いきなりですが、更識簪に転生しました。   作:こよみ

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 タイトル通り。誰が一番かわいそうかって? とばっちりばっかのランネさんですはい。


中国の諍い。イギリスの共闘。

 中国当局から命じられ、スズネから全てを奪わなければならなくなったティナ・ハミルトンはスズネの部屋に侵入しようとしていた。

(あたしは……)

 内心に逡巡を抱え、ティナはかつてのルームメイトの部屋をピッキングする。ティナを代表候補生にするために、そして()()()()()()()()()()()()スズネは全てを擲った。その時は追い詰められていて、それ以外の選択肢を見ようともしていなかったスズネにはその選択が誰を不幸にするのかもわかってはいなかっただろう。

 それは、最悪の選択だったのだ。いくらティナがそれを切望していようが。スズネが一夏と結ばれたがっていようが。家族を人質から解放したがっていようが。選んではいけない選択肢だったのだ。誰もを守りたいのならば、スズネは耐えなければならなかったのだ。

 スズネは一夏と交わり、その種を日本に売り渡した。それを交換条件にして日本人になり、家族には死んだことにして繋がりを消すことで守ろうとしたのだ。

 ただ死んだだけでは追っ手がかかるので代表候補生になりたいと願っていたティナを自身の代役に立て、『凰鈴音』を裏切り者にして『甲龍』は返還した。それで全ては守られたと、スズネはそう信じていたのだ。

 その結果、何が起きたか。

「遅かったわね、ティナ・ハミルトン」

 その声は、本人が聞いてもなお信じがたいほどに感情を感じられなかった。

「布仏……ランネ。どうしてあんたが……」

「誓ったのよ。アタシの全てを賭けて、家族を守るって。だから何も壊させないわ」

(そう、たとえ鈴おねえちゃんがアタシから全てを奪っていくんだとしても……アタシは)

 ランネはティナにそう告げた。鈴音が死んだということをすぐには信じなかった中国当局は、台湾の従妹の家族を拘束しようと引き渡しを求めたのだ。しかし台湾はこれを拒否。

 そんな微妙な空気が流れるなか、乱音は台湾代表候補生で居続けた。勿論圧力は強くなるが、それでも乱音はいつも通りであり続けた。そうしなければ、スズネとなった鈴音に矛先が向いてしまうのだから。

 それを、スズネはすべて台無しにしたのだ。自身の生存を明かすことで。立場と専用機を譲り渡されたティナは疑われ、潔白を証明するためにスズネを始末しなければならなくなった。

 乱音は中国が実力行使に出始めたのでスズネの家族と自身の家族をつれて日本へと亡命。家族を匿って貰うために布仏ランネとなって『更識』の狗となった。

 そして今、潔白を証明するためにスズネの部屋を荒らして彼女の大切にしているものを破壊するところから始めようとしたティナを、止めるのだ。

「邪魔しないで。あんたもとばっちりばっか受けてるじゃない。むしろ手伝いなさいよ」

(何で邪魔するのよ……あんた被害者でしょ!?)

「それを判断するのはアタシよ。アンタじゃないわ」

 その会話の間にも二人はお互いの隙を探していた。勝利の条件は、こうなればティナに不利になる。この後も平穏無事に過ごしたければ、キャノンボール・ファストに出場しなくてはならないのだから。時間まで守りきれば良いだけのランネよりはよほどハードだとも言えるだろう。

(でも……やってみなくちゃ分かんないわよ!)

 内心で自身を叱咤したティナは《龍砲》を部分展開して空気の砲弾をランネに叩き込む。しかし、それはいとも容易く防がれた。その手段が何であるかはティナには分からなかった。

 が、『甲龍』は多少であれ解析できている。そもそもデータとしての『黒龍』の情報は、中国代表から渡されているのだ。それ以上を求めるために逐一戦闘データを送信する形にさせられている。解析を『甲龍』と中国代表専用機『朱雀』との二機のマシンパワーで『黒龍』の解析を進めることになっているのだ。

 それが意味のある行動であるかはさておき、ランネは冷静に《黒の水》を操った。基本的にランネに攻撃を通すためには、彼女と『黒龍』の反応速度を越える攻撃をするか、《黒の水》が耐えきれない程の強烈な攻撃をかますかのどちらかしかない。そして、ランネは知っていた。ティナと『甲龍』ではランネの防御は抜けない、と。

 その行動のすべてが無駄だとも知らず、ティナは時間ギリギリまで抵抗を続けた。結局彼女は今のスズネを構成する何をも壊すことはできず。方針を本人を暗殺する方向に転換することしか許されなかった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 アルカイックスマイルを浮かべたメイドが、BT3号機『ダイヴ・トゥ・ブルー』の武装を一人の女生徒に突き付けている。その目的は一見すればその女生徒――サラ・ウェルキンを殺そうとしているようにも見える。だが、メイド――チェルシー・ブランケットの目的は、あくまで一つだけだった。

(さて、サラ・ウェルキン。あなたはどこまで使えるのでしょうかね?)

「お嬢様のために死んでいただきます、サラ・ウェルキン」

 しかし、サラは銃口を突き付けられてなお冷静だった。

「……ロードのメイド……チェル、チェルシーだっけ。搭乗時間は?」

「はい?」

(一体サラ・ウェルキンは何を……)

 チェルシーはその言葉に首をかしげた。意味がわからなかったからだ。今この状況においてそれを気にしていられる余裕がサラにあるはずがないと思っている。

 だからこそ、気づくのが遅れた。

「いつだって私は出来うる限りこの子に乗ってきた。『メイルシュトローム』の良さを伝えるためにIS学園に来るときも、この子になるように必死に根回ししたわ」

(それが礼儀だと思ったからね)

 微かに俯くサラが『メイルシュトローム』と言った瞬間、サラはISを纏ったのだ。それに気づき、チェルシーは武装を引き戻す。丸腰だと思って油断していたところにこれだ。いきなり攻撃されてもおかしくはなかった。

 ただ、解せないことがある。

「その『メイルシュトローム』は貴女のものではなかったのでは?」

「私もそう認識してるわね。つまり今のこの状況は微妙にまずいわけなんだけど、今朝『メイルシュトローム』が勝手にパーソナルロックモードで腕に貼り付いてたんだもの。私にはどうしようもなかったわ」

(というか何で私を選ぶのよ『メイルシュトローム』。他にいくらでもいたでしょうに)

 肩をすくめてそう返答したサラには、油断はなかった。夏休みにセシリアに説教して以来、イギリス貴族に連なる生徒には蛇蝎のごとく嫌われ、実力行使されることも多かったからだ。セシリアのメイドという明白な敵に対して油断できるような経験は積んでいなかった。

 故に彼女は問うのだ。

「で、チェルシー。何で問答無用で殺さないの?」

「……何故だと思われますか?」

 俯くチェルシーの顔色はわからない。それでもサラは無様に殺される気などなかった。

「知らないわよ、って言いたいところだけど……貴女、ちぐはぐすぎるのよ。試してるんでしょう?」

 そう言ってサラは意識を切り替えた。目の前の敵から情報を搾り取るために。発したその言葉は半ば賭けのような言葉だった。そしてサラはその賭けに勝った。

 チェルシーはその問いにこう返した。

「……その通りです。しかし何故……」

「腐っても代表候補生よ。一応BT3号機の存在ぐらいは知ってるわ。完成からずっと乗り続けてたんだとしても、搭乗時間は僅か。そんなので私に勝とうだなんて片腹痛い」

(ずっと乗り続けてたんだとしてもギリギリ三桁いくかいかないかでしょ)

 サラがそこまで言える理由は一つだけ。最早システム的にも第一次移行を止められないほどの、同一『メイルシュトローム』への搭乗。その時間は優に一万時間を越える。サラがその『メイルシュトローム』に乗り始めたのが代表候補生となった日からであるので約6年。平均して一日に4.5時間を費やしていることになる。最早『メイルシュトローム』はサラの手足と言っても過言ではないだろう。

 その『メイルシュトローム』が今の今まで第一次移行していなかったのは、サラが望まなかったからに他ならない。一応は分を弁えていたのだ。サラは貴族のセシリアの顔を立ててきたつもりだった。もっとも、本人に叩き潰されたが。

 第二世代機でも第三世代機を凌駕できる。そのことを、サラは実体験として知っていた。

「で、何で試したの?」

「……貴女にならば、頼めるかもと思いまして」

「……へえ、詳しく聞かせて、チェルシー」

 そしてチェルシーは、その願いをサラに告げた。願いを受けたサラはそれに対して諾、と答えた。その理由を知るものは本人しかいない。そうして密約を交わした二人は、何事もなかったかのように会場へと戻るのだった。

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 観客席で一人佇む少女。誰も動かなかったため、ある意味では一番楽をしている彼女はしかし、内心の緊張と戦うことしかできなかった。

(……頼まれたんだもん。頑張らなくちゃね、ルーちゃん)

 それに答えるものはいない。しかし少女――クーリェには聞こえていた。いわゆる『イマジナリー・フレンド』である『ルーちゃん』の声が。クーリェの全てを肯定してくれる唯一の存在。その『ルーちゃん』が望んでいるのだ。『織斑一夏を守れ』と。ならばクーリェが彼を守ることに何の躊躇いを持とうか。

 観客席から一夏を見つめるクーリェの視線は、次第に熱を帯びていく。その理由を知るものは、いなかった。

『……そうだよクー。守らなくちゃ。だって彼は、クーが存在する理由そのものなんだから』

 その声は――『スヴェントヴィト』のコア人格『アルコナ』の声。それこそがクーリェの支えとなり、クーリェを操る『イマジナリー・フレンド』ルーちゃんの正体であった。

 クーリェは気付かない。ルーちゃんことアルコナに自身が操られていることなど。誰もそれを察知することができない。ルーちゃんは存在しないのだと思っているから。

 そして。レースが終わる頃になっても誰も一夏に危害を加えようとするものはいなかった。故にクーリェは安心してレースの準備へと向かうのだった。




 サラが名実ともに専用機持ちになりました。『メイルシュトローム』さんマジけなげ。もっとも、それに付随する手続きは至極面倒だった模様。彼女だけ『訓練機をカスタムしてそれを自分用に使う』代表候補生じゃなく『『メイルシュトローム』のよさを広めるため』の代表候補生だからね、仕方ないね。
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