やはり俺がダイビングサークルに入るのはまちがっている。 作:筆ノ介
最近、リアルが忙しく全くこの小説の続きを書くことができませんでした、大変申し訳ない。
返信できていない感想を書いて頂いた皆様、作者はちゃんと感想を見ております。返信できないまま更新が止まってしまいすみませんでした。
あの後、少し場所が変わって現在はAテーブルの前に屈強な男たちが二人の男を囲むようにあつまっている。
テーブルの前で北原と今村が二人して睨み合い、北原は頰がハムスターみたいにパンパンになるほど酒を口の中に含みながら時田先輩のルール説明を聞いていた。
「ルールは簡単、口に入った酒を吹いたらイッキ。それだけだ」
「わかりました」
今村は時田先輩の顔をみてそう言い、北原は口に酒が入っているので首肯した。
どうやら普通のにらめっこにちょっとしたネタを追加したルールらしい。というかそれ口の中に入れるの酒の必要あんの、水じゃダメなの?
これに似てるゲームで昔、ピラ○キーノって番組でリコーダーを咥えながら辞書を適当に引いて面白そうな言葉を言って笑わせるって企画があったんだけど、小学生の頃友達と思ってた奴らとやろうとして自分のリコーダー咥えたら、『ひきがやがじょしのリコーダーなめてるー!!』って言われて公開処刑されたのはいい思い出である。ちっ、許すまじ野球部の田中。
忌々しき思い出を振り返っている間にどうやらにらめっこが始まっていたらしい。
ハムスターみたいな北原に向かって今村がその美形を完璧に崩した変顔で笑わせにかかる。だが北原も、自分の命に関わる事なのでそう簡単に笑いはいないようだ。
一向に進まない戦況を見兼ねてか、時田先輩が今村になにやら助言をしている。
とりあえず俺は手に持っていた酒をちびちびと口にしていると、時田先輩の話を聞いた今村が北原に向き直る。
「ここだけの話なんだけどさ...実は俺...」
北原の額から汗が流れる。
緊迫した空気が今村と北原の間を漂う。
何かを決心したのか神妙な顔をしながら今村が口を開いた。
「こう見えて昔はオタクだったんだ...」
「「ぶふぉ!?」」
しまった...!あまりにも当たり前のことすぎて俺までも口にしていた酒を吹いてしまった...いやお前、よくそんな服着ておいて昔はとか言えたな...
「ふっ、驚きを隠しきれなかったようだな」
「そりゃ驚くさ!!お前がその事実を隠しきれていると思っている事にな!!」
その通りだ北原と心の中で同意しつつ、俺は吹いたものを拭くためにハンカチを取り出そうとするが、スッと隣から小さな青色のハンカチを渡された。
軽く袖で口をぬぐいながらそちらを見ると、そこには先ほどBテーブルの方であった古手川さんの姿があった。
「これ、使って」
「へ?」
あまりに理解できないこの状況に間抜けな声が出てしまった。
どうやら彼女は俺にハンカチを貸してくれるらしい。いやほんとどういうこと...?普通さっき会って少し話しただけの奴にハンカチなんて渡す?口から吹いたものを拭くんだよ?
どうすれば良いか、全くわからなくて動きが止まってしまった俺を古手川さんは冷たい目で見てくる。
「...伊織が何してるか見にきてみたらいきなり隣の人がお酒吹き出してたから。まあ見知ってる顔だったし助けてあげるのが普通かなと思って」
「は、はぁ...い、いやでもですね...」
「敬語はやめて。伊織とタメ口で話してるって事は私と同い年でしょ?」
「え、あ、お、おう、わかった...」
「...それで、はやく受け取ってくれない?腕が疲れた」
「そ、そのことなんだが、俺は口から吹いたものを掃除しようとしているんだけど...」
「...だからハンカチ渡してるんでしょ」
俺を見る目が更に冷たくなる古手川。いやだからこういう事ですよ?『せんぱいの口から出た物ということはせんぱい菌がたっぷりと含まれていてばっちぃじゃないですかぁ?それを女の子の私物を借りて拭くなんてせんぱいどんだけデリカシーないんですか?』ってなるわけ。CVは一色いろは。イメージの中まであいつは罵倒してくんのかよ。いや、でもCVだと佐倉綾音に...いかんいかん、メタくなってきた。
俺のその思いをなんとなくの雰囲気で察してくれたのか、はぁっと一つため息をついた古手川。
なんだかせっかく貸してくれようとしたのに申し訳なくなってきたので一応謝っておく。
「...まあ、そういう事なんで、せっかく貸してくれようとしたのにすまんな」
「...いやだから早く受け取って。別にこれ伊織のやつ間違えて持ってきただけだし気にしなくて良いから」
俺の思いを察してくれたのではなく、多分疲れてため息をついた古手川はそう言って強引にそのハンカチを押し付けてきた。ハンカチを渡し終えるとフイッと北原たちの方を向いてしまった。
...いや、ちょっと待って?色々気になることがあって何から突っ込むか迷ったけどやっぱ1番の問題として、なんで古手川が北原のハンカチを間違えて持ってくるの...?え、まさか...
俺は恐る恐るそっぽを向いている古手川に話しかける。
「えっと、古手川?」
「...なに?」
「貸して頂けたのはすごくありがたかったんだが、北原のを間違えて持ってきたってどういうこと?もしかして、その、同棲とか...」
「あ...」
俺の質問に対し、何か重大なことに気がついたかのように大きく目を見開いた。その顔はみるみるうちに赤くなっていく。
パタパタと両手を振りながら焦ったようにこちらに体を向ける。
「あっ、い、いやその違くて!!伊織と私は親戚で、伊織が下宿先でうちにいるってだけで深い意味はないから!本当に!!」
「は、はぁ...あいつと親戚なのか...大変なんだな、古手川も」
「うっ、だから家のことは人に言いたくないのに...」
額を片手で抑え、はぁっとため息をついた古手川。
あんな変態が身内にいたら、俺なら恥ずかしくて絶対に人に言いたくない。半裸で校内歩き回るようなやつだぞ。いやまあそれと対等に扱われてた人がここにいるんですけどね...ごめんね、親戚の皆さん。
古手川は俺の隣にいるまま俯いて黙り込んでしまったので、俺は貸してもらった北原のハンカチで少し服にかかったお酒を拭いた。帰ってこのハンカチと服はすぐ洗おう。
濡れていた箇所を全て拭き終わったので、とりあえず隣にいる古手川にお礼を言っておく。
「古手川、ハンカチサンキュな。今度洗って返すわ」
「あ、うん。私には返さなくて良いから、とりあえず伊織にでも渡しといて。そうすれば私もあいつと喋らずに済むし...」
「さ、さいですか...」
北原の汚物のような扱われっぷりには少し親近感が湧くね、昔の俺を見ているみたいだ。まあ今も対して扱いは変わらないが。
その後は二人して手に持つ酒を少しづつ飲みながら、特に会話もなく伊織たちを眺めていた。
『『『ハイ、飲ーんで!飲んで飲んで、の・ん・で☆』』』
「「っしゃオラァァァァァァ!!」」
男たちの掛け声に唆され、粗相をした北原と今村がグラスに入った酒を一気飲みした。ちなみにこのサークル内で言う『そそう』とは、お酒や料理を零す、先輩に無礼を働くなど粗相ををした際に行われるペナルティの一気飲みのことらしい。そう誰かが言ってたのを聞いた。
酒を飲み切った北原と今村はグラスを放り投げ、再度睨み合う。
「やってくれるじゃねぇか...!!」
「貴様こそな...!!」
「こうなったらトコトンやってやらぁぁぁ!!」
「上等!!白黒はっきりさせてやる!!」
二人して完璧にスイッチが入ってしまったのか、はたまた酒が回ったのか。おかしなテンションになりにらめっこの続きを始めた。
『『『『にーらめっこしましょ!Peek a ───』』』』
そこから先は思った通り、ただただ酒を爆飲みするだけの男たちというひどい絵面が続いた。
変顔をしては酒を吹き、酒を吹いては酒を飲む。それを見て他の先輩方はさらに盛り上がり、度数の強い酒を飲みまくる。俺も下手したらあれに引き込まれていたと思うと背中を嫌な汗が伝っていく。
というか、俺ってばこのサークルに入った事になってるの?これからずっとこのえげつないノリを見なきゃ行けないの?なにそれすっごい嫌なんだけど...もしかしたら俺もこれに混ざらなきゃ行けなくなる日が来るってことなんだよなぁ。八幡、目の前が真っ暗になってポケモンセンター行く事になるかもしれない。
なんだか自分のこれからの大学生活が心配になってきてしまい一つ大きなため息を吐くと、隣にいた古手川の方からもため息が聞こえた。
「はぁ...昔はあんなやつじゃなかったのに」
「...北原のことか?」
「うん、昔はもっと真面目なやつだったの。それがなんであんなゴミになったのか...」
諦めたような表情で北原たちの方を眺める古手川。ゴミって断言しちゃったよこの子。
まあ俺にも、変わる変わらないという事に関しては思うところがある。高校時代にその事についての持論を自信満々に話していたものだ。
...だがまあ、この二年ほどで俺にも心境の変化というか、考え方の変化が起こったらしい。
「...人はそう簡単に変わったりしない、変わっちゃいけないって、昔は俺もそう思ってたんだがな」
「?」
「いい風に変わろうが、悪い風に変わろうが、その変化には何かしらの意味があってのことなんだろうな。変化する環境への適応の為とか、周りの奴らとの交流を上手く行う為とか色々」
前まで人と全く関わっていなかった俺がこの二年間で学んだのは、人と関わることの大切さなんて大層なものじゃないけれど。それでも俺なりに、人間関係というものを理解したつもりだ。
自分の考えを貫き続けているだけでは、いつかはその考え方を拒絶される。だが周りへの配慮を考えてその行動を少しでも変えてみれば、完璧に理解はされないにしても、それでも必ず理解してくれようとしてくれる人が現れる。
俺は、自分のやり方を否定されて、恩師に言われた言葉に背中を押されて、自分のまちがいを正す為に『本物』を欲した。形なんてあるはずのない幻想だけの『本物』を。
俺が欲したそれは本当に形なんて無くて、下手したら俺にさえ理解し得なかったほどのものだったのかもしれない。
だけど、それを一緒になって探してくれるような奴らと出会えた。そして、そんな奴らが俺にとっての『本物』だったということにも気がついた。結局本人たちの前じゃ恥ずかしくて言えなかったが。それにこちらの願望を勝手に押し付けるのは嫌いだしな。
あ、でも卒業式の日に小町には言ったんだ、みんな嫌な奴じゃなかったって。そしたらその10分後くらいに色々な奴から『ありがとう』だの『これからもよろしく』みたいなメッセージが飛んできたんだよ。
雪ノ下に由比ヶ浜、一色や戸塚、葉山に川...川村?川本さんなど、俺が小町にまあ嫌な奴じゃなかったなと言った奴ら全員から。おかしい、葉山のことは嫌いって言ったし、三浦とかに感謝される理由もないし、戸部や材木座なんて話すら出してないのに。これ小町ちゃん絶対バラしたよね、拡散のスピードが異常すぎてボルトもびっくりだぜおい。
まあ何にせよ、捻くれ者なりに考え行き着いた答えが変わる事だったのは自分でも不思議としか思えないが、それでも今では変わって良かったと思っている。
長々と余計なことを考えたが、とりあえずこちらを向いて『何言ってんのこいつ...』みたいな冷たい目をしている古手川を納得させなければならん。
「まあその、なんだ。あれだよ、北原も北原なりにどうすれば良いのか考えて、行き着いた答えがゴミになって社会に適応するって事だったんじゃねぇの?今日会ったばっかりだし知らんけど」
「それって適応じゃなくてただアホになっただけじゃ...」
古手川は呆れ果てたような表情をしながら北原を見る。
今見ている北原は、大きい酒の瓶を咥えて一気に飲んでいた。それを飲みきったかと思えばその瓶を机の上に置きまた新しい瓶を咥えている。もはやにらめっこではなく酒のイッキ飲み対決だ。今村に至っては真っ青な顔をしながら俯いている。
「まあ、それでも楽しくやれてればいいんじゃねぇの?知らんけど」
「知らんけどって言葉好きなの?」
「いいや、俺はただ自分に責任が来るのを避けてるだけだ。他の人の責任まで取るとかマジでゴメンだからな、俺は俺で好きに生きさせて貰う。だから俺は働かない」
「...比企谷くんって結構喋るキャラだったんだね、知らなかった」
意外そうな顔をしながら古手川はこちらを見る。
確かに、普段の俺に比べればかなり饒舌になっていたかもしれない。まあ恐らく酒が回ってきたのだろう。決してこの大学生という空気が心地よいからではないはずだ。
俺は手に持った酒のグラスに口をつけながら古手川に返事をする。
「そりゃ今日会ったばっかりだからな、知らなくて当然だ。あとこれくらい大学生なら普通なんじゃないか?」
「そうかな?まあ確かにそうかも、私はあんまり喋るタイプじゃないからわからないけど。比企谷くんはこのサークルに入るの?」
「うーん、入りたくない気持ちは山々なんだが逃げ出すことが出来なさそうなんだよなぁ...はぁ、お家帰りたい...」
溜まりに溜まった不満を口にしたからか、俺の口からは自然にため息が溢れていた。
そもそもダイビングサークルなのになぜダイビングの話が一切出ないのだろうか、先輩方の口から出るのはダイビングどころかアルコールの匂いだけである。
「このサークル、何やるところかわかる?」
「酒飲むところだろ?」
「普通ならそう思うよね...」
わざわざ質問してくれた古手川にネタ性の高い皮肉を込めて返したのだが、なんだか思っていた反応とは違い残念そうな顔をさせてしまった。
「あー悪い、ダイビングサークルだったよな?」
悪いなと思って本当のことを話すと、古手川は安堵したような表情をした。どうやら本当に誤解されるのが辛かったらしい。
というか今更思ったのだが、俺ダイビング未経験なのだが大丈夫なのだろうか。何か機材とかいると思うが何も持っていないし。
なのでその辺を少し質問してみた。
「俺、ダイビング未経験だし機材とかなんも無いが大丈夫なのか?つっても古手川も新入生だしわからんか。悪い、忘れてくれ」
わからなかったのでとりあえず質問してみたが、古手川も新入生だったという事をすっかり忘れていた。あまりにもこのサークルに慣れていたのでつい聞いてしまった。
だが古手川は手を横に振って俺の言葉を否定した。
「大丈夫。このサークルはうちがやってるダイビングショップを拠点に活動してるから何となくだけどわかる。未経験でも全然大丈夫だし、最初はうちのショップの機材を貸し出すからその辺も問題ないと思う」
「へぇ、ダイビングショップやったのか、なら聞いて良かった。あ、もしかして古手川って古手川さんの妹さんか?」
ダイビングショップと聞いて、古手川さんと同じ苗字だったことを思い出しそう質問すると古手川は首を縦に振った。
「あ、お姉ちゃんに会ってたんだ。そこにいたし紹介しようと思ってたんだけど」
「ああ、その必要はないな。それでなんだが、ダイビングについては色々調べておいたほうがいいよな」
「あ、うん。そうだね。なんならうちに来てくれればいつでも教えれるけどっ」
「お、おう?」
「あ、でもいま時間あるし基本の話くらいならできるけどしようかっ!?」
「お、おう、よろしくたのむわ」
ダイビングについての話をした途端、ずっと冷たい顔をしていた古手川の顔が一気に破顔し、嬉しそうに話をしてきた。
この後、古手川にダイビングについての基本的なことを身振り手振りを使ってとても楽しそうに俺に説明してくれた。でもね、専門的な用語を一から説明してくれるのはありがたいんだけど、それ全部やってるからもうコンパ終わりそうなんだけど...
とりあえず周りを見るからに、寿先輩と時田先輩が締めの挨拶をしているようだ。北原と今村は酔いつぶれてぶっ倒れている。
とりあえず説明がひと段落したようなので、古手川を止めにかかる。
「あーっと、古手川。もうコンパ終わりそうなんだが」
「あ、本当だ。ごめん、気づかなくて。退屈だった?」
「いや、すげぇわかりやすかったわ。さんきゅな」
「よかった。それで、ダイビングに興味持ってくれた?」
そう聞いてくる古手川はどこか不安そうな表情をしているが、そんなに心配しなくたってダイビングをちょっとやってみたいって思ったから大丈夫だ。
俺はグッドサインを出しながらグラスをテーブルに置きにいった。
「おう、ダイビングやってみたくなったわ。これから色々よろしくな、古手川」
「うん、よろしく」
手を振ってきた古手川に軽く手を上げて別れを言い、テーブルにグラスを置きにいったところでコンパは終了したようだ。
俺は寿先輩たちの解散という言葉を聞いてから、大学を後にし家に帰った。
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そしてあのコンパの翌日。
「貴様のせいだ...」
「いいや、お前が悪い...」
「「ていうか...」」
俺を挟んだ両サイドで文句を言い合っていた酔い潰れども、もとい北原と今村は机に突っ伏しながら俺を睨んできた。
「「お前、途中から逃げただろ!?」」
「はっ、お前らが勝手に喧嘩してたから俺は見守ってただけだ」
「比企谷てめぇ...!!」
「貴様があそこで俺たちを売らなければ...!!」
「あー、きょーもおれのにちじょーはへーわだなー」
「「今度こそは絶対潰すっ...!!!」」
今日も俺の周りは平和である。
それでは次回に!!