いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 まさかの戦闘回。今までの描写で分かる通り二人以上を同一盤面で動かしきれないこよみに描写しきれるか!?

 何が言いたいかって、荒い描写でごめんなさい。無理です。


やったか!? それは古今東西定番の。

 万十夏は確かに善戦した。『サイレント・ゼフィルス』に備えられた近接武装がちゃちなナイフだけだというのに、楯無の蛇腹連接剣《ラスティー・ネイル》の攻撃によく耐えたと言うべきだろう。

 ただし、それもそのナイフが砕け散るまでのことだ。確かに万十夏は強い。だが、楯無もまた強いのだ。一夏のため、妹のため、引いてはIS学園の皆のために。それらを背負う楯無は強い。強く在らねばならないのだ。

 故に万十夏はビットを最大限まで駆使してアリーナ内を逃げ回るはめになっているのだ。とはいえ楯無も簪を拘束し続けたまま万十夏に攻撃し続けられるわけもなく。一度捕らえた簪を死なない程度に装甲を削って解放せざるを得なかった。簪は動かないが、あとで恨まれそうで楯無は実に憂鬱である。

(はぁ……簪ちゃんも抵抗しなければ良かったのにねぇ)

 呆れたような表情で追う楯無、逃げる万十夏。逃げるのは万十夏らしくないともいえるが、いかな万十夏といえど国家代表を砕けたナイフ一本で凌駕できるわけもない。おかしな話であるかもしれないが、万十夏の纏うISが『打鉄』だったなら。その剣一本で楯無は倒れ伏していただろう。

 もっとも、『打鉄』の装甲も万十夏の動きについていけずボロボロだろうが。だが今纏うのは『サイレント・ゼフィルス』。イギリスのBT2号機だ。それを論じても全く意味がない。

 そのおいかけっこを続けるうちに装甲が剥げてきたがシールド・エネルギーの温存できた万十夏と。攻撃の配分を僅かに誤ってしまった楯無とで。明暗が分かれ始める。次第に楯無の攻撃は当たらなくなってきたのだ。

 うまくいかないエネルギー配分に楯無は歯噛みする。

(どうして……)

 それに対する『ミステリアス・レイディ』の答えは単純だった。卑怯だなどとは言えない。万十夏は一夏をボロボロにしてからは指一本触れていないのだ。ただ、彼の機体を巧みに隠れ蓑にして攻撃を受けないようにしてきただけだ。

 別に万十夏は一夏をボロボロにしたからといって、『白式』の具現限界までは追い詰めていないのである。ただ脳震盪を起こさせて動けなくはしたが、それだけだ。

 どちらもジリ貧。先にミスをするのは、それでも経験の差で万十夏だ。

「しまっ……!」

「貰ったわよ!」

 僅かな躓きを楯無は見逃さず、リスクを冒して万十夏をワンオフ・アビリティで拘束。後先考えず《ラスティー・ネイル》を叩き込む。

 それに万十夏は苦悶の声をあげた。

「あっ……が、ああっ!!」

「降参しなさい!」

 がりがりと割りとえげつない音を立てて万十夏を追い詰める楯無。しかし、彼女は忘れていた。

 

 装甲を削ってはいても簪はまだ、降参していないということを。

 

 システムを終了し、ある意味では正気を取り戻した簪は楯無が万十夏に《ラスティー・ネイル》を叩き込んだ瞬間に行動を起こした。その《ラスティー・ネイル》に対して十二発の荷電粒子砲を放ったのだ。楯無は驚愕に顔を染め、それでも瞬時加速で避けようとする。

 しかし。

「今度はこっちの番だ!」

 万十夏の無理な挙動によって体勢を固定させられた楯無はそれを避けることすらできなかった。咄嗟にナノマシンで水の防御膜を張ろうとするが、それもまた叶わない。無言のままの簪から放たれる荷電粒子砲を、楯無は無防備に受けることしか許されなかった。

 思うように動かない『ミステリアス・レイディ』に、楯無が思わず悪態をつく。

「何で……!」

(どうしてこんなに動きが鈍いの!?)

 その悪態に、簪が意味深な笑みを浮かべた気がした楯無は、すぐさま『ミステリアス・レイディ』に『グレイ・アーキタイプ』を解析させる。勿論ほとんど情報は開示されていないとはいえ、『ミステリアス・レイディ』に作用する何かを特定するだけならば不可能ではないのだ。

 そして、度重なる荷電粒子砲の砲撃を耐えきれなくなる直前のことだ。『ミステリアス・レイディ』がその答えを吐き出したのは。

(ワンオフ・アビリティ『灰色願望(ホープ・オブ・グレイ)』……?)

 その単語が何を意味するのかを理解できないうちに、楯無と『ミステリアス・レイディ』は限界を迎えたのだった。力尽きて崩れ落ちる楯無。解除される『ミステリアス・レイディ』。誰がどう見ても、もう楯無は戦えなかった。

 それを見てつい簪は心中で呟いた。

(終わりました、かね?)

 無論それはフラグだ。まだ終わっていない人物がそこにいる。彼はタイミングを見計らい、二人が油断した隙を狙って瞬時加速するつもりでいる。その手に持つ力の象徴、千冬と同じワンオフ・アビリティを備えた《雪片弐型》を二回叩き込むだけで全てが終わるのだ。それだけの力を『白式』は有している。そしてそれが当たると本気で信じているというのが、一夏のおめでたいところだ。無論のことながら、実力者相手にただの愚直な攻撃が当たるわけがない。

 ただ、一夏はそれを実現させるだけの力を有していた。何故なら彼は一人ではないからだ。視界の端に映り、プライベート・チャネルを通じてもたらされる少女らの純粋な想いが共にある。それらを合わせれば彼に不可能なことなどないのだ。

 まずは一人目。一夏は万十夏に向けて瞬時加速した。そこに駆け付けていたスズネが掻っ払ってきた『打鉄』から足りない分のエネルギーを送り込み、ラウラがそれを見てAICで万十夏の動きを止める。

「なっ……」

「貰ったぜ!」

(馬鹿な、AICだとっ!?)

 万十夏は自身の動きが止められたことに対する驚愕に目を見開き、金属の塊を叩きつけられたことに対する衝撃で吹き飛ばされる。ぎりぎり受け身をとることはできたので致命傷には至っていないが、肋骨は折れただろう。

 吹き飛ばされる万十夏に目を見開いた簪は、彼女に近付こうとして『グレイ』からの警告に足を止めざるを得ない。

(今介入してきますか、この……!)

 セシリアとシャルロットの射撃による足止め。足りなくなったシールドエネルギーを、箒が一夏に補給する。そして、もう一撃。必殺の剣を、簪は無防備なまま――受け止めた。

 まさかのことに、一夏は驚愕に目を見開く。その顔は皮肉にも先ほどの万十夏と似た顔だった。

「何でだ!?」

「危ないですね……まあ仕方ないんでしょう。そうしないと勝てないって思い込んじゃうっていうのは中々にわたしを買い被ってます」

(わたしごときにそんな本気にならなくたって、ねぇ?)

 一夏には簪の言葉の意味がわからない。無論その場にいた誰であっても簪の言葉の意味は理解できなかっただろう。簪を倒すには、もっと簡単な手段があるのだということを誰もが信じなかった。皆にとっての『更識簪』は強者であったが故に。

 ただ、簪は自身を強者だとは認識していない。ただのゴミクズ程度だとしか認識していない。認識出来ないのだ。他の誰のせいにもする気はないが、自身には全く価値がないと知っているが故に。

 敢えて補足するとするならば、前世であろうが今世であろうが、ほぼ簪のことを肯定してくれる人間がいなかったからそうなったのだ。他人に肯定されない人間が、どうして自身を肯定できようか。簪がゴミクズ同然だったから肯定されないのではない。そうなる前からずっと、簪を肯定する人間などいなかったのだ。

 

 だからこそ、簪は自身を肯定する代わりに万十夏の全てを肯定した。

 

 その自分の理想の存在を、簪が守らないことなど有り得ない。守れないことなどあってはならないのだ。丁度今のように、誰かの攻撃にさらすことすら赦せないというのに。

(万十夏を守るには……撤退するしかありませんね。流石に多勢に無勢すぎます)

 簪は内心でそう呟くと、フェイントを混ぜて万十夏のもとへと向かった。妨害がないわけではないが、ISの機能を十全に使えば出来ないことなど何もない。

 撃ち込まれる銃弾を、レーザーを、ミサイルを、全て空間の歪みに叩き込む。

「何ですって!?」

「馬鹿な……そんな使い方をして、シールドエネルギーはどうなっている!?」

(そもそもどういう原理だ!?)

 セシリアとラウラの驚愕に、簪は反応することすらしない。セシリアは反射的に射撃を続けたが、やはり簪にその弾丸が届くことはなかった。簪が何をしたのか把握してしまったラウラは動くことすらできていない。

 瞬時加速で万十夏のところまで突っ切った簪は、彼女を庇うようにその前に立ち塞がった。そしてプライベート・チャネルで万十夏に問う。

『万十夏、このまま撤退しますか?』

 しかし、万十夏から返答はない。どうやら完全に気絶しているようだ、と『グレイ』からの情報で簪は知った。ならば、是非もない。

 そう思って覚悟を決めた、その瞬間。

 

「投降しろ簪! 足手まといを抱えたままで俺達相手に逃げ切れると思うなよ!」

 

 一夏の叫びが簪を縫い止めた。その叫びに込められていたのはただの制止の意思のみ。しかし、万十夏の事情を知るものからすればただ滑稽なだけだ。万十夏が足手まといになるようにした張本人に何を言われても滑稽なだけ。救われた一夏が救われなかった万十夏に言って良い言葉ではない。

 故に簪の理性は焼き切れた。

「……は? 馬鹿なんですか死ぬんですか? 万十夏が足手まといだなんて、何であなたが言えるんですか?」

 言うつもりのなかった言葉が一夏に向けて放たれる。そうでなければ万十夏が救われない。そう思ったからだ。簪が誘拐されて拘束されたあの場所に、いったい何人の救われない『マドカ』がいたのかを、彼は知らない。だから言えるのだ。万十夏は足手まといなどではない。きちんと自分の足で立てる強い娘だ。

 無論そんなことなど知らない一夏は、頭の中で鳴る警鐘を努めて無視して声を漏らす。

「……何だと?」

「織斑千冬に聞きなさい。全てを。あなたが救われたせいで何人が死んだのかを。何人の救われない少女たちが、少年たちが生まれたのかを。彼女の仕出かしたことで、あなたの言う足手まといが何人生まれたのかを!」

 簪から迸る言葉は、一人の女性の声で止められた。

 

「止めろっ!」




 やっと次辺りから簪誘拐事件の真相が……長かったなぁ。
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