その名は、榛か遠く   作:Falke

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#3 戦慄の右腕

響「ぅぐっ……!?」

 

天龍「何っ!?」

 

金剛「響!!」

 

夕立「響! 大丈夫!?」

 

響「ああ……問題ない……。だが、艤装が……」

 

龍田「魚雷……ふぅん、そういうこと」

 

加賀「潜水艦の雷撃ね。やられたわ」

 

天龍「クソッ! 俺が呑気してたから……!」

 

金剛「艦隊、単横陣! 対潜警戒!」

 

 

金剛の指示で、艦隊は陣形を変える。

 

 

加賀「……鳥海、聞こえるかしら」

 

鳥海『はい、聞こえてます』

 

加賀「敵潜水艦と接触、雷撃により響が大破。このまま撤退を具申するけれど……提督の指示を」

 

鳥海『そ、それが……』

 

加賀「?」

 

鳥海『提督、まだこちらにいらっしゃってないんです』

 

加賀「……なんですって?」

 

鳥海『そろそろ来ると思いますけど……』

 

加賀「……いいわ。だったら現場判断に任せてもらいます。このまま響の安全を確保しつつ帰投するわ」

 

鳥海『わかりました』

 

加賀「というわけよ、金剛。勝手な判断をしてしまったけど」

 

金剛「ナイス判断ネ。みんなー! これ以上は危険デース! このまま響を守りつつ撤退しマース!」

 

夕立「響のことは夕立に任せるっぽい!」

 

龍田「対潜警戒は私たちが引き受けるわ~」

 

天龍「あんまし得意じゃねぇけどな!」

 

加賀「———! 金剛! 9時の方向に敵艦隊!」

 

金剛「what!? マジデスカ!?」

 

加賀「戦艦1、空母2、重巡1、駆逐2。……まさか、さっきの艦隊は囮……?」

 

金剛「敵のtrap……? 挟み撃ちというわけデスカ……」

 

加賀「金剛、撤退を急いで。今なら本格的に交戦する前に逃げ切れる距離よ」

 

金剛「Yes。天龍、龍田! 潜水艦は攪乱だけでいいデス! 急いで戻りマース!」

 

天龍「おうよ!」

 

 

金剛が的確な指示を出し、艦隊が鎮守府へ向けて進路を変更した、その時。

加賀の意識に、索敵機からの新たな情報が飛び込んできた。

 

 

加賀「———ッ。これは……? 金剛!」

 

金剛「今度は何デス!?」

 

加賀「9時の方向、高速で深海棲艦が単身で接近してくるわ!」

 

金剛「単身で……? いいデショウ、突っ込んでくるというのなら相手してあげるネ! 加賀は敵本隊の足止めをお願いシマス!」

 

加賀「了解」

 

 

加賀が艦載機を放ち、金剛も同じ方角を向いて敵が来るのを待つ。

しかし、金剛の視界に映ったのは、自分のよく見知った深海棲艦のそれとは少し違和感を覚えるものだった。

 

 

金剛「what……? 何デス、あれは」

 

 

金剛たち偵察艦隊の座標へ高速で迫る重巡洋艦リ級が一隻。

その眼は隻眼、身体中には無数に張り巡らされた亀裂、そして右腕にはいくつもの紫色の血管のようなものが荒々しく脈打っている。

その姿は一言で、奇異と評するのに過不足ない姿であった。

 

 

金剛「何デショウ。何か、すごくヤバい。そんな気がしマス」

 

 

本能的にヤツが危険であると悟った金剛は主砲を構える。

自分がこれほど何かを脅威に感じたのはいつぶりだろうか。

全力で止める。全弾打ち尽くしてでも。

 

 

———でないと、最悪の場合死人が出マス。

 

 

金剛「全砲門! ファイヤーー!!」

 

 

金剛が渾身の一撃を放ち、加賀もそれに合わせて艦載機を放ち援護する。

主砲と艦載機による空襲。重巡洋艦一隻ではひとたまりもない。それが多くの戦火をくぐってきた歴戦の艦娘によるものならば尚更。

 

だが、金剛と加賀は共に信じがたい光景を見せつけられた。

回避したのだ。砲弾と機銃の雨を全弾回避したリ級は、無傷で金剛の眼前にまで距離を詰めた。

 

 

金剛「ッ!?」

 

 

肉弾戦に持ち込まれた金剛はまたも驚愕する。

自分もそれなりに殴り合いは得意であったのだが、ここでもリ級は獰猛な笑みを浮かべながら圧倒してきた。

 

 

金剛「ッ……! あり得ないネ……、あの攻撃で無傷なはずが……!」

 

リ級「ヴあ”あ”あ”ア”ア”あ”!!!!」

 

金剛「!? しまっ———」

 

 

体勢を崩され無防備になった金剛を、リ級は右手で掴もうとする。

勝利を確信したかのように、凶悪な顔の口角が一層吊り上げられる。

 

 

天龍「金剛ッ!!」

 

リ級「!!」

 

 

いつの間にか戻ってきていた天龍がリ級に一太刀浴びせ、金剛の窮地を救った。

 

 

天龍「チッ、浅いか」

 

金剛「天龍……助かりマシタ」

 

天龍「礼を言うのは早ぇぜ。ったく……随分とまたヤバそうなのがいるもんだな」

 

リ級「グゥゥゥゥ……」

 

加賀「天龍、イレギュラーは起こったけど、今は撤退が最優先。深追いは禁物よ」

 

天龍「わかってるよ。ま、はいそうですかと見逃してくれそうにもねぇよなぁ」

 

リ級「ア”ア”ア”ッ!!!」

 

 

リ級の猛攻と互角に渡り合う天龍。

強敵と対峙することに喜びを感じる天龍だが、その笑みには余裕がないようにも見える。

 

 

———こいつ、異常だぞ。素手で刀を持った俺と互角かよ。

いや、違う。気を抜けばすぐ崩される。……認めたくねぇけど、こいつの方が実力は上だ。

 

 

天龍も剣戟を的確にいなしながら、何度も異様な右手で天龍を掴みにかかる。

それを間一髪のところでの回避を繰り返し、精神と体力が徐々に消耗されていく。

 

 

———マズいな。ジリ貧じゃねぇか。このままじゃ———

 

 

と、ここで天龍の動きにミスが現れた。

突き出されたリ級の右手への反応が一瞬遅れたのだ。

回避という選択肢をかき消すには、その一瞬で充分だった。

 

 

天龍「チッ!」

 

 

回避を諦めた天龍は、逆にその怪しい右手を迎え撃つことにした。

あれだけ忌避していた右腕を斬り落とすべく、真っ向から刀を振り下ろす。

 

———が、ここでもリ級は天龍の想像を遥かに超える事象を引き起こした。

 

 

天龍「!? 受け止めやがった!?」

 

リ級「ギヒッ」

 

 

直後、ぶぅん、と鈍く不快な音が鳴り響き、リ級の右腕に張り巡らされた血管が眩しく発光した。

同時に天龍の刀に細やかな振動が走り、

 

 

バキィッ!!

 

 

天龍「ッ……!? 俺の刀が……!?」

 

 

天龍の刀が粉々に砕け散った。

 

 

龍田「天龍ちゃん!!」

 

金剛「これ以上は無理デス! 撤退シマス!」

 

 

遠方に敵本隊を確認した金剛は、本格的に交戦する前に撤退の指示を出す。

一瞬思考が停止した天龍を龍田が引っ張り、偵察艦隊は鎮守府に向け撤退する。

 

 

龍田「天龍ちゃん、大丈夫?」

 

天龍「……ああ、悪い」

 

金剛「加賀! 艦載機ありったけぶち込んでクダサイ! 全力で足止めシテ!」

 

加賀「ええ」

 

 

加賀が向き直り艦載機を射出するより先に、弱弱しく響く声が聞こえた。

 

 

夕立「ねぇ、あれ……何する気っぽい……?」

 

 

全員が振り返ると、意外にもリ級は追ってきてはいなかった。

代わりにそこには、リ級が駆逐イ級の頭部を掴んでいる姿があった。

 

直後、ぶぅん、と鈍い音が再び響き、駆逐イ級が木っ端微塵に砕け散った。

その残骸が、まるでエスパーが超能力で浮かせているかのように、リ級の右腕を渦巻くように漂っている。

 

 

天龍「あいつ、仲間を……?」

 

 

天龍が呟くのと同時に。

リ級が右腕をこちらに振り向け、渦巻く残骸を夕立へ向けて飛ばしてきた。

 

正確には、大破して動けない響を狙って。

 

 

天龍「ッ!? まずい!!」

 

夕立「ッ……! 響……!」

 

 

夕立が響を身を挺して庇おうとしたその時。

飛来する残骸の軌道上に立ち塞がった龍田が薙刀を高速回転させ、残骸をすべて弾き飛ばした。

 

 

龍田「……勝手がすぎるわよ……?」

 

夕立「龍田さん……!」

 

金剛「加賀!!」

 

 

金剛が叫ぶと同時に、加賀がありったけの弓を放つ。

空へ放った弓はたちまちい艦載機に変換され、敵深海棲艦の本隊を足止めする。

 

 

金剛「このまま響と天龍を守りつつ帰投しシマス!」

 

 

金剛たちは急いで戦線を離脱する。

まるでわざと見逃すかのように、奇妙なリ級はそれ以上金剛たちを追ってこようとはしなかった。

 

 

 

 

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