その名は、榛か遠く   作:Falke

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#1 その目が視るもの

夢を見る。

 

見たくもない夢を、何度も見せられる。

 

轟音、爆風、悲鳴、怒号。

 

不安、焦燥、焦り。

 

笑顔で涙を浮かべる少女。

 

そんな記憶の一つ一つがガラスの破片のように、俺の心に深く突き刺さる。

 

見たくない。しかし見なくてはいけない。

忘れたい。しかし忘れてはならない。

 

どれだけ俺の心を縛り続けるとしても、どれだけ他を失おうとも、だれだけ孤独であったとしても、

 

この気持ちを決して忘れないために。

 

今日も、夢を見る。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

〜東方鎮守府・執務室〜

 

 

執務室。提督とその秘書艦が事務作業を行うための部屋で、大きな机と座り心地の良さそうな椅子、テーブルやソファもあり、棚には書類やファイル、書物が所狭しと纏められている。

 

その一室に集まる7人の艦娘は、着任する予定の新米提督を待っていた。

 

 

間宮「そろそろ新しい提督が着任する時間ね」

 

夕立「どんな提督さんかな? 遊んでくれる提督さんっぽい?」

 

響「どうだろう。今は余裕のない状況だし、難しいかも」

 

天龍「フン、すぐ撤退だとか言う腰抜け提督じゃねぇことを祈るぜ。俺を出撃させてくれりゃ、深海棲艦なんてバッサバッサ斬り倒してやんよ」

 

龍田「天龍ちゃんったら~。あんまりおイタが過ぎると沈んじゃうわよ~?」

 

加賀「……」

 

天龍「にしても、随分こじんまりしちまったよなぁ。この鎮守府にいる艦娘がたったの9人なんてよ」

 

鳥海「一度すべての鎮守府にいる艦娘を大本営に招集して、新たに派遣しなおしましたからね」

 

響「でも、司令k……じゃなかった、元帥は状況に応じて大本営から追加で艦娘を派遣するって言ってたよ」

 

夕立「とにかく、夕立たちが頑張ればいいっぽい?」

 

響「ああ。順調に深海棲艦から制海権を取り戻して、作戦規模が大きくなれば、自然と援軍を寄越してくれるだろう」

 

夕立「だったら、夕立すっごく頑張って、時雨と一緒に戦うっぽい!」

 

鳥海「時雨ちゃんは既に西方鎮守府に着任してますよ」

 

龍田「共闘は難しいんじゃないかしら~」

 

夕立「ぽい~……」

 

 

艦娘たちが談笑していると、執務室の扉が開き、優たちが入ってくる。

それまで和んでいた執務室に緊張が戻り、全員が提督服に身を包んだ男に注目する。

 

 

優「……この鎮守府に所属する艦娘は9人だと聞いている。全員揃っているようだな」

 

天龍「アンタがここの新しい提督か?」

 

優「ああ。本日付で東方鎮守府に着任した、雨宮 優だ。よろしく頼む」

 

天龍「おうよ。俺は天龍型一番艦———」

 

優「君たちの自己紹介は必要ない。」

 

天龍「……あん?」

 

優「金剛、榛名、天龍、龍田、鳥海、夕立、響、加賀、間宮。君たちのことは既に書類で確認済みだ。同じことに時間をかけている余裕はない」

 

龍田「いいのかしら~? 私たちと提督は初対面なんだし、コミュニケーションは大事じゃなーい~?」

 

優「既に知っていることをもう一度知る必要があるか? それに、コミュニケーションなら今後もとっていけるだろう」

 

龍田「ふーん、そう……」

 

優「さて、早速だが君たちには、鎮守府近海の威力偵察のために出撃してもらう」

 

鳥海「え……?」

 

天龍「着任早々出撃だぁ? いくらなんでも急すぎやしねぇか?」

 

優「天龍。お前も人類が立たされている状況は理解しているだろう?」

 

天龍「当然だよ」

 

優「次に深海棲艦の侵攻があれば、人類は今度こそ敗北する。それを阻止するために俺はここに来た。君も人類のためを思うのなら、やるべきことはわかるはずだ」

 

龍田「そうね~その通りだと思うわ~。さ、天龍ちゃん~」

 

天龍「おい、龍田!」

 

加賀「……」

 

優「艦隊は既に編成済みだ。金剛を旗艦とし、天龍、龍田、響、夕立、加賀。この6人で出撃してもらう」

 

金剛「ワオ、本当にいきなりネ」

 

優「さっきも言った通り、作戦目的は近海の状況偵察だ。実際に深海棲艦がどの程度の戦力を展開しているのかを知らなければ作戦の立てようがない。尚、偵察範囲に制限はない。できるだけ広い範囲の偵察を頼む」

 

 

優は一呼吸置き、一層語気を強めて言う。

 

 

優「そして、可能であれば一隻でも多くの深海棲艦を撃滅しろ」

 

 

艦娘たちは無言を貫く。

 

 

優「作戦概要は以上。出撃は10分後だ。榛名は俺と共に来てくれ」

 

榛名「あ……わかりました」

 

 

優が部屋を後にし、榛名もそれを追って部屋を去る。

 

 

天龍「なんだぁ? あいつ」

 

龍田「あんなのを提督に選ぶなんて、大本営も落ちたわね~」

 

金剛「迎えに行った時もあんな感じデシタネー」

 

鳥海「これから大丈夫なんでしょうか……」

 

夕立「かなり怖かったぽい……」

 

響「みんな、気持ちはわかるけど時間がない。早く出撃ゲートへ行こう」

 

加賀「そうね。あんな人でもここの提督。任務は遂行しなくてはいけないわ」

 

天龍「相変わらずサッパリしてんなぁ」

 

金剛「でも、響と加賀の言う通りネ。ワタシたちで頑張りマショー!」

 

間宮「みんな、気をつけてね。甘いものを準備して待ってるわ」

 

夕立「ぽーい! 夕立、頑張ってくるっぽい!」

 

天龍「しゃあねぇ。行くとするか」

 

鳥海「私は指令室でオペレーターをしますね」

 

 

艦娘たちがぞろぞろと去っていく。

 

 

間宮「……一人ぼっち、ね」

 

 

間宮は深呼吸して、気持ちを切り替える。

 

 

間宮「さて、準備しなくちゃ」

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