やはり俺がダイビングサークルに入るのはまちがっている。 作:筆ノ介
あの後、結局俺は度数の高い酒を手に持たされた。
「それじゃ新入生諸君、楽しんでくれ。かんぱーい!」
『『『『『『かんぱーい!!』』』』』』
時田先輩の挨拶によって新入生歓迎コンパが始まった。
チラと少し遠くにあるCテーブルを見てみると、そこにいるみんながソフトドリンクを持ちながら談笑を始めていた。その様はさながらリア充達の交流会である。爆発しろ。
そのままBテーブルへと視線を移すと、そのテーブルにいた人は手にビールやサワーなどの度数の低いお酒を手に持ち、少し上機嫌な雰囲気を出しながら笑いあっていた。その様はさながら大学生活を謳歌しようとするリア充達のパーティである。爆発しろ。
そしてそこから今自分の目の前にあるAテーブルへと視線を持ってくる。
「"
『『『『かんぱーい!!』』』』
...さながらリア
むさ苦しい男たちが自身の手に握ったグラスを天へと掲げ大きく吠える様は敵を威嚇する熊のようだ。
男たちから溢れ出る強烈で凶悪な熱気に押され数歩後退ると、誰かに背中を止められる。
チラと後ろを振り向くと、そこには今まさに俺と同じような顔をしている北原の姿があった。
北原は俺の耳元に顔を近づけ、コソコソと話しかけてくる。
「なぁ八幡、隙をついて抜け出さないか?」
「あぁ?お前が裏切らなきゃ俺はそもそもここには居なくて済んだんだぞ?」
「はっはっはっ、そんな過去のこと気にしてちゃモテねぇぞ?」
「言うほど過去ってほど前の話じゃねぇだろが...まあいい、それでどうすんだ?」
「ああ、先輩たちが酒を飲み始めた瞬間にあったのBテーブルの方に紛れ込もうと思う」
「了解だ、タイミングはお前に任せる」
俺は北原の隣まで後退し、先輩たちの様子を窺っていた。
ギャハギャハと酒を飲む前の凄まじい盛り上がりが終わったのか、皆がグラスを空に掲げた。
「よし、いまだ八幡!!」
「おう」
そのタイミングをうまく使い、俺たちはBテーブルの方へと早歩きで向かった。決して走ってはいけない、走ったらバレる。
「ふぅ、どうにかバレなかったな」
「だな、これであのキツそうな酒とはお別れだ」
どうにかバレずにBテーブルへと移動できた俺たちはAテーブルへと視線を配りながらBテーブルの人混みに紛れ込む。
Bテーブルにいた人たちは、度の弱い酒で程よく酔っ払っているのか少しテンションが上がっていた。
そんな中を掻き分けながらなるべくAテーブルから見えない位置に移動すると、前を歩いていた北原が急に足を止めた。
「お?千紗、来てたのか」
誰かに話しかけた北原の横から顔を出して相手を見てみると、そこにいたのは酎ハイを飲んでいる茶色い髪をショートカットに切った女の子だった。そこら辺にいる女子と比べると、頭一つ抜けているような美少女である。
そのキリッとした冷たい目つきは、以前俺が入部していた、かの有名な奉仕部の部長とも引けを取らない冷たさだ。え?なに?有名じゃないって?残念でした、今は小悪魔生徒会長こと一色のお陰でその部の存在は全校生徒に知れ渡っているのだよ。
まあ現在の奉仕部の状況は置いておくにして、伊織と千紗と呼ばれた彼女の話に耳を傾ける。
「.......お父さんが行けって喚くから仕方なく。で、そっちの人は?」
キリッとした目でこちらを見てくる彼女。
それに反応した北原が俺のことを紹介しようとするが、流石に初対面で自己紹介ができないほど俺のコミュニケーション能力は欠落してはいない。...ないよね?
「あー、ども。比企谷八幡です」
右手で頭の後ろを掻きながら頭を下げる。なんだか初対面の時の雪ノ下にした時の挨拶みたいだなこれ...
「古手川千紗です、よろしく」
俺の自己紹介を聞いた彼女はきちんと体をこちらに向けて挨拶をしてくれた。なんだ、雪ノ下よりもいい子じゃないか、初対面で罵倒してくるほど中身は冷えきっていないらしい。
やはりどうしても俺は彼女と雪ノ下を重ねてしまう。なぜかと言うと、北原を見る彼女の目が昔の俺を見る雪ノ下の目とそっくりだからだ。もうマジでゴミを見てる感じ。
少し懐かしさを感じていたその時、俺の長年培って来たスキル、人間センサーが反応した。習得までにかなりのスキルポイントを使ったよ、人間センサーに全振りしすぎて対人スキルが0なまである。
バッと後ろを振り向くと、人混みの奥から素肌丸出しの大きなお兄さんたちがこちらに迫って来ているのが見えた。どうやら
いち早くそれに気付いた俺は、北原や古手川さんにバレないように静かに周りの人に溶け込んだ。
「千紗はこのサークルに入るのか?」
「不本意ながら。伊織は?」
「俺は御免被る」
「...ふーん。逃げ切れるの?」
「は?」
伊織が何のことを言っているんだという顔をした瞬間、ドス黒い熱気を放ちながら寿先輩が伊織を後ろから捕まえた。
「こら伊織、きちんと乾杯をしないとダメだぞ?」
「ちょっ...待っ...」
「伊織、八幡はどこへ行った?」
寿先輩に抱えられた伊織に時田先輩が問いかける。
当の俺は人混みに紛れてその姿を隠している。そして更にメガネを外すことによってメガネを掛けた時別人に見えることの逆を使い、メガネの姿の俺しか見たことがない時田先輩に別人と思わせる作戦だ。
「八幡はその辺に...あれ居ない!?あいつ逃げやがったな!?その辺にいるはずです、必ず見つけだして捕まえて下さい!!」
...あいつ、盛大に俺を売りやがったな。
まあいい、これで時田先輩にはバレる事はない。俺は静かにステルスヒッキーを発動させた。
「おーい八幡?お前も乾杯しなきゃダメだぞー?」
バレてないバレてない。
「うーん、あいつの特徴って言ったらあのイケメン面なんだがなぁ」
バレてないバレてない。
「あとはあのピョンピョン跳ねてたアホ毛か。お、あったあった」
...アホ毛はバレたがまだ俺とは気付かないはず。
「時田〜、とりあえず伊織を連れて行ってくれないか?なんか伊織がどうしても時田に連れていかれたいらしくてなぁ」
「ん?ああ、わかった。どうしたんだ伊織」
「いいえ...!!俺だけ連行されるのは気にくわないんでね...!!あいつの両方の顔を知っている寿先輩の方が良いかと思いまして...!!」
「おお、そうか。というか両方の顔ってなんだ?」
...あの野郎、こっち見ながらグッドサインして来やがった。終わった、俺の大学生活。
伊織を時田先輩に渡した寿先輩がこちらへと走ってくる。
「探したぞ八幡!!なんでお前メガネ外してるんだ?それじゃあ警備員に捕まって大学から追い出されるぞ?」
「あなた方に捕まるよりは警備員に捕まった方がマシだと思ったんですよ...!!」
ほんと、大学の外に出してくれるなら警備員でも誰でもいいから助けて!!俺、酔って死ぬのはイヤ!!
抵抗する余地もなく寿先輩に担ぎ上げられた。
ガッシリと腰回りをホールドされていて、逃げたいと思っても逃げられないので、そのうち俺は、考えるのをやめた...
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「"杯を乾す"と書いて!!」
『『『『かんぱーい!!』』』』
はい、コンパの冒頭に戻って来ましたよっと。ちなみに眼鏡はしっかり着けなおした。
俺は握っていた度数の高い酒を一気に喉へと流し込んだ。
「くはっ...!!うぐっ...濃い...」
喉が焼けるかのような感覚に襲われながらもグラスに入ったお酒を飲みきった。
飲み終わると一気に息が上がってブワッと汗が噴き出してくる。
うぐっと渋い顔をして唸っていると、隣でも同じような声を上げている男がいた。
「くああーっ!やっぱりこれ濃いなぁもう!!」
「北原てめぇ、お前が寿先輩をこっちに寄こさなきゃ俺だけは逃げれたのによ...!?」
「人探ししてる人の手助けをしないような汚れた心は持ってないもんでね...!!」
「お前ら、水も飲まないと倒れるぞ」
俺たちが二人して睨み合っていたところに、誰かが水を差し出してくれた。
「ああ、どうも」
「ありがとうございます...ん?」
二人して水を受け取ったところで一つ疑問に思ったことがあった。
なぜウーロン茶を頼んで酒を平然た出すようなサークルに水があるのか。いや普通は疑問に思っちゃダメなんだけどね?
俺が疑り深くそのグラスを眺めている間に、どうやら何も考えていない北原はそれを飲んだらしい。
その水と言われたものを口にした瞬間、なにやら神妙な顔になりポケットから取り出したライターでそのグラスに火をつけた。
水なら燃えるはずはないのだが、コップの中の物は猛々しく燃え盛っていた。やっぱアルコールじゃねぇか、危ねぇよマジで...
「ウォッカぁぁぁぁぁぁ!!」
飲んだ北原はというと、酒の入ったグラスを床に叩きつけて割っていた。乱暴だなおい。
俺は水を渡して来た人物を見る。そこには先ほど俺たちが嵌めたイケメンの姿があった。
「ちっ、比企谷八幡は引っかからなかったか...だが北原伊織、お前はいい飲みっぷりだったぞ!!」
「...今村、北原が犠牲になってなかったら俺が危なかったろ。やるんなら北原だけにやれよ」
「八幡お前ひでぇな!?ていうか耕平、復讐のつもりか!?あぁん!?」
「いや、そんなつもりはない。ただ...」
今村はなにやら悩むような表情になり、ギャハハと盛り上がる先輩方を見た。
「一人くらい潰して入会させないと脱出できないように見えてな」
「...まあ」
「...確かに」
あのサークルから抜け出すには、誰かが犠牲になって他の人を逃がすしかなさそうだ。
高校時代はだいたいこういう時の犠牲は即決で俺になっていたが、ここで生け贄としてあそこに投げ出されたら最後、自我を忘れて酔いつぶれる未来しか見えない。
うーん...
...よしここは北原を生け贄にしよう。
そう思い作戦を練っていたところ北原が話をきりだした。
「そうだな...たしかに誰かが犠牲になれば他の奴が逃げられる」
「わかってくれたか?」
「ああ、お前を連れてきたのは俺たちだ、責任を取って俺が
そういい北原はこちらに振りむき、目で何かを訴えてきた。...いい性格してんなこの野郎。要は北原には水を持ってきて、今村には酒で作ったウーロン茶を持ってこいってことだな。
俺はそれにうんと頷いてウーロン茶、もとい酒を取りに行く。
えーっと、なんだっけ。ウォッカが9とウィスキー1だっけ?先ほど目の前で見た作り方を思い出しながらグラスへと酒を注ぐ。
それと、あとは北原用の
その二つを手に持ち、少し駆け足で薄気味悪い笑みで笑いあっている二人のもとに駆け寄る。
「ほれ、ウーロン茶と酒だ」
そのグラスの中に入っているものをみて二人とも普通の笑顔に戻った。
「それじゃ、俺は酒で、耕平はウーロン茶で乾杯と行こうか!!」
「だな!!素晴らしい自己犠牲だ!!」
「「かんぱーい!!!」」
グラスで良い音を鳴らし、二人は一気にその飲み物を口に入れた。
そしてこれね、
二人はその中身を一口飲んだあと、再度神妙な顔になりポケットから出したライターで火をつけた。
煌々と燃え上がる炎をみて、二人は恐ろしい顔をしながらこちらを振り返った。
「八幡てめぇ!!俺は水っていうのが伝わらなかったのか!?なんで酒が入ってんだよ!?つかさっきのやつより明らかに炎の勢い強いんですけど!?」
「あ?どう見ても水の色してんじゃねぇか。ちゃんと要望通り水だ。てか良いの?今村嵌めようとしてたの言っちゃって」
「あ...」
「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちぃ...!!誰かを犠牲にするってのはナイスアイデアだったぜ!!だから俺の為に潰れてくれや今村耕平!!」
「よし、これで一件落着だな」
二人が喧嘩を始めたことで俺は完全に部外者となる、これが俺の作戦。俺は犠牲のその先を行く。何せ自分を犠牲にしたらまたあいつらに怒られちゃうしね!!
俺がその場を立ち去ろうとした時、時田先輩がこちらに近寄ってきた。
「八幡、あれはなにをやっているんだ?」
「あー、なんか喧嘩してるんで止めてあげて下さい」
さも自分は関係ないように振る舞う俺、まじ策士。もはや現代の諸葛孔明を名乗れるレベル。無理かな?無理だな。
それを聞いた時田先輩はうーんと何かを考えるような格好で二人の方を見る。
「それはいかんな。おいお前ら、喧嘩はいかんぞ。どうしても揉めるんなら勝負にしろ」
「「勝負?」」
「ああ、代々伝わる『P a B式』のにらめっこだ」
なんだか面白いことになってきました。この先、八幡気になります!...やっぱちょっと酒入ってるな、俺。
なんでこんなドジるかな自分...酔っ払ってんのかな?(震え)
それではまた次回!!