いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 原作大崩壊☆木っ端微塵


あなたに幸福を。今度こそこの手で。

「更識『楯無』。彼女をわたしの懐に入れる許可を下さい」

 

 その簪の懇願を、楯無は聞き入れることはできなかった。何故ならその問いを聞くのが二回目だからだ。一回目はその場にいなかったが、後で父から聞いた。そう、先代更識楯無から。彼の現役人生を終わらせたのは簪だったのだと、その時併せて聞かされた。何故先代がその問いを断ったのかも。

 だからこそ楯無はそれを拒否することしかできない。

「断るわ。父様と同じようにね」

「……そうですか。わたしは馬鹿ですから、同じ選択しか出来ませんよ? それでも断りますか?」

(そうなれば当然、やることは一緒ですよ?)

 簪がそう楯無に告げるのも、意地を通すための文言も、すべて以前交わされた言葉と似通っている。簪は先代更識楯無を『楯無』として殺した。勿論実力差はあったが、ただの一点のみを狙って執拗に攻撃を続けた簪は先代の現役人生を終わらせることができた。もっとも、それだけで要求を通せたわけではないのだが。それと同じことをしたくない、と言外には告げている。

 だが、無論のことながらそれを楯無が受け入れられる訳がないのである。

「断るわよ。貴女一人の我儘ために更識を危険に晒すわけにはいかないの。まあ、どんな手段を使っても私はその子を貴女に近付ける気はないけどね」

 冷たく簪に告げる楯無だが、内心では簪を心配しているのだ。

(当たり前でしょう、簪ちゃん、その子はテロリストで、織斑千冬のクローンなのよ。どんな厄介事を引き寄せるかわからない子を他でもない簪ちゃんには近づけられないわ)

 ただ、それを簪が知ることはない。知ったとしても鼻で笑うだろう。たかがその(自身が危機に陥る)程度で人間を見捨てることなど、簪には出来なかった。簪よりも価値のある人間を、自身が死ぬ気で頑張れば助けられるのに助けないのは罪だ。少なくとも簪はそう思っている。もっとも、簪自身には価値がないと思っているのでその理論に基づけば大体の人間を助けることになるのだが。

 故に、簪は万十夏を救うための一手を打つ。

「わたし一人の我儘で万十夏を救えるのなら、それで充分です。他に何もいりません」

「更識の名前も? 馬鹿なことをいうのはよしなさい、簪ちゃん。私にだって聞き流せないことはあるのよ?」

(だから考え直しなさい、簪ちゃん……!)

 楯無が諭すようにそう告げた。楯無としては簪にここで思い止まって欲しいのだが、残念ながらその願いが叶うことはない。何故なら簪は別に『更識』の名前など必要としていないのだ。簪が自身を示すのに必要なものはその身一つだけなのだから。

 簪は吐き捨てるように返答した。

 

「いりませんね、そんな名前」

 

 その返答に、楯無は絶句した。

「なっ……簪ちゃん、貴女、自分が何を言っているのか」

「分かってますよ。でも、姉さん。あなたの望んだ生き方は、『更識簪』では出来ない生き方ですよ?」

(まあ、生き方なんてどうでも良いんですけどね)

 簪が言葉を遮ってまで告げたその言葉に、楯無は頬をぴくりと動かした。確かにそれは事実だ。簪が『更識』である以上、楯無の望むような平穏な道を歩むことはできない。暗部に関わらない道などないのだから。だが、だからといって犯罪者風情を庇うことを理由にしてまで捨てなければならない名前だとも、楯無は思わない。

 多少言葉を選んだものの、楯無は簪に告げる。

「たとえそうなのだとしても、それはテロリストを助ける理由になるの?」

(ならないでしょう、簪ちゃん?)

 ある種の希望を込めた楯無の言葉は、簪の言葉に打ち砕かれる。

「万十夏はテロリストではありませんよ。彼女が織斑一夏さんに銃を向けているのには正当な理由があります。そして――だからこそ、わたしは彼女の正当性に、小さくてもあなたが納得できるような理由付けをするために懐に入れたいのです」

 それを聞いて楯無が反応しようとする前に、反応する者がいた。

「そいつはオータムを助けたんだぞ! テロリストを助ける奴がテロリストでなくて何なんだよ!」

(簪は何でそんなに敵の肩を持つんだよ……そいつは敵だろうが!)

 一夏だ。オータムに襲撃され、『白式』を奪われそうになった彼には恐らくそう言う権利がある。まだ顔を隠したままの万十夏に対する本能的なものがそれを言わせているというのもあるだろう。一夏とて分かっているのだ。心の奥底では、『万十夏(彼女)』は『一夏(自分)』なのだと。それを認めるのが怖いのだ。

 だが、簪はそれに冷たい言葉を叩きつける。

「黙りなさい。あなたは選ばれたからそんなことが言えるんです」

「お、おい簪……」

「そうでしょう、万十夏。あの人が選んだのが万十夏なら、あなたはこうして『サイレント・ゼフィルス』に乗ってここに襲撃してくることなんてなかった。それどころかあの『白式』すらあなたのもので、あんなところに連れていかれることだってなかったはずです。亡国機業に入ることだってなかった。違いますか?」

 その言葉に、万十夏は答えを出すことが出来なかった。それは恐らく事実だからだ。千冬が連れ出したのが一夏でなく万十夏ならば。きっとそういう人生を送れていたに違いない。むしろ一夏よりも幸いな人生を送れたかもしれないのだ。女尊男卑の思想がはびこっているこの世界では。

 故に万十夏は一瞬声を震わせる。

「そっ……だがな、簪。私がそいつを襲撃したのは事実だ。今でもそののほほんとした顔を見ていると殺したくなる。……その気持ちをもて余したままお前の庇護下には入れない」

「……なら、それを解消できれば良いわけですね?」

「出来ると思うか? この状況で」

 出来ないだろう、と言外に言う万十夏に対して簪は薄く笑った。それはいつもの簪を知るものからすれば有り得ない笑みで。簪本人にしてみれば笑っている自覚すらないままに、彼女はその腐った目を楯無に向ける。

 そして、告げた。

「出来ますよ。本来は戦闘に使うものではないISで、そこの自分の立場に甘んじているだけの男に分からせてやれば良いんです。どちらが優れているかをね」

「それは、でも……」

「ああ、因みに殺しちゃダメですよ? 殺したら恨まれるだけであなたを見てくれる訳じゃありませんから。具現限界を迎えるぐらいにボロボロにしてやれば自ずと出てくるでしょう、あのブラコンブリュンヒルデは」

 酷い言いようだが、万十夏はそれを否定できなかった。同じ遺伝子を持つもの同士、感性も何もかもが似ていると言われ続けてきた万十夏には、その言葉が納得出来てしまう。万十夏の場合は簪がボロボロにされれば我を失うだろうという自信がある。それほどまでに万十夏は簪に依存していた。たった数ヵ月の関わりだったにも関わらず。

 かつて万十夏のいた研究所に、世界各地の有能な人物の関係者が誘拐されてきたことがあった。簪はその内の一人であり、万十夏と同じ部屋に囚われていたのだ。その時はまだ万十夏は『万十夏』ですらなく、ただの番号を名乗らされていた。そんな彼女に、名をつけたのが簪だ。『織斑千冬』と『織斑一夏』という名の遥かに優れたきょうだいがいると聞かされていた彼女に、簪は『万十夏』と名付けた。

 

 原作を知っていた簪は彼女が『織斑マドカ』だと分かっていたのだ。

 

 故に、彼女の名に願いを込めた。『千』冬を超える『万』であり、言わずもがな『一』夏を超える『十』であれと。故に『万十夏』。自らが劣っていることに強烈な劣等感を抱いていた純粋な万十夏に、簪は言葉で呪いをかけたのだといっても過言ではない。

 もっとも、万十夏はそれを呪いだとは思っていない。きょうだいに劣っていると言われ続けるのなら、超えていると証明してみせれば良いと気付かせてくれたからだ。それは万十夏にとって、言祝であり福音であった。それを喜びこそすれ、誰が恨もうか。

 それに、簪は万十夏の全てを肯定してくれた。呪われた生まれも。憎しみも。悲しみも。怒りも。ほの暗い喜びも。それらすべてが『万十夏』であっても何もおかしくないのだと。そのままの万十夏で良いのだと、肯定してくれたから。

 肯定されることすらなく周囲に劣等感を抱いたままなら、万十夏は話すら聞かずに無我夢中で『救われた自分(一夏)』を殺しにかかっていただろう。だが、現実に万十夏は簪に出会い、その劣等感を受け入れた。それが自分だと、強烈に刻み込んだ。故に彼女は強いのだ。誰に決められたわけでもなく、自身が何者であるのかを強く自覚しているから。

 その強い自分を与えてくれた簪を、万十夏は盲信しているともいえるレベルで慕っている。たった数ヵ月の関わりだったにも関わらず、だ。簪の自己犠牲的な精神はそこでも発揮され、危険な実験や研究員どもから万十夏を守っていた。自分を犠牲に捧げることで誰かが救われるのならば、簪はその身を捧げることを厭わない。そのあり方に万十夏は依存した。

 故に万十夏にとっての簪の位置付けはかなり高い。簪の言葉で復讐の方法を変えるぐらいには。

「それは……そう、だが」

 躊躇う万十夏に簪は甘い言葉を吐いた。

「それであなたが彼女を、もしくは彼女があなたを認められないのなら、わたしと一緒に逃げましょう。誰かに認められる世界に。あなたのことを認めない家族なんて、そんなの最初から家族じゃありませんよ」

 簪はいつだって万十夏の欲しい言葉しかくれない。甘やかしてしかくれないのだと、万十夏は離れてから気付いた。どこまでも万十夏に優しく、自身には厳しい。だから幸せになって欲しいと願ったのに、逆に願われてしまう始末。だからこそ万十夏は、今度こそ簪に依存しすぎてはいけないと決めている。簪がその優しさで身を滅ぼしてしまわないように。

 故に万十夏は簪に宣言した。

「悪いが簪、私は逃げない。逃げたって何も変わらないんじゃ意味がないんだ。私には……どうしても、欲しいものがある。それを手に入れるために、力を貸してくれ」

「……勿論ですよ。そのために成すべきことを成しましょう」

 

 そして彼女らは挑む。自らのシアワセを阻む壁へと――




 マドカが一番性格変わってるかもしれんですね。最早洗脳レベルで。
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