いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 まさか二話目にして評価がつくとは思ってませんでした。まさかの高評価にこよみは白目を剥いています。ありがとうございます。

 嬉しいので月に二回投稿に変更です。

 あと何って、ISって凄いなって。別名で短編オリジナル書いたことありますけど、こっちは一話でそれの全UA超えましたもん。お気に入りも。
 皆様本当にありがとうございます。
 あと、原作に入りたい。


悪夢なんてどうでも良い。生きることこそが悪夢。

 暗い部屋。白い壁。真っ黒な髪の少女。白衣を着て笑う研究者たち。その手には注射器を。養豚場の豚を見るかのごとき、冷たい瞳。爛々と輝くその瞳だけが笑っていない。

『さあ、更識の落ちこぼれ。君にプレゼントをあげよう』

『ナノマシンが良い? 改造が良い? それとも?』

 近付く研究者たち。逃げられないのはわかっている。何故ならその手には。その足には。その首には鎖がつけられているから。

 だから叫ぶことしか出来ない。

(何も要らない! 要らないから! わたしとその子に触らないで!)

 

『面白いことを言うね。触らないと目的を果たせないじゃないか』

 

「ひぃあ!?」

 それは悪夢だった。眼前にアップで映し出されたその顔面は、簪が憎むものだ。寝汗でぐっしょり濡れた肌着が気持ち悪い。簪の意思とは全く関わりなく喉が鳴る。そのあとに起きることを理解していた簪はトイレへと走った。

 トイレで吐いた後、口をすすいでシャワーを浴びる。それで悪夢の痕跡を消し去った簪は、いつまで経っても慣れない個室のベッドに倒れ込んだ。簪が今いる場所は、日本代表候補生達の寮だ。慣れない場所で眠るとこうなる。それでも自宅の自室で眠るよりは楽に眠れると判断するあたり、かなり精神的に追い込まれていると言っても良いだろう。

(はやく、なれないと……みがもちません)

 動揺しながら心中で呟いた簪は、軽く目を閉じて開いた。そこにはもう動揺の欠片も残していない。全てを自らの内に封じ込めて、立つ。それだけでいつも通りの更識簪が現れる。

 と、そこで扉が叩かれた。

「起きています」

 簪が返事をすると、扉の向こうの気配が変わった。簪が反応するまでもなく本音だ。彼女もまた日本代表候補生となり、簪についてきたのである。簪からしてみれば、本音の行動は全く以て意味不明であり、理解不能である。もっとも、本音からしてみれば簪が心配で当主に直訴してまでここに来たのだが、簪がそれを知ることはない。

 おずおずと本音は話し始めた。

『お、おはよう、かんちゃん……あの、あのね』

「今日も当主からの帰れコールでしょう? どうでも良いので無視しなさい。ついでに本音も帰りなさい」

 簪は本音の言葉をバッサリと切って捨て、ISスーツの上にワンピースを被って部屋から出た。無論、そこには本音が立っている。なぜか涙目だが、簪にとっては預かり知らぬことだ。

(なぜ本音が泣くんです? そんな必要なんてないのに)

 そこから簪は訓練所に向かって訓練を始めた。本音も遅れてきて訓練を始める。遅れてやってきたのに本音の方が終わるのが早いのはやはり当然のことだ。簪の要領はうんざりするぐらい悪い。

 そんな簪に聞こえよがしに呟かれる言葉。

「やっぱり落ちこぼれね」

「付き添いで来てるその子に専用機を渡した方が良いんじゃない?」

 クスクスと笑う二人組は、しかし専用機を持っているわけではない。持っていないからこそ陰口を叩くというわけではないが、彼女らも確かに実力者だ。もっとも、彼女らはどちらかというと現日本代表の専用機を十全に使いこなせるように調整されたスペアなのだが。

 そもそも日本代表候補生全5人に対して振り分けられる専用ISコア2機分は、簪ともう1人に振り分けられている。無論もう1人は本音ではない。更識の従者よりももっと重要視されるべき人物がいるからだ。

 それを語るにはまず、日本のIS競技スポーツ界における代表者がほぼいないことを挙げなくてはならない。元日本代表にして初代ブリュンヒルデ織斑千冬は既に引退し、IS学園の教師となっている。現日本代表は華がない。日本代表候補生が使えるISのうち、1機については簪が日本の暗部との協定により、持っている必要がある。逆に本音は更識に情報を流さないために専用機を持てない。

 以上のことを鑑みて、残された日本代表候補生のうち、一番華のある人物が次期日本代表であり専用機を持っているのである。その人物から、簪は蛇蝎のごとく嫌われていた。どこからどう見てもコネで専用機を手に入れたように見えるからだ。

 嘲笑を浮かべて次期日本代表は簪に突っかかる。

「あら、更識の落ちこぼれ。まだ機体は完成してないのかしら?」

「ガワだけは揃えました。武装を組み直しますから邪魔をしないでくださいね、次期日本代表」

 故に簪がとる方法はというと、未だ完成しない自らのIS『(仮称)打鉄弐式』の整備に取りかかるという消極的なもの。無論整備中に話し掛けるなどというのはタブーであり、それを弁えている次期日本代表は滅多に話しかけてこない。

(スラスター良し、PIC良し、あとは……武装だけ、ですね)

 簪は目視で情報を確認しながら機体を組み上げていく。ただ、原作と違うと思われるのは、簪が必要としたパーツを倉持技研以外からも買い求めたことだ。コアは倉持技研のものだが、そもそも簪が執拗にチェックを入れていたところ、最初からほとんど放置されていたため、簪は倉持技研に『(仮称)打鉄弐式』の武装の完成とその技術提供をすることを条件に、コアを完全に貰い受けた。

 そもそも上手くいくはずのないこの交渉は、日本の暗部連中から後ろ楯を得たために成功した。『更識簪には専用機が必要であり、かつその情報は日本政府にすら公開してはならない』と、倉持技研に対して脅しをかけたのだ。その結果簪はロマン兵器作り放題の愉快な状況に陥っている。

 勿論、ISの好みもあるため、全てを実用化出来るわけがない。特に『(仮称)打鉄弐式』、簪は今『グレイ』と呼んでいる機体は好みが激しいのだ。だが、簪は前世と今世での漫画に出てくるマイナーな兵器をいくつか開発することに成功していた。たとえは敢えて挙げないが、最早原作通りの『打鉄弐式』でないことだけは確かだ。

(……というか、本音にすら負ける薙刀を使う意味がわかりませんしね)

 心の中で自嘲した簪は、数日をかけて取捨選択した武装を一つ『(仮称)打鉄弐式』に最適化した。それは誰がどう見ても武装には見えず、ただの飾りにしか見えない代物。正八面体の青い結晶体である。それが12個。略称は『D3』。正式名称は『Dimension Distorting Device』。ライトノベル『ウィザーズ・ブレイン』にて《光使い》の少女『セレスティ・E・クライン』が使用していた武装である。

 ライトノベル『ウィザーズ・ブレイン』中の『D3』には三つの機能が備え付けられている。一つ目は空間をねじ曲げて攻撃を届かなくする『Shield』という機能。二つ目は『Lance』という空間をねじ曲げて荷電粒子砲を放つ機能。そして三つ目は空間をねじ曲げることによって重力を操る機能を持つ。端的に説明するならば『空間をねじ曲げて何かを起こす』ためのものだ。

 端から見れば綺麗な宝石レベルの代物だが、簪はこれをISの補助を借りて空間を歪めるもしくは閉鎖空間を作り出して荷電粒子砲を撃ち出せる凶悪なものに仕上げた、ことになっている。もっとも、簪の作成した『D3』は『ウィザーズ・ブレイン』作中の『D3』とは見た目と概要が同じだけで理論は全くの別物である。表面に論理回路などというものを刻めるものか。その正体はISの機能を存分に利用した、目標に狙いをつけるための座標を測るための飾りにすぎない。

(これ、バレたら完全にIS委員会からいちゃもんつけられますよね……ま、『グレイ』が受け入れてくれたら使うんですけど)

 そもそも、前提条件としてISコアは空間を歪められる。そうでなければ格納領域はどうなっているんだという話だ。空間を歪めて四次元ポケット的なものを作っていない限り、ISという機体そのものが成立しないのである。

 原作で『量子化されている』とはいうが、そもそも量子化したものをどこに纏めて保存しているかと問われると困るだろう。そもそも機体の全てを量子化したとして、ナノよりも小さいサイズの物質(量子)になっているはずなのに目に見える実体として待機形態が出来るわけがないのである。

 要するにISの待機形態とは、国民的青い猫型ロボットの使う四次元ポケットが身に付けられるアクセサリー状にデフォルメされたものだと思えば良い。それから脳波のコマンドや音声認識によって待機形態から機体を取り出しているのだ。

 ISコアのもつ空間を歪められるという特性を利用して、簪は武装なしでも荷電粒子砲を撃てるように改造した。結晶体はそれのカモフラージュに過ぎず、また『D3』という名称もまた武装であるというカモフラージュに過ぎない。要するに悪く言えばただの飾りだ。

 なお、結晶体から発射されるという見た目的にはレーザーに見えなくもないので『ブルー・ティアーズ』の《ブルー・ティアーズ》とも似ていなくもない。なおあちらは曲がらなくもないが、こちらは決して曲がらない。こちらはレーザーではなく荷電粒子砲だからだ。そんなものが曲がるわけがない。

(セシリア・オルコットに絡まれても知らぬ存ぜぬで通しましょう。面倒ですし)

 武装を開発しておきながら何だか、簪は面倒なことを避けたい傾向にある。この武装のノウハウに関しては誰にも情報公開しなくとも良い。無論、倉持技研にも更識にもだ。これで遠距離武装は完成といって良いだろう。後はそもそも存在する実弾射撃用の銃と近接武器か。

 銃については『打鉄』の《焔備》を改造すれば良いし、近接武器についても同様だ。ただ、懸念されるのはそれを振るえるかどうかだ。剣だろうが槍だろうが薙刀だろうが荷電粒子砲だろうが、他人を傷つけられる兵器であることに変わりはないのだから。

 これは簪の精神的な問題だ。誰かを傷つけることへの耐性がないのに、兵器に関わらざるを得ない状況。他人から傷つけられるのは容易なのに、自分が傷つけ返すのには耐えられない。絶対防御が必ず効いている状況でなければ、簪は攻撃すらできないだろう。

 既に簪は間違いを犯してしまっている。その愚を繰り返すわけにはいかないのだ。後悔はしていないが、人殺しには変わりないのだから。愚かなことだと、今ならば分かる。要は文句のつけられない程叩きのめせばよかっただけのことなのだから。そう出来るだけの実力が簪には足りなかっただけのことだ。

 

 その躊躇いが、簪の戦闘に多大な影響を与えた。

 

 簪は殺しの可能性があるだけで武器を振るえなくなったのだ。それはISが完成しても同じで。模擬戦をする度にそれは他人にも徐々に露見していった。絶対防御を抜けてしまう攻撃に躊躇いしか見られないことは、暗部に連なる人間として致命的であることを意味する。

 そして、更識簪は世界でも珍しい『専用機を持ちながらそれを使った戦い方を完成させられていない代表候補生』となったのであった。




 既に原作からは解離している上に原作キャラと面識を作ってみた。しばらくは生かされない伏線。
 本音の口調は作られているという設定。怒らせたときに本質が見えるので、口調から喧嘩を売りに行く方向になった。

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