いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
シャルロットが編入してから、一夏と一緒に簪の部屋に突撃するまでの閑話です。
ある日の昼休み。シャルル・デュノアと名乗っている少女は一年一組を訪れていた。世にも珍しい男性操縦者に接触するためだ。そっと顔を覗かせてみると、こちらに気づいたらしい一夏が目を丸くした。
そしてシャルルに近付き、問う。
「お前が二人目……?」
「うん、そうだよ、織斑一夏くん。よろしくね!」
(お前って、失礼な人だなぁ……でも、彼と仲良くならなきゃね)
微笑みを崩さずシャルルはそう思った。すると、一夏が何を思ったのか手をいきなり握りしめて満面の笑みを浮かべる。
「よろしくな、シャルル!」
(ええっ、いきなり!? 日本人って大体
「え、あ、うん……よ、よろしく織斑くん」
「一夏で良いぜ、何たって二人しかいない男同士だからな!」
「そ、そうだね! ……そろそろチャイム鳴っちゃうし、教室に戻るよ、一夏」
意趣返しにシャルルは呼び捨ててみるが、一夏が驚いた様子はない。むしろ喜色満面であった。彼にとっては男同士の呼び捨てはデフォルトのようである。
教室に戻りながらシャルルは戦慄していた。
(ま、まさかこの人……
それはそれで困る。何故ならシャルルはどうあがこうが『シャルロット』であり『女子』なのだ。彼の気持ちには応えられない。
(あ、でも事故でその、ぼ、棒を無くしたって言えば……な、何を考えてるんだ僕は!)
悶々と考え込むシャルルにチョークが飛んできた。
「Oh la la!?」
「おーいデュノア、いきなり歌い始めなくて良いぞー。取り敢えず授業は聞けー」
「す、済みません……」
額にチョークの粉を付けながらシャルルは謝罪した。くすくすと笑いが聞こえるのも追い討ちをかけてくる。恥ずかしくて仕方がないが、自分のしたことに対しての報いが来ただけだ。
(う、歌ったんじゃないよ……フランス人に聞いてきてよ……あうあう)
それでも内心で反論しつつシャルルはその授業を終えた。そのあとにすべきは、短い休み時間を使っての交流だ。勿論簪との。シャルルにとって簪は同類なのだから。
人を掻き分け、シャルルは簪の目の前に立つ。
「あの、更識さん」
「……何か用ですか、Monsieur」
真顔でムッシューと発音する簪に周囲は思わず吹き出したが、シャルルはそれに疑問を覚えるだけだった。出来る限り名前を呼ばないようにしていることを、簪以外誰も知らない。その理由さえも。
シャルルは簪に問う。
「お友達になってくれないかな?」
その問いが終わらないうちに簪は声を上げた。
「お断りします」
「ええっ!? な、何で?」
動揺するシャルルはそう問い返したが、簪からは冷たい答えしか返ってこなかった。問答無用で教科書を開いた簪はシャルルに目を向けることなくこう返答したのだ。
「言っておきますが、わたしは友人を作る気はありません。既に一人友人はいますが……あなたを信用できない以上は、友人どころか知り合いにもなりたくありませんね」
(なっ……!)
予想以上に冷たい声。シャルルとは同類だと思っていただけに、裏切られたような気持ちになる。それでも確かなのだ。更識簪が戦争に行くために代表候補生にさせられたのは。それはシャルルも、『シャルロット・デュノア』も同じ。だからこそ分かり合えると信じていたのだ。
ショックを受けた様子のシャルルを見て、他の生徒たちから簪へ厳しい視線が送られる。しかし簪はそれを察することなく教科書から目を離すこともなかった。
ダブルでショックを受けたシャルルは放課後まで放心していたが、やがて担任から呼ばれていることに気づいた。
「デュノアー。聞いてるか、おーい」
「はっ、す、済みません!」
「これ、寮の鍵な。相部屋の相手は分かってるだろうから、くれぐれも問題は起こしてくれるなよー?」
「はい」
妙に眼光が鋭かったが、気のせいだとシャルルは断じた。そうしないと気疲れし続けるだけだからだ。鍵を受けとり、1025号室へと向かうとそこには無論一夏が待っていた。
「よう、シャルル。昼ぶりだな?」
「そうだね、一夏。よろしく」
淡々と言ってみたが、一夏はそれを緊張と取ったようで緑茶を出してみたり煎餅を用意してみたり、とにかく会話を途切れさせることはなかった。
(うう、鬱陶しいよぅ……でも、僕は……この人からデータを盗まなくちゃいけないんだ……)
シャルルが唇を僅かに噛んだところで、一夏が会話を変えてきた。
「ところでシャルル、シャルルも代表候補生なんだよな?」
「うん、そうだよ。思ったよりIS学園に来てる代表候補生って多くてビックリしてるけど……『も』って?」
「ああ、今ISの操縦を教えてくれてるセシリアと鈴が代表候補生でさ。これで俺が知ってる代表候補生って三人目だ」
その言葉にシャルルは天井を仰いでしまった。
(いやいや、まだまだいるでしょ!? というかたしかクラス代表戦って代表候補生ばっかりだったと思うんだけど!?)
そんなシャルルに一夏が声をかける。
「シャルル?」
「あ、あのね一夏、一年生の代表候補生ってもっといるよ……?」
「えっ」
(何だよ『えっ』って! こっちが『Oups!?』だよ!)
半ばやけくそになりながらもシャルルは毒づいた。これは教えてやった方が良いのかもしれない。主に近づかない方が良いだろうというニュアンスを込めれば、うまくいけばシャルルに依存させられるだろうとも思えた。
だからこそシャルルはパソコンを開き、各国の代表候補生一覧を開いて一夏に見せた。
「ほら。一組にも日本代表候補生とドイツ代表候補生がいるし、二組にもカナダ代表候補生がいるし、三組にもオランダ代表候補生とタイ代表候補生がいるし、四組にも日本代表候補生と台湾代表候補生がいるじゃないか」
「ああ! あのいけ好かないドイツ人とロランツィーネ? と鈴の従妹なら分かるぜ」
(何で自慢げなの!? 僕の話聞いてないよね!? というか全員把握しておいてしかるべきだよね!?)
シャルルの内心での突っ込みに気付くことなく一夏は日本代表候補生の欄を見て首をかしげていた。まさかクラスメイトすら分からないとでも言う気なのだろうか。
シャルルは戦慄しつつ一夏に問う。
「どうしたの?」
「いや、誰だっけなぁ、と」
(Oups……この人、自分の置かれた立場ぐらい弁えさせないと周囲が大変なんじゃ……)
とぼけた様子の一夏に、忠告するようにシャルルは告げた。
「……布仏さんはともかく、一夏は更識簪さんのことぐらい覚えておいた方が良いと思うんだけどなぁ」
「有名人なのか? セシリアみたいに」
首をかしげる一夏に、シャルルは解説を始める。
「ミス・オルコットみたいな種類の有名人じゃないけどね。専用機は『打鉄灰式』で、『打鉄』っていうけど見た目はほとんど別物。僕が見た限りでは遠近両用のスタイルだと思うよ。凄いのは、それをほとんど自分で組んだってところかな」
「組んだって……ISを一人で組めるのって束さんぐらいだって聞いたことあるぞ?」
(待って一夏、束さんって……Docteur 篠ノ之のことだよね!? 面識……あるか。あのブリュンヒルデの弟だもんね)
へぇ、凄いんだな、と一夏は呟いたが、その程度で済むのならば有名にはなっていない。それ以上に凄いのが徹底した情報封鎖なのである。シャルルですら専用機の名前と概要ぐらいで、武装を詳しく知っているわけではないのだ。
だからこそ、シャルルは簪の情報を手に入れれば自由になれることを保証されているのだ。誰もが欲しがる情報を盗み取れれば、それを高値で売り捌いたり脅したりと使い道は多いのだから。
それを説明することなく、シャルルは続ける。
「それに、日本代表候補生の中でも本当の意味での専用機を持っているのは更識さんだけなんだ」
「本当の意味、ってどういうことだ? 専用機は専用機じゃないのか?」
「いいかい、一夏。専用機持ちにはいくつか種類があるんだ」
ぴっ、と指を立ててシャルルは一夏に教えにかかった。
「まずは一夏みたいな特殊な人。代表候補生でもないのに持ってる人ね」
「お、おう……」
「で、次に新武装のテストに来てるただの代表候補生。ミス・オルコットに凰さん達、二組のコメット姉妹、三組のルククシェフカさんなんかがそうだね」
あえてシャルルが『ただの』とつけたのは、普通でない代表候補生もいるからだ。一夏にそれが理解できるかは別だが、シャルルの認識としては別物なのである。
「他にも新武装のテストに来てるけど半分軍に足を突っ込んでるボーデヴィッヒさんとか、自国の代表に人気を集めるために来てるローランディフィルネィさんとかもいるよ」
「ふ、ふむふむ……」
「で、僕やギャラクシーさんなんかはもし事故死でもしたら本国にいる別の代表候補生にすぐ乗り継げるようになってる『代わりのいる代表候補生』なわけ」
「え、じゃあ更識さんは?」
一夏の疑問に、敢えて結論を最後まで取っておいたシャルルは答えた。
「更識さんは本当に特殊だよ。『打鉄』の流用機でありつつ新武装のテストもして、なおかつ彼女が死んでも誰も全容を知らないから乗り換えが出来ない……つまり代えが効かないんだ」
「は、はあ……でも、何で誰も全容を知らないんだ? 新武装のテストっていうぐらいなんだからいつかは実用化されるものなんだろ?」
「そのあたりの詳しいことは流石に僕には分からないけど……そこまで情報がないってことはそれだけのバックがあるってことなんだろうね」
へぇ、と一夏は感嘆の言葉で返した。そんな彼にシャルルは一瞬愛想が尽きかけたが、グッとこらえた。今ここで一夏のデータを盗み出すのは簡単だ。媚薬でも盛って口止めすれば良い。だが、すぐにデータを盗み出せばシャルル自身の処分も早まるだけだろう。
さあそろそろ寝よう、と思って話を切り上げたシャルルは、一夏の言葉に凍りつくことになった。
「あ、なあなあ、この『シャルロット・デュノア』ってお姉さん?」
「……え……」
(Oups……! 僕のバカ! 何で安易に代表候補生の一覧なんて見せちゃったんだよ!)
ぐるぐると焦りながらシャルルが捻り出した答えは、苦し紛れながらも正当性のありそうなものだった。
「い、妹だよ! 双子の妹!」
「お、おう、そうか……」
その場は何とか誤魔化し、シャルルと一夏は眠りについた。微睡みの中でシャルルは決めた。
(……まずは、信頼を得てから一夏のデータを盗む。次に何とかして更識簪のデータを盗むと同時に脱出、だね……出来るかなぁ。ううん、やらなくちゃ。僕が自由になるためにはそれしか出来ないんだから……!)
シャルルは知らない。いくら一夏の信頼を得るためにさりげなく簪を持ち上げて伝えたことが、どれほどの誤算となるのかを。全てを台無しにするのが自らの迂闊さと一夏の善意から来るものとなることなど。
別名:シャルルによる代表候補生解説回ともいう。
シャルルによる簪讃歌↓
「あのね一夏、『ラファール・リヴァイヴ』自体が遠距離に向いてるんだ。それとは逆に、更識さんみたいにたくさんカスタムした『打鉄』はまた別なんだけど、カスタムしてない『打鉄』は近接向きなわけ」
「そういえば一夏の『白式』って後付武装がつけられないんだったっけ? もしかしたら更識さんに言えば改造してくれるかもしれないけど……何しろ自分一人で武装まで組み上げちゃう人だからね」
「四組からはやっぱり更識さんが出るんだろうね、リーグマッチ。僕も頑張らないと……一勝も出来ないまま負けられないし」
「一夏ももっと訓練しないと凰さんに負けちゃうよ? 特に四組の凰さんは更識さんと訓練してるみたいだから……」
このように、シャルルが刷り込みのようにしつこく『更識さんは凄いぞ!』をやらかした結果、一夏は千冬には劣るがそこそこ凄い完璧女子として簪を認識した模様。