その名は、榛か遠く   作:Falke

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二章 冷たい炎
#6 ”破砕”


元帥「やあ、元気かい?」

 

「……何?」

 

元帥「転属だよ。君の新しい職場へ」

 

 

———ああ、またか。

 

 

元帥「転属先は東方鎮守府。比較的、戦況は厳しくない海域で———」

 

 

———誰かが私を必要とする。必要とされたくもないのに。

 

 

元帥「といっても、この状況で楽な戦場なんてないんだけどね。ここの提督は———」

 

 

———この力を振るえと期待する。こんな力、望んだことなんてないのに。

 

 

元帥「……まぁ、気が進まないだろうけどやってくれ。君にしかできないことがあるんだ」

 

 

———きっとそこにも、私の居場所はないのだろう。

 

 

「……フン。やればいいんでしょ」

 

 

———どうせまた、そいつもクソ提督なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

優「すまなかった」

 

 

執務室の真ん中で土下座をしている若い男が一人。

それを目の前にした艦娘たちは目を丸くしている。

 

 

優「俺の勝手な命令のせいで、みんなの命が危険に晒された。もっとお前たちの心を気遣うべきだった。本当に申し訳ない」

 

天龍「……昨日とは随分、態度が違うんだな」

 

優「この程度で許されるとは思っていない。それでもお前たちに一言謝っておかないと気が済まなかった。これからは俺自身の行動で、お前たちに認めてもらうよう努力するつもりだ」

 

金剛「テートク……」

 

優「虫のいい話だとはわかってる。だがそれでも、もう一度だけチャンスをくれるなら、俺についてきてほしい。俺を……信じてほしい」

 

艦娘たち「……」

 

優「……朝から呼び出して悪かった。今日の出撃はなしだ。各自、ゆっくりしてくれ」

 

 

優は執務室から去る。

 

 

天龍「あいつ、いきなりどうしたんだ?」

 

龍田「どういう風の吹き回しかしら~?」

 

榛名「提督、あれからすごく反省したみたいです。それと、これをみなさんに渡してくれと……」

 

鳥海「これは……?」

 

夕立「間宮券っぽい!」

 

金剛「しかもspecial versionデスネー」

 

榛名「せめてものお詫びだそうです。特に、響ちゃんには悪かった、と……」

 

響「私は大丈夫だ。ピンピンしてるよ」

 

榛名「元気になって良かったです。では、みなさんにこれを渡しておきますね。私は用事があるので、失礼します」

 

 

榛名は執務室から去る。

 

 

金剛「榛名? どこに行ったんデショウカ……」

 

夕立「まっみやっけんー♪ まっみやっけんー♪ 早く食べに行くっぽい!」

 

響「そうだね。せっかく貰ったんだし行こうか」

 

天龍「せっかくだし、デケェのがいいな」

 

龍田「天龍ちゃんったら~、太るわよ~?」

 

加賀「……」

 

天龍「か、加賀さん……? 顔が怖ぇぞ……?」

 

加賀「……まったく。物で謝罪するなんてどうかと思うわ」

 

夕立「加賀さん、よだれよだれ」

 

加賀「あら」

 

 

 

 

 

榛名「提督!」

 

優「榛名……?」

 

榛名「これからどこに行かれるのですか?」

 

優「……大本営だ。破損した艤装の修復と、元帥殿に昨日の戦果報告をしてくる」

 

榛名「私もご一緒しますっ」

 

優「え……どうして?」

 

榛名「どうしてって……提督が仰ったんじゃないですか」

 

優「え?」

 

榛名「榛名が提督について行きたいからです」

 

 

そう言って微笑む榛名は、眩しいほどに輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~大本営~

 

 

コンコン

 

 

元帥「ん? 入ってくれ」

 

 

ガチャッ

 

 

優「失礼します」

 

元帥「あれ、雨宮くんじゃないか。どうしたんだい?」

 

優「先日の鎮守府近海の偵察結果と、被害報告を届けに来ました。報告書です」

 

元帥「ご苦労様。でもわざわざここまで来なくても、報告なら鎮守府からの電文で充分なのに」

 

優「いえ、直接お聞きしたいことがあったので」

 

元帥「と、言うと?」

 

優「報告書にも記載しましたが……偵察部隊より、奇妙な深海棲艦と交戦したという報告がありました」

 

元帥「奇妙?」

 

優「はい。リ級型重巡洋艦とのことですが、全身に亀裂が奔り、他の艦とは一線を画する戦闘力、そして異常に発達した右腕……。明らかに従来のリ級とは異なる個体です。何かご存じありませんか?」

 

陸奥「ねぇ、それって……!」

 

元帥「……そいつとはどこで遭遇した?」

 

優「報告によると、この座標です」

 

 

優は机に広げられている海図の、ある地点を指さす。

 

 

元帥「……陸奥、どう思う?」

 

陸奥「今までと座標が大きくズレてるわね。移動したのかしら……」

 

元帥「この海域に何か目的があったわけではないのか……?」

 

榛名「あの……」

 

元帥「ああ、ごめんごめん。置いてけぼりにしてしまったね」

 

優「やはり、何かご存じなんですね」

 

 

元帥は少し前のめりに体勢を変え、続ける。

 

 

元帥「ここ最近、同じような特徴を持つ、謎の深海棲艦が中部海域で何度か目撃されてね。私たちはそいつを追っていたんだが……どうやら、今まで出没していた中部海域から、東方へ移動しているみたいだ」

 

優「やつは何者なんですか?」

 

元帥「私が知りたいぐらいだよ。こっちとしても情報不足だ。わかっているのは、他の深海棲艦と明らかに違うこと、とても好戦的で、目につくものすべてを破壊しようとすること、そして……奴に、艦娘と深海棲艦という区別はおそらく存在しないこと。何度か交戦したことはあるけど、奴は自分と同じ深海棲艦であろうと容赦なく破壊していた」

 

優「同族殺し……」

 

元帥「というより、同族だという認識がないんだ。まるで、自分には仲間が存在しないと物語っているように」

 

優「ッ———」

 

榛名「……」

 

元帥「私たちは正体不明の敵を"バンデッド"と呼称し、特にそのリ級のことを"破砕"と呼んでいる。……急な話ではあるが、破砕が東方へ移動した以上、こちらからは手が出しにくくなった。そこで、君たちにこの破砕の調査を引き継いでもらいたい」

 

優「……現在の戦力では正直、調査といえど犠牲が出る可能性があります。彼女たちを危険に晒すことは、私の本意ではありません」

 

榛名「提督……」

 

陸奥「へぇ……」

 

元帥「そのことなら大丈夫。今回の作戦では、大本営から歴戦の艦娘を派遣しよう。戦力の問題はそれで片付くだろう。それに調査と言っても、決して深追いはしなくていい。危険だと判断したらすぐに撤退してくれ」

 

優「……」

 

元帥「やってくれるかい?」

 

優「……わかりました」

 

元帥「ありがとう。あ、艤装の損害報告なら工廠にいる明石に伝えるといい。彼女はその道のプロだからね」

 

優「わかりました。失礼します」

 

 

優は執務室から去る。

 

 

元帥「榛名」

 

榛名「はい? なんでしょうか?」

 

 

元帥は何も語らず、じっと榛名の目を見る。

 

 

榛名「あ、あの……」

 

元帥「なんでもないよ。呼び止めて悪かったね」

 

榛名「は、はぁ……」

 

元帥「早く行ってあげるといい。君の提督のもとへ」

 

榛名「はい、失礼します」

 

 

榛名も元帥室から去る。

 

 

陸奥「……変わったわね、二人とも」

 

元帥「君にもわかるかい?」

 

陸奥「それ、バカにしてるの? 伊達に何年もあなたの隣にいないわよ」

 

元帥「ははっ、それもそうだね」

 

 

元帥「……本当に、何があったんだか」

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