前線日記   作:へか帝

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クールでエレガントな乙女、略してCEO



十七冊目

 

▲月●日

 

 AEKと出掛ける日。待ち合わせの時間になってもAEKは現れなかった。約束の時間から20分は過ぎていた。AEKはそれほど時間にルーズなヤツではない。ひょっとして何か彼女の身に起きたんじゃないだろうか。変化が起きたのはそういう心配が浮かび始めたころだ。それは唐突だった。

 

 「ごっめーん指揮官、待たせ「ウワァーーッ!? マンホールからナンデ!?」」

 

 当時の俺は心底驚いた。足元のマンホールからAEKがひょっこりと顔を出してきたのだ。お前はいつからそんな非常識な奴になってしまったんだ。もう一度いうが俺は心底驚いた。誰でも驚く。

 AEKも申し訳なさそうにしていたが、それは自分のダイナミックに余りある登場方法というよりも遅刻に対する比重が多いようだった。ひょっとしてこの子は常識が僅かにズレているのでは。いやよそう勝手な予想は彼女に悪い。

 

 さて、どうしてこんな意味不明な行動をした事情を聞いてみると、なにやら諸々の野暮用によってこのルートでしか待ち合わせ場所にアクセスできなかったと、そういうことらしい。

 ……諸々の野暮用とは、待ち合わせ場所に向かうのに地下水道を辿らなくてはいけない事は。うーんミステリー。

 だが、触らぬ神にたたりなしという言葉もある。俺は深く追求することをしなかった。これ以上新しい爆弾が飛び出て来ても俺は処理できないからな。

 

 そのあとは匂いは問題ないというAEKの謎主張を聞き流しつつ、ゲーセンで軽く時間を潰した。どうしてオフの日まで銃を撃たなきゃならんのかという話だが、弾薬を気にしなくていいのが心地よいそうだ。マシンガン特有の悩みというやつらしい。

 とまあ、そんな感じだった。買い物でも特に何もなかったし、事件性があったのは最初の集合のときだけだったな。そう頻繁に事件が起きてたまるかという話でもある。

 

 そのまま終われば良かったんだが、AEKは最後に見せたいものがあると言い出したので俺は誘われるままAEKの住居に足を踏み入れてしまった。やめとけばいいのにな。

 

 そこで見たものはつまり、俺の部屋だった。

 AEKの家に俺の部屋が用意されていた──などというチャチな話ではない。

 見知った間取に見知った家具。いくつか型が違ったり、小物がやや安いものに置き換えられてはいるが、それでも一目でわかった。

 

 あれは"俺の部屋"だ。真っ当にグリフィンに勤めていた数年のあいだ、過ごしていた場所。

 だが、その場所は俺が脱走したとき、纏めて失踪したということで処分されたはずの場所でもある。その一室が、AEKの家の中に再現されていた。だが、俺は一度もAEKを家に呼んだ覚えはない。

 AEKはとても嬉し気にその部屋を紹介していたが、俺はもう全身の血の気が引いてしまって曖昧な笑みを返すことしかできなかった。とりあえずその日はそのままそそくさと帰った。

 俺は無事だ。

 

 

▲月〇日

 

 今日は仕事中にいろんな客が現れた。客と言ってもほとんど見知った顔なんだがな。404とかARとか。しかも意味深な言葉を好き放題言い残して帰っていくので意味不明。ただ何となくだがよろしくない感覚だけが残って気持ち悪い。

 

「しきかぁ~ん昨日はだぁれと出掛けていたのかな、かな?」

 

 いつものように仕事をしている最中、廊下でばったりと出会ったUMP45の第一声がこれである。突然物陰からぬるっと現れたので驚いた。目元には影が差し、ただその瞳だけが深海に浮かぶチョウチンアンコウの灯りの如き仄暗い光を発していた。どういう仕組みなんだそれ。探照灯? 機嫌が悪そうではあるのだが、言動はいつも通りなのが不気味でもある。

 そして俺の経験が言っている。これは良くない兆候であると。背筋につららを差し込まれたような感覚だ。自然と背筋が伸びてしまうのも仕方がないと思う。

 

「じゃあ女と行ったんだね!」と、45は至極楽しそうな、抑揚のついた声でそう言った。俺はおなかの調子が悪くなり始めていた。

 俺は必死にグリフィン自体の女性の割合の方が高いがゆえにそういった一面が否定しきれない部分を認めざるを得ない可能性について説明をしたが、「で、楽しかったの?」とばっさり断ち切られた。その後もしばらくそのような問答を続け、最終的には「そっかそっかそれは良かったね!」と大変満足そうな笑顔を浮かべて去っていった。こわい。もう45とは顔を合わせたくない。

 そのあとも"家族の定義"について俺の考えを聞き出してくる9と他2名や、やたらの身の心配をしてくるAR小隊などとも遭遇した。

 大丈夫だ。俺はまだ何ともないぞ。

 

 





クレイジーでエキセントリックな乙女になってしまった。


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