前線日記   作:へか帝

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今回から残酷な描写タグつけなきゃ


七冊目

у月у日

 

 一日経ったが特に追手は来ない。なんとか撒けたようだ。身代わり人形の被弾と同時に血糊をばら撒きながら川に落ちたのが良かったのだろう。この時の為にせっせと鉄血人形の血液を集めておいたのだ。他の指とか骨とかの生体部品もぶちまけたので相手方は死を確信したはず。

 弾がまっすぐ飛ばないUMP40だけを頼りに街をさまよい、かろうじて見つけたのが崩れかけた高架下。前とは比べ物にならないくらい酷い環境だが雨をしのげるだけマシと考えよう。上手いこと瓦礫と風向きがかみ合えば風だって凌げるしいけるいける。

 

 

γ月Π日

 

 いやあ、状況が悪いぞ。持ちだした食料や弾薬もそう多くないし、鉄血から奪おうにも工場近辺よりも数が多いんで迂闊にちょっかい出したら余所からもわらわらと呼び寄せてしまうおそれがある。隠密に戦闘をしようにも武器がこれじゃあなあどうにもならん。空き缶で作った即席ナイフで一小隊相手に無双できるほど強くないし。

 とはいいつつも、何か対策を立てないと状況は悪化するばかり。とりあえずこそこそ廃屋になった民家でも漁ってみるか? だとしてもまず民家を探すところからして難易度高いんだよなぁ。

 とにかく明日は周辺をほっつき歩くところから始めるか。

 

 

γ月Σ日

 

 物資的な収穫は無かったが、情報的な収穫はあった。

 どうやらこの辺りは鉄血側とグリフィン側で小さな戦闘がちょいちょいあるらしい。なにやらどちらにとっても主導権のある地域ではないようで、だからといってさほど重要でもないので維持するほどでもないとみた。

 ただ万が一に備えて占拠だけはされないようにパトロール走らせては小規模な遭遇戦が勃発してる感じだな。

 これはひょっとしてもっと強気に外を歩いてみてもいいかもしれんぞ。

しかし、あれだな。404小隊と離れてからは日記に書くことが減った。前までは収まりきらないくらいだったというのに。いやあ、あの賑やかさも短いながらに悪くなかったが、楽しい時間は儚いものだ。まあ、あの生活が二度と帰ってくることもないだろうし割り切るしかないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭に靄がかかったように感じる。うまく思考が働かない。

 ただ、どうしようもなく──この人を殺したい。

 そして、この耐え難い衝動を抱えているのは私だけではないらしい。404小隊の皆が一様に彼に銃口を向けている。無論セーフティを外し、リロードを済ませ引き金に指を掛けた状態で。

 

「オイオイオイ、マジかお前ら」

 

 私たちの届けた荷物をごちゃごちゃといじっていた彼が、ぎょっとした表情で振り返った。殺気を隠すような真似はしていなかったけれど、それを差し引いても凄まじい反応速度。流石という他ない。

 だがこれほどの人数から純粋な殺意をぶつけられてなお、彼は自身のペースを崩さない。

 

「うわぁロジックボム的なやつ? なんかへんなスイッチ入れちゃったかな。おーい聞こえるかー? 銃は人に向けて撃っちゃいけないんだぞー」

「ねえ、指揮官」

「おおナイン。突然だが二階のロッカーの中にチョコレート味のレーションを隠してあるんだ。さてここで物は相談なんだがそれと引き換えに「指揮官」

「な、なんでございましょうか」

「今から指揮官のことぐちゃぐちゃにしてあげるから、頑張って抵抗してね……?」

「ちょっと何言ってるかわからないですね」

 

 彼はどうにかこの場を穏便に済ませたがっているようだけど、もはや誰も取り合わないだろう。だって、彼が愛おしくてたまらないから。この愛を伝える為に彼を殺す。

 しかし、事前に示し合わせたかのように誰も発砲しない。ただ彼を殺すだけでは、意味が無い。それではまるで飽き足りない。一方的では、一方通行では意味が無い。

 私は、私たちは私たちを殺そうとする彼を殺したくてたまらない。なぜとかどうしてとかそういう次元の話ではないのだ。

 ただ、この溢れんばかりの想いをぶつけるにはそれが一番だと。他の方法ではダメ。これしかないと、なんの根拠もなくそういう確信があった。

 

「指揮官、銃を取って。私たちはあなたを殺したいの」 

「わかったわかった観念しよう。弟子が狂えば、始末は師の役目ってな。いいぜ、相手になってやる」

 

 彼が肩に下げたUMP40をそっと手に取った。彼がやる気になったのだ。途端に空間に緊張が走る。いや、それは私たちだけだ。彼は未だにいつもと変わらぬ調子を貫いている。

 さあ、彼はこの絶対絶命の状況でどう動く? どう切り抜ける?

 どう足掻こうともここで殺す。一挙手一投足を見逃すまいとじっと見つめて──

 

「ちょいと見過ぎたな」

 

 瞬間、彼の背後の機械群が眩い閃光を放った。

 

「フラッシュ!?」

「誰がマジメに戦うってんだバーカバーカ!うははは! あぶなっ! 撃った! 今殺す気で撃ったね!?」

 

 視界を塞がれつつ咄嗟に発砲するも、既に荷物を引き倒して射線を遮っている。恐らく、彼が荷物を弄り始めたころには私たちの殺意の萌芽に気づいていたのだろう。いや、もっと前にこのような事態を想定していた? 何にせよ取り逃がすわけにはいかない。視界が回復し次第すぐさま彼の痕跡を見つけて後を追わないと。

 

「今度は煙幕……!」

 

 閃光に目が慣れ始めた頃には、一面が白煙で包まれていた。発生源は運んできた荷物。彼がバッテリーの代わりに欲しいと要望していたものだ。あまりにも周到すぎる。やはり彼はもっと前からこういう脱出せざるを得ない状況に備えていたんだ。連続の攪乱だ、こうなってしまうと単純な指令でしか動かせないダミーはもう使い物にならない。

 

「あ、見っけた。上の窓だよ」

 

 G11が眠そうな声と共にそっと指をさす。見れば先ほどまで閉まっていた窓が開いている。この煙幕の中にありながら驚異的な観察力。やる気さえあれば、本当に頼りになる。

 

「訓練と一緒よ、9と45は真っすぐ追いかけて! G11は高いところへ、私は迂回してルートを限定するわ!」

 

 416の指示が飛んでくるのとほぼ同時に全員が駆ける。セオリーは全員頭に入っていた。彼の訓練の賜物だ。

 窓を抜け工場の屋上まで出ると、やや遠巻きながら彼の姿が目に入った。

 

「ゲェーッもう見つかった! くっそーあらかじめG11だけでも寝袋の中に封印しときゃよかった!」

 

 全力で追いかけるも中々距離が縮まらない。訓練の時にはただ走るだけだったが、今日の彼は工場の資材をばら撒きながら建造物の隙間を縫って走る。ひとたび障害物に足を取られれば、次の瞬間にはもう違う高さの場所にいる。走る速さは訓練の時と変わらないが小手先の技術が盛り込まれていた。今日の彼はやはり本気だ。きっとこれが彼の戦い方。彼の命のやりとりなんだ。だったら本気で逃げる彼を、追い詰めて追い詰めて追い詰めて殺そう。それが私たちの愛の証明。

 愛に、愛に応えなければ。

 

「はーいこちらのパイプはおひとり様までとなっております!」

 

 屋上から隣の建築物へ続くパイプを渡った彼が、渡りきると同時に足場を破壊した。跳んで届く距離でもない。このままでは確実に見失う。そうなったらもう私たちで見つけ出すのは不可能だ。

 

「416!」

『左側から回り込んで! 右側の出口は瓦礫で塞いだから間に合うはずよ!』

『正面玄関は大丈夫なの!?』

『私が見てるよー。まあ向こうも分かってるから顔は出さないと思うけど……やば、ねむ』

『ちょっと! 寝ぼけて見逃すとかシャレにならないわよ!』

『だいじょぶだって、一瞬でも視界に入ったら覚醒するから。たぶん』

 

 通信の内容に一抹の不安がよぎったが、彼女らの言葉を信用して迂回する。彼の渡った建物は三階建てだ。下から登っていけば途中で遭遇するはず。416の指示に従い迂回し階段を駆け上がると、二階の渡り廊下で無事に彼の姿を確認できた。 

 

「キャーッ! 柱ぶっ壊してまで道塞ぐことなくないですか!? 建物は大切にしろォ! 健全な状態で残ってる建物は珍しいんだぞ!」

「指揮官」

「ひっ」

 

 愛しい彼を甘く呼びかけながら引き金を引く。彼は咄嗟に積まれたボックスの裏に転がり込んで身を隠した。弾幕を展開しながらじっと距離を詰める。背後は行き止まり、顔出せば即被弾。彼にできる行動はない。

 

「リロード!」

「任せて姉さん!」

 

 私が弾切れになったと同時に9が発砲を開始する。こういう一方的な状況で制圧射撃を行う場合は、弾幕が途切れないようにリロードのタイミングは私と9で僅かにずらす。セオリーは頭に入っていたが、実戦での活用方法は彼に教わった。そしてそれを、他でもない彼を追い詰めるために使う。

 

「えへへ、えへ、指揮官……好き、好き、好き、好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ」

 

 半ばトリップしているナインを横目にじりじりと間合いを詰め、もうすぐ──

 

「よいしょぉっ!」

「わぁっ!?」

 

 威勢のいい掛け声とともに、彼の隠れていたボックスが飛んで来る。

 

「いたずらに声を出して距離を教えたのが仇となったな! 銃声よりよっぽど恐怖を煽られたわ馬鹿もんがぁ!」

 

 大きなダメージにはならないが、ナインは体勢を崩し、私はまだリロードが完了していない。制圧射撃が途切れてしまった。だが、これで彼には遮蔽物がなくなった。不安定な体勢ながらも、すかさず缶で作ったインスタントナイフを投擲する。この即席ナイフを彼に教えてもらった時は実用面において懐疑的だったが、なるほどこれは悪くない。

 

「甘いわ! 秘儀畳返し!」

「うそ!?」

 

 直撃の確信があったが、彼は足先だけで床に敷き詰めらた木板を翻して立て、ナイフはカカカカッという小気味のいい音と共に防がれた。

  

「アディオス!」

 

 面食らった一瞬の隙を突き、彼は窓を突き破りこの袋小路を脱出した。私たちもすぐさま彼の姿を追い、窓から飛び降りる。

 だが二階からの着地で、僅かに足がしびれる。彼との距離が離れる。リロードはまだ行っていない。このままでは、彼に逃げられる。

 彼がいるのはこの工場と市街地を繋ぐ鉄橋だ。あの橋を渡って市街地まで抜けられたら、もう追うことはできない。今回だって走り慣れたこの工場内だったからこれほど上手くできた。この工場より複雑で、土地勘のない市街地まで逃がしたら、おしまい。

 ダメ、それは絶対にダメだ。ここで逃がすわけにはいかない。急いでリロードを済ませないと。まだ全然愛し足りない。もっと愛さなきゃ、もっともっと……!

 

 

 ──バスッ

 

 前触れのない、重い銃声。突如彼の右足から鮮血が滲み始め、彼は勢いのまま派手にこけた。

 

「指揮官、私指示するだけが能じゃないのよ。忘れてたでしょ?」

「っ! 一本取られたね。あー……やば」

 

 416の声だ。確かに、訓練中に彼の追跡に彼女が加わったことはなかった。常に先回りや破壊工作がメインで、指揮官も彼女の存在が頭から抜けていたのだろう。

 苦痛に呻く彼の表情が見えた。被弾した足を引きずりながら、どうにか物陰に身を隠そうとしている。とても苦しそう。かわいそうに。楽にしてあげなきゃ。

 もうあの傷では走ることはできない。彼の負け。あとは、私たちの愛を受け取ってもらうだけだ。ゆっくりとリロードしながら彼の下へ近づく。もう416もG11も集合していた。

 

 途端、無防備のまま物陰から彼が飛び出してきた。

 やっと観念したんだ。私たちの愛に身を委ねる気になったんだ。彼の期待に応えよう。容赦はない。私とナインで両足を銃撃し、416が心の臓目がけて発砲し、そしてG11が彼の頭を吹き飛ばした。

 

 痛快なまでに鮮血が舞う。ついにやった。彼を、指揮官をこの手で殺した。彼から教わった技術を駆使して、彼を、私たちの指揮官を殺したんだ。

 

 でも、おかしいな。

 ──全然、嬉しくない。

 ぼんやりと、人間を殺すと鉄血人形より血がいっぱい出るんだなぁ、ってくらい。まるで感動しない。なんでだろう。あんなに殺したかったのに。やってはいけないことをしてしまったような。一番やりたくないことをしてしまったような。

 

 ……。

 

 そっか。そうだよね。

 私は指揮官を殺したかっただけで、死んでほしかったわけじゃないんだ。

 だから、いま私はこんなに空虚なんだ。

 

 まあ、そんなことより!

 ついに指揮官に黒星をつけることができたんだ。いままで惜しいところまで行っていたのにあと少しで届かなかったからすごく嬉しい。

 

 そういえば任務を達成したからだろうか、だんだんと靄の掛かっていた思考が晴れていく。

 ああ、いつもの反省会が楽しみだ。何度か出し抜かれちゃったけど、最終的には私たちが上回った。きっと褒めてくれるに違いない。

 そうだ、今日こそは指揮官に頭をなでてもらおう。前は視線で訴えるだけで済ませたら、結局ナインだけで私にはしてくれなかった。もう、意外と恥ずかしがり屋さんなんだから。

 あと教えてもらいたいことや聞きたいこともたくさんある。一番最初の閃光は一体どうやったんだろう。あの煙幕は何を使ったの? いつから襲撃を察知していたんだろう。なんであれだけ殺気をぶつけられても動じなかったのかとか。そうそう、あの畳返しと呼んでいた奥義も練習したい。

 

 そんなことを考えながら指揮官の側まで駆け寄ろうとして

──おかしなものが視界に映った。

 

 散乱した肉片に頭蓋骨の破片。それから人の皮。地面に広がった血の池。

 その中心に横たわるのは、見覚えのある服を着た肉の塊。

 

 あれは、何だ?

 

 

 

──私たちは今、いったい誰を殺した?

 

 

 

 




指揮官「残念だったな、トリックだよ」

だいたい日記通りの人格なので命懸けなのに楽しそうな感じになったった。
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