いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 やってみた。後悔は後でするものであって今するものじゃない。


第零章 気弱な妹はどうやらログアウトしたようです。
わたし簪、あなたを乗っ取ったの。


 旧い日本家屋。と思いきや何故かマトリョーシカ。目が醒めて見たものは、その二つ。泣きも笑いもしない可愛いげのない娘は、死んだ魚のような目で周囲を見回した。

 そして一言。

 

「あなたのなまえはかんざしですっていわれても、しょうじきこまるんですよねー……はぁ」

 

 水色の髪に、血の色をした瞳。それを認識した時点でまず日本人ではない。もっとも、ここが現実だと言わんばかりに髪の色は水色に見えなくもない銀髪であることをその幼女はきちんと認識していた。

 それに加えて幼女は自分のフルネームを知っていた。確かに自分の名前を知らぬ人間はこの日本において珍しいが、そういう意味ではない。幼女は産まれる前からその名前を知っていたのだ。

 

 更識簪。幼女が生前流し読みしていたライトノベル『インフィニット・ストラトス』におけるヒロインの名。かんざ新党、もしくは簪党なる派閥が信仰する人物だ。

 

 正直に言って、幼女(現簪)にとってどうでも良いことだ。何故なら恋愛などする気もなく、既に『更識簪』に異物たる自身が成り代わっている以上、ライトノベルと同じ道筋を辿るとは限らない。

 だがしかし、そこに至らないために何かをするつもりもない。簪は簪で、『更識簪』は『更識簪』だ。全くの別人である。ならば、例えば織斑一夏に惚れるような状況に直面したところで本当に簪が惚れるとも思えない。

 何故なら簪は生前、ある種の社会不適合者だったからだ。女子として着飾ることにも興味はなく、自らの幸せを誰かと結ばれること以外でしか見つけられない。そもそも誰かと関わることすら好まず、目の前に敷かれたレールを踏み外さず。いつも誰かのために自己をぶち殺して生きてきた。故に簪は多くを望めなくなり、ついに自分を殺して全てを終わらせた。

 それだというのに、簪はこうして再び意識を保ててしまっている。こうして生きているだけで苦痛。だが、今更『更識簪』を巻き込んでの心中は出来ない。簪は他人を殺してまで死にたいなどという願望は持てないのだから。

 ぐるぐると回る思考を叩き潰しながら、簪は日々を過ごしていた。誰にも関わって欲しくない。だというのに、今世でも簪は姉に恵まれないようだ。

「か・ん・ざ・し・ちゃ~ん!」

 喜色満面の姉、刀奈が抱き付いてくる。鬱陶しいことこの上ない。どうやら構って欲しいようなのだが、簪にそれは通じなかった。前世で学んだのだ。鬱陶しいものは鬱陶しいと言わないと通じないのだと。

 故に簪は冷たく刀奈に呟いた。

「うるさいです暑いです苦しいですだから離れろこんちくしょーです」

「ああ簪ちゃん簪ちゃん簪ちゃぁぁん!」

「……人の話は聞いた方が良いです、姉」

 激しく頬擦りをする刀奈に簪はうんざりした顔をして、力では敵わないから放置する。それがルーティンになるのに、そう時間はかからなかった。

 そんなことよりも考えなくてはならないのは、この先のことだ。途中から読み飛ばしていたおかげで『更識簪』のスペックをそこまで把握できていないのは痛い。取り敢えず一番の問題はやはり『打鉄弐式』だろうか。未だインフィニット・ストラトスが発表すらされていない状況で考えることでもないような気もするが、いずれ天災兎に対抗せざるを得ないような状況に陥るのだろうから力はある方が良い。

 

 もっとも、そう考えている時点で原作に囚われているのだが。簪はその事には気づいていなかった。

 

 これは無限の成層圏へ至る物語ではない。元社会不適合者が、自身を変えたくて変えられなくて、結局結論を覆すことが出来るのか(死を選ばずにいられるのか)どうか、というある意味激しくスケールが小さい残念な物語である。




 更識簪(憑依転生)

 原作よりも髪は長く伸ばし、前髪も後ろと同じ長さ。前髪を胸の下辺りまで垂らし、後ろの髪は首筋あたりで団子にして朱塗りの髪挿し(本来ならば簪だが、名前表記とややこしいので元の語源である『髪挿し』と表記する)を挿している。基本的に死んだ魚のような目をしている。原作とは違い、暗いところで本を読んだり端末を触ることが多いので普通に近眼の眼鏡を掛けている。
 改造制服も原作とは違う。姫袖と呼ばれる、腕から掌の方へ行くにつれて広がっている上着を着用。袖に護身用の髪挿し(ネタではなく、実用的にギリギリ暗器)を数本ずつ仕込んでいる。スカートも膝下ぐらいまでの長さで、そこにも暗器を仕込んでいる模様。フリルがあるわけではないが、プリーツ状になっている。
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