、朧のすぐ隣に大きな水柱が立った。

艦娘や深海棲艦は艦種によって主砲のサイズが異なり、それに応じて一撃の火力も変わってくる。

朧は首筋に嫌な汗をかくのを感じた。この水柱の高さは、駆逐艦や軽巡、重巡の威力でもあり得ない。

 

 

朧「戦艦……!!」

 

 

朧の目の前には、いまだ相当数いる水雷戦隊の群れ。その奥に浮かぶ大きな影を、朧は見逃さなかった。

 

 

朧「みんな!! 第二波が来てる!! 既に敵戦艦の射程内だよ!!」

 

 

朧の叫びと同時に、またも戦艦の主砲が着水し、何本もの大きな水柱があがる。

かすかな希望に縋る駆逐隊の顔が、青ざめて引きつるのを朧は感じた。

 

 

漣「マ!? 戦艦!?」

 

潮「そんな……提督は、戦艦は確認できなかったって……!」

 

暁「ど、どうしよう……このままじゃ……」

 

 

怯んだ暁を目にし、敵駆逐艦の目が妖しく光る。

そのまま恐ろしい金切り声と共に、暁へと主砲が向けられる。

 

 

曙「ボサッとするな!!」

 

 

動けない暁の襟を曙が強引に引き込み、窮地を逃れる。

その隙に響が敵駆逐艦を仕留めた。

 

 

暁「あ、あけぼの……」

 

曙「諦めんな!! 帰るんでしょ!! 私たち6人で!!」

 

暁「う、うん……!」

 

潮「きゃあっ!?」

 

 

叫び声が聞こえて振り返ると、いつの間にか第一波と合流していた敵重巡洋艦に潮が首を掴まれていた。

 

 

曙「潮ッ!!」

 

朧「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

全速力で駆けてきた朧の砲撃が重巡を怯ませ、潮が解放される。

しかし、全速を急停止したことで一時とはいえそこに朧は硬直し———

 

朧の身体を、敵の砲弾が直撃した。

 

 

曙「朧ーーーーッ!!!」

 

 

朧の被弾に目を奪われていた曙は、背後からやってくる重巡に気づくのが遅れ、

 

 

曙「!!」

 

 

握りしめられた拳を腹に喰らい、曙の視界が一瞬真っ白になった。

 

 

曙「かっ……はっ……!!」

 

暁「あ、ああっ……!」

 

響「暁!!」

 

 

目の前の仲間たちの惨事に震える暁を狙った敵の一撃を、響が身を挺して庇う。

その一撃で響の艤装は半壊し、主砲や魚雷艦といった兵装がダメになった。響自身の肉体にもダメージは侵食し、頭から血が流れ、ボロボロの状態でなんとか膝で立ち、倒れまいとする。

 

 

暁「響ーーーーッ!!!」

 

 

響の決死の行動をあざ笑うかのように、暁の背後から容赦なく魚雷が発射され。

暁を寸分の狂いなく撃ちぬいた。

 

 

響「……あか……つ……き…………」

 

 

動くだけでも精一杯なはずの響は、見えない力で動いていると言われても信じてしまうほどのダメージを背負いつつ、艤装が完全に破壊されて浮力を失った暁を必死に抱える。

 

 

曙「……クソッ……!」

 

 

曙は一人倒れている自分が情けなくなった。

漣と潮はいまだ奮戦中。朧の安否は不明。響は致命傷を負い、暁は轟沈寸前。

 

何をやっているんだ私は。みんなで帰ろうと一番最初に言い出したのに。当人がこのザマか。

いつまで戦えないフリをしている。いつまで動けないフリをしている。

アイツらは今も、かすかな望みに懸けているというのに。

 

 

漣「……あのさ、ぼのやん。聞こえてる?」

 

曙「っ……?」

 

漣「漣、思うんだ。これ、無理だよ」

 

曙「……!? なに……言ってんの……よ……アンタ……帰るって……」

 

漣「漣、帰れなくてもいいや」

 

曙「漣……何、勝手に、諦めてんのよ……ッ!!」

 

漣「漣は帰れなくてもいい。みんなが帰ってくれれば」

 

潮「曙ちゃん……ごめんね。みんなで帰るって約束、守れそうにないや」

 

曙「潮っ……アンタ……!」

 

潮「心配しないで、曙ちゃん」

 

漣「ただでメシウマさせてやるつもりなんてねぇっすよ。漣たちには、「絆」って名前の意地があるからね」

 

潮「これからも、ずうっと一緒だよ。どんな時も、一人じゃないから」

 

曙「……!!」

 

 

曙に笑顔を向け、漣と潮は前へと向き直る。

その先には、全身に亀裂が奔り、異常なまでに発達した右腕を持つ、異形の深海棲艦。

 

 

漣「うわっ、キモッ……」

 

潮「漣ちゃん、覚悟はいい?」

 

漣「ほいな。とっくにね」

 

漣&潮「「っしゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

 

二人は異形の深海棲艦へと突進していく。

異形の深海棲艦は獰猛な笑みを浮かべながら、二人の砲撃を素早く回避し、その右腕で漣を掴む。

 

 

朧「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

砲撃を浴び轟沈したと思われた朧が、黒煙の中から突撃する。

朧の主砲は折れ曲がり、先ほどの全速で艤装がはかなく砕け散る。片目は既に潰れているが、それでも、彼女の目には闘志と希望が宿っていた。

 

 

朧「曙ッ!! アタシたちは、アンタに懸ける!!」

 

曙「朧ッ……!?」

 

朧「みんなで帰ることはできない!! でも、誰かが生きてる限り、アタシたちが消えることはない!! 曙の中から、アタシたちが消えることは絶対にない!!!」

 

漣「漣たちとは会えなくなっても!!」

 

潮「私たちの絆は決してなくならない!!」

 

朧「アタシたちの分まで、アンタは生きろ!!!」

 

 

漣、潮、朧の必死の足止めを、異形の深海棲艦は赤子の手をひねるように蹂躙した。

獰猛な笑みはより一層深みを増し、身体中に奔る亀裂は赤色に染め上げられた。

 

 

曙「———」

 

 

曙の中で、ブツッ、と何かが切れるような音がした。

次に曙を染め上げたのは、燃え盛る煉獄のような感情。怒り。恨み。悲しみ。

次第に曙の視界までもが赤く染まっていき、完全に紅く塗りつぶされた時から先は、何をしていたのかまったく思い出せなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ガチャッ

 

 

響「……帰投……した……」

 

提督「!?」

 

響「……遠征艦隊……深海棲艦の奇襲に遭遇し、崩壊……。朧、漣、潮、轟沈……暁、意識不明……。至急、衛生兵を……」

 

提督「……何をした?」

 

響「え……?」

 

提督「戻ってこれるはずがない。駆逐艦風情が、あの戦力差を覆せるはずがないんだ。教えろ、何をした!!」

 

響「し、司令官……?」

 

 

提督は響に迫ろうとするが、曙がそれを制する。

 

 

曙「……アンタ、なんで知ってんのよ」

 

提督「あっ……」

 

曙「……まるで、自分の思い通りにならなくてイライラしてるみたいだけど」

 

提督「……」

 

曙「……」

 

提督「……ああ、そうだよ。お前たちは帰ってくるべきじゃなかった。6人仲良く、私のために死んでもらうつもりだったからな」

 

響「え……?」

 

提督「近々、深海棲艦が大規模な反抗作戦を起こす。こんな弱小鎮守府じゃ真っ先に奴らのエサになるのは目に見えている。当然私も殺される。だが、艦娘を献上すれば、私の命はとらないでくれると奴らは言ってきた! だからこうして、お前たちを生贄にするつもりだったのに……!」

 

響「そんな……嘘だろ……? 司令官は、優しい人なのに……」

 

提督「優しい? そうした方がお前たちを動かしやすいだろう? すべては私が生きるため。お前たちは私を生かすためだけの道具でしかないんだよ!!」

 

曙「———ッ!!」

 

 

その瞬間、目を疑った。

曙も我慢の限界だったのだろう。感情が爆発し、曙の周りに、紅蓮の炎が広がった。

その炎は瞬く間に執務室のあらゆるものを燃やし、一瞬にして辺りが灼熱の火の海に変わる。

 

 

提督「!? な、なんだ、何をした!」

 

 

———何のために。

何のためにあいつらは戦ったんだ。何のためにあいつらは散ったんだ。

こんなゴミのような人間を信じて、どれだけのものを失った。

 

 

提督「ま、まさか、この炎であの状況を……!? す、素晴らしい! こんなことができるようになったのか! この力があれば、もう深海棲艦なんて敵じゃないぞ!」

 

 

———なんでもっと早く気が付かなかったんだ。

いや、とっくにおかしかったんだ。ずっと気づかないフリをしていた。あいつらが信じるものを傷つけないために。

そんな私の甘えのせいで、他でもないあいつらを失うことになったのか。

 

 

提督「や、やめろ! こっちに来るんじゃない! 近寄るな、この化け物め!!」

 

 

———信じてしまったあいつらが悪い。

甘えてしまった私が悪い。

ただ生きているだけの、こいつが悪い。

 

 

提督「ひいっ! やめろ!! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

曙の右手から生み出された炎が提督を包み、その身体を容赦なく燃やし尽くした。

 

 

響「曙……」

 

 

その瞬間から、彼女の瞳は輝きを失った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

優「……」

 

響「……似ているんだ、この夕焼けは。何かを守りたかったはずなのにすべてを失った、あの日の煉獄に」

 

優「……そうだったのか」

 

響「そのあと、提督を失ったことで鎮守府は当然大騒ぎになった。当事者である私たちに真っ先に容疑がかけられたが……曙はすべてを背負った。あの司令官を殺したことも、あの炎の海のことも……朧たちを失ったことも。全部自分一人のせいだと言って、私と暁を守ってくれた」

 

優「暁は……助かったのか?」

 

響「命はとりとめたよ。今はもう復帰して北方に配属されている。元通りさ」

 

 

響は悲しい目をして続けた。

 

 

響「……私のことを思い出せないこと以外は」

 

優「え……」

 

響「……人間は耐えられないほどの出来事に直面したとき、自分の中にある何かを犠牲にして身を護ることがあるそうだ。……暁にとって、耐え難い惨状だったんだろう。目を覚ました暁は、あの日のことと私のことをすべて忘れていた」

 

優「……すまない。無神経だった」

 

響「いいさ。司令官は悪くない」

 

優「……」

 

響「……でも、それがまた曙を苦しめた。何も救うことができず、誰にも頼ることもできず……信じることをやめた曙に残ったのは、「絆」という名の鎖だけ」

 

優「……一つ、聞いていいか?」

 

響「?」

 

優「どうして俺に話してくれたんだ……? 響にとっても辛いことだろうし、曙はもっと……」

 

響「……そういうところだよ」

 

優「え?」

 

響「ここには、司令官のことをよく思ってない人もいるけど……私は司令官のことを、信頼できる人だと思っている。……あんなことがあったから、尚更実感するんだ。今の司令官は、とても優しくて綺麗な目をしている。偽りのない澄んだ瞳だ」

 

優「目って……それだけで……?」

 

響「ああ。それだけだ。そして、それ以上のものもない」

 

優「……」

 

響「……確かに、勝手に話したことを曙が知ったら嫌がるだろう。あの日のことを知っているのは、今はもう曙と私だけだ。今の曙を理解してやれるのは私しかいない。だからこそ、私は願い続けている。曙が、みんなを信じれるようになるのを」

 

優「……」

 

響「さて、そろそろ戻りますか。じゃあな、司令官」

 

 

そう言って、夕日に照らされ微笑んだ響は去って行った。

 

 

優「……」

 

 

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