いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 よくある展開さんですね。


刮目しないでください。テンプレートです。

 どこまでも深い青。その少女の目の前に広がるのはただそれだけだった。見つめていれば吸い込まれそうで、実際には何も起こらない。

(……いや、わたし死にませんでしたっけ?)

 その状況を確認してしまった簪は、思わず突っ込んだ。確かに簪は胸を貫かれ、海に落ちて。その後の記憶がない。そのまま意識を失ったのだろうとは思うのだが、それならそれで今の状況に陥った理由がどこかにあるはずだ。

 そう思った途端、目の前に銀灰色の髪が翻った。

「……グレイ?」

 無意識にそう呼ぶと、唐突に頬に衝撃を受ける。どうやらぶたれたようだ。そもそも今の状況で痛覚があると言うことは恐らく生きてはいるのだろう。

(痛覚があるということは何とやら、ですねぇ)

 そうぼんやりと考えていると、目の前の少女が叫んだ。

「ほんっと何考えてるのこのおバカーッ!」

「えぇ……何で怒られちゃってるんですかわたし……」

 困惑する簪に、目の前の少女が往復ビンタを浴びせた。どうやら相当ご立腹らしい。このまま抵抗しない方が攻撃が終わるのは早いと前世の母から学んでいた簪はされるがままになる。

(いたたたたたたあたたたたたた!? 容赦ありませんねこいつ!?)

 ひとしきり往復ビンタを終えた少女は、怒りのままに簪に言葉を叩きつけた。

「わたしとの約束はどうしたのッ! 何でそんなに簡単に諦めちゃうのッ!? もっと、もっと足掻きなさいよ! わたしの願いを叶えてくれるんでしょう!?」

「叶いますよ。わたしなんかがいなくとも、あの子がいればね」

「ちっがーう! あんた、一番肝心なところを忘れてんのよ!」

 怒りのままに、少女――グレイは叫んだ。

 

「あんたが! わたしの! 友達を助けてくれるって、言ったのよ! 他でもないあんたが!」

 

 それは事実だった。簪がかつて『打鉄弐式』だったそのコアを『倉持技研』から脅し取った時、夢で邂逅したのがグレイだ。簪はそれをただの夢だと思っていたが、どうやら違ったらしい。もっとも、ただの夢でした約束を守ろうとしていた簪も簪なのだが。

 グレイの言葉に簪は口を尖らせて返答する。

「だってグレイ、あなたの友達さんを助けるために必要なのはわたしなんかじゃないって言ってるじゃないですか。必要な人を見つけるのは確かにできますけど、わたしが必ずしも要されるわけではないわけで」

「それは! それは、そうだけど……でも、ヒロノ」

「グレイ、それは誰の名前でもないですよ。そんなものがわたしの名前だったとは信じません」

 それは他でもない拒絶の言葉で。確かにその名前――宙祈(ヒロノ)というのは簪の前世の名前だ。ただ、全国の同名同漢字の皆々様には申し訳ないが、簪がそう名付けられた理由を知って、どうしてその名を疎んじないと思うのか。宙祈の宙とは、宇宙のこと。どこまでも広がる荒廃した世界。そして、それに祈るのだ。全くもって意味がわからない上に、そうあれかしと願われた。要するに無意味。荒廃した世界の中で祈るように、無意味なまま生を無駄にし、死んでいけということだ。そんなものが自分の名であってたまるものか。

 そもそもまともに呼ばれない名に、一体何の意味があろうか。そもそも『宙』は『ヒロ』とは読まない。辛うじて『ヒロシ』とは読むが、だからといって『シ』を読まないというのもおかしな話だ。そもそも親自体も滅多に『ヒロノ』とは呼ばなかった。この名である意味が全くない。故に簪は元の自分の名が嫌いだった。波風を立てないために改名は望まなかったが。

 しばらくの沈黙の後、グレイが告げる。

「とにかく、約束は守ってもらうわよ。だから死ぬのなんて赦さないから!」

「いや、確かに『更識簪』は生かして貰わないと困るんですが……別にわたしは必要ないんじゃないですか?」

 あくまでも自らの望みを告げる簪に、グレイは目をぱちくりと瞬かせた。どうやら思ってもみなかったことを言われたらしい。

(いや、普通ですよね? 乗っ取ったと考えるなら本人がいても)

 簪のその思考は、グレイによって打ち消された。

 

「何で? 『更識簪』は最初からあんたしかいないでしょ?」

 

「え?」

(それは、一体、どういう――)

「母が言ったでしょう? 『あんたの願いは叶わない』って。だって当然じゃない? 最初からないものを取り戻したらあんた、死んじゃうし」

 簪の思考は真っ白になった。ならば、これまでに簪がしてきたことは何だと言うのか。『更識簪』のために整えた全てが崩れ去っていく。

(じゃあ、わたしは……なんの、ために……?)

 その答えのないはずの問いにすら、グレイは答える。

「そんなの簡単だよ。『更識簪』のことを気に入らない誰かが、そう強く願ったから。とある世界線で『更識簪』が『織斑一夏』と結ばれたから、殺したいほどに憎まれていくつかの世界線で『更識簪』が『死んだ』の。その帳尻を合わせるためにあんたが呼ばれた。すでに物語としてのこの世界を観測した世界線から、何があっても絶対に『織斑一夏』を愛さない人物として、ね」

「だれ、に」

「『更識簪』という存在を望む人全てに、よ。だからあんたは生きなくちゃいけないの」

 そう聞いた瞬間。簪は自分の中で何かが終わるのを感じた。ずっと望んでいたことが消え去り、代わりに絶望だけが自身を支配する。要するに、これまでもまた無意味だったということだ。自分の望みは決して叶わず、掴み取ることすら出来ない。

 震える身体を掻き抱いて、簪は声を漏らした。

「そんなの……そんなのって……」

 虚ろに言葉を漏らす簪に、グレイは狂気を孕んだ声で告げる。

「叶わない願いを抱くのは止めて、簪。あたしが壊れちゃうわ。だって、あたしはあんたの望みを叶えるためにここにいるの。あんたに望みがないのなら、あたしの望みを叶えて。それで、あたしは満たされる。そうすれば、どうなってくれたって構わないわ」

(……どう、なってくれたって? ああ、そうですか……要するに、わたしは――)

 簪は結論を出す。似ているようで似ていないグレイのために。それこそが誰の願いを叶えることになるのかも理解していて、だ。

「……分かりました、グレイ。では貴女の願いを叶えるために、わたしをさっきまでいた場所へと戻してください。崩壊している物語を、元に戻さなくてはなりませんから」

「そうだね。じゃあ、お願い」

 軽くそう返したグレイに、簪は心外だとでも言わんばかりに返答した。

「何を言ってるんです? あなたも戻るんですよグレイ。だってわたしはあなたがいないと戦えないんですから」

「……そうだったね。じゃあ、呼んで。新しい、あんただけの呼び名であたしを呼んで。あんたの求める力を、あたしが与えてあげる」

 グレイがそう言い終わると同時に、簪はその名を呼んだ。

 

「勿論です。あなたは――」

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「あなたの名は、『グレイ・アーキタイプ』!」

 発光、後に形態が変わっていく。辛うじて残っていた『打鉄』の片鱗が消え、装甲というよりは最早鎧のように変化する。『打鉄灰式』の時には見えていた顔も隠れ、フルスキンとなった。色はくすんだ灰色のままで、武装も同じ色に染まった。

 そして。

「って溺れる溺れる溺れる溺れる死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?」

 先程までの大量出血によって周囲に群がっていた鮫にパニックを起こした簪は、双剣『森羅』の機能を解放した。それは――禁断の機能。人殺しのための、呪われたと表現しても差し支えないそれを、簪は解放したのだ。周囲にいるのが人間ではなかったから。

 そして、周囲に鮫のサイコロステーキ(レア)が出来上がったのだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 鮫の死骸を見つけたMは困惑していた。突然オータムの持っていたISが消えたのだ。そして真下が発光した。これで困惑するなと言われても困るだろう。とにかく今の状況を見極めなければならない。そう思って――

「な……に?」

(何だ? 私は……誰に抱き締められている?)

 唐突に目の前を、灰色の騎士甲冑に塞がれた。それが何なのか理解していたのは、優れた動体視力で捉えられたからだが。それでも理解できないのは、その騎士に抱き締められていることだ。

 その答えは、本人からしか得られない。

「ありがとうございます――生きていてくれて。わたしはあなたを守れませんでした。赦して欲しいだなんて言いません。ただ、お願いがあるのです」

「……お前……どうして」

 もう二度と聞けなくなったと思った声が、目の前の騎士から聞こえる。それは彼女が生きていることを指し示していて。Mにはそれを呆然と聞いていることしか出来ない。

 その、願いすらも。

「どうか、あなたも。わたしに願ってくれたように、わたしの分まで幸せになってください。あなたの思うように……」

 そしてその騎士はMから離れ、スコールと相対した。スコールは既にその専用機『ゴールデン・ドーン』に身を包み、騎士を見て顔をひきつらせている。

 騎士は先程までとは打って変わって敵意を全身から発していた。

「それで、そこのおば様? 引いてくれる気はありますか?」

「ないわね。貴女が私たちのもとに来ない限りは、引くつもりなどないわよ」

 スコールにはその騎士が誰だか分かっているようでそう返答する。先程までとは違い、どうやら余裕ができたらしい。

 しかし騎士はそれに従うことなどなかった。

「何故わたしがあなた方に従わねばならないのです?」

「……後悔なさい。私とオータムの手で、ねッ!」

 そう言ってスコールは指向性炎熱放射器《ソリッドフレア》から炎の球を生み出し、撃ち出した。しかし騎士はそれを一刀のもとに切り払う。オータムも『アラクネ』の糸で絡めとらんとするが、機動力が違いすぎて捉えられない。

 更に騎士は、背後から迫っていた『シルバリオ・ゴスペル』を避けた。

「あなた方が、彼女を操っているのですか?」

「さて、どうかしら?」

「その返答は肯定とみなします。今すぐに彼女を止めなさい。さもなくば、どうなるかは分かりますね?」

 騎士が剣で差した先には、鮫の死骸。スコールはその言わんとしていることを察して顔をひきつらせた。要はサイコロステーキにしてやると言われているのだ。

 ただ、そんなことすらもMにとっては些事だった。

「……何で……」

 彼女は。かつてMの前で『更識の出来損ない』と呼ばれ、Mに『万十夏(マドカ)』と名付けてくれた彼女は。命を奪うことを良しとしなかったはずの彼女が。自分の命が危機に晒されていても相手を重んじた彼女が。いとも簡単に鮫を殺したことに違和感を覚えていた。遠回しですらない殺害予告をしたことすらも。

 その答えが得られるのは、しばらく後のことだった。




※没案1
「あなたの名は――『アフーム=ザー』!」
『いや、無理だからね!? あたしクトゥルフ詳しくないからね!?』
「……チッ」
『し、舌打ちしやがったこいつぅ!』

 クトゥルフに詳しければこうなっていた可能性大。『生ける灰色の冷たい炎』とか何それ使いたい()
 ただしタグが仕事しなくなっちゃうしね、仕方ない。
 いや、クトゥルフ今からは調べないけどさ……

※没案2
「あなたの名は――『アーキタイプ・ブレイカー』!」
『いや待とう!? それ、色々ややこしいから!』
「なら他に良い案出しやがれです」
『や、やさぐれやがったこいつぅ!』

 ゲームの名前でさえなければねぇ……色の名前入ってないけど()
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