いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 ※最終回ではないです。
 ※グロテスク注意。


テンプレートですね。本当にありがとうございました。

 一夏と箒が『シルバリオ・ゴスペル』に接触したのをハイパーセンサーで確認した簪は、数分遅れでそのISに接触した。その時には、最早全てが手遅れであることすら知らずに。

 何も知らない一夏が『シルバリオ・ゴスペル』に斬りかかる。

「うおおおおおっ!」

「ちょっ、それ、中に人間入ってますって!?」

 そのまま中身のナターシャが叩き斬られる、などということはない。しかし叫びたくもなるだろう。絶対防御を大幅に減衰させる『零落白夜』で正中線を袈裟懸けにされてしまえば、中身のナターシャがどうなるか分からない。絶対防御が限りなく効いていない状態で金属の塊を叩きつけられた場合を考えてみれば分かる。少なくとも骨は折れるだろう。そうなる前に何としてでも『シルバリオ・ゴスペル』を止めなくてはならないのだ。いくら暴走しているからとはいえ、中身を殺すわけにはいかないのである。

 その簪が毒づいた声は肉声だった故に一夏には届いていなかったが、モニターはされているので後でとやかく言われる可能性が高まってしまった。その自身の迂闊さを簪は呪う。

(チッ……何事もなく終わらせなくちゃいけなくなったじゃないですか面倒な!)

『援護します、織斑一夏さん!』

 簪の声は、しかし箒に否定された。

『いや、私がいれば充分だ! 更識は撃ち漏らしが出たときに頼む!』

『分かりました。くれぐれも気を付けて下さい』

 ここで箒を止めるのも無論悪手だ。何せ、束直々に箒が推薦されたからには、彼女が活躍しなければ何の意味もないのだから。これが束による自作自演でなかった場合でも、箒の実力がモニターされていることは箒自身のプラスになる。

 故に簪は何かあったときのために警戒だけはしておき、懸念事項である船を探した。いわゆる密漁船であり、二次創作界隈では見つけた人間は大体落とされることになる死亡フラグである。原作では一夏が見つけ、落とされる原因となったその船は。

(普通にいるじゃないですかやだーっ)

 何と攻撃を繰り返す一夏と箒の真下にいた。先に一夏に見つけられてしまえば、どう足掻いても任務は失敗である。主にエネルギー的な問題が発生してしまうからだ。簪としては密漁船など放置しても問題ないのだが、日本代表候補生としては不味い。任務も失敗するわけにいかなければ、一夏と箒に怪我をさせてもならないのだ。例え何があっても、そこにいる以上は簪が責任を問われないわけがないのだから。

 故に、簪は敢えてその死亡フラグを回収するしかないのだ。

『ミス・オルコットとヴィシュヌさん、お二方にバッドニュースです。下方に不審な船舶を発見しました。そちらへの対処はわたしが請け負いますので、お二方は織斑一夏さんと篠ノ之さんの援護をお願いします』

 ようやくたどり着いていたセシリアとヴィシュヌに一夏達の援護を頼んだ簪は、次いで一夏達にも声をかけた。

『織斑一夏さんと篠ノ之さん、不審な船舶を発見しました。そちらへの対処はわたしが請け負いますので『シルバリオ・ゴスペル』への援護はオルコットさん、ギャラクシーさん両名にお任せします』

『な……っ、そんなもの、放っておけば良いだろう!』

 箒のその言葉は、あまりにも人命を度外視したものだった。確かに原作でも同じような発言をしているとはいえ、現実に聞くと箒の頭を疑うレベルである。

 故に簪は、ログを取っている真耶に声を掛ける。

『……済みませんが今の発言、ログから消しておいてください山田先生』

『更識さん……』

 微妙な顔でモニターを続けている真耶はそう声を漏らす。自身の専用機が今現在代表候補生達に使われている現状、真耶は教員部隊として動けるのは『ラファール・リヴァイヴ』の重銃器カスタム機クアッド・ファランクスのみだ。そしてその固定砲台にしかなれない鈍重さは今回の作戦には向かない。故に彼女がモニターしているのである。

 そして、今の箒の発言は聞き逃せないものだった。教師として、人として聞き逃すべきではない言葉。後で叱責どころでは済まないほどのものだ。それを簪は無かったことにしろと言う。真耶はしばし迷った。本当にこの音声を消しておくべきかと。他の誰よりも箒のために残しておくべきではないのかと。

 そこに千冬が緊張を孕んだ声を挟んだ。

『更識、今すぐその不審船舶を確保しろ。その海域は既に教員部隊が封鎖している!』

『承知しました!』

 その指示に簪は瞬時加速で不審船舶へと迫った。すると、それを待ち構えていたように何かの影が簪へ向けて打ち出された。否、それは何かと問われる前に簪はそれが何なのか把握できた。『打鉄灰式』が警告してくれたからだ。

 しかし、それを避けるには、時間が足りなかった。

(しまっ……)

『そのIS、頂くぜ!』

 その声はオープン・チャネルで届いた。それを認識したときには既に遅い。目の前まで接近してきていたISの手に何かが握られていて。それを認識した瞬間に身体から何かが剥ぎ取られる感覚を覚え、簪は身体をひねった。そして。

 

 簪の胸から、一本の爪が生えた。

 

 それを、簪は他人事のように見て。

(……これ、って……なん、でしたっけ? ……こんなの……胸元から、生えてて良いんでしたっけ?)

 その瞬間、簪は思考することすら放棄したくなるほどの猛烈な激痛に苛まれた。唐突にISが剥ぎ取られたことで浮遊することすら赦されず、そのまま海面へと落下していく。

 走馬灯のように、ぐるぐるとある光景が見えて。

(ごめんなさい……『更識、簪』……ごめん、なさい……グレイ……あなたとの、約束……まもれそう、に、ない……)

 ああ、このまま死ぬんだな。簪はそう直感した。たとえ再生能力を促進させるナノマシンが入っているのだとしても、この出血量と脱力感では恐らく助からない。まずナノマシン自体が死に絶えるか機能を停止してしまうだろう。そう思えた。

 どこかで誰かが絶叫した気がしたが、簪はついぞそれに答えることができなかった。

(……さい、ごに……もう、いちど、あの子に……会い、たかった、なぁ……)

 そして、意識は暗転する。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

(そんな、何で、何で――!)

阿簪(āzān)!」

 そう叫んだ乱音は、その位置から飛び出そうとして止められた。乱音の配置された場所は生徒達を守るための場所。彼女が離れてしまえば、生徒が危険に晒される。分かっていたからこそ、乱音の近くにいた鈴音が止めるしかなかったのだ。

 乱音は自身を止める人物に向けて怒鳴った。

距離(離して)! じゃないと阿簪が……!」

冷静下来(落ち着きなさい)! ……落ち着きなさいよ、お願いだから。……今から行っても無駄になるだけだし、アンタが行けば生徒に被害が出るかもしれないのよ」

 怒鳴られた鈴音はしかし、乱音には怒れなかった。あの場所にいられなかった自分の力量のなさに腹が立つぐらいだ。たとえそこにいたところで誰かが死ななくなるとは限らないが。

 故に、次の乱音の発言には黙っていられない。

「鈴おねえちゃんには分かんないよ、アタシの気持ちなんて!」

「……は? あのね、乱。あそこには一夏がいるのよ。本当はあたしだってあの場に行きたい。でも、あたし達は足手まといだから皆を守ってるの。この場を放棄するわけにはいかないのは分かるわよね?」

 淡々と言う鈴音は一見冷静だが、良く見れば彼女の手は小刻みに震えていた。それを見てしまったから、乱音は止まらざるを得なかったのだ。

 鈴音は静かに続ける。

「あたしだって行きたいわよ。一夏が死ぬのなんて認められない。でも、あたし達には皆の命がかかってる。分かるわね?」

「……分かる……分かるんだよ……分かるんだけど……でも、アタシは……! もっと、もっと、友達を守れるぐらい強くなれたらよかったのに!」

(そうしたら作戦にも参加できて、いち早く阿簪も助けられたのに!)

 そして。

『それが、アナタの願い。過去、現在、未来において一番のアナタの強い願いを――』

 

『このアタシが、叶えてあげるわよ!』

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 小刻みに震える彼女の目の前で、哄笑する女。その手には、剥離剤(リムーバー)という名の対IS用兵器が握られていた。それで簪からISを剥ぎ取り、殺したのだ。かつて彼女を牢獄から救いだし、実父と戦ってまで安全を手にいれてくれようとした簪を。

 知らず、口から怨嗟の声が漏れる。

「……さない……」

「あら、何か言ったかしら、M?」

 自分との約束を破って哄笑するオータムに簪を殺すよう指示しておきながらも飄々とそういう女に、Mと呼ばれた少女は激高した。

 

「殺さず捕らえる約束はどうした、スコォォォォルッ!」

 

 その言葉に、スコールと呼ばれた美女は妖艶に笑った。それだけでMはスコールに騙されたのだと気づく。最初から簪を殺すつもりだったのだと。捕らえることすら困難だと知っていたのだと。

 笑みを深くしてスコールが答える。

「だって、ねぇ? M……考えてもご覧なさい?」

 その後で言われた言葉は、Mにとって悪夢も同然だった。

(……そうだ……私のせいだ……私が生まれてきたから……私が、彼女を……)

 その後は思考することすら放棄したくなるほどの絶望を感じた。要するに、Mのせいで簪は死んだ。そういうことだ。全てMが悪いのだ。簪に酷な運命を強いる原因となったのはM自身だと思っているのだから。

 その傷を抉るようにスコールが告げる。

「まさかとは思うけど、彼女が自分のせいで死んだなんて思っていないでしょうね?」

「……それが、何だと言うんだ」

 Mの力のない声を聞いて、スコールは海面を指さした。のろのろとそちらを見てみると、泡立った海面が血で染まっている。簪の血で海面が赤く染まっているのだ。それも、致死量を越えた大量の血で。何かの肉片が浮かんでいるのがいかにも生々しい。

 その凄惨な海面を見つめたMは眉をひそめた。

(……何だ? スコールは何を言いたい? あの海面の何かがおかしい……?)

 言い様のない違和感を覚え、目を凝らすM。そして、ついにMは見つけた。

「……あれは……」

 

「鮫の、死骸?」




 『あの子』=M。分かってた人はたくさんいたはず。
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