いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 大変。原作が息してないの……

 2019/5/4追記:感想によりご指摘のあったイギリス周辺の設定を追記しました。(セシリアがそもそもノブレス・オブリージュを体現してないとか言っちゃいけない)


学年別個人トーナメント。個人とは何だったのか。

 簪にその情報がもたらされたのは、まさに目の前でラウラ・ボーデヴィッヒの蹂躙が始まらんとしているときだった。それを伝えたのは乱音だ。むしろそれ以外に簪に話しかける人物などロランツィーネぐらいしかいない。

 簪はその知らせに思わず聞き返してしまった。

「え、個人トーナメントがタッグトーナメントになったんですか?」

「そうなのよ。織斑一夏と組むんじゃなかったら、専用機持ち同士は組めないんだって」

 アリーナへと飛び出してそう告げた後、目の前の状況に顔をしかめる乱音。彼女らの目の前では、ラウラが鈴音とセシリアを挑発し、蹂躙しようとしていたのだ。乱音にもその状況が不味いものであることくらいは分かっていた。

 乱音は思わずオープン・チャネルで鈴音に声をかけていた。

「ちょっと鈴おねえちゃん、落ち着きなよ」

 しかし、鈴音は乱音の言葉に激しく噛みついた。

『アンタは黙ってて! 一夏のことを侮辱されて平然としてるなんてアタシには出来ないわよ!』

『ええ、鈴さんのおっしゃる通りですわ! 関係ない貴女はお黙りなさいまし!』

 何故かセシリアからも返ってきた答えに乱音は遠い目になった。普通に考えて『戦争には行かない代表候補生』たる鈴音が『戦争にも行ける代表候補生』たるラウラ・ボーデヴィッヒに勝てないのは必然なのだ。それはもちろん『戦争には行けない代表候補生』セシリアも同じことだ。そして、『戦争には行かなくても良い代表候補生』乱音も。

 そもそも鈴音が『戦争には行かない代表候補生』であるのは、既に顔も売っている上に台湾との共同武装《衝撃砲》を扱える人材だからだ。中国にとっては失えない人物なのである。故に訓練はされているものの、戦争に行けるレベルには洗練させてはいない。むしろそこまで訓練しないことで他国に侮らせているといっても良い。

 それに、セシリアが『戦争には行けない代表候補生』であることはアイドル化されているからではなく、IS適正の高い女性貴族だからだ。国民に人気も高く、IS適正も高い名門オルコット家の当主をまさか戦争には行かせられないのである。行かせた瞬間イギリスは、セシリア信者という名の女性優位主義者とそうでない者達との内紛に逐われてそれどころではなくなるだろう。

 なお、イギリスの貴族には『ノブレス・オブリージュ』の思想が半ば不文律としてあるが、それはセシリアが戦争に行く理由にはならない。確かにセシリアは貴族であり、率先して戦争に行くべきなのだろう。だが、ここ十年で世相は様変わりしているのだ。

 ISができ、イギリスは世に女尊男卑の思想が蔓延りだした初期にその思想に染められた。そこで女性貴族に求められる役割が変わったのだ。積極的に戦争に参加することで数を減らすことで社会に対する義務を果たすよりは、IS適正の高い女性貴族が子を成してより強い盾を作り上げる方向へとシフトしたのだ。

 そのために、爵位継承の条件の最優先事項として正式に『IS適正の高い女性貴族』が付け加えられた。もちろんここにはこれまで爵位の継承において例外はあれど男の方が有利であったことに対する嫉妬も含まれている。

 その代わり、貴族には更なる義務が付け加えられることとなる。それは優秀なIS操縦者の育成であり、イギリス貴族はセシリアという例外を除いて全てがIS学園あるいはその類縁機関に出資していた。

 セシリアが例外なのは、彼女にも重い義務が課せられているからだ。本人は自覚していないが、国民は織斑一夏というIS適正のある男とセシリアとの間に子を成すことを義務として求めている。よってセシリアは貴族でありながらも一夏に近づくために高いIS適正という大義名分で専用機を与えられ、しかしながら優秀な子を成すために従軍を免れる稀有な存在であった。

 対するラウラに関しては、無論『戦争にも行ける代表候補生』だ。他国のIS乗りと戦い、殺すあるいは二度と再起できないように痛めつけるのが役目だ。そもそも生まれからして『兵器』なのだから、そもそも人権があるかどうかすら怪しい。そんな『兵器』と『一般人に毛の生えた程度の代表候補生』とでは訓練量からしてまず違うのである。勝てるわけがない。

 そしてこの場で『兵器扱いできる代表候補生』ラウラと相対出来るのは、その理屈でいけば『戦争に行かされる代表候補生』簪だけだ。簪ならばラウラの動きについていける上に叩き潰すことすら可能だろう。誰も足手まといがいなければ尚更だ。もっとも、ここに『戦争にしか行けなかったはずの代表候補生』シャルロットが現れればまた別の話になるだが。

 簪は『戦争に行かされる代表候補生』である前に『対暗部用暗部』用の切り札なのだ。日本に忠実であることを求められ、戦時ともなれば真っ先に徴兵される。顔を売るわけにもいかない。それでもギリギリ名前だけが売れている日本代表候補生としてIS学園にいるのは、売国奴と見なされかけている姉楯無の監視のためである。そうでなければ軟禁の上で戦闘訓練に明け暮れることになっていたはずだ。

 そしてシャルロットは、妾腹の娘であり表沙汰には出来ない娘であったことから『戦争にしか行けなかったはずの代表候補生』だったのだ。今では『シャルル・デュノアを守るために派遣されたシャルロット・デュノア』という地位を手に入れているから真っ当にIS学園に通えるようになっている。当然、顧みられない身であった彼女の訓練量は他の代表候補生とは一線を画していた。

 それらのことを勘案し、この場にいるのは簪だけだからこそ乱音は彼女を仰ぎ見て。冷たい目で彼女らを見下ろしている簪に戦慄した。まさか介入しないつもりなのだろうかと思えるほど、それは冷たかった。実際に簪にはそこに踏み入る気など一切なかったので冷たい目をしていても何らおかしなことはない。

 だが乱音はそれを信じられなかった。

「あ、阿簪(āzān)……?」

 思わず声を漏らした乱音に、簪はそっけなく返す。

「安心してください、阿乱(āluàn)。すぐに生徒会長が生えてくるんで」

 そう言い終わらないうちに、簪の背後に誰かが立った。そんなことをする人物など一人しか知らない簪は冷たい目で一瞥し、目をそらした。一秒でも早く立ち去って欲しかったのだ。相手をするのが面倒だから。そもそも生理的に受け付けないのである。それがたとえ本音の姉虚であったとしても、簪は姉と慕うことは出来ないだろう。姉とは自分を支配し人形にするものだと思い込んでいるのだから。

 そんな簪の背後に立った楯無が、茶目っ気たっぷりに返答した。

「やん、簪ちゃんったら……お姉ちゃんは植物じゃないわよ?」

「ほら、湧いて出てきたでしょう?」

 このウジ虫が、とでも言いたげなほどの絶対零度の声に、楯無はよよよと演劇調にくずおれてみせた。なお、忘れられているだろうがこの場所はアリーナ。当然楯無はISを纏った状態である。とんだ高等技術の無駄遣いだ。全くもって意味のない行動をして威厳を落とすぐらいならばやらない方がましである。

 『ミステリアス・レイディ』に細かい操作を脳内で命じながら楯無は落ち込む。

「扱いが何か下がった……」

「ぐだぐだ言ってないでとっとと行ってきてください。何のための生徒会長なんですか」

 手を追い払うように振ると、ふて腐れたように楯無はその場から移動した。やったことは本当に単純だ。瞬時加速でラウラと鈴音達との間に滑り込み、両方からの攻撃を無効化した。ただそれだけのこと。

 そして、ラウラに向けてドイツ語で告げる。

Dieser Kampf hat keine Bedeutung.(戦っても意味がないわよ)……だってその子達は根本的に貴女とは違うもの」

 突如現れたISに反応したラウラはすぐさま楯無に攻撃を加えようとしたが、踏みとどまった。楯無に見覚えがあったからだ。ものの数秒もかけずにラウラは楯無の正体を悟る。学生の身でありながら国家代表に上り詰めた女。売国奴の更識楯無である、と。専用機は元『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』であり、ナノマシンを活用した第三世代機『ミステリアス・レイディ』だったはず、と思い出して距離をとった。

 そして唸るように声を絞り出す。

「お前は……ロシア代表か」

「その通り。本気の戦いがしたいのならきちんと国に許可を取りなさい。そうでなく、憂さ晴らしがしたいのなら……私が相手になっちゃうわよ?」

 数瞬の視線の交錯。ラウラは彼我の戦闘力を比べ、そして戦闘体勢を解いた。今のラウラでは、いかにお飾りの代表とはいえ更識楯無には対抗できないからだ。何故なら楯無は『戦争にも行ける代表』なのだから。たとえラウラが『兵器』であったとしても、『代表』と『代表候補生』とでは雲泥の差だ。

 それが分かっていたから、ラウラは舌打ちをした。

「……フン。命拾いしたな? 牝犬共が」

「それはこっちの台詞よ!」

「貴女も貴族を侮辱してただで済むとは思わない方がよろしくてよ」

 セシリアと鈴音が再び火に油を注ぐ真似をしたが、楯無が目線で牽制したので大人しくなった。そもそも強がっていた鈴音とセシリアはこれ以上戦えば個人トーナメントに出られなくなるため、動けなかったとも言う。そのままラウラとセシリア、そして鈴音はその場の空気に居たたまれなくなったのか、すぐにアリーナから立ち去っていったのだった。

 そしてここからが簪にとっては問題だった。事実上織斑一夏と組む以外、専用機持ちとは組めないということは簪にとって死活問題である。何故なら、専用機持ちでない女子をほぼ知らないからだ。専用機持ちである以上、出ることになってしまうのは必然。ならば誰かを誘って無様ではない程度に勝たなければならない。

 そして、選ぶ対象に四組の生徒は入らない。何故ならほとんどが整備科志望で、残る操縦科志望の生徒は簪の指導から逃げ続けているからだ。話すことすら出来ない。ならば誰を選ぶべきなのか、と考えて愕然とする。

(いやはや、誰を選ぶべきなんですかねぇ……いや、そもそも操縦科志望の他クラスの生徒を誰も知らないっていう方が正しいんですけど……ねぇ? まさか一度話したからって篠ノ之箒を選ぶわけにもいきませんし……篠ノ之博士のこともありますしね……かといって他に誰か知り合いがいるわけでもないですし……むむぅ、どうすべきなんでしょうか。本当に悩ましいですね……)

 そうしているうちにも組み合わせはどんどんと決まっていくようだ。一夏はシャルロット・デュノアとなった少女と組んだ。セシリアは同室の如月キサラと組んだ。鈴音はティナ・ハミルトンと、そしてロランツィーネはエルシェ・メイエルと組んだ。乱音も無事に林玉玲と組めたらしいと聞いた。ヴィシュヌもタイ出身の通称エリカと組んだそうだ。専用機持ち同士が組まない、というルールを覆さざるを得なかった特殊なIS乗りのコメット姉妹はそのまま二人で組むことになったようである。

 そんな風に次々とペアが決まっていくなか、簪は思い悩みながら日々を過ごしていくのだった。悶々とするだけで決める気のない簪に声をかけるものはいない。タッグマッチが行われるその当日まで。なお、そのつけとして簪に支払われた代償はとてつもなく大きかったことをここに明記しておく。




 代表候補生達の評価まとめ

 日本
  本音→更識および布仏への人質として戦争に駆り出せる代表候補生
  簪→楯無への人質として戦争に行かされる代表候補生
  (山田真耶→非常時に限り戦争に駆り出される元代表候補生)

 中国
  鈴音→半ばアイドル化しているので戦争には行かない代表候補生

 台湾
  乱音→鈴音の顔が売れているので(特に中国との)戦争には行かなくても良い代表候補生

 イギリス
  セシリア→IS適正の高い女性貴族であるため戦争には行けない代表候補生
  サラ・ウェルキン→特権階級でもないため戦争に駆り出せる代表候補生

 ドイツ
  ラウラ→軍属であるため戦争にも行ける代表候補生

 フランス
  シャルロット→表沙汰に出来ない娘だったために戦争にしか行けなかったはずの代表候補生

 ロシア
  (楯無→外交上の問題で(主に日本以外との)戦争にも行ける代表)
  (ログナー・カリーニチェ→高い実力と残念な性格をもとに生殺与奪を国家に握られているので戦争にも行ける元代表)
  クーリェ→性格的に戦争には向かない予備代表候補生

 オランダ
  ロランツィーネ→主に女子向け(攻めがロランツィーネ)ハニトラ要員なので戦争には行かなくても良い代表候補生

 タイ
  ヴィシュヌ→母の実力と同等のものを期待されて戦争に行ける代表候補生

 ギリシャ
  フォルテ→主に女子向け(受けがフォルテ)ハニトラ要員なので戦争には行かなくても良い代表候補生
  ベルベット・ヘル→性格的に戦争に行ける予備代表候補生

 アメリカ
  ダリル→(傭兵扱いで)戦争に駆り出される代表候補生
  (イーリス→軍属であるため戦争に行ける代表)

 カナダ
  ファニールとオニール→アイドルなので戦争には行けない代表候補生

 イタリア
  (アリーシャ→独特の性格から戦争に行く代表)

 ブラジル
  グリフィン→戦争にしか行けない代表候補生(彼女に関してのみ独自設定が発揮されるため理由は開示しない。ヒントは姓)
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