いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 まだ続くのにクライマックス感が半端ない件について()


押し通る。押し付けなどもういらない。

「いざ――!」

 貸しきりの第三アリーナにて。四人の男女がその力をぶつけ合わんとしていた。その場には他に誰もいない。あくまでもその場には、だが。アリーナの外にはIS学園の専用機持ち達が待機しているのだ。

 中でいざ戦いを始めようとしているうちの一人はIS学園の生徒会長更識楯無。ロシア代表にして専用機『ミステリアス・レイディ』を駆り、学園最強に君臨している。なお、『ミステリアス・レイディ』は水を操るナノマシンを搭載した第三世代機である。

 その楯無に味方するような形で参戦した、この場ではたった一人の男織斑一夏。世界最強『ブリュンヒルデ』の実弟にして専用機『白式』を駆り、学園内に無自覚ハーレムを築いている。なお、『白式』は篠ノ之束が手を加えた第四世代機である。

 対するはギリギリで日本代表候補生に引っ掛かっている更識簪。IS整備士一級資格は持っているものの、周囲からの評価は大きく異なる。超人か、屑かだ。専用機『グレイ・アーキタイプ』は未だ本人以外の誰にもスペックが明かされたことはない。篠ノ之束いわく、第四世代機である。

 そして、自らの運命を決するべく戦いを決意した『織斑計画』の生き残りたる織斑万十夏。織斑千冬のクローンでありながら全てを否定され、亡国機業に身を落とした少女。イギリスより強奪した『サイレント・ゼフィルス』を駆る。イメージ・インターフェースを用いた第三世代機である。

 そのある意味では有名な四者が、自らの主張を通すべく戦うのだ。衆人環視の中で行われそうなその戦いは、しかし一切の観客を排されていた。 見られるわけにはいかなかったのだ。主にアリーナを貸し切りにした人物にとって。彼女はアリーナに誰も入れないよう通達を行っていた。

 そして彼女はアリーナでの戦いから目をそらすのだ。自身の成したことのツケが回ってきているのだと分かっていても、目をそらしたいのだ。何故なら彼女は万十夏を見捨てたのだから。それを一夏に知られるのも嫌だった。知られたと知るのもまた怖いのである。彼女――千冬は、一夏だけを愛して生きると決めたのだから。

 もっとも、その通達を守るような人間が一夏の周辺にいるわけではない。それぞれがそれぞれの思惑をもってその場に集っていた。そのことを、ISに乗っていない千冬だけが知らない。

 数人の専用機持ち達が近づいていると分かっていつつも、楯無は再度ルールの確認を行った。

「相手は殺さない。具現限界まで追い詰めても構わないけど、死体蹴りになるような行為もしない。降参した相手を攻撃しないし、降参したら誰かに攻撃をしてはいけない。そしてこのアリーナからは逃げない。それで良いわね?」

「勿論だ」

 万十夏はそれにそう即答した。生命を奪うほどの狂気を以て認めて欲しいとは、もう思ってはいない。故に認めた。人権を侵害しなければ認めてもらえないような自分になど意味はないのだ。それはもはやある種の脅迫でしかないのだから。

 ただ、そこまで万十夏が考えているのに対し、楯無はこれを時間稼ぎ程度にしか考えていなかった。いくら千冬が近付かないよう通達を出していたとしても、これまでの傾向からして一年生の一組の専用機持ち達がそれを守るとは思っていないのである。

 それ故に悠長にルールの確認をしているのだ。

「それで、私達が勝てば万十夏、貴女は捕縛する。簪ちゃんは更識本家に連れ帰るわ。もし貴女達が勝つことがあれば――」

「その時は更識楯無、お前が私の後ろ楯となり、私は織斑千冬に挑戦させてもらう。勿論織斑一夏には邪魔をさせない。そして簪は更識から自由になる。更識の名を捨て、本当の意味で自由に、な」

 それに楯無は首肯したくはなかった。

(簪ちゃん……貴女が何を考えているのか分からないけれど、私と戦ってまで得たいものが自由だなんて、信じないわよ)

 だが、首肯しなくてはなにも始まらないのだ。ここで簪を完膚なきまでに負かし、二度と更識の名を捨てたいなどとは言わせないようにしなくてはならない。もっとも、それが誰のためであるのかは楯無は理解してはいなかったが。簪のためではなく、それが楯無自身のためであることを悟るのはしばらく先のことだ。

 勿論これに一夏は納得していない。納得こそしていないが、楯無に策があるからと感情の暴発を抑えさせられていた。それが吉と出るか凶と出るかは楯無次第だ。

 正確に言えば、一夏を納得させられる行動を楯無が続けられるか次第である。基本的に自己の抑制が出来ない性格である一夏には多少酷な話ではあるが。彼の中でも疑問が沸いてきているのだろう。即座に万十夏を捕縛しろとは言えなくなっていた。あまりに千冬に似すぎているその容貌故に。

 そして、四者全ての合意のもと、開始のブザーなど鳴らすことなく全員がそれぞれの方法でぶつかり合った。一夏は楯無を守るかのようにその前に回り込み、楯無は一夏をカバーするかのようにアクア・クリスタルを展開する。それに対して万十夏が一夏に襲い掛かり、アクア・クリスタルに対して簪が襲い掛かった。

 簪の意味不明な行動に対して楯無は驚愕に目を見開くが、それでも準備は万端だ。試合が始まる前から充填していたエネルギーを熱に転換し、爆破させるだけ。多少痛い目に遭わせなければ簪は戻ってこないと分かっているからこその行為である。いつものように指令を送り、いつものように爆発が起きるのを確認した。そのはずだった。

 だが。

「なっ……!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「あなたの取る手段なんて分かりきってるんですよ、更識楯無」

 冷静な、いっそ平坦とも言える声で簪はそう嘯いた。無論オープン・チャネルではないので楯無には聞こえていない。ただその表情だけで楯無には自身の攻撃手段を悟られていたことを理解させた。その対処は楯無にとっては驚くべきもので。たゆまぬ努力と研鑽の賜物で身に付けた動体視力ですら捉えきれない速度で簪と彼女の握る双剣が閃いたことだけが理解できた。それが爆発すらも切り裂いたことも。

 遅れて『ミステリアス・レイディ』から今の現象についての解析が視界の端に表示される。

(双剣《森羅・狂神式》、殲滅曲線描画機構発動中……? 何よ、その見るからに危険そうなシステムは!?)

 楯無の内心の絶叫すら置き去りにして簪はアクア・クリスタルの破壊を続けようとする。しかし楯無はアクア・クリスタルを展開し続けるリスクを恐れてそれを収納した。流石に半数以上破壊されては後々の行動に差し障りが出てしまうためだ。そこで楯無はガトリング・ガンを展開し簪に向けて放った。

 見るからに凶悪なそれを見ても簪は眉ひとつ動かさない。ただいきなり展開された一つの正八面体がその攻撃を呑み込んでいる。そのように楯無には見えた。実際には空間を歪め、一夏へと狙い澄まして反らしているのである。

 ただ、普段の簪ならばそんな超絶技巧は持ち合わせていない。ならば今の簪の行為は超絶技巧ではないのかと問われるかもしれないが、今の簪の行動は《森羅・狂神式》によって最適化されているためにその計算は全て『グレイ・アーキタイプ』が担っている。無茶はあるがあり得ない行為ではない。

 ただし楯無にはそれをすべて把握するだけの余裕がない。

(……っ、どうなってるのよそれは……!)

 その光景に息を呑んだ、ふりをした楯無は油断を見せて懐に簪を誘い入れようとした。しかし簪はそれに誘われはしない。簪のポンコツな脳味噌でも、流石に『学園最強の更識楯無』の情報は覚えているのだ。たとえばワンオフ・アビリティだとか。拘束結界を持つISの懐に誰が飛び込むだろうか。

 故に簪が行うことはといえば、簡単なことだ。『グレイ・アーキタイプ』の本領を発揮し、ワンオフを発動させるまでもなく終わらせる。これまで簪以外には公開されてこなかったその全てを以て、楯無を凌駕する。それはある意味では自分勝手で危険な行為。ただ、簪にとってそれは至極当たり前の行為でもある。たとえそれが自殺行為だと誰から言われたのだとしても。この局面において簪がそれを躊躇う理由がどこにもない。

 楯無が『ミステリアス・レイディ』からの警告でスピーカーからの音量を最小に絞ったその瞬間。

 

「―――――――――――ッ!!」

 

 吼えた。そう表現するしかない声を簪があげた。ぎょっとして動きが止まる一夏と万十夏。今動けるのは楯無のみだ。しかし、その音声に耐えられても楯無には簪の変貌に対応できない。そもそも全身装甲で様子が分からないというのはあるが、それでも異常だろう。『更識楯無』をして、殺意が見える、などというのは。

 瞬時加速。その動きを予測して楯無が避けようとする。しかしその先に向けて簪が瞬時加速している。楯無が意味が分からずにガトリング・ガンを振り回そうが簪の双剣が一振り、二振り撫でただけで弾丸は無用の長物と化す。そしてその切っ先がガトリング・ガンに触れた瞬間にガトリング・ガンすらも無用の長物と化してしまった。

 ただ、そこで終わる楯無ではない。

「――っく、沈む床(セックヴァベック)!」

 ガトリング・ガンを代償に、楯無は簪の動きを止めることには成功した。簪はもがいているが、出てこられそうな様子がない。それを見てようやく楯無は息をついた。

 そこでやっと楯無は一夏をハイパー・センサーで捉えた。

「さて、一夏君は……ッ!」

 そこに広がっていたのは、惨劇のような光景。ボロボロの装甲。死体蹴りにはなっていないものの、シールド・エネルギーが切れた『白式』と一夏がそこにいた。

 ふぅ、と小さくため息をついた万十夏は、楯無を睨み付けると口を裂いて笑う。

 

「次は貴様だ、更識楯無ィィィッ!」

 

 その笑みに、楯無は理性を半分捨てた。

 

「おねーさん、ううん、私……貴女を赦さないわよ。一夏君を傷つけ、簪ちゃんを誑かしたその罪、しっかり償ってもらうんだからァァァッ!」

 

 そして――両者はその意思を剣に乗せてせめぎあった。




 そういえば明かしてなかったスペック(の一部)

『グレイ・アーキタイプ』
双剣《森羅・狂神式》
:見た目は細身の剣。ただしついている機能は凶悪。以前の《森羅》と実はほとんど変わらないが、全力(全壊)を出せる時間が増えた。
 殲滅曲線描画機構→ここをなぞれば簡単に相手(敵集団)をぶっ壊せますよ、というある意味型月の『直死の魔眼』みたいな機能。集団戦においてあまりにも命の尊厳を蔑ろにする危険なシロモノ。因みにそれを可能にするには相当な無理が必要なのだがそれはそれ。《森羅・狂神式》にはたとえ身体がぶっ壊れようがそれを実行するプログラムが搭載されている。
 教師が知れば絶対に生徒から即座に没収するどころか制作者に文句を言うついでに監獄にぶちこみにいきたくなるレベル。なお簪は普通に使うというアレっぷりをみせつけてくれた。
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