いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 評価ありがとうございます! なんか赤くて五度見ぐらいしました。流石IS。

 ……まぢで?

 前話の前書きにも追記で書きましたが、更新頻度&更新日の変更をしております。毎月10,20,末日です。ま、ままま待ってる人がいるなら出さなきゃ()


襲来せし銀の福音。対処にあたるのは?

 簪がそれに気づいたのは偶然だった。といっても、無警戒だったわけではない。ほとんど役には立たなくなっている原作知識を掘り起こした結果、簪はアメリカから暴走IS『シルバリオ・ゴスペル』が襲来することを思い出していた。故にアメリカ方面を中心に監視をしていたのである。

(うわ、やっぱり来やがりましたよ……)

 簪は顔をひきつらせて真耶に連絡を入れた。今の時間の連絡担当官は真耶なのである。簪は教員用のIS『ラファール・リヴァイヴ』に対してプライベート・チャネルを送りつけた。

『山田先生、緊急事態の可能性があります。アメリカ方面から1機のISがこちらへ亜音速で向かっています。こちらからISに向けてプライベート・チャネルで連絡してみますので、アメリカへの連絡をお願いいたします』

『ふえっ!? わ、分かりました! すぐに連絡を――っ!?』

 真耶からの返答が途切れ、簪はこの間にと『シルバリオ・ゴスペル』に対してプライベート・チャネルで接触した。

『こちらIS学園一年四組所属、日本代表候補生更識簪です。その速度で飛行した場合、数時間後には迎撃しなければならなくなります。聞こえているのなら返答願います』

 儚い希望を抱いて問いかけると、反応はあった。

『La……♪』

 あったが、それだけのことだ。

(やっぱり、言葉は通じませんか……)

 眉をひそめ、もう一度簪はプライベート・チャネルで問いを投げ掛ける。

『その返答は聞こえていると判断します。こちらに進んできた場合、最悪あなたを撃墜せねばなりません。こちらには専用機持ちが10名以上います。また、教員部隊も出動するでしょう。今ならばわたしの気のせいで済ませられます。どうか引き返しては頂けないでしょうか?』

 簪の言葉に、相手はただ『La』という音しか返さなかった。返せなかったというのが正しい。操縦者をいかなるものからも守る自閉モードに入ってしまっている『シルバリオ・ゴスペル』は、操縦者の感覚すらも遮断してしまっている。

 簪は歯軋りしてもう一度語りかけた。

『お願いいたします、明確な返答をください。このままだと戦争が起きてしまいかねないのです。他ならぬあなたの手によって、戦争が起きてしまいかねないのです。どうか、お願いいたします。返答願います……!』

(返事してくれないと本気で戦争が起きるんで本当に返事してくださいよナターシャ・ファイルス!)

 簪が必死なのは、火蓋を切るのが自分であって欲しくないからだ。第三次世界大戦の開幕を告げたのは日本代表候補生更識簪だ、などと言われたくない。そんな責任のある立場になどなりたくないのだ。面倒だから。

(ああもうっ! 何でこんな面倒なことになるんですか! 知ってましたけど、知ってましたけど!)

 無論、そんな邪な思いは誰にも通じない。『シルバリオ・ゴスペル』からは何の返答もなく、真耶からは無慈悲な情報が降り注ぐだけだ。まもなくして簪は、監視を本音と交代してから旅館の最奥にある風花の間に向かった。そこに他の専用機持ち(なお本音は除く)が集められているらしい。

 そしてたどり着いて得た情報は、簪の知るものとほぼ相違なかった。アメリカとイスラエルとの共同開発によって産み出された『シルバリオ・ゴスペル』が暴走し、こちらに向かっているということだ。ただ簪が知っているのとは違うのは、自分がいることとアーキタイプ・ブレイカーのメンバーがいることだ。当然取れる手は増える。

 運搬役となれるのはセシリア、次点でヴィシュヌ、武装を多少削れば簪。一撃必殺役となれるのは一夏、次点で鈴音、乱音。補助役にラウラとシャルロットを当てれば包囲網は出来るだろう。コメット姉妹やロランツィーネは例外だ。万が一にも傷つけられない彼女らには、旅館を守ることに専念してもらうことになる。もっとも、クーリェなどここに来るまでもなく引きこもっていたが。

 しかし、何の強制力が働いたのか。

「ちょっと待ったぁ~!」

「……山田先生、室外への……いや、敷地外への強制退去を」

「つれないなぁちーちゃん、折角良い作戦がナウ・インプリンティングなのに!」

 そこに現れたのは束だった。原作と同じように箒に『紅椿』を渡したようで、目にも止まらぬ速度で調整を済ませていく。簪には辛うじて分からないレベルの速度と調整方法に歯噛みするしかない。出ている情報は何となく記憶できてはいるが、それだけだ。

 簪は渋面で思考する。

(あれさえ解析できればねぇ……大幅に戦力アップ出来るんですけど。まあ、最終的に姉がやらかしたときにぶち殺すための手段でしかないですけど)

 ささっと調整を終えた束は、満面の笑みを浮かべて作戦概要を告げた。

「これで箒ちゃんがいっくんを運べば問題無しだよちーちゃん!」

「いや、しかし……」

 渋る千冬。どう考えても仕組まれている事件に自分の弟を送り込むのは気が引けるのだろう。千冬は知っているのだから。束がかつて『白騎士事件』と呼ばれた事件を引き起こした理由を。その首謀者の片割れであるからにして。

 束はそんな千冬に更に被せてこう告げた。

「そんなに心配なら、そこのエセ日本人に援護させれば良いんじゃない?」

「更識を、か?」

 眉を潜めて千冬はそう返答した。思わず脳内で突っ込みを入れざるを得ない認識方法だが、この場に他にそう呼べる人物はいないのである。少なくとも今のところは。この場にいる日本人は束、一夏、箒、真耶、千冬、簪。そして明らかに髪色がおかしいのは簪だけなのだ。真耶の髪は本当に緑ではなく、いわば『緑の黒髪』と呼ばれる髪なのだ。断じて緑ではなく、黒髪好き垂涎の美しく艶のある黒である。

 閑話休題。そこで束は爆弾発言を叩き込んだ。

「そーそー。何だか束さんのコンセプトとは違う第四世代機を組み上げてるから」

 刹那の沈黙。後――

 

「えええええええええええっ!?」

 

 一同から上がる驚愕の声。その声を上げていないものはいなかった。つまり簪ですら驚愕の声を上げていたのである。

(は、ええ!? いきなり何言い出すんですこの天災兎!?)

 それに対して乱音が突っ込んだ。

「いや、何で阿簪(āzān)が驚いてるのよ!?」

「驚きますよ!? そもそもいかな篠ノ之博士とはいえ武装の中身まで閲覧できるなんて思ってもみませんし! ついでに自分で作った武装が第四世代に当たるとか考えたことないですもん!」

「むしろアタシはそこに驚いてるわよ!? アンタちょっと自分のしでかした武装のこと考えてみなさい」

 そう乱音に言われて簪は自分の武装について考えてみた。

(いや、独自のパッケージを必要としない万能機でしたっけ、第四世代機って。でもそもそも全距離対応機を作るのって普通じゃないですか? 武装の全展開とかそもそも出来て当然ですよね?)

「普通じゃないねぇ。やっぱそこはマルチタスクないと……」

「一点特化の方が勝ちやすいと見られているからな、今は。全くもって普通ではないぞ更識」

「普通に思考を読むのやめてくれません? きゃーへんたい」

 そして簪には出席簿が降り下ろされた。今はふざけている場合ではないからだ。そこからの話はトントン拍子に進み、全員の配置が決まった。それ以外に出来ることがなかったのだ。作戦を練る時間すら与えられない極限状況に簪は嫌な予感しかしない。

 まず、攻撃役に一夏。その運搬役に箒。そのバックアップに簪が追い付き、足止めしている間に第二便が突撃する。第二便の攻撃役はヴィシュヌで運搬役はセシリアだ。セシリアは運搬後誰か撤退要員が出たときのために待機する。あとの要員はラウラを筆頭に旅館の守護に当たることになった。

 そして、作戦が始まる。そわそわして落ち着きのない一夏達に簪は声をかけた。

「そんなに落ち着きませんか?」

「何のことだ?」

 箒は自身の落ち着かなさを自覚していなかったのですっとぼけたが、一夏は違う。何故か険しい顔をして簪を見据えているのだ。

 一夏は簪に告げた。

「……落ち着かないけど、今のうちに一つだけ言っておくぞ。俺はお前がシャルにしたことを赦さないからな。あんな騙し討ちみたいに……」

「……はぁ、それ、今でないといけませんか? 今考えるべきは作戦のことだけであって、シャルロット・デュノアのことは一切関係がありません。もしもその件でわたしを信頼できないというのなら作戦会議の際に申し出ておいてくださいよ。今から作戦の練り直しなんて間に合わないんですから」

(本当にこの鈍感男は……今はそこじゃないでしょうに……)

 簪はあからさまにため息をついてそう返すと、一夏は憮然とした顔で返した。

「そんなこと言われたって、さっきは口を挟めるような雰囲気じゃなかっただろ。俺だっていきなり言われてどうして良いか分からなかったってのに……」

「……そういえば織斑一夏さんはほんの二ヶ月前にISに乗ったばかりでしたね……まだ普通の高校生に何を求めているのだか。政府も『誘波』ぐらい出してくれれば良いんですけどねぇ……」

 そのままぶつぶつ呟き始めた簪に、一夏は声をかけた。

「とにかく、怪しい動きをしないでくれよ? これ以上不安要素が増えるのはごめんだからな」

「あなた方の援護以外に何かをする余裕があるのだと思っているなら相当おめでたいですよ。相手はISを纏っている軍人の可能性だってあるんです。手強いどころの話ではありません。ぶっちゃけ無茶で」

 です、と言い切る前に簪の口は塞がれた。その手は固いタコができており、およそ女子の手ではない。このタコの出来方は恐らく剣道。要するに千冬であると簪は判断した。

「更識? 戦意を下げてくれるな」

 案の定千冬が声を掛けてくる。しかし言いたいことはわかるが、無茶なものは無茶なのである。正直にいって簪単体で出た方が多少生存率が上がるかもしれないレベルの強さだ。一夏と箒は恐らく足手まといになる。それをわかっていて、束が怖くて何も言えなかった。故に自業自得だ。

 だからこそ、箒の言葉にも何も言えなかった。

「安心しろ、更識。私と一夏がいる限り負けることなど有り得ないからな!」

(それなんてフラグですかやだーっ!)

 内心の絶叫を知られることなく、簪は死地へと飛び立ったのだった。




 アーキタイプ・ブレイカーキャラがいるはずなのに作戦の中身がほとんど変わらない件。

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