いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
騎士――簪がスコールとオータム、更には『シルバリオ・ゴスペル』と相対してしばらくして。強制的に二次移行させられた『シルバリオ・ゴスペル』の足止めにより簪はスコール達を取り逃がしてしまった。
その際、千冬から口うるさく貴様は何者だ! とプライベート・チャネルで言われ続けていたのは言うまでもない。当然だろう。いきなり現れた未知のISが、結果として不審船舶を取り逃がしてしまったのだから。
(……仕方ありませんね。かくなる上はとっとと終わらせて食べて寝るに限ります)
簪はうるさいお腹の虫と戦いつつ『シルバリオ・ゴスペル』を襲撃する。何故お腹の虫と戦いつつなのかというと、グレイが簪の傷を修復する際にエネルギー源として簪の摂取したカロリーをごっそり持っていってしまっていたのだ。結果として今の簪は腹ペコだった。
(あー、何でわたし格納領域にお菓子とか入れてないんでしょう、チョコレートとか)
もっとも、簪は全力で現実逃避をしているが、寝食以外のことで忙殺されるのは目に見えている。だからこそ、早く終わらせたいのだ。終わらせたいのだが、そうさせてはくれないのが軍用IS『シルバリオ・ゴスペル』であり、あの後落とされてしまったらしい一夏の敵討ちに来た専用機持ち達だった。
援護射撃をしながらセシリアがオープン・チャネルで誰何の声をあげる。
『どちら様ですの!? ここは現在封鎖されておりましてよ!?』
『今はそれどころではないと思うんでってこらー!? わたしも巻き込まないでくださいってぎゃー!?』
(せめて返事を待ってくださいよ!?)
誰何の声をあげるのは良いのだが、素直に返答しなかった簪の言葉の途中でセシリアと鈴音が銃撃と砲撃を繰り出した。せめて『シルバリオ・ゴスペル』を止めてから話をすれば良いのだと簪は思うのに、彼女らはそれを許す気はないらしい。
簪はひとしきり喚きながらそれらを避けきって、ようやく余裕ができた。
(で、グレイ! ここに誰がいるんです!?)
現実逃避を止め、プライベート・チャネルと同じ要領でグレイに話しかけてみれば、彼女から普通に返答される。
『篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノア、凰鈴音、凰乱音、セシリア・オルコットよ』
(ひでぇ組み合わせですね!?)
『うち、乱音だけが二次移行してるわ』
(はあ!? 意味が全くわからないんですけど!?)
あまりの情報に一瞬避けるのが遅れ、衝撃砲と『シルバリオ・ゴスペル』からの攻撃をもろに受けてしまう。しかし――
『無傷ですって!? アンタ、本当に何者なのよ!?』
鈴音の悲鳴の通りに、簪は無傷だった。衝撃はあったものの痛みもなければシールドエネルギーが減った様子もない。それを体感して、簪はある判断を下す。
(いや、これ、このまま突っ切ってナターシャ・ファイルスを助けた方が早いですよね?)
避けるのをやめ、簪は一気に『シルバリオ・ゴスペル』に詰め寄った。反射的に飛び退こうとした『シルバリオ・ゴスペル』だったが、簪はそれにすら追随して拳を叩き込む。
『La!?』
「ら、じゃないですよ全く……ほら、もう暴れなくたって大丈夫ですから。誰もあなたの敵になりたくてなっているんじゃないですよ?」
その肉声が聞こえたのか、否か。『シルバリオ・ゴスペル』は唐突にその動きを止めた。いきなりISが格納され、美女が零れ落ちる。それを近くにいた箒が受け止めるのを確認して、簪も動きを止めた。
その瞬間。
『動かない方が身のためだぞ?』
『動いたら蜂の巣になるしね』
『そうそう。ボコボコにするわよ……?』
箒を除いた全ての専用機持ちがオープン・チャネルでそう告げながら簪にそれぞれの武装を突きつけた。気持ちは分かるので責めるつもりはない。ないのだが。
(刺さってるんですけど、やだー……)
微妙に剣やらマチェットやらが刺さっているせいでじわじわとシールドエネルギーが減っていく。それを分かっていて、一同は簪に武装を突きつけているのだ。
その中から代表してラウラが誰何した。
「さて、まずは貴様がどこの回し者なのか教えてもらおう。国籍、所属、名前を言え」
「日本国籍、日本代表候補生、IS学園一年四組所属、更識簪です」
「嘘だな。更識簪は先程死んだ。生きているはずがない」
その頑なな返答に、簪はラウラを納得させられる気がしなくなった。いくら真実を言おうが恐らく納得させることなどできない。何故なら、簪は皆の目の前で心臓を一突きされて死んだように見えていたからだ。
故に、簪にとれる選択肢は一つしかなかった。
「なっ……!?」
「言って納得してもらえないなら、見せれば良いんですよ。これでわたしは自発的にISを纏わなければあなた達の攻撃を受ければ死ぬわけですが、まだ疑いますか?」
生身をさらし、ISからの攻撃には無防備になった簪に――
「皆から離れろぉぉおっ!」
一夏の咆哮と、『零落白夜』の輝きを纏った《雪片弐型》が襲いかかる。
「うっそぉぉぉお!? わたし生身! 生身です! 何でこの究極に疲れてるこのときにこんなアクロバティックなことやらなくちゃいけないんですか!? 死にます! 死ぬ! せめて殺す気じゃなくて拘束でお願いします!」
「うるさい! 皆に手を出すな!」
「えっ、ちょっ、まっ、誰か! この暴走IS止めてくださいよぉ!?」
字面だけ見れば実に『インフィニット・ストラトス』らしいギャグ時空だが、残念ながら簪に命の危機が迫っているのは事実である。いくら競技用のなまくらでも、金属の塊を叩き込まれれば重傷必至だ。しかも何故か荷電粒子砲が撃ち込まれるあたり、どうやら無事に『白式』も二次移行しているようだ。
(いや、もう……この人やだーっ)
簪は内心で叫びをあげながら他人のISの装甲の上を跳び回る。一夏の暴走に引きずられたセシリア達も簪を攻撃し始めたのでもうやけくそである。セシリア達のISの装甲の上を跳び跳ねるだけで精一杯だが、そうするしかないのだ。今ISを展開すれば、確実に狩られるのだから。
そして、その時は訪れなかった。何故なら、そこにいた見慣れないISを纏った乱音が動いたからだ。簪が乗り移ったのを確認し、両手でホールドして一気にその海域を脱する。意味のわからないほどの早さに簪は目を見開く間もなく旅館の前へと辿り着いていた。
簪は思わず乱音に声をかける。
「
「じっとしてて。お願いだから、これ以上心配させないでよ……」
懇願するようなその声に、簪は気まずそうな顔をした。心配されているとはつゆほども思っていなかったが、されていたらされていたで申し訳なく思ったのである。
(何か……居心地悪いです……)
「済みません、油断したというか、何というか……」
苦笑しながらそう返すと、乱音はわしわしと乱暴に頭を撫でてきた。怒っているようにも見えるが、何かを我慢しているようにも見えた。
しかし、それはすぐに決壊する。
「……生きてる……生きてるよぉ……良かった……」
「生きてますよ。何かISが頑張ってくれました。だからお腹空いただけで何とか生きてます」
そして、その微妙に湿っぽい空気は簪の腹の鳴る音でぶち壊された。それはもはや女子が出して良い音ではなかったが、止められるものでもない。
(いや、このタイミングで鳴るとか恥ずかしすぎますよ……!)
色々と限界を迎えていた簪は、唐突な空腹を知らせる音に泣き笑いを始めた乱音に声をかけた。
「……済みません阿乱、チョコレートとか持ってないですか……」
「あるわけないけど、ないけどっ……ぶふっ、今、本音に連絡したから持ってきてくれるわよ」
笑いながらそう答えた乱音は、しかしそれが叶わないことを知らなかった。乱音は忘れているのかも知れないが、現状の簪は不審者である。真耶がモニターしている目の前で心臓を串刺しにされたはずの人間だ。まず生きているはずのない人間である。
故に、起きることはといえば。
「凰乱音、ソレから離れろ!」
(あ、不味いですね)
さして役に立っていないように見える教員部隊達に、全力で取り囲まれることだった。そしてそれを聞いた簪の反応は早かった。なおしがみつこうとする乱音を引き剥がし、突き飛ばす。
それに愕然とした表情をした乱音が悲鳴のような叫びをあげた。
「
「いえ、巻き込めないな、と。済みません、何もしませんので武装解除だけは勘弁していただけませんか?」
その簪の言葉に教員部隊は更に険しい顔をした。何故武装解除だけは求められないのかと問われて、彼女が敵だからという答え以外を持たないためだ。残念ながら『打鉄灰式』が二次移行した際に個人識別コードが初期化されたため、『打鉄灰式』が『グレイ・アーキタイプ』となったことにも気付けないのだから。
教員部隊の中央から何故か生身の千冬が進み出て簪に問う。
「貴様は何者だ?」
「先程ラウラさん……ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒにも申し上げました。日本国籍、日本代表候補生、IS学園一年四組所属の更識簪です」
淡々と答える簪に、千冬は眼光を鋭くした。しかし簪は怯むことなく言葉を続ける。
「なお、武装解除ができないのはISコアが――」
そう言いながらISスーツの胸元を強引に手で引き下ろす。そこには灰色に輝く菱形の石があった。それを人はISコアと呼ぶのである。それは、完全に簪の皮膚にめり込んでいる。
それを教員部隊全員に見えるように見せつけ、言葉を続ける。
「この状態で、引き剥がしたらたぶん死んじゃうからですね」
教員達は息をのみ、それを見つめた。その輝きはまさにISコアのそれだ。痛いほどの沈黙。乱音もそれを呆然とした顔で見つめることしかできない。要するに生体同期型のISになったということなのだろうか。誰もがそう思い、この場での最高権者の判断をじっと待つ。
そして――更識簪は織斑千冬の手によって拘束され、臨海学校が終わってからも夏休みの初頭まで拘束され続けるのだった。
よくある使い古されたテンプレ的展開ですね、分かります。