いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
アーキタイプ・ブレイカー年下勢勢揃い。原作勢の影が薄すぎて最早何だこれ状態である。ところでクーリェって何歳ですか偉い人。ぐーぐる先生に聞いても分かんなかった。
金の編入生。その去就。
クラス対抗戦の騒ぎも落ち着いてきた頃。IS学園の一年生は新しい仲間達を迎えていた。一組にはドイツ代表候補生にして『シュヴァルツェア・レーゲン』を駆るラウラ・ボーデヴィッヒが。二組には飛び級をした上で編入してきたカナダ代表候補生にして特殊IS『グローバル・メテオダウン』を駆るファニール・コメット及びオニール・コメット。三組にはロシア予備代表候補生にして『スヴェントヴィト』を駆るクーリェ・ルククシェフカ。そして四組にはフランス代表候補生にして『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を駆るシャルル・デュノアが編入してきたのである。
編入してきて、目の前で紹介されたシャルルを前に簪は遠い目をした。
(何でシャルル・デュノアが四組なんですかやだー。絶対絡まれるじゃないですか)
その思考が仇となったのか。生暖かい目でシャルルを見るクラスメイト達を掻き分け、彼(実際には彼女)は簪に声をかけた。
「よろしくね、更識簪さん」
「あまりよろしくしたくありませんし、挨拶をするのなら四組代表にどうぞ、シャルル・デュノアさん」
簪がそっけなく返すと、シャルルは困ったような顔で曖昧に笑った。簪にどうしてほしいのかは何となくわかっているのだが、彼女がそれを叶えることはない。誰が怪しいと思っている人物に対して心を許すだろうか。
始まる授業を真面目に受けながら、ちらちらと視線を向けてくるシャルルにイラつく簪。構って欲しそうに簪の方を見ていたが、当の簪は授業が終わった瞬間にトイレに行き、始まる直前に戻ってくることにしたので会話すらできない。
授業を終えたあともなお近付いてくるシャルルに、簪はイライラしながら自室へと戻った。ルームメイトはいない。本来であれば本音が同室なのだが、簪は更識本家から距離を置かねばならない身である。更識の犬たる本音を近付けるわけにはいかなかった。だからこその個人部屋である。
(原作通りどうぞ織斑一夏を狙ってくださいよ、シャルル・デュノア。わたしに構わないでくれないと、強制送還どころじゃなくなるんですから。『グレイ』の情報なんてあげませんよ?)
イライラしながら『打鉄灰式』に物理盾をインストールする簪。本来であれば必要ないが、見た目は大事だからだ。先日の事件で《D3》を晒してしまったのはある意味痛手だったのだから。見た目が晒されたのがかなりの問題である。
その作業と生活サイクルを続けて早三日。簪にとって試練の日がやってきた。それは、ようやくの邂逅。
「済まん。更識さん、だよな?」
「間違ってはいませんが寄るな触るな近付くんじゃねーです織斑一夏さん」
「えっ」
自室に押し掛けてきた一夏とシャルルを見て、簪はそのまま扉を閉めようとした。しかし一夏の足がそれを阻む。いったい何をしに来たのか、簪には分からない。それでも一夏の顔は険しい。何かシャルルに吹き込まれてきたようである。
「ごめん!」
(討ち入りとかやる気ですかこの無自覚ハーレムキングが!)
一夏は力任せに扉を開き、バランスを崩した簪をそのまま部屋の中へと押し込んだ。それに続いてシャルルも部屋の中に入り、扉と鍵を閉める。
そして、シャルルとともに頭を下げた。
「突然ごめん、でも、助けてください!」
「話が全くもって読めません。でも……今からはちょっと、先生の見回りがありますから出ない方が良いでしょうね」
「え、じゃあ……」
希望を見たかのようにこちらを窺い見るシャルルに、簪は冷たい目線を浴びせた。幸いなことに今は見られて困るものは置いていないが、いきなり来られて迷惑なことに変わりはない。
故に簪は一夏達にはお茶すらも出さず、自分の分だけインスタントコーヒーを淹れて一夏達に向き直った。
「それで、何の用です? 下らない用事であればすぐに寮長に突き出しますが、まさか仮にも女子の部屋に無理矢理押し入って下らない用事だとは言いませんよね?」
「それは、えっと、その……」
言い淀むシャルル。それを見て、簪はコーヒーを彼らの手の届かないテーブルに置いてから端末を取り出した。
そしてその端末を操作し、耳に当てる。
「あ、もしもし織斑せん」
「わーっ! わーっ! 待って待って! ちゃんと説明するから!」
「最初から普通に説明してくださいよ、全く……」
簪が端末から手を離すと、シャルルは自身の置かれた境遇について語り始めた。要約すれば、自分は妾の娘であり、『白式』とその他フランスにとって脅威となりうるIS操縦者の情報を得に来た産業スパイなのだということだ。だからこそ簪の部屋に来たのだと。
簪は微妙な顔をして問いかけた。
「えっと、だからわたしの部屋に来たの意味が全く分からないんですが」
「いや、分かるだろ!? だって更識さん、日本代表候補生の隠し玉らしいじゃないか。それに、生徒会長の妹なんだろ? 何とか出来るんじゃないのか!?」
(頼りに来たのはまあ良いんですけどその、それ、唆されてません? というか日本代表候補生の隠し玉って何ですか!?)
簪は思わず心のなかでそう突っ込んだが、何も言い返さないわけにはいかない。何故なら、彼らの言い分の一分たりとも簪にとって関係のないことだからだ。
だからこそ、簪はシャルルに向けて問うた。
「まず、その生徒会長の妹だから何とかできるっていう訳の分からない理論はどこから生えてきたんです?」
「そ、それは……お姉さんに話を通してもらうとか……」
「何故織斑先生ではダメなんですか? 言っておきますが、うちの姉はロシア代表です。日本とは接点がないわけではありませんけど、無論影響力は織斑先生の方が段違いで上ですよ」
その言葉だけでシャルルは黙りこんだ。織斑千冬ではいけなかった理由は簡単なのだ。聞く耳を持ってもらえない可能性の方が高いのだから。簪を選んだのは単純に与しやすい方を選んだという、ただそれだけのことだ。無論多分にシャルルからの情報があったからでもあるが。
そんなことは露知らず、簪は言葉を続けた。
「それでもわたしなんかを頼るということは、情に訴えかけた上で将来幽閉もしくは処刑されるだろうシャルル・デュノアを救ってほしいということですか」
「出来るんだろ?」
「軽く言わないでもらえませんかね、織斑一夏さん。わたしごときにどんな権限があると勘違いしているんです?」
冷たく告げた簪の言葉に、二人は絶句したようだった。
(いや、そもそもスパイを国に引き渡さない暗部ってもうそれは暗部じゃないですよね? というか、わたしに権限があるとでも思ってるんですかこの二人)
心のなかでそう呟いた簪は、更に追い討ちをかける。
「言っておきますが、わたしはあなた方に協力はしませんし出来ませんから。日本にしても、わたし個人にしても、そんな危ない橋ばかり渡れると思わないでください」
それに、と簪は続けようとして言葉を呑み込んだ。どうせすぐにシャルルは捕縛されるのだ。目線の下の方で光るディスプレイに、通話中の文字が現れたままなのを確認して簪は二人を睨み付ける。
すると、一夏が噛みついてきた。
「でも、このままだとシャルルが大変な目に遭うじゃないか!」
「この件に関してわたしが出来るアクションは教師に通報するか、政府もしくはIS委員会に密告するかのどれかだけですよ。シャルル・デュノアの今後の処遇なんて、わたしごときではどうすることも出来ません」
「どうにかしようとは思わないのかよ!?」
一夏の言葉に簪は天井を仰いだ。出来ると思う辺りが楽天的であり、他力本願である。何故言葉を尽くして千冬を説得しないのか。そこに納得がいかない限り簪は一夏とは相容れない。
そんな簪になおも一夏は言葉をぶつける。
「どうにか出来るだろ、お前なら! 日本代表候補生の隠し玉だし、俺にはできない手って奴を打てるじゃないか!」
「たとえば?」
「そ、それは……こう、何かあるだろ!」
一夏は簪ならば何とかできる、という確たる自信を持っているからこそ、その方法までも考えることはなかった。その自信がどこから湧いてくるのかは全くの謎だが。どうにか出来る手段があるのにそれをしない簪に一夏はイラついていた。
無論、一夏の言い分について自分勝手なところがあることは否定しきれない。だが、ここ数日をかけてシャルルに吹き込まれた『更識簪』像は簡単には崩れないのである。一夏の中では彼女はとんでもない天才であり、一夏には出来ないことが簡単に出来るスーパーレディと化していたのだから。
そして一夏は自らの劣等感を簪にぶつけた。
「何で箒は守ったのにシャルルは守ってやれないんだよ!」
その叫びに、一夏はシャルルのことを隠す気などないだろうと簪は思った。他の部屋に聞こえている可能性がかなり高いのではないだろうか。
淡々と簪は一夏に返答する。
「篠ノ之さんを守れたのは割りと偶然ですよ。たまたまそこにいて、他に誰も彼女の命を守れなくて、わたしが頑張れば何とか出来ると分かっていたからやったことです。もっとも、だからといってこっちが代償を支払わなかったかと言われるとそうではありませんが」
「じゃあシャルルは!」
「デュノアさんの件は、わたしなんかが手を出しても意味がありません。状況が悪化するだけのところに手を出して何の意味があるんです? 幽閉か処刑が暗殺に変わるだけじゃないですか。それともわたしがデュノアさんを保護しろとでも言うんですか? そんなの無茶ですから。わたしごときが保護したところでデュノアさんに刺客が放たれるのは間違いありませんよ。それともISの情報を渡して欲しいんですか? 確かに各国からすればあれば困らない情報ですが、それをした瞬間わたしも捕まりますよ?」
一夏が簪を睨み付ける。だが簪は怯まなかった。何故ならシャルルはずっと俯いたままだったのだから。
だから言える。
「ねえ、分かってますかデュノアさん。あなたのことですよ? 他人事みたいな顔をしていますけど、あなたのことです。あなたがどう動くかを決めて、どうすれば生き延びられるのかをきちんと考えましたか? 誰かに頼るのは確定事項になってませんか? 誰かに頼りきりになって、おんぶでだっこ状態で本当に生き延びたいんですか? ねえ、デュノアさん。自分の自由を勝ち取るのに、自分では何の代償も支払う気がないのなら、それはもう誰にもどうしようもありませんよ? 死にたいのならご自由にどうぞ。他人を巻き込まないで大人しく死んでくださいよ」
「死にたくなんてないよ! ……でも、でも、だからって僕なんかに何が出来るって言うんだ!」
シャルルがようやく意思表示をしたため、簪はそれを更に引き出しにかかる。ここまで教師が踏み込んでこないということは、何らかの情報を得たいということだろう。
簪は敢えて実現可能そうでかつ教師たちとの話し合いが不可欠な提案をシャルルに叩きつけた。
「やろうと思えば何だって出来るでしょう。男装の理由をそれらしく……そうですね、たとえば織斑一夏さんへのハニートラップ対策のために学園から極秘に頼まれたですとか、生徒達の危機管理を見るために派遣されたとかですね……」
「そ、それは……でも、僕が言い張るだけじゃ……」
「そういうでっち上げを学園に呑ませられないんだったら、死ぬしかないですねぇ。未来を掴み取るには、代償が必要なんですよ。それは心だったり、覚悟だったり、自由だったりしますけど……自分の望みを叶えるためには、何かを差し出さなければならないんです」
そんなの、と一夏が食って掛かろうとしたときだった。いきなり扉が開いたのは。
「お前は悟りすぎじゃないのか、更識」
「仕方ないでしょう、織斑先生。わたしはそう在らなければ生きてこられなかったんですから」
平然と簪は返答しているが、一夏とシャルルは硬直してしまっていた。まさかいきなり教師がやって来るとは思わなかったからだ。
千冬はそんな二人をちらりと見て出席簿を閃かせる。
「馬鹿共が。頼るべきはまず教師だろう。同じ生徒に、しかもよりによって更識なんぞに頼るな」
「え、ちょっと先生? わたしの評価酷くないですか?」
簪の抗議に、出席簿が翻る。
「お前は自分の立場をもう少し考えてから物を言え。曲がりなりとも政府の犬だろうが」
(織斑先生酷すぎません? しかもちゃんと拒否してたじゃないですかやだーっ)
心のなかで絶叫した簪は頭を押さえながら涙目になる。
「考えてたから言わなかったんじゃないですか、校則なんていう形骸に頼れだなんて。それにわたしは政府の犬であることを恥じはしませんが、誇りもしません。わたしはわたしの目的のために犬であることを選んでるんですよ」
「……フン。とにかくこちらでも作戦は立てるが、デュノアの言質を取ったのは誉めてやる」
きょとんとした様子のシャルルだったが、簪には分かっていた。そのためにわざわざ煽ったのだから。
(まずは、死にたくないと言わせました。そこから死なないためにどうすれば良いのかを相談するのは大人の役目です)
そして、千冬は一夏とシャルルを連れて簪の部屋を後にした。手続きや情報操作をするならば早い方が良いからだ。
そうして、結果的にはシャルル・デュノアはシャルロット・デュノアとなり、混乱を避けるために一組に編入し直したのであった。その際に使われた名目は『双子の兄を守るために編入してきた』というものであり、その数日後に『シャルル・デュノア』は病死したこととなったのだった。
ISのSSでの鬼門。シャルロットの扱いについてはこんな感じ。目新しいものではないだろうとは思うけどこれ以上で良い感じの解決法が思い付かなかった。