いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 キャノンボール・ファスト。


レースとその裏。狙われるは簪。

 九月末――ISバトルレース『キャノンボール・ファスト』は予定通り行われることになっていた。今年度は前回とは違い、かなり豪華なレースとなるのは必至だった。一年生に専用機持ちが大勢編入したからだ。そして、参加者たちもまた不必要にそのイベントを盛り上げようとしているため、かつてないほどの熱気が溢れていた。

 まずは混乱に紛れて暗殺を目論みたい者達と、そのフォローを行う者達が積極的になった。暗殺を目論みたい者達も、主に『織斑一夏』暗殺を目論む者達と『更識簪』暗殺を目論む者達に分かれる。

 一夏を暗殺したいのはヴィシュヌ。簪を暗殺したいのはグリフィンとカナダ、その他の数多の組織。そして、カナダのフォローにコメット姉妹が当てられた。なお、サラ・ウェルキン暗殺にセシリアのメイドが動いていたり鈴音暗殺にティナ・ハミルトンが動いていたりする。

 そして、その暗殺を防ぎたい者達も対応するべく動く。楯無とクーリェで一夏を守り、ロランツィーネと藍音で簪を守る手筈になっている。そしてどちらのフォローにも回れるよう本音と万十夏が控えていた。中々に混沌としているが、実行計画がある以上は動かざるを得ないのが実情である。

 そうやって暗躍する者達を牽制し、牽制されつつもその当日を迎えるのである。まず行われる専用機持ちのレースは、人数の多さから数グループに分けられることになった。そしてそこから勝ち抜いた者達が優勝決定レースに出ることになるのである。

 その組分けは、以下のようになっていた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 第一組

  織斑一夏

  布仏スズネ

  シャルロット・デュノア

  ダリル・ケイシー

  ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー

 

 第二組

  篠ノ之箒

  ラウラ・ボーデヴィッヒ

  更識楯無

  布仏本音

  フォルテ・サファイア

  セシリア・オルコット

 

 第三組

  ロランツィーネ・ローランディフィルネィ

  グリフィン・レッドラム

  クーリェ・ルククシェフカ

  布仏ランネ

  ティナ・ハミルトン

  サラ・ウェルキン

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 この組み合わせでレースを行い、出場していない間に破壊工作の攻防をするのだ。どの組み合わせでも、暗殺対象に対して絶妙に邪魔が入るように組まされた虚はかなりグロッキーになっていた。

 なお、コメット姉妹にはアイドルとしてイベントを盛り上げてもらうために要所要所でライブを行ってもらうことになっている。ある意味では陽動という任務を完遂できるコメット姉妹にとってはとても都合がよかった。

 そうして始まるキャノンボール・ファスト。第一レースの勝者予想では最年長のダリル・ケイシーが一番人気だった。一夏もそこそこ人気はあったが、搭乗時間としては短い方なので三番人気だ。

 ならば二番人気はと問われると、ヴィシュヌ以外にあり得なかった。シャルロットは実力こそあれど、専用機は量産機のカスタムなのだ。その辺りが劣ると思われているので四番人気である。

 スズネはと問われると、彼女が今使っているのは『打鉄カスタム』。専用機ですらなく、有り合わせでカスタムしたその機体に期待するものはいなかった。故に一番人気がない。スズネとしてはそれでよかったのだ。これ以上目立つわけにはいかないのだから。乱音に――今ではランネとなった彼女に、これ以上背負わせられないと思っているのだ。

 その決意を胸に、スタートラインに立つ。それを痛々しいものを見るような目で一夏が見ていた。スズネの言い分を脅迫されて言わされていると取っている彼にとって、彼女の意思など関係ないのだ。そこまで何かに追い詰められているように見えるスズネを心配するのも無理はないだろう。

(待ってろ、鈴。俺が今から何とかするから……!)

 一夏も一夏で、先日協力を要請してきた少女――シャルロットを手伝う決意を固めていた。シャルロットは『簪の悪事を暴く』という名目で一夏に協力を要請したのだ。一夏はそれを快諾し、このレースが終わったら昏睡状態だという()()()()()()()()()()()簪を襲撃し、彼女の悪事を暴くのだ。なお、当人は起きる気がないので何かを企むことも出来ないのだが、それを知るものはやはりいない。

 そうやって的はずれな決意を固める一夏を、唆したシャルロットは暗い目で見ていた。それに気づいたダリルがシャルロットにプライベート・チャネルをいれる。

『おいおいシャルロットちゃんよぅ、そんな顔してんじゃねえよ。バレちまうじゃねえか』

『名前で呼ばないでレイン。もう僕はシャルロットじゃいられなくなるんだから』

『あー、そうだったな。ま、気合い入れていくか』

 そのほの暗い会話が終わる頃。ようやくブザーが鳴り、レースが始まった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 その頃。試合に出ていない面々はといわれると、暗躍の時間だった。二組は次のレースが始まるまで待機していなくてはならないのでピットにいるが、三組はまだ自由時間なのだ。故に――

「……状況クリア。さ、あいつを殺しに行きますか」

「今のうちに鈴の荷物を探らないと……」

「……うん、そうだね、ルーちゃん。クー、頑張る」

「待ってて阿簪(āzān)、すぐに片付けてアタシが守るから……!」

「ま、誰も死なせはしないよ」

「もうとばっちりやだぁ」

 簪の監禁室の前で。スズネの部屋の前で。観客席で。ある部屋の中で。眠る簪の隣で。メイドの前で。少女達が嘯いた。そして、それぞれが動きはじめた。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 まず、リードをとったのは一夏だった。

「よし、後は後ろからの攻撃を避け続ければ……!」

 そう思って僅かに後方への警戒を強め。

 

「させると思うか? 織斑一夏ァ……!」

 

 あまりの実力差のある人物からのロックオンに顔をひきつらせた。一夏に向けて火の玉を打ち出したダリルは、しかしその着弾を目視で確認することが出来ない。何故ならその前を遮る形でシャルロットが飛び出してきたからだ。いくらどの角度でも視界になるISとはいえ、そこに障害物があっては見通すことなど出来ないのだ。

 そして、シャルロットはそれを狙って火の玉がかするのも覚悟して体を滑り込ませたのだ。この後の行動に、一夏の『白式』が破損するのは認められないのだから。

 無論『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』にも破損は赦されないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に牽制程度にしかなっていなかった。

 その横をすり抜けたくてうずうずしているスズネは我慢してダリルの真後ろにつき、最後尾を守っている。ならば残るヴィシュヌはと問われると――

(今殺すのは無理ですね。それに、何か考えているとしか思えないあの攻防。ならば、私は目的を完遂するために影になるだけです!)

 すべての栄光を捨て、ただ華々しい戦闘に隠れて進むだけのことだ。戦わずして勝てるのならばこんなに楽なことはないのだから。ただ、ヴィシュヌの目的はあくまで一夏の暗殺だ。それを知らされて平静でいられない人物もまた存在するのである。

 確かに、目立たないことは心に誓った。ただ、一夏を守らなくていいとは思っていないスズネだ。故に彼女が狙うのはヴィシュヌのIS『ドゥルガー・シン』を可能な限り破損させることだった。されど、シャルロットと同じ第二世代機のカスタム機とはいえ、乗っている年期が違いすぎるスズネにとれる行動は一つしかなかった。

(接近戦で一気に潰すッ!)

 そう決めて、近接ブレード《葵》をヴィシュヌに向けて投擲する。勿論そうやって使う武器ではないのはわかっているが、これまで使っていた《双天牙月》と同じような運用をすることにしたのだ。

 動きは直線的で避けられやすいが、逆に言えば相手の行動を読みやすくなるということでもある。その行動の先を潰すように投擲してやれば良いだけだ。あるいはそれで足を止めてくれるのならばそのまま潰すだけ。完璧な布陣だ。そうスズネは思っていた。

 ただ、ヴィシュヌもただでやられるわけもなく。結果としてそれがダリルに直撃し、シャルロットが一夏をすり抜けてゴール。僅差で一夏が後にゴールし、ヴィシュヌもそれを追いかけてゴール。ダリルとスズネは団子状態で遅れてゴールした。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

「やはり君が来たか、グリ姉先輩」

「……ロラン。退いてくれない?」

 簪が昏睡している部屋の前でグリフィンはロランツィーネにそう告げた。だが、ロランツィーネは肩を竦めただけで退こうとはしない。当然だろう。退けばグリフィンは確実に簪を殺すのだから。ISを展開すれば、狭い通路で有利なのは近接武装を持つロランツィーネだ。あくまでも展開できればの話だが。

 ただ、ここでロランツィーネもグリフィンもISを展開するわけにはいかない。ここはそもそも狭すぎる通路であり、立ち入り禁止区画でもあるのだ。当然、ISを展開すれば警報が鳴り、教員が駆けつけてくるのである。誰が来るのかは賭けではあるが、どちらにせよ邪魔が入るのは間違いない。

 だからこそ今有利なのはグリフィンだった。幼い頃から無意識に暗殺のすべを叩き込まれてきた殺人者(マーダー)グリフィンにならば、ロランツィーネを殺して簪を殺すのは難しいことではないのだから。

 ロランツィーネは代表候補生とはいえ、お飾りに近いのだ。故に彼女に出来るのは時間稼ぎだけ。もう一人の友人が駆けつけてくるまで、グリフィンをここに釘付けにすることしかできない。それこそ死ぬ気で。

 

 もっとも、その時間稼ぎも無意味に終わりそうだったが。

 

 ロランツィーネが背にしていた扉が突如開き、その異様な光景が二人から戦闘意欲を奪った。そこには――

「なっ……」

「簪ッ!?」

 自身の武装で自身を攻撃し、その攻撃を自身の武装で受け止めているという全くもって意味不明な光景があった。そのあまりの光景に二人は愕然とし、ついで簪を守るもしくは殺そうと行動を起こそうとする。

 しかしそれは叶わず、結局時間切れになるまでその異様な光景は続いたのであった。

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