やはり俺がダイビングサークルに入るのはまちがっている。 作:筆ノ介
任せろと言われ北原に付いてきた俺は、熱心に他の学生に話しかけるイケメンアニオタを観察していた。
「いいか八幡。今回のターゲットはあいつだ」
「まあそりゃ、さっきからずっと観察してんだからそうだろうな」
「作戦はこうだ。上手くあいつを先輩のところに誘導する、拉致してもらう、以上だ」
「端的に言うが、どうやって誘導するんだよ?」
「そんなのノリだろノリ!俺が適当に付け入るから、八幡もそれに乗っかってこい!!行くぞっ!!」
「あ、ちょっ...はぁ、最後まで話聞けっつの」
俺の質問を最後まで聞かずに北原は地面に膝をついて項垂れるアニオタの所へ走っていった。それに渋々着いて行く。
「くそ...っ!どうしてだよ...っ!」
何についてかはわからないが、アニオタは心底悔しがるように地面に両拳を振りかざした。ドゴッという音が俺と北原の耳に聴こえてくる。
こんなアニオタにもやはり悔しいことはあるのだろう。そもそも二次元オタクというのはどうしても世の中に良い印象がないものだ。
常人には理解し難い良さに没頭してしまった彼らを、理解できない常人は『キモい』だの『関わりたくない』だのと迫害し、拒絶する。
確かに行きすぎた考えを持った危ない連中もいるが、全員が全員そんな害悪なオタクじゃない。基本はみんな綺麗な心を持ったオタクなのだ。そろそろ世間も二次元というものの素晴らしさを理解し、肯定的にならなければいけないんじゃないだろうか。
そう思いながら少しこのアニオタに同情していると、アニオタは悲痛な思いを口にした。
「どうして俺を中心にした女子高生美少女ハーレムサークルがないんだよ......!!」
...どうやら綺麗なオタクの方じゃなく、ただの変態お兄ちゃんの方でした。
何をどう考えても俺なんかより通報されるべき人間だろこいつ。何堂々と大学のサークルに女子高生求めてんだよ。
こいつは危険だ、とりあえず通報しておこうと思い警備員を探そうとしたが、俺も追われている身でしたテヘッ☆
なんで俺、こんな半裸の変態とか危ない変態と同列に扱われたんだろ、まじで謎。謎すぎてコナンくんがくるレベルだよこれ。
『どうして...っ!』と嘆く変態お兄ちゃんに、半裸の変態、もとい北原がポンと肩を叩いた。
「お前?」
「なあ耕平、諦めるなよ。諦めなければ夢は叶う。世の中ってのはそういうもんだろ?」
なんか北原がカッコいいこと言ってるが、それは将来犯罪者になるかもしれない変態の助力をしたってことで通報していいのかな?それ多分叶えちゃいけない夢だよ?
まあこんな俺のツッコミが彼らに聞こえるはずもなく、耕平と呼ばれた変態は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「.....だが、現実は冷たいんだ。どいつもこいつも、やれ『寝ぼけるな』だの『大学に女子高生がいるか』だの『漫研に行け』だのとわけのわからない事ばかり.....!」
うん、わけのわからないっていうか完璧にどいつもこいつも正論しか言ってないんだが。あれ、これって俺がおかしいの?いや、どう考えてもこの変態お兄ちゃんがまちがってるよね?
「大学に来たら新世界が広がって夢のような生活が待っていると思ってたのに...!」
高校にいた方が女子高生と関われたんじゃないのかそれって。
そう思っていると、北原がフッと微笑みながら立ち上がる。
「あるさ」
「え?」
「あるに決まってる、新世界も夢の生活も。ただお前はその入り口に気付いていないだけなんだ」
「そう...なのか...?」
これ完璧に犯罪者に助力したって事だよね?女子高生を集めて法に引っかかるような事しようとしてるのを肯定してるよね?
「ああ、どうだ?一緒に──夢の入り口に踏み込んでみないか?」
いや、助力どころか誘っちゃったよ。危ない世界に引っ張ろうとしてるよこいつ。
そろそろ通報しなきゃまずい頃かなとスマホをポケットから取り出そうとしたところで話はまとまったようだ。
まあ今までの心の中のツッコミはほぼ冗談で、実際は北原がダイビングサークルの人員集め、もとい生け贄にするためにダイビングサークルに勧誘した、という事だ。だが実際そのことには耕平くんは気付いていないだろうが。
北原と耕平はお互い手を取り合い立ち上がった。これ俺いる意味あった?
そう思いつつも二人に近寄る。
「お、八幡。ほら耕平、紹介するよ、こいつは比企谷八幡。お前がこれから踏み入れる
ねぇやめて?それ言葉の真意が伝わってない人からするとただの変態って事になるからね?
まあだがここでそれを否定してしまってはこれまでの北原の頑張りを無駄にする事になる。
俺はその設定を渋々受け入れ、自分で自己紹介する。
「どうも、比企谷八幡だ」
「あ、お前は確かガイダンスにいたバイオハザードの」
「ゾンビって言いたいならそんな変な前置きせずに直接言えよ...」
ここ1時間で第一声の罵倒が止まらないんだが...まあいつものことだが。あ、ごめん嘘ついた。そもそも話しかけられないから第一声なんてなかった。
「それで比企谷八幡、夢の世界ってのはどんなサークルなんだ?」
期待を込めた視線を俺に向けて質問して来た今村に、俺はこう返した。
「ま、着いてからのお楽しみだな」
そう言って俺たち二人は今村を夢の世界へと
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場所は戻り、ダイビングサークルのテーブルの前。
「「うぇぇーるかぁぁーむ!!!」」
「謀ったな貴様らぁぁぁぁぁっ!?」
「ふぅ...服は人類の叡智の一つだなぁ...」
屈強な男二人組に拉致られた今村は、俺たちを般若のような顔で睨んで叫んだ。
それをみて何も気にせず先輩から貰ったTシャツを着てふぅっと一息つく北原と、先輩に渡された黒縁メガネをつけた俺。
「よし、これでなんとか警備員の追跡は間逃れたか。さて、帰ろ」
途中で気がついた事なのだが、別に北原みたいに家の場所がわからないわけじゃないしサークルに入らずとも眼鏡だけ貰ってしまえばここにいる必要がない。
俺は足早に北原のところによって別れの挨拶をする。
「んじゃ北原。俺は帰るから。世話になったな」
「...は?」
そう言うと、北原は心底意味のわからなそうな顔で俺を見てきた。
「えっと、誰?」
「...ん?」
「いや、俺たちどっかで会ったことあったっけ?」
...どうやら俺のことを忘れてしまったらしい。こんなに早く存在を忘れられたのは初めてなんだが...ちょっとショックだぞこれ、いやいつものことなんだけどね?
悲しい現実に直面しながらも一応もう一度自己紹介しておく。
「あー、俺比企谷なんだが、忘れ」
「はぁぁぁぁ!?お、お前、あの八幡か!?なに、お前イケメンだったの!?」
「なにそれ酷くね?ナチュラルに前の俺ディスってるよね?ってあー眼鏡かけてたから分からんかったのか、すまん」
毎度の事だが、俺は自慢の濁った目を眼鏡で隠すとイケメンになるらしい。それも全く別人になったんじゃないかってくらいに。すげぇよな眼鏡、のび太くんもビックリだわ。
心底驚いたような表情をしている北原はガシッと俺の肩を掴み真剣な眼差しで俺を見た。
「八幡」
「なんだよ?」
「頼むからお前は眼鏡をつけないでくれ」
「いやなんでだよ、とったら警備員さん来ちゃうだろ」
「お前が前の姿に戻ってくれなかったら俺がブスに見えるじゃねぇかよ!?」
「お前さっきから素で前の俺ディスるね!?」
「嫌だぁぁぁ!!耕平と眼鏡八幡に挟まれたら俺、お前らの引き立て役になるじゃねぇかよ!!」
「そんな事気にしてたのかよ...まあ今だけだ、俺もう帰るし」
さっき伝えたが聞いてもらえなかった事をもう一度言った。
だが、また先ほどと同じく心底意味のわからなそうな顔でこっちを見てくる北原。
「は?何言ってんだ比企谷。もう遅いぞ」
「え?何が...」
と、その時。
「ぐほっ!?」
急に背後から首をホールドされ、身動きが取れない状態になってしまった。
何事かと思い振り向くと、そこには先ほど寿先輩と一緒に今村を拉致っていた先輩の姿があった。
「お前が寿の言ってた新人か、なんだイケメンじゃないか。俺は時田信治だ、よろしくな」
「は、はぁ...よろしくお願いします...って違う!!俺帰りたいんですけどダメですか?」
「ダメだな、今からサークルのコンパが始まるからサークルに入るやつは必ず参加してもらう」
「あ、じゃあ俺はサークル入らないんで...」
「先輩、そいつ暇持て余してるらしいんで構ってやって下さい」
「北原てめぇぇぇ!?」
「おぉ、ならよかった。よし、それじゃ行くぞ!」
「嫌だ!!俺は家に帰る!!大学生活始まって早々こんなのは嫌だぁぁぁぁぁっ!!」
俺はドタバタと抵抗し続けるか、俺の腹に回された腕で肩に担がれ全く動けない状態になってしまった。力強すぎるだろこの人ぉぉ!?
こうして俺は、ダイビングサークル『Peek a Boo』に入ってしまった。いますぐにでも逃げ出したい...