いきなりですが、更識簪に転生しました。 作:こよみ
というわけで夏休み中の一夏とそのハーレム連中の動向。
セシリアと鈴音が謹慎処分になった。それを他の専用機持ち達が知ったタイミングはそれぞれ違った。一番に一夏が知った。その後、シャルロットとラウラは買い物から戻った後に知った。コメット姉妹は外出許可を取れなかった時。そして箒は神社での祭事が終わってからだった。なお始業式ギリギリにIS学園へと戻ってきたクーリェとヴィシュヌは最後まで知らなかった。
一夏が知ったのは、セシリアに謝罪しにいったときだ。ウォーターワールドのチケットを急に押し付けた形になってしまっていたので一応謝罪を、と思ったのだ。
セシリアの部屋の扉をノックすると、ドア越しに答えが返ってくる。
「セシリア・オルコット在室しておりますわ」
「セシリア、俺だ。ちょっと良いか?」
それで中に入れてもらえるものだと思った一夏は予想を覆される。セシリアは気丈に一夏に謝罪するのだが、途中から堪えきれずに涙声になってしまったのだ。
「申し訳ありません、一夏さん。わたくし、今謹慎中でして……」
「謹慎って……どうしたんだ、セシリア!?」
(ウォーターワールドでいったい何があったんだ!?)
突然声に涙の色が混ざったセシリアに一夏は慌てた。当然だろう。一夏はセシリアが謹慎になる理由を見つけられなかったのだから。
セシリアはすすり泣きながら一夏に弁明を始めた。
「……一夏さんが下さった券でプールに行きましたの。そこでちょうど……腕試しのようなイベントをやっていまして……それで、それがペアで参加するもので、鈴さんがやりたいように見受けられましたので……ご一緒したのですわ」
(そうですわ、わたくしはその気になればいくらでも手配できますもの。鈴さんが乗り気だったのがいけないのですわ)
セシリアは、自身も乗り気だったとは言わなかった。その気になればいくらでも手に入れられる景品だったが、自分の力で手に入れたものはまた違うのだ。勿論セシリアの場合はお金で手に入れた場合であったとしても自身の財力と言われれば否定はできない。
一夏は完全に聞きの体制に入っていて、セシリアの口は止まらない。
「そうしたら、鈴さんがゴールの直前で……よりによってこのわたくしの顔を踏みつけていったのですわ! よりによって! せめて肩ならば赦せるかもしれませんが、顔って何ですの!? わたくしにだって赦せることと赦せないことがありましてよ!」
「そ、そうか……それで、何で謹慎になったんだ?」
セシリアの勢いに引いた一夏はそう問うた。むしろ問うことしかできないと言うべきか。謹慎になっている以上、無理に扉を開ければ怒られるのはセシリアなのだから。
(むしろそれで何で謹慎になるんだ?)
一夏は疑問を抱きながらセシリアに問い返すと、一気に勢いが削げた。
「それは……思わずISを展開して施設に被害が出てしまったからですわ。人的被害こそ出ませんでしたが……施設に関してはむしろ更識簪に責任があってわたくしに責を問うのはお門違いだとも思うのですけど、ともかくそれが謹慎の理由ですの」
「は、はあ……ん? 何でそこで更識さんが出てくるんだ?」
一夏はセシリアにそう問うた。一夏がむしろISを展開した下りでは疑問を覚えなかったことにセシリアは安堵する。そこに食いつかれては返答のしようがないからだ。まさか一夏のために景品がほしかった等とは言えまい。
簪について一夏が食いついたことで、セシリアは返答を変えた。
「その場にいたからですわ。あの方は日本代表候補生でありながら日本の施設を守らなかったのです」
「なっ……」
その絶句は、勿論身勝手なセシリアの言動に対するものではない。自分の非を上手くカモフラージュしたセシリアの言葉に納得し、簪に対して憤りを覚えているが故だ。一夏にとって『守る』とは他の何にも代えられないことなのだ。ずっと千冬に守られてきた自分が、これから周囲を守る側に立つと誓ったのだから。
それがいつのことなのか、一夏は覚えていない。それでもいつも誰かを守るために在りたいと願っていることだけは確かだ。その一夏にとって『見過ごす』『見逃す』『見捨てる』はタブーなのである。例えそれが誰か別の人物の行動だとしても。
故にセシリアへの返答はこうなるのである。
「何で、更識はそんなことが出来るんだよ……!」
(そんなことが赦されて良いのか!?)
もはや敬称すら取れたその発言に、セシリアは同調した。
「一夏さんの憤りも分かりますわ。でも、あの方はあろうことかわたくしと鈴さんにすべての責任を被せてきたのです……!」
この場に事情を知る人物がいれば何を白々しい、と言っただろう。だが、一夏は元々言われたことを鵜呑みにする傾向があり、そこから自分の妄想で『斯く在った』と認識してしまうことが多いのだ。故にセシリアの白々しい言動をも鵜呑みにしてしまう。
だからこそ、一夏は自分にできることをするべく声をあげた。
「待っててくれ、セシリア。今から千冬姉にセシリアと鈴の謹慎を解いてもらうよう抗議してくるから!」
「No! お、お待ちくださいまし一夏さん! もう終わったことなのです! 全ての処分が決まれば謹慎は終わりますから、後生ですからそれだけは止めてくださいまし!」
セシリアは慌てて一夏を止め、宥めすかした。そうしなければ処分が更に重くなる可能性があったからだ。十五分ほど問答を続け、ようやく宥めたところでセシリアは部屋でこのまま休むことを伝えられた。もっとも、一夏は納得してはいないのだが。
一夏は複雑な顔でセシリアの部屋の前を後にすると、今度は鈴音の部屋へと向かった。セシリアの言葉通りなら、彼女もまた落ち込んでいかねない。その様子を見に行ったのだ。
鈴音の部屋の前についた一夏は扉をノックする。
「はいはいどなた? って……織斑一夏くん、か。ごめんねー、今はちょっと鈴、君には会わせられな」
「退いてティナ。あたしにはもうこれしか残ってないんだから……!」
扉を開いて出てきたのは金髪の女生徒だったが、鈴音によって一夏は部屋の中へと連れ込まれた。
「お、おい鈴……!」
「……ごめんね、一夏。あたし、もう、これしかできなくて……恨んでくれて良いわ。だから……」
大人しくしてて、と呟いた鈴音の声は濡れていて、だから一夏は反応できない。腕にチクリとした感覚が走り、一夏は意識を失ってしまった。彼にとってそれは良いことだったのかは、神のみぞ知る。
鈴音は一夏に注射した薬品を捨て、躊躇うティナと共に一夏に跨がった。
「鈴……」
「良いから。既に賽は投げられてるの。ここまでして何も得られなかったらアンタ、国から見捨てられるわよ」
「それは、そうかもしれないけど……! 良いの? 鈴」
ティナの問いに鈴音は答えられない。良いわけがない。例え自分のために両親が縁を切ってくれたのだとしても、国にとってそんなことは関係ない。鈴音を良いように使うための駒として両親が人質に取られている以上、鈴音に出来ることはこれしかないのだから。
歯を食い縛り、鈴音は言葉を漏らした。
「後戻りなんて出来ない。躊躇っちゃいけないのよ。これはあたしの望みでもあるんだから……!」
そして、鈴音はその本懐を遂げた。一夏から取れる遺伝子情報を、髪の毛からそれ以上のものまで搾り取ったのだ。そのためにティナを巻き込み、更にはそれ以上のものまで押し付けるつもりでいる。身勝手なのは分かっているが、いろんな意味でとばっちりを受けた形の鈴音が誰かを巻き込みたくなるのもわからなくはない。
全ての行程を終え、鈴音は大きくため息を吐くと一夏の体を清めた。全ての痕跡を消して何事もなかったかのように振る舞おうとする鈴音にティナは何も言えない。鈴音からのおこぼれを貰い、この先それを享受し続けることになるティナには鈴音に何かをいう資格などなかったのだ。
鈴音はそれが終わってから電話を掛けた。
「……
歯を食い縛り、鈴音はその電話を終えた。そしてティナに『甲龍』を手渡す。
「……じゃあ、頼んだわよティナ」
「……鈴……」
「そんな顔しないで、ティナ。あたしには、もう、会えないかもしれないけど……死なないから。絶対、生き延びるから。だから……泣かないで、ティナ」
泣いているのは鈴音の方なのだが、ティナはあえてそこには触れなかった。これから過酷な道を行くだろう彼女に泣くな、などとは言えなかったのである。
これからティナは鈴音の代わりに中国に赴き、そのまま中国代表候補生となる。そして『中国代表候補生凰鈴音』は死ぬ。それだけのことだ。鈴音が実際に誰を頼って生き延びるのかなどということはティナは預かり知らぬことで、知らない方がいいことなのだ。
そしてティナ・ハミルトンは『中国をテロリストに売ろうとした凰鈴音からISを守った英雄』として中国に帰化した外国人となり、一躍有名人となる。それとは対照的にひっそりとその死亡が伝えられた凰鈴音は、IS学園内で関係者のみを集めた葬儀しか行われなかった。無論その場には一夏もおり、ますます簪へのヘイトを貯めたわけだが。
もっとも、鈴音は本当に死んだわけではない。鈴音が最終的に頼れるのは乱音しかいなかったのがある意味救いだ。鈴音の状況は乱音から簪に伝わり、簪は忙しさにイラつきながらも全ての処理をこなしたのだ。鈴音を救うために。簪には鈴音を助けるだけの義理はなかったのだが、鈴音の出した条件が呑まざるを得ないものだったので救うしかなかったのだ。
その結果、伸ばしていた髪をショートにしてハーフアップにし、露出を極端に減らした黒髪の編入生『布仏
そうして、IS学園の波乱の夏休みは終わった。
というわけで夏休みは終了!
なんか一人犠牲になった気もするけど気のせいだね。え、凰鈴音さんはって? セシリアの分の罪まで倍増しで背負わされたんで残念ながらここで退場です。代わりに布仏スズネさんっていうキャラが出てくるけど『別人』だからね。
……別人じゃなければ凰鈴音の母親と劉楽音は処刑されるからね、仕方ないね。