その名は、榛か遠く   作:Falke

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#7 再会

~大本営・工廠~

 

 

元帥への報告を終えた後、優と榛名は大本営の工廠へと向かった。

さすが人類勢力の中枢と言うべきか、そこは自身の鎮守府の工廠とは規模も設備も全く違っていた。

 

 

優「ここが……工廠なのか?」

 

榛名「はい。大本営の工廠です」

 

優「さすがと言うべきか……ウチと比べると、まるで月とスッポンだな」

 

榛名「さすがにそこまではないと思いますけど……人類の戦力の要ですからね」

 

明石「あら? お客さんですか?」

 

 

優と榛名が話していると、溶接マスクを額まで上げた桃色の髪の艦娘が工廠の奥からやってきた。

 

 

榛名「明石さん、お久しぶりです」

 

明石「榛名さんじゃないですか! お久しぶりです。えっと、そちらの方は……?」

 

優「君が明石か? 俺は雨宮 優。東方鎮守府の提督だ」

 

明石「ああ、東方の提督さんでしたか。いかにも、私が明石です。艤装の修復に破損点検、建造、改修、ちょっとアブナイ魔改造から日曜家具の製造まで! なんでもござれの明石の工房へようこそ!」

 

優「艤装の破損状況を伝えにきたんだが」

 

明石「む。この接客モード全開の明石さんをスルーですか」

 

榛名「あはは……」

 

優「不愛想で悪かったな。これが、先日の威力偵察後の艤装の状態だ」

 

明石「何も言ってないじゃないですか。まぁそれはさておき、お預かりしますね」

 

 

明石は優に渡された書類に目を通す。

 

 

明石「ふむふむ……。ただの威力偵察、それも近海でこの被害……やはり、お世辞にもいい状況とは言えませんね……。ん? これは……天龍さんの刀が……粉々?」

 

優「ああ。奇妙な深海棲艦と遭遇して、そいつに粉々に破壊されたそうだ」

 

明石「ああ、"破砕"と遭遇したんですね」

 

優「知っていたのか」

 

明石「そりゃもちろん、私も大本営の艦娘ですからね。んー、でもよりにもよって破砕されたのが刀ですか……作るの大変なんですよね……」

 

優「刀を作れるのか!?」

 

明石「え、ええ。でも、私は刀鍛冶の知識は乏しいので、北方の夕張の力を借りないとまず無理ですね」

 

優「その夕張に会えば刀を鍛えてもらえるのか?」

 

明石「さっきからどうしたんですか。まるで自分の刀でも作ってほしいように見えますよ。刀なら今まさに持っているじゃないですか」

 

優「これじゃダメなんだ。この刀じゃ……奴らに勝てない。奴らを斬れる新しい刀が必要なんだ……!」

 

榛名「提督……もしかして、それで……」

 

明石「と言われましても、さすがに———」

 

???「あら? 聞き覚えのある声だと思ったら、雨宮くんじゃない」

 

 

声のする方を見ると、優と同じく白い提督服に身を包んだ女性と、水兵服を着た眼帯の少女が優たちの方へやってきた。

 

 

優「奈緒。どうしてここに?」

 

奈緒「私も艤装関連の報告よ。明石のところにデータを持っていけって言われたから」

 

木曾「お、榛名の姐さんじゃねぇか。久しぶりだな」

 

榛名「木曾さん、お久しぶりです。えっと、こちらの方は……?」

 

奈緒「あ、そっか。初めまして。北方鎮守府提督の姫宮 奈緒です。こっちは私の秘書官の」

 

木曾「木曾だ。よろしく頼む」

 

優「ああ。こちらこそ」

 

奈緒「そうだ。せっかくだし、一緒にお昼食べない? 会うのって訓練学校以来だし、色々情報交換とかもしておきたいし」

 

優「え、いや……俺はこの後任務が……」

 

奈緒「ご飯食べるくらいいいでしょ。明石、確か大本営にも食堂があったわよね?」

 

明石「鳳翔さんが経営する酒保ならありますよ」

 

奈緒「鳳翔さんって、確かすっごく料理が上手なのよね? ウチの子たちの間でも評判だったわよ」

 

明石「はい。それはもう、すべてを包み込むかのような優しいお味です……!」

 

奈緒「決まりね。ほら、雨宮くん。行くわよ」

 

優「おい、引っ張るな!」

 

榛名「あ、待ってください!」

 

 

四人は酒保へと向かっていった。

 

 

明石「まだ話の途中だったんだけど……まぁ、問題ないですかね」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

空が青い。今日は一日中快晴だって言ってたっけ。

潮風が気持ちいい。海が目の前にあるのだから当然か。

 

これほど心地いい環境なのに———

 

 

曙「……」

 

 

———私の心は荒みきっていた。

 

 

赤城「あら? もしかして曙さん?」

 

 

見たくもない鎮守府を目にしてため息をつこうとした時、凛とした声が背後から私の名前を呼んだ。

 

 

赤城「やっぱり、曙さんですね」

 

曙「……なんでアンタがここにいんの」

 

赤城「提督が東方に私を派遣なさったんです。今回の作戦は、東方の戦力だけでは厳しいようなので」

 

曙「作戦?」

 

赤城「"破砕"の調査・偵察作戦です」

 

曙「……初耳なんだけど」

 

赤城「曙さんもそのために派遣されたとばかり思っていましたが……」

 

曙「転属よ」

 

赤城「ということは、正式に東方鎮守府の艦娘として着任するんですね」

 

曙「そうよ。まっっったく気が進まないけど」

 

赤城「どうしてですか?」

 

曙「どうせ———」

 

 

自然な流れと赤城の優しい雰囲気に乗せられ、思わず口が滑りそうになる。

……この人の人望と信頼は、こういうところが起因しているのだろうか。

 

 

曙「……別に、ただの気分よ」

 

赤城「そうですか……。でも、いいじゃないですか」

 

曙「何がよ?」

 

赤城「あなたはきっと、本当にここに必要とされているんだと思いますよ」

 

曙「はぁ?」

 

赤城「私とは違って、ね」

 

 

そう言って微笑む赤城の顔が、私にはとても腹立たしく思えた。

 

 

曙「———チッ」

 

赤城「曙さん?」

 

曙「話は終わりよ。先に行くわ」

 

赤城「あっ……」

 

 

早く赤城の傍を立ち去りたかった私は、足早に鎮守府内へと進んでいく。

 

私がここに必要とされてる? 何をバカなことを。

着任早々無責任ではないだろうか。ここのことも、ここのクソ提督のことも。

 

私のことも。何も知らないくせに。

 

 

 

 

 

赤城「気に障ることを言ってしまったでしょうか……」

 

加賀「赤城さん!」

 

赤城「あら。おはよう、加賀さん」

 

加賀「赤城さん……急にこっちに来るなんて言われても困ります」

 

赤城「ごめんなさい。提督から指令を受けた後、すぐに向かうように言われたから。迷惑だった?」

 

加賀「いいえ、全然迷惑なんかしてません。むしろ気分が高揚します」

 

赤城「よかった。でも、私はあくまで大本営の艦娘としてここに来たの。ずっといられるわけじゃないのが残念だけど……」

 

加賀「それでも、私は嬉しいわ。また赤城さんと一緒に戦えるから」

 

赤城「そうね。一航戦の誇りにかけて、暁の水平線に勝利を刻みましょう!」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

奈緒「こんにちは。鳳翔さん、いますか?」

 

 

四人はお腹を空かせながら、大本営の敷地内に建つ酒保"鳳翔"の中へ入る。

内装は決して豪華絢爛ではないが、その質素さが客としてとても居心地よく感じる。

 

 

鳳翔「はい。何か御用ですか?」

 

 

奈緒に呼ばれて、厨房の奥から割烹着を着た女性がやってくる。

 

 

奈緒「あなたが鳳翔さんですか?」

 

鳳翔「はい。大本営所属の艦娘、鳳翔です」

 

奈緒「私は姫宮 奈緒。北方鎮守府の提督です。それでこっちが東方の提督の」

 

優「雨宮 優です」

 

鳳翔「まぁ……提督さんでしたか。何か聞きたいことでもありましたか?」

 

奈緒「いえ、普通にお客さんとして来ました。ウチの子たちから鳳翔さんの料理が美味しいっていつも聞かされていたので、楽しみにしていたんです」

 

鳳翔「ありがとうございます。ご注文はどういたしましょうか?」

 

 

四人はメニューを吟味し、それぞれ鳳翔に料理を注文する。

 

 

鳳翔「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

 

奈緒「楽しみね。どんな料理が出てくるのかしら」

 

木曾「美味いぞぉ鳳翔さんの料理は。何より、心の底から安心する優しい味付けだ」

 

奈緒「さすが、艦娘のお母さんと呼ばれてるだけあるわね……」

 

 

優は水を飲んで料理を待つ。

 

 

奈緒「雨宮くんはどう? 東方でうまくやってる?」

 

優「ああ。これといったことは何もないな」

 

奈緒「そう。安心したわ」

 

優「何がだ?」

 

奈緒「訓練学校時代の雨宮くんなら、着任先の艦娘たちに怖がられてたでしょうから」

 

優「耳が痛いな」

 

榛名「提督、そんなに怖がられていたのですか……?」

 

奈緒「いいえ。でも、いつ見ても、誰ともなれ合う気はないって雰囲気だったわね」

 

優「奈緒……」

 

奈緒「あら、事実しか話してないわよ?」

 

木曾「ふーん。それにしては、随分と丸くなってるように見えるけどな」

 

奈緒「私も驚いたのよ。卒業してからのこの数日で何があったのかしら」

 

榛名「……ふふっ」

 

優「……榛名」

 

榛名「ええ、わかってます」

 

奈緒「その子は雨宮くんの秘書艦?」

 

優「榛名か? いや、別にそういうわけでは———」

 

榛名「はい。榛名が提督の秘書艦です」

 

優「え?」

 

奈緒「そう。おしとやかでかわいらしい子じゃない」

 

榛名「そんな……榛名にはもったいないです……」

 

 

奈緒に褒められた榛名は恥ずかしそうに下を向く。

 

 

優「……北方の様子はどうなんだ?」

 

奈緒「大本営の指令通り、近海の哨戒任務を終わらせたところよ。北方も比較的、敵の侵攻が易しい海域らしいけど……とてもそうとは思えないわ」

 

優「収穫は?」

 

奈緒「残念だけど、そっちにも利益のありそうな情報はないわ。わかったのは、近海の敵勢力の目安と、ウチの子たちの性質ぐらいかしら」

 

優「性質?」

 

奈緒「例えば、隣にいる木曾はニンジンが嫌い」

 

木曾「おーい、さらっと人の弱点晒すなー」

 

優「なんだ……艦娘の性質って言うから何かと思えば、そんなことか」

 

奈緒「あら、そうでもないと思うけど?」

 

優「え?」

 

奈緒「あなたが何を期待していたかは知らないけど、これから私たちの大切な家族になる子たちなのよ。家族ならお互いのことを知っていて当然だと思うわ」

 

優「家族……か」

 

奈緒「彼女たちは道具でも兵器でもない。艦娘と人間という枠組みより以前に、私にとっては、あの子たち一人一人が、かけがえのない大切な家族なのよ」

 

優「……」

 

木曾「……お前、よく俺たちの前でそんな恥ずかしいこと言えるよな」

 

奈緒「木曾にだけは言われたくないわね」

 

木曾「フッ、そうか」

 

鳳翔「みなさん、お待たせいたしました。お料理ができましたよ」

 

 

四人が話し込んでいるうちに鳳翔が料理を終え、見事に彩られた皿を四人の前に出す。

 

 

榛名「さすが鳳翔さんですね……すごく美味しそうです」

 

奈緒「それじゃ、冷めないうちにいただきましょうか」

 

木曾「ああ。鳳翔さんの料理、久しぶりだな」

 

 

いただきます、と言って四人は鳳翔の料理を食べる。

その絶品っぷりに箸が止まらなかったが、優の頭の中では、ずっと奈緒の言葉が離れなかった。

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