~東方鎮守府~
大本営にて奈緒との食事を終えた後。
"破砕"調査任務の作戦思案のため、優と榛名は東方へと帰還した。
金剛「テートク、榛名ー。お帰りなさいデース」
帰還した二人を、金剛が出迎えてくれた。
榛名「ただいま戻りました、お姉さま」
優「何か変わったことはあったか?」
金剛「Yes。New faceが到着してるヨー」
優「ニューフェイス?」
榛名「もしかして、大本営から派遣された方でしょうか……?」
優「ああ、もう送ってくれたのか……ありがたい限りだな」
金剛「別の部屋に待機させてあるネ。今から執務室に向かうよう言っておきマース」
優「ああ。よろしく頼む」
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曙「……」
東方に着任して数十分。
ここで待機しておけと言われた部屋で、私の機嫌は相変わらず悪いままだった。
そもそもなんでここのクソ提督が不在なのよ。ちゃんと着任する時間に合わせて計画的に行動しろっての。
考えてみれば、クソ提督についてはあいつから何も聞かされてないっけ。ま、どうせ自分の都合しか考えてないやつなんだろうけど。
曙「……結局、ここもすぐ離れることになりそうね」
そんなことを考えていると、部屋の扉が突然勢いよく開く。
金剛「ヘーイアケボーノ! テートクが帰ってきたネー!」
曙「ノックぐらいしなさいよ。あと変な名前で呼ぶな」
金剛「Oh、sorry。でもここ、ワタシの部屋デス」
曙「あっそ。さっさと案内してくれる?」
金剛「OK! こっちデース!」
さて、一体どんなクソ提督なのかしらね。
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コンコン
金剛「テートクー、二人を連れてきたデース」
優「ああ、入ってくれ」
金剛の声とノックの音が響き、俺はそれに応じる。
大本営から派遣された艦娘がどんな人なのか、気にならないと言えば嘘になる。
ん……? 二人……?
ガチャッ
扉が開き、入ってきたのは三人の艦娘だった。
一人は金剛。付き合いはまだまだ浅いが、知っている顔だ。
次に入ってきたのは、赤いスカートを履いた袴姿の女性。とても真っすぐで透き通った目をしている。
もう一人は、長い藤色の髪を大きな花の髪飾りでくくった少女。まだ幼さは残っているのだが、その顔や瞳からは感情というものが読み取れない。
優「……確かに、元帥殿は一人だけだとは言ってなかったな……」
榛名「提督?」
優「ああ、すまない。よく来てくれた。俺は東方鎮守府提督の雨宮 優という。悪いが、一人ずつ自己紹介をしてくれないか」
赤城「はい。航空母艦、赤城です。今回の作戦のために大本営から派遣されてきました。東方の艦娘として着任するわけではありませんが、お役に立ってみせます」
優「ああ。よろしく頼む、赤城」
曙「……」
赤城の自己紹介が終わっても、藤色の髪の少女はそっぽを向いたままだった。
優「それで、君は?」
曙「……曙」
優「曙か。よろしく頼む」
曙「嫌よ」
優「え?」
曙「私、アンタとなれ合うつもりはないから」
曙と名乗る藤髪の少女は、汚物を見るかのような凍り付いた目線で俺に言い放った。
優「……そうか。何か気に障ることをしてしまっただろうか? それなら———」
曙「私はアンタとなれ合うつもりもないし、アンタの質問に答える気もない。出撃命令には従ってあげるから、それ以外は私に話しかけてこないで」
刺々しい言葉を吐き捨て、曙は部屋から出て行ってしまった。
榛名「提督……」
優「……いいんだ。因果応報というやつだろう」
赤城「雨宮提督。こちらを」
優「これは?」
赤城「彼女の、曙さんの資料です。提督に対してのあの無礼、大変申し訳ございません」
優「赤城が謝ることはない。……ありがとう。下がってくれ」
赤城「はい。失礼します」
赤城は頭を下げ、執務室を後にする。
俺は赤城から渡された書類に目を通す。
特型駆逐艦、曙。大本営から東方鎮守府に転属。
性格に少し難はあるが、戦闘経験・実績共に豊富。
姉妹艦である朧、漣、潮とは———
書類を読んでいるうちに、ふと気づく。
これを読んでどうなるというのだ。確かに、作戦を立てる上で彼女らのデータは必須だが、それだけなら俺はまた、彼女らを道具としか認識していないことになる。
曙という少女を知るのに、この書類はただの表層的な紙切れにすぎない。
優「……俺の悪い癖だな……」
榛名「提督?」
優「榛名。悪いが、執務は少し後回しにさせてくれ。大事な用事ができた」
榛名「……ええ。提督、榛名は大丈夫ですっ」
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アイツの目が、私は気に入らなかった。
私を不純な目で見ているわけでも、私欲のために利用しようとしているわけでもない。
光がない。恐れと不安にまみれた、暗い瞳。
『化け物め……! 近寄るな!!』
曙「……チッ」
あの目のせいで、思い出したくもない記憶が呼び起こされる。
思った通りだ。どいつもこいつも、クソ提督ばっかり。
響「曙?」
最高潮に機嫌が悪いところに、後ろから懐かしい声が響いてきた。
煌びやかな銀髪に、静かで落ち着いた瞳をした少女がそこに立っていた。
曙「響……」
響「久しぶりだね。どうしてここに?」
曙は答えるより先に、響にそっともたれかかる。
響「曙?」
曙「……ごめん。ちょっと、安心したっていうか……アンタがここにいて良かった」
響「……何か食べに行こうか」
曙「……甘いものがいい」
響「わかった」
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榛名にはああ言って一人にさせてもらったが、どうするべきか。
曙を探そうにも、彼女が行きそうな場所の検討もつかない。まだ曙のことを何も知らないのだから当然だが。
あれこれ考えて歩いているうちに、俺の足は間宮へと向いていた。
優「……少し、糖分でも補給するか」
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響「なるほど。曙は正式にここの艦娘になるんだね」
豊潤な果物に彩られたパフェを前にしながら、私と響は久々に会話を弾ませる。
響「ひへいはんひはほうっはっはほはい?」
曙「リスみたいな顔して喋るな」
響「(ゴクン)司令官にはもう会ったのかい?」
曙「会ったわよ。ここのもクソ提督みたいね」
響「何か言われたのかい?」
曙「……何も」
響「なら、どうして?」
曙「……響は、私より長くアイツを見ていて、なんとも思わないの?」
響「信頼できる人だと思うな」
曙「なんでよ?」
響「司令官は悪い人じゃない。司令官の優しさが、それを証明している」
曙「優しさ……?」
響「曙?」
曙「……響、まさか、忘れたとか言わないわよね。あのクズのことを」
響「……忘れるわけないだろう。あんなことを……」
曙「ならどうして!? どうしてアイツを信じられるのよ! その優しさとかいうものを信じたせいで、私たちはあんな目に遭ったのよ!」
響「わかっている。あれは全て、あの人の本質を見破れなかった私たちのせいだ。でも司令官は、私のことを心配してくれたみたいだし……!」
曙「みたい? なんで確証がないのよ」
響「……榛名が、そう言っていたから……」
曙「ハッ、ほら見なさい。アンタを本気で心配してるなら、直接アンタに言うはずよ」
響「でも……!」
曙「響! いつまで現実から逃げるつもり!? あんなことがあったのに、自分がちょっとよくされたらすぐ信用するの!? アンタがいつまでもそんなだから、暁は!!」
響「やめろ!!」
普段の響からはとても想像できない怒声に、感情が昂っていた私も思わず気圧され我に返る。
曙「あっ……」
響「……」
曙「……ごめん、言いすぎたわ……」
響「……私こそ、曙の気持ちを考えれていなかった。すまない」
少しの間、気まずい沈黙が訪れる。響を傷つけてしまった気がして、申し訳なさで胸が苦しい。
響「……すまない。先に部屋に戻るよ」
曙「響……」
響「……少し一人にさせてほしい。部屋は一緒なんだ。あとでまた話そう」
そう言って、響は店を出た。
入れ替わりに、今最も見たくない顔が私の方へ近寄ってくる。
優「曙、ここにいたのか」
曙「……何?」
優「いや、特に何かあるわけでもないが」
曙「だったら話しかけんな」
優「……甘いものが好きなのか?」
曙「話しかけんなって言ってるのよ。耳が聞こえないの?」
優「俺も甘いものは好きな方だぞ」
こいつ、話聞かないタイプか。あれだけ失礼な態度を取ったというのに、どうして私に構ってくるのか。
曙「……何勝手に私の前に座ってんのよ」
優「座っていいか、と聞いても断るだろう?」
曙「……チッ」
本当、なんなんだこいつは。相も変わらず、癇に障る目をして私を見てくる。
なぜそんな目で私を見る? なぜそんな目で私に構ってくる? なぜ———
曙「……帰るわ」
優「……そうか」
くだらない。こいつのことなんて私には関係ないし、興味もない。
何より、こいつを見てると形容しがたい気分になる。それが私にはとてもじゃないが耐えられない。
とにかく、一刻も早くこいつから離れたかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
赤城「残念でしたね」
優「赤城……」
曙と話す機会を逃した俺が落胆していると、すべて見ていたかのような口ぶりで赤城が店に入ってきた。
優「全部見ていたのか」
赤城「ええ。あ、パフェ貰いますね」
赤城は自分のものであるかのように俺のパフェをあっという間にたいらげてしまった。
赤城「ほほほへ、ほうふふふほひはっはんへふは?」
優「リスみたいな顔をして喋るな」
赤城「(ゴクン)ところで、どうするつもりだったんですか?」
優「え?」
赤城「あれだけ突き放された後で曙さんに関わりに行ったのはどうしてですか?」
優「……曙のことが知りたかったからだ」
赤城「彼女のことなら、私がお渡しした資料を読めばわかると思うのですが」
優「それは違う」
赤城「え?」
優「資料は読んだ。曙の経歴、経験、装備などは把握した。……でも、それだけだ。曙の好きな食べ物は? 趣味は? 好きな色は? お気に入りの場所は? どうしてあんな態度を取られるのか? あんな数枚の紙きれでわかることなんてたかが知れている。俺は曙という少女のことを何一つ知らないんだ」
赤城「……」
優「でも、何も得られないわけじゃなかった。君がかなりの大食いだということを知れたしな。そのパフェは俺の奢りにするが、そういう行動は控えた方がいいぞ」
出会ったばかりの赤城に少し説教をして、俺は間宮の店を後にした。
赤城「……もう、加賀さんったら」
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日が沈んでいき、空はもう夕暮れ。
鮮やかすぎる橙色の空に腹立たしさを覚えつつも、私は輝く夕焼け空に目を奪われていた。
曙「……」
これからどうすればいいんだろう。私は何をすればいいんだろう。
どこにも居場所なんてない。誰にも頼れない。唯一の存在である響も、私のせいで傷つけてしまった。
広大な空の下、小高い丘の上で一人ぼっち。そんな私を笑うように、空は変わらず紅く澄み渡ったまま。
曙「……最悪の気分ね……」
優「最悪、か……」
曙「!」
本当、最悪な気分だ。なんでここにくるのよ。なんで私を一人にさせてくれないのよ。
曙「……何」
優「何も。俺のお気に入りの場所に来ただけだ」
曙「そ。邪魔したわね」
私は体を起こし、この場を離れようとする。いちいち癇に障る男だ。こいつからは一刻も早く離れるに限る。
優「……綺麗だろ。この時間が一番美しく見えるんだ」
曙「別に」
優「夕焼けは嫌いだったか?」
曙「……アンタには関係ない」
優「俺は夕焼けが好きだ」
曙「……」
優「……」
曙「……アンタのその眼には、何が映っているの?」
優「……炎」
曙「ッ———」
興味本位で質問したことをすぐに後悔する。こいつのことを知って何になるというのだ。
……炎、か。
私はそれ以上何も聞かず、夕日が射す丘を去った。
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響「司令官」
曙が去ってからしばらく夕日を眺めていると、響がやってきた。
優「どうしてここが?」
響「ここを気に入っているのは、司令官だけじゃないってことだよ」
優「そうか」
響「……曙と話していたんだろう?」
優「……話したうちに入らないかもしれんがな」
響「そうか」
響は俺の隣に座り込む。
優「……響は夕焼けが好きか?」
響「ああ。とても綺麗だと思う」
優「そうか」
響「曙も、夕焼けは好きだと言っていた」
優「……曙は、響には心を開いているんだな」
響「……やっぱり、気にしているのかい? 曙が司令官を避けていることを」
優「……そりゃ、な」
響「すまない。でも……誤解しないであげてほしい。曙は、本当は優しいやつなんだ」
優「……何か、理由があるのか?」
響「そうだね……」
響は、彼方に輝く夕日を見つめながら呟いた。
響「……この空は、少し残酷なんだ……」